とりあえず妖精?の配下を手に入れる
あ・・・ありのまま今起こったことを話すぜ。
昨日の午後3時休憩の為にベッドに入ったんだ。そして目覚めたら今だった。何を言っているか・・・
すみません、多だの寝坊です。16時間以上寝るとは思ってませんでした。
「・・・」
「・・・」
「なんか言えよ!!」
俺が生み出した妖精、棒サイちゃんを見て水の精霊とカヤノが言葉を失っている。
くそっ、そんなにおかしいか?ゆるきゃらコンテストで出場821体中、799位と驚異の人気を誇ったゆるきゃらなんだぞ!しかも消防のマスコットキャラクターなんだから不正はいかんってことで職員の投票は禁止された状況でのこの健闘ぶり。
くそっ、無茶しやがって。涙が出てくるじゃねえか!!
「うん、個性があっていいと思うよ。」
「なんていうか癒し系ですね。」
くっ、個性がある、癒し系って褒めるところがないときの常套句じゃねえか。いや俺だってわかってる。棒サイちゃんが決して万人受けのしない姿をしているってことは。しかしよく見て見ろよ。空を飛び回っているあの妖精たちに比べて、敬礼の姿勢のままじっと待機しているその姿を。つぶらな瞳を。
いや、それにしてもいい敬礼だな。なんか懐かしくなる。おっ、そうだ。
「直れ!せいれーつ、休め!」
俺に敬礼を向けていた棒サイちゃんが敬礼を下ろし気をつけの姿勢になると、整列、休めの号令に合わせて左足を肩幅程度まで開き、そして手を後ろで組む。回り込んで確認してみると左手を右手でつかむように組み、そしてその左の指先は曲がることなくピンと伸びている。文句のつけようのない休めだ。
「気を付け!回れー右!!」
号令に合わせて棒サイちゃんが動いていく。重心もぶれずその動きはまるで機械のように正確だ。訓練によって培われた結晶がここに現れていた。
「「おおー!」」
そのすばらしい動きに、カヤノと水の精霊も感動したようだ。ふぅ、いい仕事するぜ。棒サイちゃん。
「なんていうかすごいですね。動きがきびきびしてます。」
「そうだろ、そうだろ。なんて言っても俺の妖精だしな。じゃあ次はかっこいい妖精でも作ってみるか。」
カヤノの言葉に我が事のように嬉しくなる。まあ作るつもりがなかったのに作ってしまったのでちょっと後悔の気持ちが無いって言ったら嘘になる。それでも棒サイちゃんの動きは俺から見てもすばらしい。
こういう基本動作は消防学校で習わせられるんだが、ここまできれいに出来るには最低でも数日はかかる。また細かいんだよ。角度とか幅とか指先とかな。それを体に覚えさせるって訳だ。規律を守るっていう意識づけもあるらしいんだが、めちゃくちゃ厳しく教えられた。懐かしいな。
まあそれはそれとしてさすがに棒サイちゃんは愛着がない訳じゃあねえが、もっとかっこいい妖精にしてえよな。そうだ、ミニドラゴンなんてどうだ?なんとなく強そうだろ。そうだな幻獣シリーズとか一風変わってロボットっぽいのも面白いかもしれん。夢が膨らむな。
改めて妖精を作るイメージをする。とりあえずはドラゴンだ。まずはスタンダードな西洋のドラゴンからだな。
「生まれろ!俺のドラゴン!!」
「おお~!!」
俺の目の前の地面がもこもこと盛り上がっていく。イメージは完璧だ。小さいのは残念だが水の精霊が執事妖精を連れていたことを考えると大きな魔石を取り込めば行けるのかもしれねえな。そんな妖精に乗ってカヤノと旅する。うむ、夢が広がるな。
土が先ほどと同じように形作っていく。
・・・
「棒サイちゃんじゃねえか!?」
俺の目の前に現れたのは先ほどとまったく同じ棒サイちゃん。そして登場してすぐに俺に敬礼をしてくる。二度目なので慣れたこともあり、昔の習慣で敬礼を返してしまう。そして俺が腕を下ろすと二体目の棒サイちゃんも腕を下ろし気をつけの姿勢で待機し始めた。こいつも動作は完璧だな。ってそうじゃねえよ!!
