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とりあえずエイトロンに到着する

 時々魔物の襲撃を排除しながら進むこと10日。盗賊に襲われるなんていうこともなく俺たちは無事に辺境都市のエイトロンを視界に収めていた。


「しかし、でかいな。」

「そうですねぇ。」

「一応ユーミルの樹海の魔物の防衛のために作られたって話だから、当たり前よね。」


 当たり前と言いつつミーゼも眼前にそびえ立つ城壁を見上げ驚いている。

 俺たちの目の前には高さ15メートルはあろうかと言う石造りの防壁がそびえ立っているのだ。遠くから見たところその上部には空を飛ぶ魔物の対策なのかバリスタが何機も設置されていたしな。今まで見た都市の防壁が柵に思えるくらい桁違いの堅牢さだ。

 俺たちが街に入るための審査を受けるために待っている門にしても金属製の頑丈そうなもので、防壁の周りの堀を渡るためのかけ橋からは、堀の中に落ちた魔物を退治するためなのか数人の兵士が巡回している様子が見えた。


「噂通りエルフや獣人の人たちも多いですね。」


 俺たちや商人たちが審査に並ぶ横を、街を出入りする人々が通っていくのだが3割近くがエルフや獣人たちだった。あまり見るのは失礼かとも思ったんだが、俺たちのような視線には慣れているらしくこちらに向かって手を振って去っていくようなさわやかイケメンエルフもいた。

 まあ俺の方もリヤカーに荷物とカヤノたちを乗せて引いているので、視線を集めているのでお相子かとも思うが。とりあえず手を振ってきたエルフには会釈しておいた。まあ挨拶は基本だからな。


「次の者。」


 おっ、呼ばれたようだな。

 ちょっと気合を入れてリヤカーを動かす。リヤカーは動けばその後は楽なんだが最初がどうしても力がいるんだよな。まあ俺にとってはあんまり関係ねえが。

 ゴロゴロと言う音を立てながら門へと近づいていくといつも通りギョッとした顔をされる。まあこんな荷物満載のリヤカーを女が引いてきたとか信じられねえだろうしな。とは言っても馬車なんて高くて買えるわけがねえし、俺が休憩がいらない分、普通に歩くよりもよっぽど早いんだから仕方ねえだろ。


「銅ランクの冒険者3人か。積み荷は何だ?」

「濃縮ポーションとかだな。一応調薬が出来るのが2人いるからな。」


 3人分の冒険者ギルドのカードを手渡し、1つの箱を開いて藁と土で固定された濃縮ポーションの瓶を見せる。他の箱もこの濃縮ポーションだったり、日用品だったりで特に変なものは積んでない。門番は軽くすべての箱をひととおり見ると10日間の滞在許可証にサインをした。


「ポーションが作れる調薬師が2人もいるとはありがたい。ここではいつでも不足気味だしな。滞在を延長する場合は中央の役所で手続きをしてくれ。」

「ああ、わかった。」

「しかし銅ランクで女3人で旅するなんて危険だぞ。いくらあんたが手練れだとしても調薬師2人のフォローは大変だろう。」

「・・・まあね。」


 軽く門番に注意されながら手をひらひらと振って街の中へと入る。

 今まで通ってきた街は石造りの家が多かったのだが、ユーミルの樹海が近いこともあるんだろうがほとんどが木造2階建ての家々が並んでいる。その通りは広く馬車3台が余裕ですれ違えるほどの広さをしており、人は多いのだがごみごみとした雰囲気は薄かった。

 なんていうか辺境都市っていうくらいだからもっと無計画で迷路みたいな感じを想定していたんだが、その真反対な感じだ。まあそれはいいとして・・・


「いや~、調薬師2人の護衛は大変だな~。」

「・・・」

「手練れだとしても危険らしいな~。」

「・・・」


 プルプルとミーゼが震えるのが面白くていつもながらちょっと遊んでしまう。

 先ほどの門番が勘違いしたみたいに、調薬師2人と護衛として街に入ると、まぁ当然のごとく俺が護衛で、荷台に乗っている2人が調薬師だと思われる訳だ。その確率は今まで100%である。俺は剣を背負っているし、リヤカーを引いていることで力もあるって思われるからな。


 それに納得がいかないのがミーゼだ。

 初めて勘違いされた時は、当然のごとく反論して街に入る手続きにかなりの時間がかかってしまい、宿の中でもプリプリと怒っていた。「私が護衛じゃ悪いっていうの!?」って言いながらやけ食いするミーゼにちょっと引いたもんだ。まあ強さを証明するために魔法まで使用させられたのでわからないでもないのだが。

