とりあえず特殊個体について知る
とりあえず生きてます。精神的には半分死んでますが。
「特殊個体って言うのはまあ、さっきリクが言ったみたいに特殊な個体のことね。この辺りにはゴブリンとかの弱い魔物しか出ないって言う話だったから私もちょっと油断してたわ。」
「そんなに珍しいんですか?」
「珍しいし、強さも段違いなのよ。私も実際に遭遇したのは初めてだけどね。」
ふむ、なんていうか強い魔物が普段現れないところにいきなり現れるってことか?確かに旅をしている間に確認したミーゼの実力なら普通のゴブリンなんかじゃあ10匹程度楽に倒せそうな感じだったしな。
(ホブゴブリンとかか?)
「それは上位種よ。特殊個体はあくまでその種族のままなの。今回で言えばゴブリンね。特殊個体の特徴としては普通の魔物に比べて姿が変化したり、身体能力が上がったりするわ。」
「ちなみにそのゴブリンはどうだったんですか?」
「まず角が通常の3倍程度まで伸びていたわね。そしてスピードなんかも3倍以上になっていたわ。」
なんだと!角が伸びてスピードが上がるとは、これは専用機ではないか!?何回も死んだように終わったのに不死鳥のように舞い戻り、そして時には味方としてバレバレの変装をしつつもいつか裏切るあいつだ。坊やだからさ、と言いつつグラスを傾けるクールガイだ。
ということは・・・
(おい、色はどうなんだ!?)
「えっ、突然なによ?」
(いいから、色だよ、色。やっぱり普通のやつとは違うんだろ。)
突然の俺の問いかけにミーゼもカヤノも驚いているようだがこの際関係ない。今は何より色が重要だ。やっぱ赤だよな。それ以外ねえだろ!
「よくわかったわね。ゴブリンは普通緑じゃない。あいつはあ・・」
よし、赤だな、赤。そうだよな。そうと言ってくれ!
「・お、全身青色だったのよ。」
「うわぁ、気持ち悪いですね。」
(・・・)
特殊個体のゴブリンの気持ち悪さに盛り上がる2人をよそに俺のやる気ゲージはだだ下がりだ。
なんでここまできて青色なんだよ。ここは赤だろ。角が伸びて3倍の速さといえば赤だろ。ちくしょうめ。速さ3倍の青いゴブリンなんて・・・いや、考えようによっては青鬼なのか?目がギョロっとしていたり、頭がむやみに大きかったり、ハンペンになったりするあいつか!?
(よし、たけしを連れてこよう。)
「誰よ、たけしって?」
俺の渾身のボケは全く通じなかった。ふぅ、やれやれだぜ。
その後もミーゼによる特殊個体の講義は続いた。
特殊個体の発生メカニズムはわかっていない。どんな場所でどんな時に生まれるのかということを予測できないため被害が大きくなる傾向があるそうだ。
まあそりゃあそうだな。俺が今までこの世界の冒険者を見続けてきた限り、冒険者は冒険をしない。意味がわからないと思われるかもしれねえがその言葉のとおり、基本的に冒険者は自分の身の丈にあった場所の依頼しか受けねえ。もちろん例外もいるがそれは少数だ。
言っちゃあなんだが冒険者なんてほとんどは日雇い労働者みてえなもんだ。その日稼いだお金で暮らすから常に家計は火の車だ。怪我をして働けなくなることは生活できねえってことになる。つまりかなり余裕を持って依頼を受けているようなのだ。
もちろん一部の上位の冒険者や、新人の夢や希望にあふれた奴なんかは違うがな。
まあそんな安全な場所ばかりで依頼を受けている奴のところに突然強い魔物が現れたらどうなるかなんて言うまでもねえ。まあろくな結果にはならんだろうな。
そしてなによりも
「問題なのは素材が扱いづらいってことなのよね。特殊個体の魔石は性質が変わるらしくって買取もないらしいし、通常は使えるはずの素材が使えなくなったりするらしいのよ。もちろん使いやすくなる素材もあるらしいんだけどね。」
ミーゼが肩をすくめながら言う。
つまり、強くて倒すのに苦労する割にメリットが少ない魔物。それが特殊個体ということだ。まあ確かに存在自体が珍しいんだから普通の素材みたいに使用方法が確立されにくいし、加工する方としても買取りづらいということもあるんだろうけどな。
そう考えると相手にしない方が絶対に楽だよな。
「でも放置するのは危ないですよね。ミーゼさんが怪我するくらいですから新人の冒険者さんにとっては脅威ですよ。」
カヤノがミーゼに問いかける。その目は真剣だ。あぁ、多分ライルとスゥのことを考えてるんだろうな。あの2人も街の外へと出る依頼を受ける可能性はあるんだし特殊個体のゴブリンに出会う可能性はないとは言えない。
「一応昨日ギルドへは報告しておいたから、今日か明日あたりに討伐依頼が出ると思うわよ。強いとは言っても所詮ゴブリンだからじきに討伐されると思うわ。」
(まあそんなゴブリンを倒せずに逃げ帰った奴もいるんだがな。)
「違うわよ。ちょっとびっくりしたから街へと戻っただけよ!!」
(それ逃げ帰るって言わねえか?)