「なぜだ!?俺はちゃんとドラゴンをイメージしたはずだぞ!!」
わなわなと震える手を握りしめつつ天に向かって叫ぶ。そんな俺の右腕を掴むやつがいた。水の精霊だ。水の精霊は首をかしげて笑っている。
「何言ってるの?妖精は最初に作ったのと同じのしか出来ないよ。」
その一言は俺を失意のどん底へと突き落とすのに十分な威力のあるものだった。
「そんなの嘘だー!!」
俺の魂の叫びに応える奴は誰もいなかった。
「じゃあまた来ますね。」
「いつでも待ってるよ。」
カヤノが手を振りながら水の精霊に別れの挨拶をしている。水の精霊の周りには妖精たちが飛び回り、カヤノへと体全体を使って別れを告げていた。この短い時間でずいぶん仲良くなったもんだ。
俺はと言えば妖精ショックからなかなか立ち直ることが出来ずぐずぐずとしている。いや、今更仕方がねえんだってことは重々承知してるんだがそれにしても納得がいかねえ。だって俺は最初は作ろうなんて思ってなかったんだぞ。勝手に出て来たってのに・・・
俺の後をついてくる2体の棒サイちゃんを振り返って見る。その縦長の体を左右に揺らしながらトコトコと歩くその姿は可愛いいと言えなくもない。つぶらな瞳が俺を見ている。
くっ、なんか俺の心をえぐってきやがるぜ。
ふ~、仕方ねえ。作っちまったもんは作っちまったんだしな。思い入れが無いわけじゃねえし良かったと思うか。水の精霊の妖精と比べてもちゃんと言うことを聞くしな。むしろあんなふうに自由に飛び回られたら大変だっただろう。
とりあえずは帰ってからこいつらの事も考えねえとな。食事は要らねえらしいが維持するためには定期的に俺が魔石を食べる必要があるらしいし。まあ魔石自体は味がするってわかったから食べる気満々なんだが。
そういえば・・・
「カヤノ、何か忘れているような気がするんだが?」
「そうですか?」
何か心に引っかかるもんがあってカヤノに聞いてみたんだが心当たりは無いようだ。
もうちょっと精霊についての話を聞いてみたいって言うことはあるんだが、なんか疲れちまったし、また今度で良いって水の精霊も言っていたしな。それは大丈夫なんだが。・・・なんだったかな?
まあ、いつか思い出すだろ。考え続けても思いつかんものは思いつかんしな。
「じゃあ帰るか。」
「はい。」
カヤノと一緒に門をくぐる。先ほどまでと全く変わらない景色だ。しかし空気が少し肌寒く、違う空間に出てきたのだとわかった。
そして俺とカヤノが何を忘れていたのかすぐに気づくことになった。
「カヤノくーん、リクー、どこ行ったのよー!!」
「あっ!」
(そういえばいたな。途中からすっかり忘れてたぜ。)
俺たちを探すミーゼの悲痛な叫びが湖に響いていた。
(正直すまんかった。)
「本当にすみませんでした。」
「・・・もういいよ。わざとじゃなかったみたいだし。それにしてもリクが精霊とはね~。」
(おう、自分でもびっくりだ。)
「何で自分の事がわからないのよ。」
半泣きで俺たちを探し回っていたミーゼに謝り倒すこと数分。なんとかミーゼが機嫌を直してくれた。ちょっと涙目になっていたので帰ってくるのが数分遅かったら泣いていたのかもしれん。すまんことをした。
とは言えそんな呆れたような顔をされてもわからんもんはわからんのだよ。と言うかキュベレー様に何の説明も無くこの世界に飛ばされただけだしな。まさか踏まれたいっていう希望で地面に転生されるなんて誰もおもわんだろ。確かに踏まれるかもしれねえけどよ、違うんだよ。そうじゃねえんだよな。
「で、アレは何?」
「えーっと。」
(棒サイちゃんだ。)
トコトコと俺たちの後をついてくる棒サイちゃんを指差すミーゼに答えてやる。なぜか納得していない顔をしているが俺は・・・俺もそうだよ。トコトコ歩く姿を見ていると何となく愛着がわいてくるがな。しかしミーゼにも見えるとなるとあいつらどうするかな。普通の奴に見えるってことだからこのまま街に行けばちょっとした騒ぎにはなりそうだ。
カヤノの土魔法って言うのもいいんだが常時出しておくってのもな・・・
(そうだ。お前ら隠れられるか?)
立ち止まり気をつけの姿勢になった棒サイちゃんたちが敬礼をするとギュリリリーと言う音と共に尻尾のドリルが回転しだす。そしてそれを地面へと突き刺すと地面の中へと潜って行った。おお、すげえな!
「何なのよ、アレ!!」
「えっーっと。」
「だから棒サイちゃんだって言ってるだろ。」
俺に突っ込みを入れてくるミーゼを華麗にスルーしながら俺たちは街へと戻るのだった。
ドリル。男のロマン、ドリルを装備したマスコットキャラクター棒サイちゃん。次に出てくる3号はどんな装備を備えているのか!?
次回:大雪山おろし
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




