とりあえず青鬼を倒す?
くそっ、そんなにこの攻撃に自信があるってのか。しかし俺だってだてに地面を何年もやって来たわけじゃねえ。お前の攻撃なんて防ぎきってみせるわ!!さあ来て見やがれ!!
・・・
・・
・
ってなにも来ねえじゃねえか!!
来ねえどころか何の反応もねえ。しかし壁を回り込んでこっちに向かってくるわけでもねえしどういうこった?
俺はそろそろと警戒しながら壁の側面へと回り込む。いきなり壁を消して飛び出されても困るしな。頭をチラッと壁から出し、そこで見えた景色に俺は自分の目を疑った。
そこには後頭部と胴体に斧をそれぞれ突き立てられた青鬼が地面へと倒れ伏していたのだ。血の海が広がり、青鬼はピクリとも動いていない。死んでいることは明らかだった。
何があったんだ?
とりあえず危険は無くなったので壁を消し、カヤノとミーゼを手招きして呼ぶ。警戒をしながら近づいてくるミーゼとは裏腹に、俺を信頼しているカヤノはててててっとこちらに向けて無警戒に走ってきた。こういうところが可愛くもあり心配でもあるんだがな。
「死んでいる・・みたいね。」
「さすがリク先生です。」
(いや、俺は何もやってねえぞ。)
正直に答えた俺の言葉にミーゼとカヤノが首を傾げて俺を見る。いや、そんな感じで見られても俺にもわからんし。
その視線から逃れるためと言う訳じゃないが青鬼の死体を改めてみる。青鬼の頭と胴体には同じ形の斧が刺さっている。普通の木こりが使うような物じゃなく、刃の部分がハの字になるように広がっており、その刃の付け根はトゲトゲが飛び出て鬼の持つ棍棒のようになっている。おやっ、なんか見覚えがあるような。
「これってリク先生が前に作っていた斧ですよね。」
(違うぞカヤノ。これはトマホーク、いやトマホゥゥゥクだ!!)
「何なのよ、そのこだわりは。」
ミーゼに呆れた目で見られながらも俺は力説する。これは譲れないところだ。
しかし確かにこれは俺が作ったトマホークだ。いやトマホゥゥゥクだ。まあめんどいからトマホークでいいか。トマホゥゥゥクは全力で叫ばないといけないからな。
棒サイちゃんの名前を1号、2号、3号とつけたときにちょっとした悪乗りで作ったものだ。とは言ってもちゃんとこだわって原作を忠実に再現。しかもちゃんと投げられるように重心まで考えて作った俺の自信作だ。このために何度徹夜したことか。いや、もともと眠らねえんだけどな。
1号にあげたら思いのほか喜んでいたっけ。はしゃぎまわる1号は可愛かったな。
・・・
・・
・
まさか・・・。
俺は首を振り1号を探す。隠れているわけでも無いので1号はすぐに見つかった。その手には俺が作ったトマホークが両手に握られている。まるで旗でも振るかのようにそのトマホークをぶんぶんと振る1号。そしてトマホークが刺さってご臨終になっている青鬼を交互に見る。全く同じものだ。マジかよ。
とてとて、と1号と3号が近づいてきて2号と合流し、無事を喜び合うようにハグし合っている。ちなみに1号の両手はトマホークを持ったままだ。
「えっ、まさか・・・」
(そのまさかみてえだな。)
「どういうことですか?」
1号の持っているトマホークを見てミーゼも察したのだろう。口をあんぐりと開けたまま喜び合う棒サイちゃんズを見つめている。カヤノはいまいちわかっていないようだな。
しかしどうやって倒したのかはちょっと気になるな。よし。
(良くやったな。そうだ1号。ちょっとあの木に向かってトマホークで攻撃してみてくれ。)
手近なところにあった適当な木を俺は選びさした。いつも通り敬礼しようとして両手がふさがっていることに気づいた1号が、首だけを振って敬礼もどきをした後、トマホークを両手に持って構える。
そしてお尻のドリルを突然地面に突き刺したかと思えば、そのドリルは地面を掘らず固定され、逆に1号の体がくるくると回転しだした。おいおいおい、大丈夫なのか?
しばらくくるくるとコマのように高速回転していた1号の手から続けざまに何かが飛び出していく。それ自身もくるくると回転しながらまるでブーメランのように弧を描き、そして俺が指定した木に狙いたがわず突き刺さった。両側からトマホークの突き刺さったその木はめりめりと音を立てながら傾いていき、そして森が揺れた。
「うわー、すごいですね。」
回転が止まり少しふらふらとしながらも誇らしげな1号をカヤノが褒めている。俺はと言えばあまりの非常識な攻撃方法、そしてその威力にどんなリアクションをとっていいのかわからない。ミーゼも「はは・・、はははは・・」と乾いた笑いをするだけのおもちゃのようになっている。
褒めて褒めてとばかりに俺の方へと寄ってきた1号の頭をなでてやることぐらいしか俺には出来なかった。
そして現在、俺は義手形態に戻って街へと帰る途中だ。俺たちの目の前には青鬼が棒サイちゃんズに持ち上げられた状態で運ばれている。
一応角をとれば討伐の証明になるはずだが、もしかしたら他の素材も売れるかもしれないと言うことで持ち帰ることにしたのだ。俺が持って行こうかとも思ったのだが、棒サイちゃんズが持ちたそうにしていたのでそのままお任せした。倒したのは1号だしな。
ちょこまかと短い脚を動かしながらえっちらおっちら青鬼を運んでいく姿はなんとなく和む。ドレークの街ではカヤノが雑用する時に棒サイちゃんズを使っていることもあって一風変わったゴーレムとして受け入れられつつあるのでたぶん問題ないはずだ。
まあよそから来たやつはびっくりするかもし・・・
「なんだこいつらは!?」
うおっ!びっくりした。めちゃくちゃでかい声がいきなり背後から聞こえた。と言うか全く近づく気配を感じなかったぞ!!
