とりあえずミーゼに構う
仕事が多忙で更新が滞っております。
2月中旬くらいまでちょっとこういうのが続くかもしれません。なんとか毎日更新したいんですがね。
「よし、これでノルマ達成っと。」
森の一角でゴブリンの角を解体用のナイフで切り取ったミーゼが息を吐く。今回ミーゼが一度に相手したゴブリンは5体。このドレークの街に来て依頼を受け始めてから一番多い数であったが問題なく対応できていた。ゴブリンが弱い魔物であるということもあるのだが、それにしても1対5という数の差は簡単なものでもない。
ミーゼが問題なく対応できたのはバルダックの街で兵士としての訓練を受けていたからだ。基本的に冒険者は我流の者が多い。もちろん兵士から転向した者や、道場などに通って腕を磨く者もいないではないがそのほとんどはちゃんとした訓練を受けることもなく実践で磨いていくことが多いのだ。それが若手の冒険者の死亡率を上げることに繋がっており、ギルドも昇格試験を行うなど対策を取っているが効果はほどほどになってしまっている。
一方、兵士の訓練を受けたミーゼは剣の腕はそれなりにしかないのだが、親から引き継いだ魔法の才能、そしてそれを生かす戦い方を叩き込まれている。ミーゼ自身が色々な部署を転々としたこともあり、色々な戦い方を見てきたということもあるだろう。
言ってしまえば、「銅」ランクの中でもミーゼは突出した力を持っていたのだ。
「少し休憩して、次はブレードラビットでも狩っておこうかな。リクが料理してくれるって言ってたし。」
フライパンを持ちながら現れるゴーレムの姿を思い出し、ミーゼが少し微笑む。そして背負っていたリュックから籐の箱の弁当箱を取り出すと、その中にはリクが作ったサンドイッチが入っていた。無駄に彩りのバランスに気を使ったものだ。軽く水魔法で手を洗うとミーゼはそれを取り出し一口かぶりついた。
「美味しいのよね。本当に非常識な奴。」
カヤノと別々に行動するようになってからも、カヤノのついでということでミーゼも毎日弁当を作ってもらっていた。毎日少しずつメニューや味付けを変えたりして飽きのこないように作られたそれは美味しいのだが、それを素直に伝えると絶対にからかわれるネタにされることを十分承知しているのでミーゼは軽く感謝するに留めていた。
カヤノと一緒に行動するリク(話を聞いた限りでは多分精霊らしい)はミーゼにとって不可解な存在だった。
もともと精霊に関する文献が多いわけではない。精霊信仰という考え方はあるが、それはどちらかというと自然への感謝に主を置いたものであるし、少なくともバルダックの領主館にあった文書庫に精霊についての細かいことが書いてある物はなかった。そもそも精霊が人間と交信を持つことがまれなのだ。
一応エルフ族の中には精霊魔法と言って精霊の力を借りて魔法を行使する者もいるらしいが、エルフもあまり他の種族と交流を持つような種族ではなく、そして長寿ゆえに文書ではなくもっぱら口伝によるものが多いのでそういったものが出回らないのだ。ミーゼの母親はそのエルフであるが話すどころか会った記憶さえ無いため意味がない。
(おかしいと思うんだけど、それが証明できないのよね。)
カヤノの親代わりと言ってはばからないリクを思い浮かべながらミーゼが弁当を食べ終える。そして元気ジュースを一口含むと、手を払って立ち上がり片付けを始めた。
「よしっ、午後からも頑張ろう。」
ミーゼはリュックを背負うと森の外へと向かい、注意深く進み始めた。
ゴリゴリゴリゴリ。
カヤノが薬研を使って薬草をすり潰していく。一応今日は休日のはずなんだがカヤノはポーションを作ることに決めたようだ。あー、なんか落ち着くな。フラウニに教えたもらったことを思い出しながらやっているようだが、しばらく作ってねえ割にその作業に淀みはねえ。
まあフラウニの残してくれたレシピは毎日読んでるし、イメージトレーニングはバッチリだったってことか。まあ俺は毎日元気ジュースとか、元気ジュースとか・・・まあ色々作ってるから腕が落ちることはねえがな。
カヤノがポーションを作っていくのを手伝いながら膨らんだベッドへと目を向ける。そして、
(この辺りの魔物なんて私の手にかかれば簡単よ。一人でも怪我なんてするはずがないわ。)
