とりあえず一段落する
「ガレリアスさ~ん!」
「お前ら、先に帰ってろって言っただろうが。」
「そんな、連れてきてもらった上にガレリアスさんだけをおいて街へ帰れないですよ。」
俺たちに向かって、というかガレリアスに向かって手を振っていたのは冒険者の集団だった。どちらかといえば年若い20を超えない位の年齢の者が50人弱ってところだ。さすがにカヤノより年下に見えるような冒険者はいねえがな。
そいつらがガレリアスに向ける視線はミーゼと同じ羨望の眼差しだ。ガレリアス自身も待っていたことにちょっと文句を言いつつも満更でもなさそうだった。
なんていうか場違い感が半端ないんだが。先程まで楽しそうに話していたミーゼもどこか所在なさげにしている。
「こんな短い時間で特殊個体を倒してくるなんてさすがガレリアスさんです。それにしてもその子達は?」
「違うぞ。特殊個体を倒したのはこの子達だ。」
ガレリアスのその言葉にその集団がざわざわとしだす。そこかしこで「知ってるか?」「いや。」といった会話が交わされているんだが。というかお前たちこそ誰だよ。
ガレリアスから視線がカヤノとミーゼに移ったことでカヤノの体に力がこもった。あんまり注目されることに慣れてねえし仕方がねえけどな。そんなカヤノをフォローするかのようにミーゼがカヤノへの視線を遮るように立ち位置を変えてくれた。こういうことがさらっと出来るあたり良い奴なんだよな。
「お前ら、可愛いからって獣のような目で見るなよ。怯えてるだろ。」
「違いますよ。見たことがない顔だから誰なんだろうって、なぁ?」
中学一年くらいの少年が同意を求めるように声をかけ、周りも首を縦に振ってそれに応えた。女性の冒険者もいるが、本当に獣のような目で見つめていた数人の男の冒険者がうなずいているのを冷めた目つきで見つめている。あぁ、傍から見るとこういうところを見られてるんだなと実感するな。俺も気を付けよ。
しかしこれまでの話から想像するとこいつらは・・・
「さあさっさと中に入るぞ。お前らも久しぶりのホームだろ。知り合いにでも挨拶してこい。」
ガレリアスのその言葉をきっかけに冒険者たちがドレークの街へと向かい始める。若者たちに囲まれガレリアスも笑いながら歩いている。やっぱりそうみたいだな。
「帰ってきたみたいね。」
「よかったですね。これでハッサンさんもフローラさんも喜びますよね。」
街へと向かっていく集団から少し遅れて俺たちもドレークの街へと再び歩を進めるのだった。
ドレークの街のギルドの人手不足。その原因はバルダックのせいだった。まあ正確に言うならばバルダックの外街の防壁工事のために領主が人手を募集したことが原因だった。ドレークの街にいたランクも低く、若い冒険者たちのほとんどがバルダックへと行ってしまったのだ。
まあ理由はわからなくはない。ランクの低い冒険者なんて稼げる金額は知れているし、しかも魔物の討伐なんて依頼ならなにかの拍子に死んでしまう可能性さえある。そして何よりこのドレークの街は小さい。依頼もある程度こなせば新鮮味はなくなっていくし、若い冒険者にとっては退屈な街だったのだ。
そこに降って沸いたのが防壁工事の依頼である。これが報酬はそこそこであるのに命の危険はない。それどころか怪我をすれば領主が責任を持って治療してくれる。そして何よりバルダックは大きな街だ。俺にとってはほとんど変わらねえと思うんだが、やはりあちらの方が娯楽は多いらしい。
まあ俺判定の嬢の質も確かにバルダックの方が高かったからそうなのかもしれん。あっちは上から下まで幅広くカバーしていたがな。もちろん年齢じゃないぞ。唯一言える真理は本気でいい女と出会いたいなら金を惜しむなってことだな。
工事が終わってもう1ヶ月以上経っているのに今更帰ってきたのは何でかはイマイチわからんが、さっきの集団はバルダックから帰ってきたこの街をホームにしていた若い冒険者ってことだ。
今までほとんど待ったことのない門で冒険者たちが門番たちと言葉を交わすのを聞きながらしばらく待ち、そして青鬼を倒したことを門番に褒められつつ街へと入った。久しぶりの再会に談笑している冒険者と街の人なんかを眺めつつギルドへと入ると、ギルドの中はこんな夕方にもなっていない中途半端な時間なのに、今まで見たことがないほど混雑していた。
ハッサンやフローラも久しぶりに会う若い冒険者たちに声をかけられ嬉しそうに話している。というかハッサンは今の時間は勤務していないはずなんだが、起こされたのか?
