11-12=化物
二人はそこにいた。
クリスは椅子に座らされ、どこを見ているのだろうか・・・焦点があっていないように見える。
男はピアノを引いている。
寂しいような激しいような・・・何やら悲しい旋律に聞こえる。
「やっと見つけましたよ。ここがあなたの住処なのですね」
ピアノの音が止まり、男が八雲の方を見る。
「まだいたのか」
「ええ、まだいました。
あなたの物語の結末が気になりまして」
「私の結末・・・?
そんなの決まっているだろう!
クリスは私が手に入れた!
もう、誰も奪い返すことなどできない!
クリスは永遠にここで暮らすのだ!
私の結末はハッピーエンド!
それ以外ありえない!
分かったならばさっさと帰れ!
貴様のいる理由はもうない!!」
「そうはいきません。
望まぬ意志を尊重することは私には出来ません」
「なに?それはどういうことだ!」
「いえ、クリス様の意思はそこにないように思えましたので・・・ほら」
いつの間にかクリスが目を覚まし、男の側まで近づいてきていた。
クリスはゆっくりと男の顔に手を添える。
人から触れられることが少なかったのか、
クリスから触れられたという感情から男は感動の表情を浮かべている。
しかし、男の気持ちとクリスの気持ちは通じあっていない。
男の感動はすぐに消え去ることとなる。
そう、クリスは男の顔に手を添え、
仮面に触れ、掴み、引き剥がした。
仮面の下から現れる男の素顔。
そこにあったものは仮面に覆われた部分と同じ大きさの赤く爛れた皮膚。
いや、皮膚と言うにはゴツゴツし過ぎている。
男のそれはまるで鱗の様にも見える。
普段から人外なものを見ている八雲は平然としているが、クリスはどうだろうか・・・。
首を左右に小さく振り、顔からは血の気が引いていた。
「きゃっ!ば・・・化物・・・」
「化物とはなんだ!
貴様には分からないだろう!
生まれつきこの姿!この顔!!
両親からも見放され!
捨てられ!売られ!
悪魔の子ども見世物にされたこの私の苦しみが!!!」
男はクリスの頬を殴り飛ばし、仮面を奪い取ると大切そうに抱え、自らの顔に再び蓋をした。
殴られたクリスはというと、ガタガタと震えながら両腕で自らを抱き、殻に閉じこもっている。
「貴様も見たことがないだろう!
こんなに醜く穢らわしい顔は!」
「ん~・・・そうですね。確かにありません」
「そうだろう!
貴様にだって分かりはしない!
私の苦しみ!憎しみが!!
貴様も!お前も!
もうここから出れるなんて思うなよ!
貴様はここで死ね!
そして、お前は私と共にいるのだ!
ずっと!
ずっとだ!!」
癇癪を起こしている男は誰にも手が付けられない。
怒り狂ったまま、壁に触れるとそのまま押し込んだ。
するとどうだろう。
通ってきた水路は分厚い壁に阻まれ、帰り道を塞ぐ。
誰であろうとここから出す気は無い。
そんな男の信念が伺えた。