カヤノとミーゼがビクッと体を震わせ振り返る。ミーゼは剣の柄に手を添え、いつでも抜ける体勢だ。カヤノは首が疲れるんじゃないかと思うくらい上にあげてそいつを見ていた。
そこにいたのは190を超えていそうな大男だ。ノースリーブのタンクトップのような黒い服はその筋肉でぴちぴちになっておりもはや服としての役割を放棄しているんじゃないかってくらいだ。つるつるの頭が太陽光を反射してまぶしいぜ。
「誰ですか?」
「おっと悪いな。脅かすつもりは無かったんだ。特殊個体を討伐しにきたら珍しいもんを見つけちまったからな。思わず声をかけちまったぜ。」
カヤノと男の間に入り警戒するミーゼをよそに男は「わっはっは。」と快活に笑った。
なんなんだ、こいつは?いやどこかで見たような気もする。どこだ?会ったことがあるとすればバルダックがドレークだが記憶が結びつかない。まるで思い出すことを脳が拒否しているかのように。
悩む俺をよそに、大男の顔を見上げていたカヤノが呟いた。
「ジーボさんの所のお客さん?」
んっ、ジーボ・・・ジーボって誰だったっけな。なんか聞いたことがあるような、無いような。ものすごく身近にいたような気もするんだが・・・。
カヤノが知ってるってことはおそらく俺も知ってる奴だ。お客さんってことはジーボって奴は店を出してるんだよな。俺たちに関わりのある店って言うと・・・。
その瞬間俺の頭の中に一筋のひらめきが走った。そうだ、ジーボっておばちゃんの宿の隣にあった肉屋のオヤジの名前じゃねえか。あぁ、すっきりした。と行きたいところだがそのことを思い出すのに付随してこいつの事も思い出した。こいつ、肉屋のオヤジを殴った挙句最後はキスして終わる例の変態じゃねえか!!
「おっ、ジーボの事を知ってると言うことはバルダックから来たのか?」
「はい、カヤノって言います。」
「そうか。俺はガレリアス、『剛腕』のガレリアスとも呼ばれるな。」
「『剛腕』ってあの『剛腕』なの!?」
「あの、がどれかは知らんがな。」
再び笑うガレリアスに先ほどまで警戒していたミーゼが柄から手を離し、キラキラした目を向ける。何というか憧れのアイドルに向けるような視線だ。カヤノは俺と同じで意味がわからないのか不思議そうにミーゼとカレリアスを見つめている。ミーゼ、そいつデブな中年男とキスする変態だぞ。
「ガレリアスさんはすごい人なんですね。」
「すごいなんてもんじゃないわよ。街を取り囲んだ魔物の群れに1人、その体のみで立ち向かった『レッドムーアの奇跡』、兵士に囲まれながら逃げる悪徳領主を追い詰め殴り飛ばした『リレルメの反逆』、その頭の輝きを見ただけで不正を行っていた神官が神へと許しを乞うた『スキンヘッドの免罪』とかいろいろあるのよ。」
おぉう、ミーゼの目が更にキラキラと光っておるわ。意外とミーハーなところがあるんだな。と言うか最後のは明らかに違うだろ。そこは同一視しちゃダメなやつだろ。
まあとりあえずガレリアスが著名な冒険者ってことはわかった。確かにこいつを相手にして正攻法で勝てる気はしないしな。なんか埋めても笑いながら出てきそうだし。カヤノもわかったのかわからないのか、曖昧にほほ笑んでいるので良くわかってねえんだろうな。
「ガレリアスさんも青鬼じゃなくって特殊個体を倒しに来たんですか?」
「ああ。ちょっとユーミルの樹海に用があってな。ドレークに入る前に会った奴に緊急依頼が出ているってたまたま聞いたんでな。まあ要らん世話だったみたいだがな。」
ガレリアスは棒サイちゃんズが持ち上げた青鬼をチラッと見て肩をすくめる。特に無駄足になったことを怒っている風でもない。何というか普通に付き合うならいい奴の様だ。
ミーゼは相変わらずだが、カヤノはユーミルと言う言葉に少し反応した。カヤノが目指している場所、フラウニがアルラウネの村があると言った場所こそがそのユーミルの樹海だからだ。カヤノの母親が居るとは限らないが唯一の手がかりと言えば手がかりだ。気にもなるだろう。
口数の少なくなったカヤノと反対にミーゼはいろいろな質問を聞いては律儀に返してくれるガレリアスに喜んでいる。これが神対応ってやつか。俺はカヤノを気にしつつ適当に聞き流していた。
「明日には出ちゃうんですか。残念です。」
「ああ、ここまで連れてくるって約束も果たしたし、緊急依頼も終わったしな。」
そんな話を聞いているうちにドレークの街が見えてきた。見えてきたのはいいんだが街の門の手前に50人くらいの集団が居るんだがなんだあれ?
というかこっちに手を振ってるんだが。
競合他社を押さえ『剛腕』のガレリアスの単独インタビューに成功したミーゼ。意気揚々と社へ戻ろうとする一行を二つの眼がじっと見ていた。
次回:録画データ争奪戦
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




