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ダークReローデット  作者: 神蔵悠介
10/12

10話 弱くはない

リュミエルのまさかの発言にアティは驚愕して黙り混む。

 人狼はリュミエルを睨みながら、体を震わせている。

 だが、ニヤっと笑う人狼にリュミエルは気づけなかった。

 

「手足だけ、紛い物なのか?」

「それがなに? です」

「なら、体はそのままって事だな?」

 

 その瞬間、リュミエルは復帰したモッドの体当たりを受けて、吹き飛ばされる。

 強力な体当たりに思わず呼吸が吸えなくなるリュミエル。

 だが、何とか空中で態勢を整えて着地をした。そこに急かさず人狼が追撃を行う。

 腕が降り下ろされ、構える前に防御を選択してガードを固めた。

 しかし、それがミスへと繋げた。

 

「バカが」

「――」

 

 引っ掛かれるかと思ったリュミエルだが、人狼はリュミエルの腕を掴もうという算段であったのだ。

 見事、人狼の予想通りにガードをしたリュミエルの腕を掴んで持ち上げた。

 そしてそのまま、引っ張り上げて床へと背面から叩きつける。

 あまりの威力に床がへこむ。


「カッ……ハ……!」

 

 息が出来ない所ではなく、体を動く事すら許されないリュミエル。

 人狼はリュミエルの上に覆い被さる。

 

「ハァ、ハァ……! もう、ダメだ……」

 

 ベルトをいじり始める人狼にリュミエルはまだ、動く事が出来ない。

 

「――このッ」

「おっと、こっから先はいけない」

 

 異常な速度でアティに近付き、腹部に一撃入れてダウンさせた。

 アティは腹部を押さえながら、床に膝をつける。その瞬間に背中は叩き、床に伏せさせた。

 

「まぁそこで見てろ。おい! 俺も混ぜろ」

 

 モッドは人狼の方へ駆け出し、それを見ている事しか出来ないアティ。

 悔しくなり、握りこぶしを作って歯を食い縛る。

 

「また……なにも、出来ない……!」

 

 少女のことを思い出す。更に悔しさか増して、涙が出るアティ。

 だが、

 

「ぎゃあああああああああッ」

 

 モッドの悲鳴が聞こえた瞬間、アティはリュミエルの方を見る。

 すると、リュミエルの腕が変形して異形な物に見えるアティ。

 

「……なに、あれ……」


 見たことの無い物に思わず口が開いた。

 モッドは腹部に何かを数発撃ち込まれて、仰向けに倒れている。

 異常を感じた人狼はリュミエルから離れた。

 服がぼろぼろになり、下着を晒しているが立ち上がってモッドを見下す。

 モッドはリュミエルと目が合う。

 

「俺を……!」

 

 モッドは手で振り払い、リュミエルに当てようとするが、それを後ろに飛んで避ける。

 下がった所でモッドが立ち上がり、リュミエルを睨む。そして、リュミエルも同じ目付きでモッドを見ると、

 

「俺をその目で見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 叫びながらモッドは角を頭部から4本生やして、リュミエルに突進を仕掛ける。

 しかし、リュミエルは避けようとせずに手を構える。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

「死ぬのはお前だ、です」

 

 すると、リュミエルの指先が外れると同時に弾が連射される。

 発射音と共に指先から火花が散る中、弾丸がモッドの頭部から肩、足に撃ち込まれていく。

 そして、数10秒間に渡り撃ち続けた。モッドは撃ち込まれた箇所から血を流し倒れる。

 リュミエルの腕の表面が開き、開いた箇所を下に引く。

 

 下に引くと先ほど撃った弾丸の空薬莢が腕から大量に落ちる。

 空薬莢が床に当たると音を立て、辺りを静寂へ誘った。

 ピクリとも動かないモッドに人狼はゆっくりと駆け寄る。

 モッドの状態を見ようと体を起こそうとするが、そこで現実を直視した。

 その間にリュミエルはリロードを行う。

 

「……てめぇは殺す……」

 

 振り返ると同時に言い放つ人狼に、リュミエルはため息を1つついた。

 

