8-12=宝貝
「そうですね・・・まずはルル。
これがどういうものかは知っていますか?」
「知ってるよ!バカにしないでくれる?
クロノアの力が宿ったナイフで、
刺された人は同じ一日をグルグル繰り返すんでしょ?
そこにいた男みたいに!」
どうだ!と言わんばかりにフフンと鼻を鳴らすルル。
それを見て八雲は残念そうに首を左右に降る。
「それでは30点です・・・もう少し、自分の世界のことを勉強してください」
「なにをー!いいんだよ!僕は!
勉強なんかしなくても十分に強いんだから!!」
毛を逆立て、威嚇をする。
「じゃあ、一体それはなんだってんだ!
そこまで言うなら八雲は説明できるんだよね??」
怒りを全面に押し出し、反抗する。
それをニヤニヤと笑いながら話を続ける。
「これはクロノア。
大まかな力はルルの言った通りです・・・
しかし、このクロノアには違う力もあるんですよ・・・」
「・・・?というと?」
「そうですね~・・・ルル。
あなたは神であった頃のクロノア・・・その名前を知っていますか?」
「なにそれ?」
「ま、そうでしょうね・・・ほとんど知られていないことですから。
彼はクロノア=ヒュブリスといいます」
「ヒュブリス!
ヒュブリスってあのヒュブリス??」
驚愕の声を上げるルル。
「そう、あのヒュブリスです。
彼は時を司る以外に“ 傲慢 ”の名を受け継いでいます」
「傲慢!
まさか七つの大罪とはね!
でも、七つの大罪って遠い昔に駆逐されたって聞いたけど?」
「そうですね・・・言い伝えではもう、七つの大罪は存在しないことになってます。
でもね、ルル。
七つの大罪は元々人間の欲から生まれたもの。
人間の欲というのはそう簡単には無くならないんですよ。
そして、その大罪を身に受けた神々がいたのです。
それがクロノア・・・」
「へぇ~!それで、その大罪を手に入れて八雲はどうするのさ?」
「さっきもいいましたよね?
わたしは別にどうするつもりもありませんよ?
これが危険なものなのは間違いありません。
わたしが保存しておこうかと・・・。
それに、葬って欲しいという依頼もありましたし」
「依頼・・・?」
ジトーと八雲を見る。
その眼は疑いに満ち溢れていた。
「そう、依頼です」
「葬るってどういうこと?」
「わたしも細かいことは分かりません。
しかし、わたしの元に現れた時、彼はボロボロの甲冑に刃のこぼれた剣を杖の代わりに使い、辛うじて立っているような状況でした。
クロノアのことを知っていることからも・・・
きっとその争いに巻き込まれたんでしょうね」
「その人はその後どうなったの??」
「彼はその後、息絶えましたよ・・・
わたしに全てを託し、その場で倒れました。
あれが最後の力だったんでしょうね・・・」
「でも、それを壊すことはしないんでしょ?」
「・・・・・・しませんね」
「それはどうして??」
「これはクロノア・・・彼の魂が宿った宝具ですよ?
神を殺して祟られたくはありませんし・・・それに」
「それに・・・?」
「勿体ないじゃないですか」
「勿体ないって!それだけ?」
「それだけですよ?」
「そんな理由でいいの?」
「いいんじゃないでしょうか?
それに、これは使い方を間違えなければただのナイフですよ?
刃こぼれもしなければ切れ味も損なわない。
これほど最高の道具はありません。
大罪の力も7つ全て揃わなければ発揮されませんし、問題はありません」
使い方・・・いや、神の扱い方に長けた八雲だからこそ言える言葉であり、自信だった。
その自信。
その力強さ。
ルルが末恐ろしと感じるほどに・・・。
「さて、ルル。
目標は達しましたし、フォルギネの食事も終わりました。
帰りましょう」
パッと向き直すとそのまま扉を出現させ帰路に着く。
「そういえば、今回は食事出来ませんでしたね・・・ルルとしては残念な結果なのでは?」
「残念も残念だよ!
でも、あんなの食べたらお腹壊すのは必死だろうし・・・結果としては“ まぁいいかな ”って感じだよ!」
「そうでしたか。
じゃあ、帰ったら高級猫缶でも開けてさしあげましょうかね」
「猫缶!!高級!!
八雲!それ、絶対だからね!!」
「はいはい。
分かってますとも。
ほんと、段々と猫である事が板に着いてきてるのではないですか?」
「そんなこと!
ない・・・と・・・思う・・・」
クスクスと笑う八雲に対し、自分の姿がしっくり来ているルルは困惑している。
今回のお話はここで終わり。
男に未来は存在しない。
結果として彼もクロノアの争いに巻き込まれただけかもしれない。
願わくば・・・クロノアを巡る争いが再び起きないことを祈ろう。