「あっ、ミーゼさん、カヤノさん。こちらへどうぞ。」
青鬼を持ってきた俺たちに気づいたハッサンが話を切り上げ、俺たちを手招きする。その顔は今まで見たことがないほど笑顔で、今まで所々で見えていたような疲れなど全くないようだった。
「はい、一応死体ごと持ってきたわ。使えそう?」
「難しいところですね。使うとすれば革は防具屋、角は武器屋だと思いますので声をかけてみますがあまり期待しないでください。もし売れた場合は後日精算しますね。それでは報酬です。半分ずつでよろしいですか?」
ミーゼの視線を感じたカヤノがただうなずいたので、ミーゼは頬を少しかきながら「それでお願い。」とハッサンに伝えた。
ミーゼも戦ったんだがあまり討伐に関係なかったって思ってるんだろうな。確かに倒したのは棒サイちゃん1号だし、青鬼との戦闘で壁役をしていたのは俺だ。しかしあくまでそれは結果であって、ミーゼが戦ったことに変わりはねえし、俺としてはカヤノと一緒にいてくれる奴がいるだけでも助かってるしな。まあカヤノもそこんところはわかっているから直ぐにうなずいたんだろう。まあ何も考えてねえのかもしれんが。
報酬をそれぞれ受け取り、ギルドカードを返却してもらう。あんまり長居しても再会の邪魔になりそうだな。帰るか。
「じゃあまた明日。あっそうそう。特殊個体の魔石は抜いてあるけど大丈夫よね。」
「はい。使い道がありませんし。」
「ありがとうございます。うまくいったらお知らせしますね。」
最後にカヤノが言った言葉の意味がわからず首をひねるハッサンを残して俺たちはギルドを出た。最初に来た時とは全く別の様相を見せているギルドに俺たちの役目はほとんど終わったんだなと改めて実感したのだった。
宿へと戻ったカヤノは早速調薬の道具を取り出し、薬作りを始めた。使うのは薬草と数種類の材料、そして今回倒した特殊個体の魔石である。
カヤノが薬作りをするのを俺が手伝っている傍ら、ミーゼは部屋着に着替えベッドに寝そべった体勢のまま本を読んでいる。お前も働けよ!
「カヤノ君。本当にこれで大丈夫なの?」
「はい、大丈夫なはずです。フラウニさんはすごい調薬師でしたから本当のはずです。」
ミーゼに視線を向けずにカヤノが答える。ミーゼも「へ~。」と言いながらフラウニがカヤノに残したレシピ集の該当のページを読んでいる。カヤノがそれを見ないのはすでにその内容を暗記しているからだ。まぁ毎日勉強だって言って読んでいるからな。
勉強熱心でしかも頭がいいカヤノはいい子だろ。ミーゼ、少しは見習えよ。
とは言ってもそのノートを見たからといって調薬が出来るかと言えばそんなことはない。フラウニのレシピ集は言ってしまえばあらかじめある程度の知識があることを前提に作られているからだ。それも調薬の知識だけじゃねえ。フラウニの言動に対する知識もだ。
だってレシピの中に「愛情を込めてぐるぐるーって混ぜて愛が冷めたら次の材料を入れる」とか書かれてるんだぞ。知らん奴が見て出来るとは思えん。ちなみにさっきのは魔力を込めながらゆっくりとかき混ぜ、沸騰している泡が落ち着いたら次の材料を入れるってのが正解だ。わかっちまう自分がなんとなく嫌だ。
そんな俺の心の中とは全く関係なくカヤノは工程を進めていく。調薬は特殊な匂いが発生することも多いから宿でやるのはちょっと気が引けるんだが、ポーションもこの薬も材料から言ってあんまりその心配がねえから大丈夫だと思う。違ったらすまん。まあ俺がランバダを踊ってやるから許してくれ。新しい踊りだ、気に入るだろ。
しばらくゴリゴリ、やグツグツといったカヤノが調薬する音だけが部屋の中へと響き、そして夕食の時間にそろそろなるというころになって・・・
「完成です。」
(見た目も良さそうだな。)
「あっ、出来たの。見せて見せて。」
途中で飽きてベッドで寝てしまったミーゼがカヤノの声に釣られて起き出してきた。俺はちょっとイラっとしたのだがカヤノは全く気にしていないらしく出来上がったそれをミーゼが見やすいように上に掲げた。
それは薄いピンク色をした液体だ。そうだな、桜のリキュールとかでよくある透明がかったピンクって言えばいいのか?女子とかが好きそうな奴だ。
「可愛いわね。」
「うまくできているはずです。効果を試したいですけど、どうしましょう?」
(カヤノはダメだぞ。そういうのは大人になってからだ。)
「僕はもう大人ですよ。」
頬を膨らませて怒りを表現するカヤノだが全く怖くない。と言うかむしろ可愛い。そういうのは下の毛が生えてから言って欲しいもんだ。
しかし実験台か?適当なやつにやらせるってのもありなんだがインパクトが足りねえよな。効果がはっきりわかって宣伝効果も高そうな奴って言えば・・・いい奴がいるじゃねえか。
(良い事を思いついたぞ。)
「さすがリク先生です。」
「またどうしようもないことだと思うわよ。」
何を言ってやがる。俺のアイディアが今まで不発だったことなんて・・・まあ無くはないが今回に限ってはかなりいい案のはずだ。
(行くぞ、諸君。この薬の効果を確かめに。)
「はい。」
「そこはかとなく不安なんだけど、本当に大丈夫なんでしょうね。」
心配するな。ターゲットはちょうど良く同じ宿にいるんだ。夕食時でちょうど下りてくるだろうし誠心誠意話せばわかってくれるだろ。なんたっていい奴だからな。
怪しい薬の開発に成功したカヤノ。リクはその薬をある洞窟の中へと封印する。そして何者かによってその薬は使われ、災厄の薬の異名をとることになるのだった。
次回:速さ2倍!!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