「死ぬのはてめーです」

 

 手を人狼に向けた瞬間に人狼は走る。

 リュミエルは弾丸を発射して、人狼を撃ち抜こうとした。だが、人狼に当たることなく避けられていく。

 そして、人狼はリュミエルに小石を投げた。

 モッドに駆け寄った時に仕込んでおいた物を投げて、リュミエルはそれを避けると弾丸の軌道が大きくズレる。

 その瞬間にリュミエルの首もとに噛みつこうと一気に突っ込む。

 

「待ってた、です」

 

 右腕で人狼を殴ろうとした瞬間、肘から腕の間に刃が現れて人狼の顔を切った。

 

「ぎゃあああああああああッ!!!!」

 

 顔を切られて断末魔を上げる人狼。左目も切られて失明する。

 切られた部分を押さえながら、後退る人狼。

 床の凹凸にかかとをつまずかせて、尻餅をつく人狼に、リュミエルは近付く。

 

「ま、まてッ!!!!」

 

 片手をリュミエルに向けると、リュミエルはその場で止まる。

 

「なにか?」

「た、頼む……! 見逃してくれ…… 俺は雇われの身なんだ! 雇われたら、こんな姿になったんだよ」

「……」

「なっ! い、いいだろ 俺だってこんな姿にしたやつが憎い!」

「なら」

「なら?」

「お前のボスの名前を教えろ、です」

 

 リュミエルの一言に口を閉ざして、冷や汗をかき始める人狼。

 

「い、いえねぇ……それだけは……いえねぇ……」

「死んでください」

「まっ……待ってくれッ!!!! 言う! 言うから」

 

 リュミエルは構えた腕を下ろして、人狼を睨む。

 人狼は息を整えてからリュミエルを見る。

 

「俺のボスは……――ッ がぁあああッ!!!!」

 

 名前を言おうとした瞬間、人狼が苦しみ出してその場に倒れる。

 

「はぁあああ ウェッ! ウェヘヘヘヘッ!!!! ギャハハハハハハハハハッ!!!! あああaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」

 

 断末魔を上げながら、奇っ怪な笑いと言葉を発した後、突然人狼の体が干からびた。

 そして、完全に干からびると砂になってその場に小さな砂の山が完成する。

 それを見ていたリュミエルとアティは呆然としてしまった。数秒後、ハッと我に帰りリュミエルはアティに近付く。

 

「……」

 

 無言で近づいてくるリュミエルに少しだけ怖くなるアティ。

 

「怪我は?」

「え?」

「怪我してたら、今治療するから出せ、です」

 

 思わぬ言葉にポカンと驚くアティ。

 そんな事に気付かないリュミエルは首を横に傾げながらアティを見る。

 

「なんです?」

「大丈夫、大丈夫だよ……?」

「そうですか、って怪我してるじゃねーですか! 隠さず言え、です!」

 

 アティ自身気付かなかったが、モッドの戦闘中に裏肘を切っていた。

 リュミエルは腰に着けてる小さなバックから治療セットを取り出す。

 傷口を消毒してから、肌色の塗り薬を塗り終了。

 それからリュミエルはジェスターの作った固有結界に近付く。

 

「旦那様が結界を解かない限り、入ることは出来ませんね。やはり」

「やはり?」

「……以前に1度入れた事があったな、です。条件はわからないけど、です」

「そうなんだ」

 

 アティは結界に近付き、手を伸ばした瞬間に結界が解かれた。

 

「「え?」」

 

 目の前の光景が衝撃的すぎて、思わず口から漏れた2人であった。

 そして、結界が解かれる前の時間に遡る。

 

 ジェスターは4体の黒装束を結界内に閉じ込め、残りの2体は2人に任せた。

 黒装束4体の内3体がこの状況に焦り、1体だけがジェスターをしっかり見据えていた。

 

「……良い目をする」

「会えて嬉しいぞ、愚者のジェスター」

「……ああ、そう。良かったねぇ……」

 