 確かに旅の移動の最中に魔物を倒す役割はミーゼに任せているんだが、見た目上どちらが護衛に見えるかと言えば俺の方だしな。


 次の街でも同じようなことになり、ミーゼは勘違いされても無視することにしたのだが、やっぱりイライラはするようでしばらく機嫌が悪いのだ。しかもため込む分そのイライラの時間が長い。

 カヤノも気を遣うし、俺も面倒なのでどうにか出来ねえかなと考えた結果、俺はミーゼをおちょくることに決めたのだ。


「だー!!仕方ないじゃない。リクが悪いのよ。無駄に大きくてバインバインで力も強くって調薬も出来るって何なのよ!!」

「はいはい。無駄にバインバインですよ~。」

「ミ、ミーゼさん。落ち着いてください。リク先生もダメですよ!」


 ついに爆発したミーゼが俺の背中をぽかぽかと殴りながら怒ってくるが、当然のことながら俺には全くダメージがない。まあバインバインのところで軽く精神的にはダメージを食らっているのだが些細なことだ。些細な・・・う~、くそう。俺だって好きでバインバインな訳じゃねえよ!!

 カヤノのとりなしもあり、ミーゼは「ふんっ。」と言いつつも先ほどまでのイライラが無かったかのように街の様子を眺め始める。結局1度爆発させた方が楽なんだよな、こいつの場合。まあおちょくると面白いからやってる部分もないとは言えねえがな。


 そんなことを考えながら俺も街の様子を眺めながら歩く。新しい街に来た時のこの瞬間が一番面白いかもしれん。あんまり変わり映えのしない街並みだったりするんだが、それでも街ごとの特色があったりするし、面白い店なんかもあったりするしな。

 それにしてもこのエイトロンの街は変わっている。街並みが木造ばかりと言うこともあって雰囲気がどちらかと言えば昔の日本に近いものがあるし、住んでいる住人もエルフや獣人が多い。やはり3割ぐらいだろうか。

 カヤノがキョロキョロと見回しているのはアルラウネの人を探しているんだろう。まあ俺も探しているんだが全く見当たらない。フラウニみてえに店に引きこもってたりするかも知れねえな。


「噂通り本当に変わった街ね。まあいいわ。とりあえずギルドで宿を紹介してもらいましょう。」

「そうだな。」

「はい。」


 ギルドの場所は門の近くにあった街の概要図で確認済みだ。この通りを真っすぐに向かえばしばらくして見えてくるはずである。

 ちなみにエイトロンの冒険者ギルドもちょっと変わっている。本部が中央に1つあり、東西南北それぞれの門の近くに支部が置かれているのだ。とは言え支部は魔物の素材の買取や依頼達成の報告など一部の機能しか持っていないため最初はどうしても本部に行く必要があるんだけどな。

 この支部は討伐依頼の多いエイトロン独特の制度であり、やはり魔物の体液なんかで街が汚れたりするのを防ぐ目的だそうだ。街の住人へのギルドからの配慮と冒険者たちへの手間の軽減ってことだな。


 しばらく歩くと冒険者たちが出入りする周囲の5,6倍はあろうかと言う巨大な建物が見えてきた。馬車を普通は無い馬車を停めるスペースも確保されたそれが、このエイトロンの冒険者ギルドの本部だ。

 馬車の駐車スペースにリヤカーを停め、駐車場係のギルド職員に一言伝えた後、全員でギルドの中へと入っていく。若干駐車場係のひきつった顔が気にはなりはするものの、まあ無視すればいいかと思考を放棄した。


 ギルドの中に入ると多少広くはあるものの、外見から考えていたほどに部屋は広くは見えなかった。もしかしたらこのホール以外に何かあるのかもしれねえな。

 よそのギルドに比べて冒険者は多く、依頼ボードを見たり、窓口に並んだりと見慣れた光景が広がっていた。まあ普通の人族以外が結構いるってことを除けばだがな。


 とりあえず街に到着したことの報告と宿の紹介をしてもらうために列へと大人しく並んでいると少し前の方で横入りしたとかしていないとかで諍いが起き始めた。子供かよ。

 関わってもろくなことにはならないのはわかっているので俺たちも他の冒険者たちも見て見ぬふりで放置だ。本格的なケンカになったらギルドの職員も止めるだろうし、さすがにそこまではいかねえと思うがな。


 早く列が進まねえかなと考えながらケンカを眺めていると、人族の方の冒険者が相手の犬の獣人の胸のあたりをトンっと押した。力もそこまで入っているようには見えないほどの強さだ。しかし次の瞬間、犬の獣人は苦しそうに胸を押さえたまま床へと倒れていった。

外傷を与えず内部のみ破壊するその技をくらった冒険者を救うために必死に治療を行うカヤノ。

一方でリクとミーゼはその恐ろしい使い手と対峙することになる。


次回:神気発頸!


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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