とりあえず門の中へ入る
目が、目がぁああー!!
いや、言ってみたかっただけだけどな。某大佐の名言だがやっぱり光に包まれたら言ってみたいセリフだよな。あっ、そういえばもう一つ有名なセリフを言う機会があったのに忘れちまってたなもったいないことをした。
そのセリフはもちろん「子鬼じゃ、子鬼がおる」だ。せっかく本当の子鬼がいるんだから使わない手はなかったな。まあ今更だが。
っと、そんな馬鹿なことを考えているうちに光が収まってきた。だんだんと景色も見えるようになってきたんだが・・・うむ。全く変わりがねえな。今目の前に広がっているのは門を通る前と同じ花が咲き誇る泉の景色だ。一体何だったんだ?
「大丈夫か、カヤノ?」
「えっと・・・はい。」
何故か間のあったカヤノを心配して見てみればカヤノは俺の右手を不思議そうに眺めていた。ってミーゼが居ねえじゃねえか!?
「おいっ、ミーゼが居ねえぞ!」
「えっ、本当だ。どこに行っちゃったんでしょう?」
「まずいな。一旦戻るか。戻れるかは知らんが。」
しまったな。流石に手をつないでいればはぐれる事なんてないと思っていたんだが、やっぱりあの門は特別な物のようだな。見ることの出来た俺とカヤノが離れ離れになっていないところから考えるに見えてない奴が入ってくるのを弾くような何かがあるのかもしれんな。変なところに飛ばされているようなことがないといいんだが。
俺の言葉にカヤノはうなづき、きびすを返そうとした。しかしそれは叶わなかった。
「お客だよ、お客。」
「主様に報告、報告。」
「いっそげ~、いっそげ~。」
「もってなしもってなし。」
「うわわわ、何ですか?何なんですか?」
「おいちょっと押すんじゃねえよ!」
俺たちの周りを突然、羽のついた小さな人形のようなものが飛び回り、嬉しそうにカヤノを引っ張ったり、押したりしながら奥へと強引に引っ張っていく。そいつらの体はさっきの門と同じように透明でその小ささもあってなんというかおもちゃチックだ。
悪意があるようには見えねえし、そんななりということもあって俺もカヤノも手荒に扱うこともできず流されるままに奥へと進んでいく。っていうかこのまま行くと泉に突っ込むじゃねえか。流石にそれはまずいだろ!
「ちょっと待て。カヤノは水の中で息なんて出来んぞ。引っ張りこもうとするんじゃねえ。」
「うっそだ~。大丈夫だって~。」
「水の中で息ができないなんて貧弱、貧弱~。」
「ウリィィィィ!」
「じゃあ主様呼んでくるよ~。」
おい、ちょっとそこの二匹。聞き捨てならねえことを聞いたような気がしたが俺の気のせいか?お前ら変な仮面をかぶったり、時を止めたりしねえよな?激しく不安なんだが。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、っていうか知らねえんだろうな。その小さな人形のようなものは俺たちの周りを飛びながらくるくるとダンスを踊るように回ったり、追いかけっこをしたりと自由に遊び始めた。なんていうか自由気ままな奴らだ。
「妖精さんだ・・・」
そうだな。俺のイメージの中の妖精をガラスで作ったらこいつらになりそうだ。気まぐれで遊び好き。その小ささといいまさに妖精という言葉がぴったりだ。
しばらくの間その妖精たちをカヤノと見守っていると、泉の中央部分からボコボコと泡が立ち始めた。
「「「「主様だ~。」」」」
さっきまでのバラバラに動き回っていたことが嘘のように声を合わせた妖精たちがその泡の真上に集まり始め、手をつないで輪を作りくるくると回りだす。「キャー」とか楽しそうに悲鳴を上げながら回転速度を上げていっているが大丈夫なのか?
少しハラハラしながら見守っていると水面で変化が起きる。ぼこぼこと泡だっていた水面が静まり始め、そしてそいつは現れた。その姿に俺とカヤノは驚きすぎて思考が追いついていかない。湖面にまるで突き刺さっているかのように微動だにしないそれは圧倒的な存在感を放っていた。そして俺の頭がやっと事態に追いつく。
「犬神〇かよ!!」
そう、湖面から突き出しているのは真っ白な両足だった。Vの字に綺麗に静止したままピクリとも動こうとしない。見た感じ女性の足のように見える。肉付きがなんともなまめかしいのが逆にむかつくな。
俺の突っ込みはスルーされたようでしばらく何も動きが無かった。そしてもうこいつを無視して帰ろうかと思い始めた時、そいつは突然動き出した。上半身を湖の中に潜らしたその状態のままこちらにスーっと近づいてきたのだ。うわっ、気持ち悪!
