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ダークReローデット  作者: 神蔵悠介
1/12

1話 異世界へ

大仕事が入った。

 それはサーカスへのゲスト参加として招待された。

 ギャラもおいしいし、このコネを大事にしよう。

 そう思い、道化ピエロの恰好をしてから会場へ向かう。

 向かう最中、同業者に手を振られる。


『ガンバレ』


 その意味が含まれている素振りに、親指を立てて挨拶を返す。

 いつでも出られる様に垂れ幕の前に立つ。


「さぁ! 今夜は特別ゲスト! 今日本で熱いピエロッ!! ジェスター!!」


 司会の言葉と共に白い煙。炭酸ガスが垂れ幕の前に噴射された。

 ガスが噴射し終わっても出てこない。司会と観客は首を横に傾げる。

 すると、顔だけ出し始めた。


「これは、恥ずかしがりやさんかなぁー?」


 解説していくと、顔を引っ込めてお尻から出して何かを引っ張っている。

 ジェスターは司会者を手招きして、手伝ってと手ぶりで伝えた。

 近づいて一緒に何かを引っ張る二人。そして、ジェスターだけ後ろに飛び、転がり倒れる。

 司会者はそのまま引っ張っていた物を垂れ幕から取り出す。


「鞄だぁ!! 少し重いぞー?」


 言いながら上下に大きめの鞄を振ると、ジェスターは急いで立ち上がって口元に手を当ててアワアワしながら近づく。

 その姿に観客は大いに笑う。鞄を司会者から受け取り、鞄を叩くと、


『コンコン』


 と会場に音が鳴る。鞄を床に置いて駆け足で下るようにしゃがんでいく。

 それは観客からは、本当に下に潜っているのかと思うぐらい上手い。

 それから、駆け足で上がるように見せて、先ほどまで何も持っていなかった手にはステッキが存在していた。

 ジェスターはステッキを使いながらタップダンスを披露して、歩いている最中に華麗なムーンウォークで前に進めない演技行う。


 ジェスターは観客の一人を呼び、マジックの助手をやってもらう。

 観客に予め用意した紙を見せる。

 鞄を持って貰い、その上に金魚鉢を置いて上の部分をラップで止めた。

 塞がれていることを確認してもらい、それから金魚鉢に紙を押し付けてそこに手を突っ込むと、貫通され中に入っていた水が漏れ、目的のコインを手に取って見せた。

 大盛り上がりを見せたジェスター。しかし、ここでジェスターの出番は終わり、他のショーへ移行。

 ジェスターはショーを終え、控室で休憩していた。


「ふぅー……疲れたー……」


 でも、大盛況だったな今日は! と思い、飲み物を飲もうした。


「ありゃ、切れてる。買いにいくかー」


 自動販売機へ向かう。自動販売機は裏手にあり、従業員しか出入りしないところにある。

 外へで自動販売機にお金を入れていく。目的の額に達し、ボタンが光る。

 すると突然光が照らされ、なんだ?と思い振り返った。


『あ、死んだ』


 目の前に何故かトラックが突っ込んで来ていた。避けることが出来ず、トラックと自動販売機に挟まれ即死。

 この後、トラックを運転していたドライバー即逮捕。居眠り運転をして、ハンドルを切ってしまった。

 そして不幸なことに、ジェスターと呼ばれているピエロ。本名、士導逸河しどういつかは巻き込まれてしまった。

 士導逸河はどこか分からないが、意識だけははっきりしていた。

 すると、目が覚めていく。

 目が覚めると見たこともない場所にいた。辺りは真っ暗で今いる場所は青白い円形の上に乗っている。


「……天国?」


 呟く逸河。


「いえ、ここは狭間です」

「は?! だれ!?」


 突然声のみが聞こえ、辺りを探す。だが、どこにも姿が見えない。


「貴方は不幸な事に死んでしまいました。ですが、不幸ですので救済措置として――」

「――生き返らせてくれるの!? マジか!!」

 

 やった!とガッツポーズを行う逸河。


「――異世界へ生き返らせましょう」

「なるほどな! これで生き返……は? いや、まっ――」

「――士導逸河さん、新生活頑張ってください」

「神さまぁああああああああああああああああ!!!!」


 神様かどうかはわからないが、叫びながら意識が飛び、目の前が暗転した。

 そして意識が戻り、目が覚める。逸河は体を起こして、体に異常が無いか確認した。


「異状なし」


 言ってから上を見上げて空を見る。

 綺麗な空だなぁ……風も気持ちいいし。と思いつつ辺りを見渡す。

 