 話しているとジェスターが手を降ると、何も持っていなかった手にナイフを持っていた。

 それからジェスターは殺気を放つ。

 殺気を当てられた4体の黒装束の内、3体が腰を抜かしてその場に倒れる。

 その内1体のみが立ち続けていた。

 

 ジェスターはその1体にナイフを1本投げる。

 1本はジェスターの投げたナイフを弾いて、床に落とす。

 それを見たジェスターは持っているナイフを1本に向けて連続で投げる。

 腕を横に振ってから投げ、半回転してアンダースローで投げて、上げた腕を降り下ろしてナイフを投げた。

 それを黒装束は全てはたき落とす。

 

「……お前は弱くはない」

「舐めるなよ、ジェスター……!」

 

 言ってから黒装束は自身の服を脱ぎ捨てる。

 顔立ちの悪くない男性が姿を表す。

 その瞬間に殺気を感じたジェスターは横に飛ぶ。

 飛ぶとそこに禍々しい針が数本突き刺さった。ジェスターは視線を戻すと、そこには怪物が立っている。

 

 全身針みたいな毛に覆われ、顔は赤く丸くなり穴が空いていて、尻尾の生えた何かがいた。

 しかしジェスターは、似た形状の生物に見覚えがある。

 

「……千針獅子せんしんししか?」

「おお、よく分かったな」

 

 と怪物がジェスターに言うと、空いた穴から目が開き、ギョロリとジェスターを見る。

 

「……針の形状を見て、薄々は気づいていた。だが、改めて見ると……」

 

 ジェスターは怪物の姿を頭から足を観察する。

 

「……気持ち悪いな、悪趣味すぎる」

「つれないこと言うなッ」

 

 怪物が言った瞬間、ジェスターに三センチほどの針を高速で飛ばす。

 それをジェスターは簡単に掴んでから床へ投げ捨てた。

 

「……無駄だ」

「やはりな……なら!」

 

 怪物の体の針が逆立ち、近付けば刺さる様になる。

 

「接近戦と行くッ」

「……単調だな」

 

 怪物がジェスターに突っ込み、腕を上げてジェスターへ降り下ろす。

 それをジェスターは見てから半歩下がり体を反らして避ける。

 腕を振り払い、針の生えた腕が急接近するが、ジェスターは態勢を一気に低くして避けた。

 そして、腋の下に短剣で突く。

 だが、異常に硬い何かに突き刺す事を阻まれ失敗に終わる。

 

「……チッ」

 

 思わず舌打ちをするジェスター。

 そんなジェスターに関係なく怪物は攻撃していく。さらに怪物の攻撃で床が凹む。

 当たれば即死の猛毒と怪力の組み合わせ、更に何故か異常に硬い皮膚。

 それが分かったジェスターは、

 

「……面倒くさい」

 

 と呟く。ジェスターの攻撃が通らず、避け続けているジェスターに怪物は気持ちが高ぶっていく。

 

「どうした ジェスター」

 

 怪物のボルテージが上がり、容赦の無い拳の嵐がジェスターを襲う。

 

「やはり噂通りか お前は真正面から戦うと実力はそこらの騎士と同等となッ」

 

 拳の嵐の中、ジェスターは避け続ける。怪物が拳を降り下ろした瞬間、怪物の視界からジェスターが消える。

 

「きえ……た?」

「……背後だ」

「――ッ」

 

 怪物は背後にいるだろうジェスターに裏拳を放つ。

 だが、何にも当たらずに空を切るが、確かにジェスターは背後にいた。

 ジェスターは態勢を低くして、怪物の裏拳を避けていた。

 そして、ジェスターは後方へ月面宙返りしてから着地する。

 着地してから振り返り、4人を見据えるジェスター。


「……さぁ、この私ジェスターが貴方達に素晴らしいショーをお見せしましょう……!」

 

 ジェスターは右手を自身の胸に当て、左手を腰に当ててお辞儀した。

 それを見た怪物は面白おかしくなる。

 

「ハハハハハッ!!!! なんのショーを見せてくれるんだ、ジェスター? 虐殺ショーか?」

「……それはお楽しみで、ございます」

「そうか、なら……死ね!」

 

