とりあえず青鬼を見つける
ゴブ助ーー!!
睨む俺をよそにミーゼは平然とゴブ助の元へと歩み寄っていきその角を落とし、そして魔石を胸の辺りからえぐり出した。ううっ、何て奴だ。まさに鬼畜の所業・・・んっ、冷静に考えるとただ単にゴブリンを倒しただけだよな。というかゴブリンって魔物でしかも人を襲う面倒な奴だったわ。
ちょっと動物実験的な感じを醸し出して俺を勘違いさせるとは・・・これがギャップ萌えってやつか。ふぅ、危うく騙されるところだったぜ。
ゴブ助で危うく忘れるところだったが一応棒サイちゃんの鼻は優秀みてえだ。青鬼では無かったとはいえゴブリンを探し当てたんだからな。何というかますます優秀な妖精だよな。見た目はアレだが。いや、可愛くねえとは言ってねえけどな。
棒サイちゃん三体の視線が俺に突き刺さっていたので何となく言い訳をしつつミーゼが戻ってくるのを待った。
「ゴブリンだったわね。」
「というかあの実食べるつもりだったんですかね。渋すぎて僕でも食べられませんよ、あれ。」
カヤノでも無理ってことはかなりの代物だな。むしろカヤノに食べられない物があるってことにちょっと俺としては驚きなんだが。いや、当たり前なんだけどな。
まあ食べる気だったのかどうかはしらんが、ゴブ助も最後は満足して逝ったようだし、とりあえずよかったよかった。
(よし、次行くぞ、次。今度はゴブリンっぽいがゴブリンとちょっと違う感じの奴が居ねえか探してくれ。)
俺の言葉に3体が敬礼を返してくる。おお、頼もしいな。
3体がそれぞれ別の方向へとその角の生えた鼻を向け、くんくんと動かしている。そして一旦集合して輪を作って何かを相談するような仕草をしてから、全員がうなずくと東の方向を指差しそして再び走り始めた。これはもしかするともしかするんじゃねえか?
(いくぞ!)
「はい。」
「ええ。」
俺たちはよたよたと走っていく棒サイちゃんを再び追いかけるのだった。
「うわっ、本当にいた。」
「すごいですね。それにしても・・・」
(マジで青いんだな。)
棒サイちゃんズを追いかけること20分。カヤノとミーゼの息も切れ始めそろそろ休憩をいれるかと思い始めたころについに目的の青鬼を見つけた。聞いてはいたが本当に全身青色でしかも角が長い。体の大きさが変わらない分余計に異様に見えるな。
そして青鬼はと言えば絶賛食事中である。哀れな鹿さんの腹がかっさばかれておりその内臓を素手でつかんで、うまそうにくちゃくちゃと食べている。血に染まった手や口周りが赤黒くなっている。
こっちに気づいてはいねえようだが、どうすっかな。
「私が戦うわ。先日のお返しもしないといけないし。」
(大丈夫か?)
「ゴブリンごときに二度もやられないわよ。」
俺が言い出すよりも早くミーゼが自分が戦うと主張した。カヤノも心配そうにしながらも反対しては来ない。実際カヤノの戦闘能力はほぼ無いからな。まあ回復役としてはかなりの戦力なんだが、こういった攻撃を仕掛けると言ったことは苦手だ。
まあミーゼは一度相手をして倒せないまでも逃げることは出来たんだし簡単にやられはしねえだろ。もちろん俺も油断するつもりなんてねえからいつでもフォローに入れるようにはするつもりだけどな。
ミーゼが足音を立てないように近づいていく。こちらが風下なので匂いで気づかれるってことはねえと思うが、音には敏感だろうしな。
しかし森を歩くミーゼはさすがエルフの血が入っているだけあってか森に溶け込んでおり無駄な音など・・・
パキッ。
「あっ。」
カヤノから小さな声が洩れた。
いや、カヤノもミーゼも木の枝を踏んだりしたわけじゃない。ただの風で枝が鳴っただけだ。しかしそのタイミングは最悪だった。青鬼がこちらを振り向き、その血に染まった口をかぱっと開いて笑った。まるで新しい獲物を見つけた喜びを表すかのように。
「くっ、ウインドカッター!!」
ミーゼが詠唱短縮して魔法を放つ。不可視の刃が青鬼を捉えるかと思えた時、そいつは体を反らせるだけで魔法を回避した。まるで見えているかのように。
ミーゼの魔法が悪かったわけじゃねえ。詠唱短縮できるような魔術師は少ないって話だし、その威力は今まで旅してきた中で何度も目にしてわかっている。普通のゴブリンなら一発で終わっていたはずだ。
「ミーゼさん!!」
「大丈夫!カヤノ君は待機して。リク任せたわよ。」
ミーゼが剣を引き抜く。対する青鬼は誰かから奪ったのか身長と同じくらいの槍を構えた。手入れされておらず、乾いた血のついたその槍は切れ味は無さそうであったがそのリーチはかなり危険だ。ミーゼの話ではそんな武器を持っているとは言っていなかったはずだ。まずいかもしれん。
槍を相手に戸惑うミーゼをよそに、青鬼は舌なめずりをしながら隙をうかがっている。両者が相手の出方を見る中、青鬼の視線がミーゼから外れ一点を見つめ始めた。何だ?
