とりあえず青鬼を探す
なかなか時間が取れない日々が続いています。
しかし週に二回以上は更新しますのでよかったら見てやってください。
町外れにある無人の館
そこにはお化けがでるという噂があった
「カヤノ、お帰り。」
「棒サイちゃん、棒サイちゃん。」
「うるせえ、どっか行きやがれ!!」
「リク、おーぼー。」
「「ぼーじょー、ぼーじょー!!」」
「どういう意味だ!!」
キャーという悲鳴を上げながら逃げていくのはもちろんお化けなんかじゃねえ。水の精霊のところの妖精だ。というかこの森にそもそも館なんてねえしな。
午前中ずっと薬草や普通のゴブリンを倒したりしながら森を進んできたんだが特殊個体のゴブリンに会うことは無く、お昼の休憩とカヤノの水汲みの依頼を兼ねて泉へとやってきたのだ。そのついでということでここにも寄ったんだが、相変わらず妖精たちはうるさくてかなわん。それに比べて俺の棒サイちゃんたちの聞き分けのいいこと。話すことは出来ねえが俺の言うことは理解するし、何よりあんな自由気ままに動かれたら大変だった。仕事も手伝ってくれるし最高の妖精だな。今度何かを買ってやるか?
「2日ぶりだよ、リク、カヤノ。」
「おう。」
「昨日は街でお休みしましたからね。」
いつもの白いテーブルに腰掛けながら水の精霊が俺たちを手招きする。執事妖精に途中で狩ったゴブリンの魔石を3つ渡し、席へつく。いつもならここでしばらく休憩するところだが、あいにく今日はミーゼが外で待ってるし、青鬼を見つけなきゃならんから長居する予定はねえんだよな。
というかここに来たのも水の精霊がなにか青鬼について知っていないか聞くために来たんだ。
「・・・と言う訳なんだが。」
「うーん、知らないよ。あんまり外に興味がないんだよ。」
「やっぱりですか。地道に探すしかなさそうですね。」
カヤノが水の精霊の回答に肩を落としている。まあある程度予想はしていたので事前に知らない可能性の方が高いと伝えておいたんだがやっぱりもしかして、とは思うからな。
水の精霊と出会ってから今まで過ごしてみて思うんだが、水の精霊は外の世界に関する興味があまりない。自分の領域で妖精たちを愛でながらゆったりと過ごすことが好きなようだ。例外としては同じ精霊の俺や契約者のカヤノくらいなものか。
コップに入った泉の水を一口カヤノは飲むと立ち上がった。
「ありがとうございました。僕たちは青いゴブリンを探しに戻りますね。」
「また来るんだよ。」
「悪いな。また来る。」
「えー、帰っちゃうの、遊ぼ、遊ぼ。」
妖精たちがカヤノの髪の毛を引っ張ったり、俺の肩に乗ったりして引きとめようとする。さっきまで一緒に遊んでいた棒サイちゃんたちが真面目モードになってしまったのが不服のようだ。
俺は肩に乗って耳を引っ張っている妖精をしっしっと手で払いのける。こんぐらいしねえとぜってえどかねえしな。
「だからまた今度な。俺たちは青鬼を探さねえといけねえんだよ。どこにいるのかもわかんねえし。」
「何?何だって?くそったれの唐変木が!何だってんだ!」
「お前は何でも知ってる脳味噌野郎じゃないか!」
「うるせー!っていうかお前らなんか知ってんだろ!!」
俺が怒りとともに腕を振り上げるが、妖精たちは楽しそうに悲鳴を上げて逃げ、そして離れた場所で嬉しそうにしながらガタガタと体を震わせてこちらを見ていた。
くそっ、クローゼットの中に突っ込んでやろうか!!
水の精霊の領域では何の手がかりもなく、ただただ精神的に疲れるだけだったな。
領域を出て元に戻り、入る時と同じ位置でミーゼが休んでいたのでカヤノが近づいていく。ミーゼは泉を見つめたまますこしぼーっとしているようだった。
「ミーゼさん?」
「えっ、ああ。どうだった?なにか情報は聞けた?」
(収穫なしだ。というかお前また油断してただろ。ぼーっとするのは青鬼を捕まえてからにしろよ。)
「わかってるわよ。」
すこし口を膨らませて拗ねたような顔をしながらミーゼが立ち上がり、お尻についた汚れを軽くパンパンと払う。お昼はとっくに済ませたし休憩も十分。後は水を汲んで青鬼を探すだけなんだが・・・このままじゃあ見つからねえよな。
一応こういう行方不明者の救助訓練なんかは受けたことがあるが、俺の場合は瓦礫なんかに埋もれた人の救出が主な目的であって遭難者の発見ってのは別ジャンルだ。まあ山や森なんかの遭難者の捜索は基本的には警察が主導するし(まあもちろん消防も手伝うし消防団の団員たちも手伝ってくれるんだがな)、その方法も人海戦術とヘリによるものだったりする。ヘリは流石にねえし、後は何かあったかな?
