8-9=選択肢
「俺は・・・明日を掴む!!」
俺は声高らかに宣言した。
ニヤニヤと笑っていた猫は笑うことを止め、
表情を無くしている。
「あーらら・・・とっても・・・すごく・・・残念だよ」
猫はそれだけ言うと踵を返して俺から離れていく。
ハッとし、世界は動き出す。
横ではお姉さんが強盗に刺され、絶望で顔を歪めている。
「・・・××ちゃん・・・」
口からも血を流し、助けを求めるために真っ赤に染まった両手を俺に向けてきた。
俺はその手を掴む。
こうなることは知っていた。
しかし、選んだのは俺だ。
お姉さんを見捨て、自分が生きる道を選んだ。
けれど、それを悟られてはいけない。
「ごめん・・・ごめん・・・助けられなくてごめんな・・・」
俺はお姉さんに謝罪しながら差し出された両手を掴む。
掴んだ瞬間、お姉さんの両手はドロのように崩れ落ちた。
溶けおちたと言うのが正解か。
お姉さんの体はドロドロになって行く。
くり抜かれたように真っ黒な両目がこっちを見て何かを訴えてくる。
「やめろ・・・やめてくれ・・・そんな目で俺を見ないでくれ!!」
お姉さんが溶け、ドロドロになり、空虚な瞳で見つめられた時、初めて事の大きさに気付いた。
選択するべきじゃなかった。
あのまま俺が生贄になっていれば・・・そんな考えすら浮かんでくる。
「人間って本当に愚かな生き物だよね・・・」
いつの間にか横にいた黒猫が話しかけてくる。
世界も再び凍りついている。
まるで猫と話している時は世界が止まってしまっているように・・・。
「君は私利私欲で選択した。
僕としては残念でならないよ」
「残念って・・・そういう選択肢を与えたのはお前だろう?」
「そうだよ!
僕が・・・僕らが選択肢を与えた!
しかし、選んだのは君だ!
誰でもない君だ!!
人間は様々な可能性を持っている!
様々な奇跡を起こしてきた!
しかし、君が選んだのは選択肢として提示された曖昧なもの。
自らレールに乗り、この結末を選んだのも君だ!
僕らに非がないかと言われたら完全にNoとは言えないけれど、僕らには僕らの都合があるんだよね!
だから、君にあれ以上の選択肢を与えられない。
これって僕らに非はないって言えるんじゃないかな??
なんにせよ、選んだのは君だ!
君の選択肢が招いた結果だ!
そこんところをしっかり身にしみてほしいな!」
暴論も暴論だった。
選択肢を与えたのはこいつら。
確かにそうだ。
選んだのも俺・・・それも間違いない。
それ以外の選択肢があった可能性・・・。
それもゼロじゃない。
しかし、その可能性を考えてなかった。
完全に切り離していた。
その可能性を少しでも考え、実行してれば何か違う未来があったのかも知れない。
しかし、考えていなかった。
俺は完全にこの猫の言葉に惑わされ。
選択肢を選んでいた。
自分が助かる一心で。
「俺は・・・この後どうなるんだ?」
「そうだなー・・・それじゃあ、また君に選択肢を与えてあげる!」
「また選択肢・・・」
「そう!選択肢!
1つ目はこのまま君の世界に帰って、そのお姉さんへの罪を感じながら一生生きていく!
そして、もうひとつは・・・」
やめろ・・・やめてくれ!!
「君をヘルヘイムへ送る」
ヘルヘイム?
そこはどこなんだ?
「あぁ・・・君たちの世界では地獄って言った方が分かりやすいのかな?」
「地獄?・・・地獄だって??」
「そう!地獄!
生きたまま地獄に送ってあげる・・・
肉は焼かれ、骨は腐り落ちる。
その死骸を獣達が食べる。
それで輪廻に戻れるとされてるけど・・・実際はどうなんだか?」
片方は生きられるが絶望。
もう片方は死ぬこと確定・・・どっちにしろまともな選択肢がない。
そうだ!
また、違う可能性を考え・・・
「別の選択肢はないよ!
僕らもそこまでお人好しじゃない!
一つ前の選択肢で君の命運は尽きたんだ。
さあ!選ぶといい!」
可能性を潰されてしまった。
また、どちらかを選ばなければいけない・・・。
俺は・・・