「そこっ!!」
その隙を見逃さずミーゼが剣を青鬼の頭部目がけて振るう。「ゲキャ」と言う驚きの声を上げながらも青鬼はその体を後ろへと回転させてミーゼの攻撃を避けて見せた。しかし槍を持ったまま逃げることは出来なかったようでその手にはもう槍は無い。
ミーゼが地面に落ちた槍をこちらの方へと蹴ってきたのでとりあえず地面に埋めておいた。これで簡単に奪い取れねえぞ。
自分の槍が無くなったことを忌々しそうに青鬼が見たのは少しの間であり、現在最大の脅威であるはずのミーゼにも視線を向けてはいない。その表情はとても嬉しそうであり、その瞳が捉えて離さない者とは・・・
青鬼の視線を追う。まさか、まさかだよな。偶然だよな。
「ギャギャギャー!!」
まるで美女に飛び込んでいく某怪盗のように青鬼がミーゼを無視して突っ込んでくる。ミーゼも突然のことに反応し切れず防ぐことが出来なかった。くそっ、マジかよ!!
「2号ちゃん!!」
青鬼が突っ込んでいく先に居るのは棒サイちゃん2号だ。くそっ、確かに女の子と言う設定のはずだがゴブリン的には棒サイちゃんはストライクなのか!?こいつらの美的感覚がわからん。
俺はとっさに落とし穴を作ったが青鬼はそれを軽々と飛び越えた。くそっ!
(カヤノ、出るぞ!!)
「はい!」
右手の義手形態から通常のゴーレム形態へと変形し、2号に向かって走る。間に合うかギリギリかと思ったが、2号がこちらに向かって走って来てくれたため何とか青鬼が2号を捕まえる前に間に入ることが出来た。
目の前に立つ完璧な肉体のゴーレムにぎょっとしながらも青鬼の視線は俺の体からチラチラと見える2号を追っていた。
うちの可愛い子をいじめんじゃねえよ!!
剣は宿に置いてきちまったので拳を肥大化させてパンチをみまう。さすがにスピード特化なだけあって避けられちまったが攻撃範囲が意外と広いことに驚いたのか俺のことを警戒し始めたようだ。しかし俺との相性はあんまりよくねえな。まあそれで負けるってわけじぇねえけどな!!
青鬼を狙って次々とパンチを続け、時に落とし穴を作り、段差で体勢を崩させながらも青鬼はそれらをすべて避けきった。一発でも当たれば終わるんだがなかなかそれが当たらない。ミーゼも巻き込まれるのを恐れてか、カヤノの護衛に回ってくれているようだ。ありがたい。
じりじりとじれる気持ちはあるがここで焦りは禁物だ。青鬼の動きが少しずつ鈍くなっていくのに比べ、俺は疲れを感じない。このままこの攻防が続けば有利なのは俺なのだ。一気に勝負を決めたい気が無いと言えば嘘になるがな。
青鬼がバックステップし距離をとる。一旦休むつもりか、やらせねえよ。
俺は青鬼に向かって走り始めた。そんな俺の姿を見て青鬼がニヤリと笑う。
「先生!!」
カヤノの叫び声が聞こえる。青鬼の巨大な角が帯電したようにバチバチと音を立て、その先端へと光が集まってくる。これは・・・まずい!!
避けられないわけじゃねえ。ただ俺の背後には2号とカヤノとミーゼが一直線上に居るのだ。俺が避けたら誰かがこれをくらう可能性がある。くそっ!!
目の前に最速で土壁を作る。その土壁で視線が塞がれる一瞬、青鬼が口の端を上げ三日月のようににんまりと笑う姿が見えた。
魅惑のボディで青鬼を魅了した2号。一方同じ体型のはずなのに見向きもされなかった1号と3号は原因を探り始める。そして出た結論とは!?
次回:2号は孤高の一匹狼
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




