とりあえず少しずつ変わる
午前中に受けた雑用の依頼を3件こなし、カヤノと一緒にギルドへと帰ってきた。以前も俺とカヤノのペアは雑用系の仕事はかなりのペースで消化できていたのだが、棒サイちゃんが仲間になってからはさらに早くなった。というのも棒サイちゃんがかなり使える奴らだからだ。
今のところ棒サイちゃんは1号、2号、3号の3体がいる。カヤノは名前をつけたそうにしていたのだが、本人?たちに聞いてみたところ全員が首を横に振り、棒サイちゃんという名前がすでにあるからいらないと意思表示したのだ。とは言えなんの区別もつかないのでは可哀想と言う意見を酌んで、1号は赤、2号は青、3号は黄色のスカーフを巻いてそれで判断していた。
で、この3体なんだが基本的に俺の命令を聞く。俺が生みの親のせいなのかわからないが水の精霊の妖精とはうって変わり、何もないときは3体で遊んでいたりすることもあるが俺が何かを頼むと率先して動いてくれるのだ。
人手?が増えたため雑用系の依頼の処理が早く終わるようになり、カヤノの評価も上々だ。一応カヤノはもう「銅」ランクに上がっているが、別に下のランクの依頼を受けてはいけないという決まりは無いので率先して受けている。
本来ならあまり褒められた行動では無いようなのだが人手不足の現状ではより多くの依頼をこなす方が優先されているってことだな。
「あっ、カヤノちゃん。」
「おう、カヤノ。」
「こんにちは。2人も依頼?」
「そうだ、早く銅ランクに上がりたいしな。お金も欲しいし。」
ギルドに入ったところでカヤノと同い年の少年と少女に声をかけられる。少年は短く切った茶髪を逆立たせ、ちょっとやんちゃそうであり、一方で少女はおかっぱ頭で垂れ目が特徴の大人しそうな印象を受ける。将来は美人になりそうな感じだな。こいつらは最近ギルドへと登録したライルとスゥだ。
幼馴染でライルがスゥを説得して最近やっと一緒に冒険者になったそうだ。とはいっても冒険者と聞いて一般的にイメージするような剣や鎧なんかは全く着けておらず普通の街の子供たちと変わりない格好だ。まあ「木」ランクにそんな鎧なんか不要なんだが。
「がんばってね。」
「おう。」
「また相談に乗ってね。」
カヤノに手を振って、そして2人が手を取ってギルドを出ていく。ちくしょう!いいよな幼馴染って。あんな美人になりそうな幼馴染がいる段階でライルは勝ち組決定だろ。自然に手をつないでいたし。くそっ、ライル君には将来、ちょっと家族としか思えない、と言われる呪いをかけておこう。爆発しやがれ。
ふぅ。まあ冗談はこれくらいにしておくか。
カヤノと2人の関係はう~ん、知り合い以上、友達未満って感じか?なんていうか先に冒険者になった先輩として一歩引かれている感じだな。カヤノがもう一歩踏み出せば友達になれるんじゃねえかと俺は思うんだが、その一歩が難しいらしい。ここ最近のカヤノの一番の悩みはそれだ。俺は温かく見守ってるだけだな。悩んで、考えて友達になっていくって経験も必要だろうし。
「お願いします。」
「はい。それではお待ちの間にこの書類にサインをお願いします。」
フローラに渡された書類を見てカヤノが苦笑いをする。まあ毎度の訳の分からん契約が書かれた書類だ。えっと今回は、依頼達成ごとにフローラにお菓子を差し入れすること、だな。うむ、却下だ。
とりあえず契約書をカウンターへと返しておき、「銅」ランクの依頼ボードを見に行く。まあそんなことが出来るのはここが過疎ってるからなんだがな。代り映えのない依頼ボードから一枚の依頼書を取りカウンターへ戻るのとフローラが戻ってくるのは同時だった。
「お疲れ様でした。それでは報酬です。あらっ、サインがされていないようですが?」
「えへへ。」
お金を受け取り、フローラへカヤノがあいまいな笑みを返す。まあ毎日やってればいい加減慣れてくるんだが、なんというかこいつも変な方法を考えたもんだ。努力は認めるが方向性が明後日の方向に向かって意味がねえんだよな。
「午後はこの依頼でお願いします。」
「ふっ、誤魔化されませんでしたか。さすがです。今日もゴブリンの討伐ですね。大丈夫だと思いますが気を付けてくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
いつも通りのやり取りをしてカヤノがギルドを出る。カヤノが見えなくなるまでフローラは手を振っていた。