「うぐっ!」
あっ、やっぱり見てやがった。くぐもった声が聞こえてきた膨らんだ布団がビクッと震える。ちなみにカヤノの背中に文字を書いているのでカヤノには気づかれていない。ふっ、どうだ。カヤノの好感度を落とさず相手をおちょくるこの方法は。流石だろ。
(ポーション?一応受け取っておくけれど売ったほうがお金になると思うわよ。)
「えうっ!!」
いやー、面白いな~。過去の自分のせいで首が絞まるのってたまにあるよな。言わなくても良い事を言って後悔するやつ。黒歴史・・・はちょっと違うか。
(魔物との戦いは怪我をしないことが前提よ。血の匂いで集まってくる奴もいるし。まあ私ぐらいになるとこの辺りの魔物なんかじゃ怪我なんてしないんだけどね。)
「くっ、殺しなさいよ!」
「えっ、どうしたんですか?ミーゼさん。」
ミーゼがかぶっていた毛布をかばっと跳ね上げこちらを指差す。突然のミーゼの行動にカヤノが驚きその手を止めた。
おぉ、ハールエルフのくっ殺がこんなところで聞けるとは俺も思わんかったな。とはいえいま手を止めるとポーションの効果が落ちるしな。俺はカヤノの手を引きポーション作りへと意識を戻させる。カヤノが慌てて作業に戻った。多分影響はないはずだ。
(カヤノの邪魔すんなよ。)
「あんたが私をおちょくったんでしょうが!!」
ミーゼが俺に怒鳴るが俺は全く気にしない。というか俺はちょっと怒っているのだ。
ミーゼのベッドの脇には血のついた布が数枚無造作に置かれている。そして穴の空いた服も一緒くたにされていた。ミーゼ自身はカヤノが持たせていたポーションや帰ってきてからカヤノの回復魔法によって傷一つないが、それらはミーゼがそれなりの怪我をしたことの誤魔化しようのない証拠だった。
俺はただ単にふざけてミーゼをおちょくったわけじゃねえ。あんだけ自信満々に言っておきながらその油断から怪我をして帰ってきたミーゼに怒っていたのだ。これがまだ単独ではなく何人かでパーティでも組んでいれば別なのだが、ソロで戦うならちょっとした怪我でも致命的なミスになり得るのだ。いざという時に助けてくれる奴はいない。それがソロの怖さだ。
もしミーゼが重症になったり、下手を打って死んじまったらカヤノは絶対に悲しむ。俺もまあ・・・な。というかけで半分はちゃんとした理由があるのだ。後の半分はお察しだがな。
しかしまあ昨日帰ってきて、カヤノに治療してもらってから半日程度ベッドに潜ったまま出てこなかったがこんだけ元気がありゃあ大丈夫だろ。
(ほれっ、そこに朝食があるから早く食べておけ。片付けが出来ねえだろ。)
「うっ・・・わかったわよ。」
のそのそとミーゼがベッドから降りテーブルに乗った朝食をもそもそと食べていく。まあ冷めちまったがそれは本人の責任だしな。そこまで俺が責任はもてん。
とりあえず動き出したミーゼを放置してカヤノの手伝いに集中するのだった。
(で、なんで怪我したんだ?)
カヤノのポーション作りがひと段落したのでとりあえずミーゼを問い詰めることにした。昨日はなんやかんやでミーゼの治療と体を休ませることを優先したからな。魔物にやられたという大まかな理由は聞いたが細かいことまで聞かなかったのだ。
「出たのよ・・・」
「えっと、何がですか?」
(お前、便秘だったのか!?)
「なんでそっちに行くのよ、この変態精霊!!違うわよ、特殊個体よ、特殊個体!!」
OH!ちょっとしたジョークのつもりだったのに変態とはな。ふっ、もっと言うがいい。ミーゼはなんていうか上から目線っていうかゲシゲシと余裕なく蹴る感じで言ってくれると俺的にはパーフェクトだ。まあ痛みを感じられねえ段階で喜びは半分以下になるんだがな。
「特殊個体ですか。リク先生、知っていますか?」
(あーあれだ。特殊な魔物ってことだろ。)
「リク、絶対に適当に言ったでしょ。まあその通りだけど。」
ミーゼは人差し指をぴっと立て俺とカヤノに向かって話し始めた。
特殊個体。それは踏まれることに一種の快感を覚え、言葉でなじればその顔を喜びにゆがめる脅威の存在であった。はたしてその正体とは!?
次回:あれっ、俺の事じゃね?
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