 怪物は一気にジェスターに突っ込み、拳の嵐をジェスターに降り注ぐ。

 だが、拳の嵐を避け続けて、先ほど同じ様に背後へ回り込むジェスター。

 そこに怪物は奥の手を使う。

 

「――死ね」

 

 怪物から生えた尻尾が背後に回ったジェスターへ高速で飛んで行く。

 まさかの攻撃にジェスターは反応しきれず、無数の針の付い尻尾に突き刺さり、吐血する。

 

「が、あ……」

 

 怪物は突き刺したジェスターを持ち上げて振り返る。

 怪物は口元を緩ませて、ジェスターを見た。

 

「この尻尾の毒はな……! 俺の中の高密度に濃縮された毒だ、受けたものは――激痛が一瞬で体全体へ行き、溶ける」

「―― く……ッそ!」

「死ね……ジェスター」

 

 毒を刺からジェスターの体へ流し込む。流し込まれると、ジェスターの体が膨れ上がり腹を突き破って液状の何かが床へ落ちる。

 そして、ジェスターの体が針から抜けて床へ落ちると液状化して原型が無くなった。

 それを見た怪物は口元が緩みまくり、

 

「アーッハッハッハッハッハッハ!!!! 弱すぎる 弱すぎるぞジェスターッ」

 

 液状化したジェスターを見て、顔らしき形物に怪物は踏み潰した。

 

「俺は……最強だ」

 

 と高らかに宣言する怪物。だが、

 

「――へぇ? やっぱり、お前は……」

 

 声のが聞こえた瞬間、

 

「――弱くない」

 

 怪物の耳元で言うジェスターに、怪物は驚愕して反射的に振り払う。

 ジェスターは空中で1回転して床に着地した。

 何が起きているのか分からない怪物は口を開いて絶句している。

 そんな反応を見せている怪物の事を気にせず、液状化した自身を見る。

 

「……これは、あれだなぁ……」

 

 口元を緩めながら言うジェスター。

 

「な、なんで生きているッ」

 

 やっと口に出した言葉であった。

 そんな言葉にジェスターは笑い、

 

「死んでないからだぁ……」

「死んでない理由を言えエエエエエエエエエッ!!!!」

「後で教えてやるよぉ……それよりも、喜べぇ……?」

 

 ジェスターへ両手を横に広げる。

 

「手加減しないで相手してやるからよぉ……!」

「今さらッ テメェは雑魚だろうがッ」

 

 怪物はジェスターに突っ込む。そして、間合いに入った瞬間に拳を降り下ろして行く。

 拳全てを避けていくジェスターに、尻尾で強襲する。だが、ジェスターはそれを体を横に反らして避けた。

 避けた所で怪物の視界からジェスターが消える。

 

「背後だろうがッ」

 

 叫びながら背後にいるだろうジェスターに尻尾で、突こうとした。

 しかし、当たった感触が無く空を切る。何かと思い、振り返り確認すると、

 

「――ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ 目がッ目がァアァァァアアアッ!!!!」

 

 怪物の目にナイフを1本突き刺したジェスター。

 目に突き刺さったナイフを引き抜いて床へと投げ捨てる怪物。

 無数にある目の1つが潰され、残りの目でジェスターを睨む様に凝視した。

 

「雑魚に……! あんな雑魚にィィィィィィィィィッ!!!!」

 

 怪物の叫びに思わず、深いため息が出るジェスター。

 

「お前さぁ……気づけよぉ……?」

「何がッ!!!!」

「そこらの騎士以下の実力持ちによぉ……」

 

 怪物に指を差す。

 

「背後取られてんぞぉ……?」

 

 誰もが見ても分かるくらい、怪物の毛が激しく逆立った。


「殺す……」

「おぉー……怖い怖い……さぁて……」

 

 ジェスターは短剣を何処からともなく出して宙に投げる。

 回転する短剣に見事、柄の部分を掴み剣先を怪物に向けた。

 

「手品の種明かしだぁ……よろこべぇ?」

 

 ジェスターの煽りに堪えられず、怪物は殺意をむき出しにして突っ込んだ。

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