9-10=氷点下
幾度となく後ろを取られた魔女は悟った。
このままでは勝てないと。
「さ、そろそろ分かってきましたか?
今のあなたには私には勝てないということを。
分かったなら素直にあなたの住処に案内していただけませんか?」
「そうね・・・よく分かったわ・・・“ 今のまま ”ではあなたに勝てないことを!」
魔女がその眼を見開く。
それと同時に魔女の体に氷が纏まり付き、
その姿を完全に覆った。
魔女の真後ろにいた八雲もたまらずに立ち退く。
魔女は見る見るうちに姿を変え、
美しく巨大な氷の女神へと変貌した。
「おやおや・・・これはこれは・・・」
巨大な女神を見上げながら感嘆の声をあげる。
見るもの全てを魅了しそうな程に美しく、
その存在からは力強さを感じる。
「私をこの姿にしたのはあなたが初めてよ!
全てを氷漬けにしてあげる!
私は平穏な世界を作るのよ!!」
ファォォという澄んだ不思議な鳴き声を上げ、
辺りに氷の粒を撒き散らす。
女神からしたら粒かもしれないが人間からしたら、その多いさは頭ほどもある氷の塊。
先程の氷塊に比べると小さなものだが、
下手に当たれば死は免れない。
「おやおや・・・神様のご乱心でしょうか。
せっかちなのはいけませんね」
氷のツブテを最小限の動きで避け続ける。
「なぜだ!なぜ当たらぬ!!!」
女神は更に奇声をあげ、攻撃の手を強める。
しかし、いくら攻撃を激しくしようとも、
いくら暴れ回ろうとも八雲に指一本触れることは叶わなかった。
「いやいや、お痛する子には少しばかりお仕置きが必要ですかね・・・少し・・・試してみたいこともありますし」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
そしてそのままパチンと乾いた音を鳴らす。
そこに現れたものはいつもの扉・・・
ではない。
見た目はいつもと同じ様に見えるが、
色が闇のように黒く、更に決定的に違う部分が1箇所ある。
“ 牙 ”
そう。
牙である。
扉の縁に無数に生える禍々しい牙。
それはさながら、ミミックの様にも見える。
「最近、意志を強く感じると思いましたが・・・やはり・・・」
ギャヤァァォァアァァォォオァ!!!!
扉と言うには明らかにおかしい挙動。
まるで生物のように動くその扉は大きく一鳴きした。
その鳴き声はこの世のものとは思えないほどに禍々しく、辺りに轟く。
「そうそう、あなたに名前を付けてあげなければいけませんね・・・アヌス・・・いえ、パンドラなんていかがでしょう?」
ギャヤァァォァアァァォォオァ!!!!
肯定と捉えて良いのか、
パンドラは再び激しく鳴き叫ぶ。