とりあえず効果を検証する
多少仕事が落ち着いたので2日に1度の更新にします。不定期で申し訳ありませんでした。
いつかは毎日更新に戻したいですね。
「で、俺に飲んで欲しいと。」
「お願いします。この薬が効果があるってわかればこの街のギルドも二度と今回のようなことは起きないと思うんです。」
夕食をとりに下へと降りるとちょうど折り良く実験台、じゃなかったターゲットである『豪腕』のガレリアスがいた。俺の狙いを察したミーゼとカヤノはちょっと気後れしていたようだが強引に同席させ、執拗に合図し続けてカヤノに話させたのだ。ちなみにミーゼは恥ずかしさからか黙秘を貫いている。
カヤノがポーション用の瓶に入れた例の薬をガレリアスがしげしげと手に持って見つめている。ガレリアスが持つと普通のポーションの瓶が小瓶に見えてしまうから不思議だ。薄ピンクの液体の色もあっておしゃれなアクセサリーに見えなくもない。
「まあ嘘をつくようには見えんし、毒だったとしてもある程度の耐性はあるから大丈夫だと思うが。」
「すみません、ガレリアスさんに無理を言っているのはわかっているんですが、もし毒か心配なら今僕がここで飲みます。」
「いや、子供が飲んじゃダメだろ、精力剤なんて。」
今にも飲みそうなカヤノの真剣な顔に眉間に皺を寄せていたガレリアスがふっと笑う。そしてガシガシと髪のない頭を乱暴にかくと、立ち上がり宿の外へと向かって歩きだした。
「言っとくがあんまり期待すんなよ。俺はこんなもんがなくても正常だからな。」
「・・・はい。ありがとうございます。」
頭を下げるカヤノにふっとため息をつきながら再び頭をかいてガレリアスはそのまま夜の街へと消えて行き、そして翌朝まで帰ってくることはなかった。
ちなみに俺は部屋に戻ってからミーゼにめちゃくちゃ怒られた。カヤノもフォローはしてくれなかった。なぜだ?
翌朝。
一晩中宿の前でウキウキと待っていたんだが奴は帰ってこなかった。ほほう、休憩ではなくお泊まりとは薬の効果があったんじゃねえの?しかしあの体格でしかも高位の冒険者ともなれば普通の体力じゃねえのは当たり前だ。どっちだ、どっちなんだ?
結局カヤノたちが起きる時間まで帰ってこなかったので仕方なく俺は部屋へと戻り、起きた二人は朝食をとりに1階の食堂へと向かった。そこでは相変わらず主人が踊りながら食事を提供していたがもう慣れたもんで誰も驚きはしない。
今日は依頼を受けないと事前に決めているのでゆっくりと朝食をとっていると、宿の扉が開き人が入ってきた。ガレリアスだ。
ガレリアスの表情を一言で表すなら、いわゆる賢者タイムってやつだ。若干頬がこけたような気がしないでもない。しかしその瞳は悟りを開いた仙人のようにさざなみさえない海のごとく落ち着いていた。ガレリアスは俺たちが居ることに気付くと少しフラフラした足取りでこちらへと近づき椅子へどっかりと腰を下ろした。
「「おはようございます。」」
「あぁ、おはよう。」
挨拶をする2人を見ているのか見ていないのかわからないような生返事をガレリアスがする。これは、狙い通りみてえだな。さすがカヤノ特製精力剤。効果は抜群だ!!
