11-10=誘拐
男は有言実行するタイプである。
しかも、念には念を入れ、
用意周到に獲物をおとす・・・。
それはさながら、獲物を狩るハンターの様に。
マスカレードは終わり、本来であれば静まり返るはずの街が賑わい続ける。
なぜかって?
もちろん、あの男のせいだ。
あの亡霊が現れたせいだ。
街は記者や野次馬で溢れ、歌劇場周辺を埋め尽くす。
そんな野次馬を帰すべく、歌劇場へ入れないように奮闘する歌劇場の所有者や役者一同。
もちろん、その中にクリスはいない。
この舞台の主役であるクリスはどこにいるのだろうか・・・
所有者の名だろうか、それとも息子の知恵だろうか・・・
クリスは自室で拘束されている。
部屋には綺麗な花や可愛らしいぬいぐるみ。
クリスが寂しがらないようにとの配慮なのだろう。
部屋にはもう1つ、一際大きな姿見が設置されている。
歌劇場ができた当初からあるのだろう。
所々、修復された後が見受けられる。
そんな鏡で自らの姿を見ながら歌い始めるクリス。
小さく、か細く、しかし、その歌声は芯が通っていた。
1曲、2曲と歌い続ける。
すると、途中からクリスの歌声に重ねるように歌い始める声が1つ。
男だ。
男が歌い始めた。
その声はしっかりとした、男らしい声。
揺るがないその声は男自らの信念を表しているようだった。
「どこにいるの?」
クリスが問いかける。
「私に歌を教えてくれた妖精さん。
姿を見たいの!」
クリスは恍惚としている。
しかし、どこか寂しそうな顔もしている。
そう、クリスも迷っているのだ。
片や歌劇場の所有者。その息子。
片や姿を見せない歌劇場の亡霊。しかし、クリスにとっては亡き父が送った歌を教えてくれる妖精。
その歌声に魅了されている。
「お前は今宵、私のものとなる!
さあ、着いてこい!」
クリスが覗き込んでいた姿見。
その中に現れた仮面を付けた亡霊。
クリスに手を差し伸べたかと思うとその手を掴み鏡の中に連れ去った。
それを隠れた所から見ていた八雲とルル。
「あれれ~?意外とあっさりと連れ去っちゃったね!
僕はもっと争いとか起きると期待してたんだけど!」
「そうですね・・・ま、しかし、ここは彼の庭のようなもの。
どことどこが繋がっていてどこを通れば良いかなど網羅しているのでしょう。
もちろん、彼が住んでいる場所もあるでしょう。
それこそ、亡霊の隠れ家が」
「どうするの?」
「もちろん、ついて行きますよ!こっそりとね」
人差し指を口元に当てウインクをする。
ふたりも二人を追って鏡を潜ろうとする。
しかし、鏡は元の役割を果たすかのように通ることは出来ない。
「不思議な作りですね・・・仕方ありません」
パチン
いつもの様に扉を出現させ、躊躇うことなくくぐる。
ふたりは男を追う。
この後の展開を傍観するために。