・・・ん。そういえば災害救助犬がいたな。あいつらが居たらもっと簡単に見つかったのかもしれんな。
災害救助犬と言うと消防で飼われているような気がしてくるかもしれんが、実際はそうじゃない。いや、全国ではどうなのかはしらんが、少なくとも俺の所は違った。うちの場合は協会と提携を結んでいてたまに一緒に訓練する間柄だったんだよな。実力は折り紙つきで人間じゃあ絶対にわからないだろう要救助者を見つけてくれる頼もしい相棒だった。
相棒、相棒か・・・
俺は視線を下へと下げる。棒サイちゃん1号、2号、3号が何?っとばかりにつぶらな瞳で俺を見上げてきた。うーん、こいつらってどうなんだ?一応魔石のストックはまだまだあるので棒サイちゃんを増やして人海戦術するって言う手もあるんだが、何となくこの3体に愛着が湧いちまってるのでこれ以上増やしたくねえんだよな。ある程度増やすとどっか行っちまうらしいし。
まあ聞くだけ聞いてみるか。
(お前らって匂いで探したり出来たりするか?)
「何馬鹿なこと言ってんのよ。そんなこと出来るわけ・・・」
馬鹿にしたような目でミーゼが俺を見ながら言うそのセリフを遮るように棒サイちゃんたちがビシッと敬礼をした。そして鼻をクンクンと空中へと向けると3体が同じ方向に駆け足くらいのスピードでよたよた走っていく。
おっ、もしかしていい感じじゃねえのか?
「お、追いかけましょう。」
「わかったわ。」
(おう。)
3体の後をカヤノとミーゼが走ってついて行く。棒サイちゃんたちからしたら全力なのかもしれねえがさすがにこの速さで見失うってことは無い。3体は迷いなく進んでいるように見える。これは本当にもしかするともしかするんじゃねえのか?
救助犬の嗅覚は人間の100万倍以上だってことは協会のおっちゃんから話は聞いて知っているがサイも鼻がいいのか?まあなんとなく人より動物の方が匂いに敏感なイメージがあるが・・・でも正確に言えば動物じゃなくてゆるきゃらなんだけどな。
そんなことを考えながら棒サイちゃんズの後を追うこと5分くらい。ピタッと止まったその先を見るとそこにいるのはまごう事なきゴブリンだった。通常のだけどな。惜しい。
ゴブリンはまだ俺たちに気づいていないのか、木に実っている柿のような果実を落とそうと棒を振っているが全く届いていない。なんというか猿の実験を見ているような感じだな。さあ届かないぞ。次はどうするんだ?
ゴブリンはしばらく棒を振っていたがやっと届かないことが理解できたのか木から離れていく。おっ、諦めたのか?
ちょっとワクワクしながらゴブリンを見守っていると果実から離れたゴブリンが木の棒を持ったまま走り始め木の実の下でジャンプして棒を振る。惜しい!!かすったぞ。
ゴブリンも手応えがあったのか再び距離をとり走り始めた。よし、行け!ゴブ助!
ゴブ助がジャンプする。先程より高さのあるいいジャンプだ。棒を振りかぶりそして振った棒が果実を捉え果実が大きく揺れた。
「ウインドカッター」
ゴブ助ーーー!!
ゴブ助の体が風の刃に切り裂かれ上半身、下半身の真っ二つに裂ける。大きく目を見開いたゴブ助がスローモーションのようにゆっくりと地面に落下していく。そしてドスっという音とともに地面へと横たわった。
仰向けに倒れたゴブ助が果実に向かって手を伸ばす。それを待っていたかのように大きく揺れた果実がゴブ助の胸に向かって落ちていった。それを震える両手で受け止めたゴブ助は微笑み、そして目を閉じた。その瞳は二度と開くことはなかった。
ゴブ助の胸の上にはまるでゴブ助の冥福を祈る捧げものかのように果実が一つ寂しそうに佇んでいた。
人体実験の末、壮絶な死を遂げたゴブ助。しかし研究者たちはただ良いデータが取れたと笑うだけだった。この研究の日々を過ごすうちに少しずつ大きくなっていったしこりが爆発したリクはついに行動を起こす。
次回:ゴブリンの惑星 ~創世記~
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