妖精たちはキャッキャと喜んでいるようだが俺とカヤノはその物理法則を無視した動きにドン引きだ。なんだろうな。なまじ人間とそっくりな足である分、人ではありえないその動きが際立つんだよな。
俺たちの3メートルほど手前でその足が止まる。近くで見れば見るほど綺麗な脚だ。変態じゃなければ踏んでもらいたいところだが、さすがにこの状態を見ると萎えるな。そんなことを考えているとなんの予備動作もなくイルカのジャンプのようにそいつの体が水中から飛び出しそして水しぶきが水面に波紋を広げていった。
「はじめまして、ようこそ私の境界へ。ここへ住み始めて数百年、初めてのお客様だよ。歓迎するよ。」
アクアマリンのようなつややかな髪を水を滴らせながらにこやかに俺たちを迎えたその女は先ほどの妖精たちと同じ顔をしていた。
執事服を着た身長140センチほどのほかに比べてとても大きな妖精に促され、湖のそばに急遽持ってこられた白い椅子へとカヤノが座る。テーブルを挟んだ対面にはあの逆さ女がニコニコした顔で俺たちを見ていた。
カヤノのために椅子を引いた執事服を着た妖精が一礼をしたあと席を離れる。
「もてなしの準備はあの子がやってくれるから、ゆっくりしててよ。」
「いや、まあそれはありがたいんだが、それよりここはどこだ?さっき私の境界って言っていたが。そしてあんたは何者なんだ?」
俺の言葉にカヤノもコクコクとうなずく。俺としては当然の質問をしたつもりなんだが、逆さ女は首をかしげてなんというか意味がわからないという顔をしていた。
「私の境界は、私の境界だよ。あなたも精霊ならわかるでしょ。それに私は水の精霊よ。何者って何?」
「えっ、リク先生って精霊なんですか!?」
「いや、知らんが・・・」
逆さ女、いやそいつが言っていることがマジだとすれば水の精霊が何を言いたいのかがわからない。いや俺自身、俺が何者なんだか分かんねえんだから言っていることが正しいのか間違っているのかさえ判断できねえんだ。
「すまんがちょっと整理させてくれ。お前は水の精霊で俺も精霊ということか?」
「そうよ。」
「俺が精霊だという根拠は何なんだ?」
「だって私の境界に来れてるじゃない。境界に来れるのは精霊だけだって教わらなかった?」
なんだ、この違和感。最初の時点でボタンがかけちがっているというのか前提条件が違っていると言えばいいのか。水の精霊の言うことを信じるなら俺は精霊で、そして精霊に関して知識を教える何かもしくは誰かが居るということになる。
しかし待てよ。精霊だけが入れるってならおかしいんじゃねえか?
「なんでカヤノは入れてるんだ?精霊だけなら普通の人間のカヤノは入れねえはずだろ。」
「そういえばそうですね。」
「それは君と契約しているからね。君たちは二人で一つ。精霊核と適格者なんて本当にいるんだね。おとぎ話かと思ってたよ。」
「ちょっと待て。色々と新しい情報が出すぎて収集がつかん。1つずつ確認させてくれ。」
「いいよ、いいよ。初めてのお客さんだ。なんても答えちゃうよ。もしなんだったらこののっぺりとした仮面もあげちゃうよ。」
水の精霊がどこからか取り出した、真っ白な頭全体を覆い、そして目と口の鼻だけ穴があいた不気味な仮面を差し出され、思わず受け取った後それを思いっきり泉の中心に向かって放り投げる。これ以上場を混乱させるんじゃねえよ!
「ああ、キヨスケの仮面が~。」
「いい加減そのネタから離れやがれ!というかどこでそんな知識を得やがった!?」
「あなたの落としたのはこの金のキヨスケの仮面ですか?それとも銀のキヨスケの仮面ですか?」
「それは全く違う話だろうが!?」
俺のツッコミに水の精霊は両手に金と銀のキヨスケの仮面を持ちながらくすくすと笑った。
逃げろ、奴の近くにいるとまずいぞ。人々はある種の恐慌状態だった。そいつの近くに居るだけで危険は増し、そして生存確率は著しく低くなる。それを理解していないのはそいつだけだった。
次回:リアル脱出!金〇一から逃走せよ
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