「あの、どうだったでしょうか?」
カヤノがガレリアスの調子をちょっと心配しながらも真剣な表情で聞く。なんていうかそこは察してやろうぜ、カヤノ。いや、カヤノ自身まだ精通していない可能性さえある年だ。男のこういうことについてイマイチわかってねえのかもしれねえ。精力剤の説明もちょっと苦労したしな。最初は元気ジュースと同じ系統だと思ってやがったし。
しかし今はその素直な質問ができてしまうカヤノが怖い。いいぞ、もっとやれ。
そして言ってやるんだ。昨日はお楽しみでしたね、とな。
「・・・日分だ。」
「えっ?」
「10日分が一度に出たかのようなすごい量だった。収まらねえし、しかもそれが一晩中続くんだぞ。最後の方はイクんだが何も出ねえんだ。なんてもの作りやがる!」
「という事は。」
「効果は抜群だよ!!」
おぉ、当人の口からそんな言葉が聞けるとは、これは素晴らしい薬が出来てしまったようだな。ミーゼが顔を真っ赤にしているが、カヤノは純粋に薬が上手く作れていたことが嬉しいのか「ありがとうございました。」と言いながら笑っている。
しばらく昨日の効果を話した後、朝食も取らずにフラフラとした足取りでガレリアスは自分の部屋へと戻っていった。今日街を出るって話だったがあの分じゃ無理だろうな。まあ急いでいるって言っても一刻を争う訳じゃあなさそうだし一泊ぐらい大丈夫だろ。
満足している俺の目の前のテーブルに注文していないデザートがコトリと置かれる。置いたのはもちろん宿の主人だ。
「今のお話、詳しく聞かせてもらっても?精力剤とのことですが。」
「はい。」
ますます赤くなるミーゼをよそにカヤノは嬉しそうに薬を作ったこと、そしてガレリアスが使って効果があったことを主人へと話していった。宿の主人はニンマリと笑い、そして「デザートはお話代です。」と言って引っ込んでいった。
これで噂が広がるだろ。手間が省けたな。
「あー、恥ずかしかった。カヤノくんもあんな場所でそんな薬のことを喋っちゃダメだからね。」
「はい、すみません。」
(別にいいじゃねえか。人として当たり前の現象だろ。)
「人じゃない奴が人を語るんじゃないわよ!」
ちくしょう。なぜか怒られた。
部屋に戻ってすぐのことだ。さっきまで顔を赤くしていただけのシャイガールとは思えないほどの変わりっぷり。これが内弁慶ってやつか。
「で、後は作れる人を探すだけよね。」
「そうですね。そろそろ次の街へと行きたいですし。」
カヤノの言葉の通り、俺たちはこの精力剤を自分たちで売り出すつもりは全くない。いや、売ればかなりの利益になるのはわかっているんだが、元々俺たちはギルドがある程度何とかなった段階で旅に戻るつもりだったのだ。ここが目的地ってわけじゃあねえしな。
なんだかんだあって長居しちまったが定住するつもりはサラサラねえ。人が戻ってギルドも活気を取り戻した現在、俺たちはいつでも出ていけるのだ。
そんな中、なんでわざわざ俺たちがこんなことをしているかといえば特殊個体の価値を上げるためだ。
ドレークはほかの場所に比べてたびたび特殊個体が現れるらしい。とは言っても年に2,3度くらいらしいが、それでも普通なら数年に1度といった頻度らしいのでかなり高い確率だ。その分、ゴブリンなんかの弱い魔物の特殊個体が多いらしいがな。俺としては青鬼は強かった気がするが相性が悪かったっていうのもあるかもしれん。
現状では特殊個体はデメリットばかりで全く価値がない。そこに精力剤の素材なんていう価値がわかればその魔石はかなりの金額になるはずだ。つまり一攫千金を狙う冒険者たちが居着きやすくなるってことだな。こうすれば閑散として仕事をさばくのも困るってことはなくなるだろって考えたわけだ。
カヤノとミーゼが街の調薬師へと話しに行こうかと相談する中、俺の中でそれを教える候補は決まっているのだ。この精力剤のレシピはいわば金のなる木だ。教えた奴が私欲に囚われて製法を知っているカヤノを害する危険性さえあると俺は考えている。
金って奴は簡単に人を狂わせるからな。
だからカヤノを害さないという意味で信頼できる筋に頼むのが正解だ。どんなことがあってもカヤノを裏切らないと思える奴。まああいつも色々と動いていたみてえだしなんとかなるだろ。
(候補はもう決めてある。午後になったら行くぞ。)
「えっ、誰ですか?」
(それはな・・・)