「……あともう少しでギャラも、コネも手に入ったのに」


 思わず本音が零れる。重いため息も出る。

 そのタイミングで草むらが音を立ててはじめ、びっくりしてその場を飛びのく。

 草むらから少し離れて様子を伺う。


「……」

「……」


 草むらからお爺さんの顔だけが出てきた。目が合い、お互いに黙り込む。

 ……いや! 長いなおいッ! 黙り込んでお互いに数十秒が経った所で思う。


「……お主、人間か?」

「……人間です」

「そうか……」

「はい……」


 なんだこのコミュ障同士の会話は!!と心の中で思う逸河。

 しかし、意外な事にお爺さんは草むらから出て、逸河へ近づく。


「すまんな。お主の恰好が余りにも珍しくてだな」

「え?」


 逸河は体をよく見るとピエロの衣装そのままだった。

 あー……だから人か確認したのか、納得。


「そういえばお主、魔法には興味が無いかね?」

「魔法?」

「そう魔法じゃ。例えば、ほれ」


 そういうとお爺さんは突然大きくなり、その大きさ10m。

 足を上げて逸河を踏もうと足を下した。


「ちょッ! まッ!!」


 言うが遅い、既に踏まれていた。だが、逸河には傷一つ付くことは無かった。

 何が起きた!?と思いつつ、体を見る。


「これが魔法じゃ」


 お爺さんの一言に逸河は感動してお爺さんを見た。


「これは……すごいッ!」

「興味が出たかのう?」

「はい!」

「ほう、そうかそうか。なら、わしの魔法を教えたるわい」

「ありがとうございます!」


 逸河はお爺さんに頭を下げてお礼を言う。


「そういえばお爺さんの名前は?」

「ワシか? ワシはレイゲン・オキナじゃ」

「じゃあ、オキナさんって呼んでも?」

「そうじゃな……少なからず、ワシの元で魔法を覚えるとなると……師匠じゃな」

「じゃあ師匠、よろしくお願いします」

「よし、ワシに付いてこい。えーっと……」

「俺は士導逸河。逸河って呼んでください」

「わかった」


 このお爺さんとの出会いが、士導逸河を変えることとなる。

 そんな事はこの異世界に来たばかりの士導逸河には知りもしなかった。

 オキナと出会ってからの出来事は、毎日魔法の練習。

 それも幻覚魔法のみである。逸河には魔力はあったが、年相応の魔力は備わっていない。

 オキナは逸河に毎日倒れるまで魔法を使えと言われ、毎日魔法を使っては倒れる。この繰り返し。


 それと同時に体力作りもするようにと、オキナに言われそれも欠かさず行う。

 体力作りはオキナの庭を走る。因みにオキナの家は出会ってから徒歩10分位の所に存在する。

 平地で大きい訳ではなく、森の中であった。結界を張っているらしく、それを出ると危険だとオキナは予め逸河に教えた。

 逸河はそれに従い、オキナの庭(森)を走る。が、これが長い。

 家からスタートして1キロ程走らないと1週する事が出来ない。

 逸河はそれを2周して、少し休憩を挟んでから魔法の特訓を行う。

 

「逸河」

「どうしたんです? 師匠」

「何故、そんなに頑張れる?」

 

 オキナの言葉に逸河は考えてから、


「魔法が使いたいから。後一番は幻覚魔法で人を驚かせて、笑わせたいから、かな?」

 

 と恥ずかしくなり、頬を軽く掻く逸河。

 だが、オキナは少し後悔している様に見えた逸河。


「まぁ、頑張れぃ」

「はいッそれよりも師匠、新しい魔法を……」

「幻覚魔法かの?」

「幻覚魔法以外だよ……」

 

 それから逸河とオキナは共に住み始め、1年が経とうとしていた。

 逸河は23となった。たまに逸河は自分のいた世界を思い出す。

 あっちでは後少しの所で死んじまったけど、こっちでは上手く生きて、あっちの世界より有名になってやる。

 逸河は心の中で決意して、今日もいつもの日課をこなす。

 そして、この世界に来て1年半が絶った。

 

「逸河、そっちに行ったぞ!」

「わかってますよーっと……!」

 

 逸河は投げナイフを片手に持ち、獲物である鹿型のモンスター、モリシカへ投てきする。

 投げられたナイフは見事にモリシカの頭部に当たり、その場で倒れて即死した。

 逸河はこの1年半でかなり成長していた。それはオキナも目を見張る程の成長ぶりである。

 元々逸河は大道芸士であるため、器用であった。

 その為、魔法を使って今では倒れない程の使い方と魔力が大きく成長。

 体力は元からあった為、そこまで苦労することなく成長していた。

 そんな時、オキナに街に行かないか?と誘われ、逸河は断ることなく即答で答えた。

 歩いて30分程で街へ着いた二人。

 

「逸河、先に言っておく。ワシから離れるなよ?」

「師匠、俺は子供じゃないんだぜ?」

「まぁ、そうじゃな」

 

 そう言ってから逸河はオキナの後を付いていく。そして、大通りではかなりの人の混雑が起きている。

 逸河は確かに離れたら探すのも一苦労だな。と思い、オキナの後を付いていく。

 だが、この世界初めての人混みに飲まれた逸河。あっという間にオキナの姿を見失う。

 そして、人混みに流され逸河は裏通りへ一旦入る。

 

「すげぇ、人混みだな」

 