最近の俺たちのサイクルはいつもこうだ。午前中に数件の雑用依頼をこなし、午後はゴブリンの討伐の依頼を受けて森へと行く。まあ依頼を受けるのはついでだ。目的としては水の精霊に会いに行くっていうのが主目的だからな。
泉に行くまでに出会ったゴブリン4匹をさくっと倒し、角と魔石を回収して依頼を達成しておく。この程度では稼ぎにはほとんどならないがまあそれが目的じゃねえしな。
泉に着くといつもの門をくぐって水の精霊の領域へと入る。
「カヤノ、カヤノ。」
「おかえり~。」
「棒サイちゃんはー?」
飛び回る妖精たちがうざったいのですぐに棒サイちゃん3体を出してやると棒サイちゃんと一緒になって遊びだす。と言うかどちらかと言えば棒サイちゃんが遊んでやっていると言った方が正しいかもしれない。はしゃぎまわる水の精霊に比べて、棒サイちゃんたちはなんとなく年上に見えるんだよな。
「いらっしゃい。待ってたよ。」
「こんにちは、水の精霊さん。」
「おう、一応みやげだ。」
狩ってきたゴブリンの魔石を執事妖精に渡すと、しずしずと一礼をして下がっていく。またもてなしの準備でも始めるんだろう。
初めて入った時と同じ場所にある白い椅子に座り、適当に精霊についてや水の精霊の思い出話なんかを話してもらう。俺自身、精霊についてなんか全く知らねえからかなり新鮮だ。カヤノも興味深そうに聞いているしな。
水の精霊に今まで聞いた話によると、精霊は精霊王が治める精霊界と呼ばれるこの領域のような場所で生まれるらしい。そこで力が安定するまで過ごし、精霊としての知識なんかを教えてもらってから自分の好きな場所を探して独り立ちするそうだ。俺のようにいきなり気づいたら地面だったというようなことは聞いたことがないと水の精霊も驚いていた。
そんな水の精霊に俺は苦笑いで返すしかなかった。明らかにキュベレー様によって転生されたためにそんなことが起こったとしか思えねえんだが、さすがに俺は違う世界で生まれてこの世界に転生させられたんだ!なんて言っても頭がおかしいと思われるだけだろうしな。
まあ水の精霊が精霊に関する知識を当たり前のように言っていたのは普通の精霊なら教えてもらっているはずだからというのがあったみたいだ。ちなみに犬神○の知識もそこで習ったらしい。ろくなこと教えねえな。というか教えた奴はどうやって知ったんだよ。
で、俺たち精霊についてなんだが何と言うか自由な生き物というか存在のようだ。ファンタジーなんかで定番の自然界を守ると言った役割があるでもなく、ただ自分の好きな場所で好きなことをしているだけ。ちなみに水の精霊はほとんど湖の中でゆらめいて過ごしているらしい。食事も睡眠も全くいらず、ただ好きな場所に引きこもる。何と言うか究極のプーだな。
そんな精霊の唯一の使命と言えば妖精を増やすことだけらしい。一定数の妖精は手元に残しておけるが、それを超えると作り出した妖精はどこかへ行ってしまうそうだ。そのことを疑問に思った俺が聞いてみたんだが、
「まあ私自身がどうして妖精を作らなくてはいけないのか、いなくなった妖精が何をしているんだか知らないんだよ。精霊王が作れって言ったから作っただけだよ。」
という主体性の全くない回答が水の精霊からは返ってきた。と言うことは俺も作らなきゃあいけないのかと思ったんだが、「別にいいと思うよ。」と適当だった。
何と言うか全く目的意識のかけらもない種族だ。こんだけ力を使えるならもっと高い目標を持てよ!って言いたくなるが、それは俺が人間だったからなんだろうなとも思う。
そんな感じで適当にしゃべったりして、棒サイちゃんと妖精たちが十分に遊んだらカヤノと一緒にここを出ていく。そしてギルドへとゴブリンの角を渡して依頼は完了だ。
依頼を受けるのは苦じゃねえし、この街に知り合いも増えた。少しずつではあるが冒険者も増えてきており、カヤノとミーゼが頑張らなくても大丈夫になる日も近いかもしれねえな。
そんなことを考えながらカヤノと一緒に宿への道を進んでいくのだった。
それは魅惑の存在。その存在は時に人を惑わし、そして郷愁へと誘うこともある。様々な人々の思い出の中に生きるその者の名前は!?
次回:1月22日はカレーの日!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