俺のことを叩こうとミーゼが手を振り下ろしてきたのでスウェーでかわして頭を左右に振って挑発する。へっ、お前のハエが止まるようなパンチ当たるわけがねえぜ。
そのままシャドーを始めた俺が馬鹿にしていることに気づいたのかミーゼが顔を真っ赤にしながら立ち上がりこちらに向かって構える。ふふっ、いい覚悟だ。かかってくるが良い。
俺とミーゼの間に火花が飛び散り、そして今まさにゴングが鳴らされようとする中、何かを真剣な表情で考えていたカヤノが顔を上げた。そして同時にミーゼが俺へと向かって走ってくる。
「あの僕たちで倒しませんか、そのゴブリン。」
「(えっ?)」
カヤノの突然の提案に気を取られたミーゼは、顔をカヤノの方へと向けたまま俺の体へとぶち当たりずるずると地面へと倒れていき、そして気を失うのだった。
南無。
翌日。
「あっ、ありましたよ。ミーゼさん。」
「ちょっとカヤノ君、落ち着いて。」
冒険者ギルドの依頼ボードの一番目立つ中央、緊急依頼と書かれた依頼書にはミーゼが見つけた特殊個体のゴブリンの討伐依頼が出されていた。
なになに・・・討伐の報酬は3000オル。討伐証明部位は角か。これは普通のゴブリンと変わらねえな。目撃場所はミーゼの証言通りあの水の精霊がいる森の付近だ。依頼達成期限は無しか。
うーん、微妙だ。確かに報酬の3000オルと言えば日本円で言えば3万から6万程度のなかなかの金額だ。普段のゴブリンの討伐と比べるまでもねえ。しかしこの依頼内容でこの金額が適正と言えるのか?
たった一匹のゴブリンを探して森の中を歩き回って出会える確率はどんなもんなんだ?しかもミーゼが会ったのは2日前。もう移動しているかもしれねえし、極端な話、高位の冒険者なんかが倒してしまっているかもしれねえ。まあそうだったら別にそれで問題はねえんだがな。
この緊急依頼についてはギルドで先に受ける必要は無く、後で角さえ持って来れば良いらしいからとりあえずは別の依頼を受けてついでに探すスタンスで行くしかねえだろうな。さすがにただ働きは辛えし。
普通なら午前中は街中の雑用依頼をするところだがひとまずはお休みだ。カヤノは薬草採取と泉の水汲みの依頼を受け、ミーゼは普通のゴブリンの討伐の依頼を受けた。
「特殊個体が出ています。十分注意してください。」
依頼を受理したハッサンの言葉に頷きながらカヤノとミーゼがギルドを後にする。さあ、青鬼狩りの始まりだ!!
それはあまたの人々を恐怖のどん底に陥れ、あるいは狂喜乱舞させ、そして時には友のために涙を流す。そんなアンバランスなあいつの名前は!?
次回:青鬼
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