俺が告げた言葉にカヤノはなぜその人なのか理解できず首をひねるだけだった。そんなカヤノを見て事情を知っているミーゼは納得し、そして苦笑していた。
左右対称に作られた庭は相変わらず綺麗で、玄関にも木の葉ひとつ落ちていない。いつかと同じようにドアノッカーを叩くとバタバタと屋敷の中から足音が聞こえ、ガチャっとドアノブが回り、不健康そうなイケメンが顔を出した。
「お久しぶりです。ヴァンさん。」
「こ、こんにちは。お久しぶりです。え、あ、うっ。こ、ここで話すのもなんですので奥へどうぞ。」
「はい、失礼します。」
訪ねたのは女性恐怖症を治そうとして、男のカヤノに恋をした何といっていいのかわからない残念イケメンのヴァンだ。
緊張しているヴァンをよそに、カヤノは前回と同じ部屋にごく自然に入っていった。部屋は相変わらず片付いているが前回とひとつ違う場所がある。部屋の片隅にまるでカヤノにアピールするかのように調薬の道具が置いてあるのだ。
カヤノが席に着くと、ヴァンが直ぐに暖かいお茶を差し出してきた。こんなに早く出てくるなんて俺たちが来るのがわかっていたかのよう・・・わかっていたんだろうな。
「そ、それで急にどうされたんですか?依頼は受けてらっしゃらないですよね。」
「はい、ちょっとヴァンさんにお願いしたいことがありまして。あっ、本当に調薬の道具があるんですね。」
「ええ、ちょっと興味があって最近始めたんです。」
カヤノの言葉にヴァンが嬉しそうに返す。それは調薬についての興味じゃなくてカヤノに対する興味だよな。
毎日というわけではないが、ヴァンはカヤノを影から見つめていたり、宿屋の主人にそれとなく話を聞いたりしていたのだ。さすがに街の外までは追ってこなかったがれっきとしたストーカーだ。まあこの世界にそんな概念はねえと思うが。
最初は警戒していたが、手を出すわけでも話しかけるでもなくただ単にカヤノの好きな食べ物を食べて幸せそうな顔をしていたり、カヤノが調薬をしていると知って高いのに一括して調薬道具を買い薬屋に習いに行ったりと、無害でしかも努力の方向を間違えているイケメンに逆に俺が同情するくらいだ。
まあ、それは置いておいて・・・
「えっと僕が習った薬をヴァンさんに教えようかなって思うんです。僕はもうすぐ旅に出てしまうんですがこの街にとって必要な薬になると先生が言ってました。」
「そんな!街を出てしまうなんて・・・」
あからさまにがっかりした様子のヴァンはしばらくブツブツと下を向いて小さな声で何かを言っている。カヤノも聞き取れないのか心配そうにしながら見守っていた。
っていうかなんて言ってんだ?興味の引かれた俺はこそこそとテーブルの裏を這わして様子を探る。
「・・・たない。カヤノさんの希望を邪魔は出来ない。でも名指しで教えるなんて脈はあるはず。・・・そうか、運命に逆らえず別れる2人。それを少しでも繋ぐためにカヤノさんはレシピを教えてくれようとしているんだ。つまり両想い。という事は・・・」
・・・盛大な勘違いをしておったわ。
ヴァンが顔を上げた。その顔は今まで見た中で最も晴れやかであり、そして決意に満ちた男の顔をしていた。
「わかりました。カヤノさんのレシピ。必ずや覚えてみせましょう。」
「本当ですか!?ありがとうございます。」
差し出されたヴァンの右手をカヤノが握って嬉しそうに笑う。真っ赤になりながらもカヤノを見つめるその瞳には全く邪な濁りなどなく、まるで王へ忠誠を誓う騎士のように真摯なものだった。
まぁ、いろいろすれ違いが発生しているようだが、どうにかなるだろ。
その後、カヤノによって精力剤のレシピを完全に覚えたヴァンの活躍もあり、ドレークの街は定期的に効果のある精力剤が産出される街として商人、貴族のみならず王族からも庇護される街となる。
唯一の生産者であるヴァンはその製法をいかなる圧力にも屈することなく教えず、「これは私の妻が残してくれた大切な贈り物なのです。」と養子の子供一人のみに伝え、自身は生涯独身を貫いたという。
ここは?私は死んだはずでは!?
ヴァンが意識を取り戻したそこはなんと日本の江戸時代だった。道場主の子として生まれ変わったヴァンはそこで運命の出会いを果たす。
次回:千葉さな子転生 ~今度こそ運命なんて変えてやる~
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




