8-11=解放
締め上げ続ける強靭なツタ。
薄れいく意識。
ポタポタと垂れ始める植物の液体。
液体に触れた服や皮膚は徐々に溶け始めた。
「どうです?私の可愛いフォルギネ達の戯れは」
巨大な植物の閉じた花弁を撫でながら現れた男。
先程、八雲と呼ばれていた男だ。
「フォル・・・ギネ?」
「そう、フォルギネ。
元々食人植物だったのですが、わたしが育て、改良を重ねた結果、今や植物の中でも最強の部類になってしまいました。
少しだけ癖は強いですが、とても可愛らしい植物ですよ」
「なん・・・だって?」
「おやおや、もう半分も聞こえてないみたいですね・・・
まぁ、いいでしょう。
このままフォルギネの餌になってもらいましょう。
自分の過ち、それと、ルルに手を挙げたことを後悔しながら死になさい」
「ほんと、八雲も人が悪いよね!
あんな所に扉を用意しておくなんて!
こんな所、僕だって1人で入りたくないよ!
こいつらと来たら八雲が居ないと僕にだって襲いかかってくるんだから!!」
「故意に扉を用意した訳ではありませんよ?
この子達は自由ですから。
勝手に獲物を見つけて勝手に食事をする・・・
今回はたまたまこの男だったってだけの話です」
ニヤニヤとしながら説明する八雲。
「もうこの男に抵抗する力は残っていないようですね・・・このまま、この子達の養分となってもらいましょう」
パチンと指を鳴らす。
すると花弁が開き、まるで大きな口のように男を丸呑みにした。
「ちゃんと噛まなきゃダメですよ」
モグモグと咀嚼をする巨大な花。
口元から溢れ出すヨダレ・・・もとい、粘液には男の血液だろうか、時折、赤いものが混ざって血に落ちる。
バリバリと咀嚼を続けるフォルギネ。
そのうちに咀嚼を止め、ブルブルと震え始めた。
「どうしたのですか?」
八雲が心配そうに声を掛ける。
「ほら、やっぱりお腹でも壊したんだ!
悪いものを食べるとお腹は壊れるんだよ!
花なのに!
傑作!!」
八雲とはうってかわり、楽しそうにケラケラと笑うルル。
しばらく震え続けたフォルギネは口・・・もとい花弁をモゴモゴと動かし、何かを吐き出した。
それはカランと軽い音を立てて地面に落ちる。
「まさか・・・あの男の中にずっとあったとは・・・!」
落ちたものを見て八雲は驚きと歓喜の声を上げる。
粘液に覆われているが、柄や刀身の金色は色褪せることがなく、見事に輝いていた。
“ クロノア ”
時を司り、悪戯を好み、生きることに飽き、
自らを刀身へ変えた気まぐれな神。
その強大な力は争いを産み、いくつもの国や世界が滅んできた。
その姿は決して衰えることは無く、
1目見たものを魅了した。
そんなクロノアを男はずっと体内に内包していたのだ。
本人も気付かないうちに。
「やっと見つけたんだ?
んで?
それ・・・どうするつもりなの?」
どこから取り出したのか、手袋をしっかりと付け粘液の中からクロノアを取り出す八雲。
「別に・・・どうもしませんよ?」
「え?探してたんじゃないの??」
「探しはしていましたが、どうこうするつもりはありません・・・」
どういうこと?と首を傾げるルル。
説明を求めているルルに八雲は子供を諭すように続ける。