 呟くと同時に振り返る。すると、大男が木の棒を振りかぶっていた。

 条件反射で腕で防ぐと、鈍い音と共に後ろへ下がる。右腕に鈍い痛みが走りながら、大男を睨む。

 その瞬間、背後から首もとを叩かれ逸河は意識を失う。

 オキナが離れるな。と言った理由、それは人拐い。人身売買を行う為に拐う。

 逸河は見事に人身売買を行う集団の罠に掛かっていた。それは、人混みによって起こす裏道、細道への誘導。

 狙い目をつけて、相手の前に上手く入っていき獲物にぶつかり、視界を妨げていく。

 そして、流れに身を任せた所で裏道、細道へ入るように軽く押していき完成。

 大男は逸河を担いで、何処かへ消えた。

 

「逸河、気を付けろ。ここは人拐いの多い所でなぁ……この人混みに紛れて誘拐しようとする輩が多いのだ」

 

 オキナは一通り説明してから、逸河の反応を待つ。だが、逸河はそこにはいない。

 

「どうした逸河、お主の耳なら聞こえ――」

 

 振り返るとそこには逸河の姿なく、オキナは周囲を見る。

 

「やられた……!」

 


 *********



 逸河は目が覚めると、いつもの格好ではなく膝まで丈のある汚れた布を着せさせられていた。

 

「なん……だ、これ……」

 

 意識がぼんやりするなか、辺りを見ると逸河と同じ格好の者が俯きながら座っていた。ここで逸河は確信する。

 拐われた。多分、奴隷商人だ、コイツら。

 馬車に揺られながら思う。そして、馬車が止まり扉が開かれる。

 首と両腕、両足に錠を掛けられている逸河。顔を鉄仮面で隠している兵士の格好している。

 兵士に鎖を引っ張られ、逸河達は抵抗した。

 

「粋が良いな。だがな、お前らなんぞ替えが沢山いるってのを忘れるな?」

 

 と言ってから1人の男性が兵士に突っ込み、体当たりを仕掛けた。

 体当たりが当たる寸前で、電撃が発生して体当たりしようとした男性が倒れた。

 しかし、絶命していない男性は立ち上がろうと腕に力を入れた。

 その手に剣を突き刺す兵士。

 

「ぐぁあああああああッ」

「このクソがッ 奴隷風情が俺様に歯向かうんじゃねぇよッ」

 

 兵士は逸河達の方を見る。

 

「……丁度良い、逆らったらどうなるか。教えてやる」

 

 兵士が指を弾いて音を鳴らす。その瞬間だろうか、何かが走ってきている音が逸河には聞こえた。

 男性は視線を横に向ける。

 

「――ッ イヤだぁッ ヘイルビーストだけは ヘイルビーストはやめてくれぇえええッ」

 

 ヘイルビーストと呼ばれる魔物が男に近づく。その名前を聞いた者は、身震いを隠せない。

 そしてヘイルビーストと呼ばれる存在が姿を現した。

 異形すぎるその姿を見て本能的に目をそらす。


「や、やめ、やめてく、だ、さい……ッ!!」


 と男の声が聞こえた瞬間、


「ギャアアアアアアアアアアッ!!」


 断末魔を上げる男。逸河はふと、視線を男の方へ向ける。


「――ッ!!」


 吐き気が逸河に襲い掛かる。見てはいけない物をみた。

 死体ではない、まだ生きている。だが、酷すぎる光景に思わず蹲った。

 体が震えているのが分かった逸河。完全にトラウマを植え付けられた。


『ニン、ゲン、コロスノ……タノシ、イ』


 潰れた声と低音モザイクボイスが混じった声が聞こえた逸河。


「あぁああああああッ!! 痛いッ!! 痛い痛いッ!!」


 声を聴いた逸河とその他は、声の主をふと見てしまう。

 上半身の皮が剥がされて地面から起き上がろうと必死になっている者を見た。

 耐えきれない者が現れ、その場で嘔吐する。

 男性ではなく――者は、手の甲に刺さっている剣を引き抜いて立ち上がろうとした瞬間、


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 足の裏をヘイルビーストの手が突き刺した。そして、そのまま、ゆっくりと上にあげていく。


「イタイタイタイタイタイタイッ!! やめてくれぇええええええええええッ!!」


 兵士は指を弾いて音を鳴らす。すると、ヘイルビーストはその場で止まる。


「分かったか? お前らが逆らえば容赦はしない。安心しろ、しっかり売ってやるかよぉ……ハハハハハハッ!!!!」


 その後、ヘイルビーストは――者を連れてどこかへ消えた。

 黙って兵士の言う通り、歩いていく逸河達。

 どこかの建物に入ってから、突然スポットライトで照らされる。


『さぁ!! 奴隷販売の開始です!! 一人金貨20枚!!』


 会場内を男性の声が響かせる。それから周りにいた者がどんどん居なくなっていく。

 中にはすぐに、その場で殺す者もいた。

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……!! 心の中で全力で祈る。


『38番! お買い上げありがとうございますッ!!』


 首輪の鎖が引っ張られ、逸河は抵抗できずに引っ張られる。

 逸河を買った者、エルフォン・シャイアンン。

 今、この帝国の軍に支援金を送っているかなりの大物。だが、そんな事は逸河は知らない。

 そして、この男との出会いが逸河の全てを変え、後に帝国最大の恐怖を上級階級者全てに植え付ける事となる。

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