1-2=狭間
カウンター越しに見える風景。
ゆっくりだが丁寧に作られていく飲み物。
「おまたせいたしました」
コトッと私の目の前に置かれたハーブティー。
お供には数枚のクッキーが添えられている。
「オレンジブロッサムをベースにした特製ブレンドです」
「いただきます」
コクリと1口・・・
・・・
・・・
目を開けるとそこは私の職場だった。
薄暗い事務所、PCへ向かう人々。
いつもイライラしている同僚や働かない上司。
そんな殺伐とした中にポツンと立つ私。
「ここがあなたの心の狭間かい?」
ふいに誰かに声をかけられる。
幼い少年のような澄んだ声。
周りを見渡しても誰もいない。
頭に直接話しかけてくるような声。
「あなたは・・・誰?」
「僕はルル」
「あなたは・・・どこにいるの?」
「僕はここにいるよ」
答えに対してもう一度、辺りを見回す。
やはり誰もいない。
「あなたはどこにいるの?」
もう一度、問いかける。
「僕は君の目の前にいるよ」
はっ!とした瞬間。
目の前に現れた1匹の猫。
今までいた事に気づかなかった。
気づいていたのかもしれないけど、意識から外れていた。
職場に猫がいる。
当たり前にありえないことが認識出来ないでいた。
「ここは君の心の狭間」
「私の?」
「そう。君の心が疲れを感じている場所だよ」
「疲れ?」
「そう。
意識的にか無意識的にか君はここを壊したい。
逃げ出したいって思ってる」
「そんなこと出来ない」
「なぜ?」
「生活のため仕事はしなくちゃいけないし、仕事を続けていくために人間関係は大事だもの・・・壊せない。
逃げ出せない」
「なぜ?」
「なぜって、あなた話をちゃんと聞いてたの?」
「聞いてたさ!
人間は自分の居場所に固執して周りを固めると動けなくなる。
僕らからしたらそれはとても窮屈で退屈なんだ。
だから教えて?
君が本当にしたいことを」
眩い光と共に急に目の前に現れる大きなハンマー
「これが君の心の形」
「ウソ・・・」
「嘘じゃないよ、君が溜め込んだ心の疲れが形になったものだよ」
「ウソよ・・・」
「君はこれで何をしたいのかな?」
表情の無い猫が笑った気がした