11-18=報せ
人の記憶とは脆いもので、他愛のないことは数日あれば忘れる。
楽しいことや辛いことはしばらく覚えている。
数日前見た映画の内容を数ヵ月後に明確に詳細まで思い出せるか?
そう問われたらYESと答えられる人間はどのくらいいるだろうか。
あの物語から数年後
最早、八雲のその物語に対する記憶が薄れた頃。
「八雲!ねぇ八雲!」
「なんですか、ルル。騒がしいですよ」
「これ!ねぇ!見て!これ!!」
いつもの様に来ないお客様を待つ八雲の元にルルが持ってきたもの。
それは手紙だった。
赤い蝋で封印されている上に蝋印はドクロときた。
趣味が悪いことこの上ない。
「あまり見る気が起きませんね・・・」
「そう?僕は手紙って好きだな!
何が書いてあるかワクワクしない?
封を開けるまで何が書いてあるのか、はたまた書いてないのか分からない!
まるでシュレリンガーの猫みたい!」
「それを言うならシュレディンガーの猫では?」
「ん?僕なにか間違えてた?」
「・・・ま、いいでしょう」
「それで?空けるの?空けないの?」
「開けますよ?差出人も分からないのは気になりますし」
ペーパーナイフを取り出し、封を空ける。
そこには1枚の手紙が入っていた。
「なんて書いてあるの?」
「まぁ、待ってください」
手紙を覗き込む八雲。
そこには1文
【 クリスは身篭った 私の勝ちだ 】
強く描き殴られたような筆跡で書かれていた。
「ふむ・・・これはこれは・・・興味深いですね」
「まさか真意を確かめに行くなんて言わないよね?」
「もちろん。言いませんよ。
あのお話・・・舞台は、わたしの中で終わりましたので。
アナザーストーリーは見たい人が見れば良いのです。
それは私ではありません。
他の誰かに任せるとします」
ほっと胸を撫で下ろすルル。
ニヤニヤと嫌な笑いを見せる八雲。
「次はどんな物語が紡がれるのか・・・楽しみですね。ルル」
「僕は気が気じゃないよ・・・いつも八雲に振り回されっぱなしなんだから」
「おや、それはそれで楽しくないですか?」
「楽しくないって言ったら嘘になるけど、たまには上質な食事がしたいものだね!」
「それはそれは・・・それでは近々」
「ほんと?約束だからね?」
ニヤニヤと笑うふたり。
八雲は面白い物語を見るために。
そして、ルルは美味しい食事にありつくために
互いが違いの妄想に心震わせるのであった。