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とりあえず昇格試験を受ける

パソコンの調子が悪く昨日投稿できませんでした。すみません。

その代り今回2回分の文章量があります。だから許してください。

「昇格試験?もうそんなに依頼をこなしたの?」

「えっと大体日に4から6件受けていたのでたぶん30件くらいは受けたと思います。」

(ふはははは、すごかろう。)

「あぁ、そういえばリクがいるんだったわね。それじゃあそれも納得か。」


 冒険者になって7日。まあ初日は宿と登録申請をしただけだから実質6日だな。雑用仕事を俺たちは毎日受け続けた。最初は期限ギリギリの依頼が結構あったのだが、それなりにこなしていくうちに今では常時の依頼以外はほとんど無くなっていた。例の話し相手が欲しいという依頼だけが残されているのがちょっと気にかかるが俺たちにはどうしようもないからな。ここまで残ると応援したくなるな。強く生きてくれ。


 まあそれはともかくとして今日の仕事の報告に行った時にカヤノがランク昇格試験を受けられると告げられたのだ。ラノベの定番みたいに初日でランクがポーンと上がったりといった鉄板の展開とはいかなかったが地道に依頼を受けたおかげだな。これでも異例の速さとは言われたからなかなか優秀なはずだ。


「木」ランクの依頼は本当に雑用ばかりでどっちかっていうと冒険じゃなくて便利屋って感じだったがそれでも面白かった。カヤノがダブルだと知られていないってこともあって新人冒険者として普通に扱ってくれるし、街の中の依頼ということでこの街のことにも詳しくなり、知り合いも増えた。どうも普通の「木」ランクの冒険者はやはり魔物を倒したりするのが冒険者だと思っている奴が多いらしくて、依頼を受けても適当で真面目にやる奴は少ないらしい。それどころか物の整理を依頼して壊してしまうようなこともあったらしい。

 それに比べてカヤノは丁寧でしかも仕事が早いということで評判も上々。カヤノにまた来て欲しいという依頼者もいたほどだ。まあカヤノの可愛さからしたら当然だな。また物の整理やなんかは俺の得意分野だ。


 消防士というと火事場で体を動かしていたり訓練しているイメージがあって整理整頓がうまいというのはピンと来ないと思う。しかし実際消防士たちのほとんどは整理整頓もするし器具の扱いも丁寧だ。迅速に出動するには整理整頓は欠かせないし、火事場で十二分に働いてもらうためにも器具の扱いには最新の注意を払う。「器具愛護」は消防士になってまず教わる重大な教訓だ。俺も良く先輩に叱られたな~。実際に火事の現場に出るようになってその重要性が実感できたんだがな。


(そういえばミーゼの昇格試験はどんなんだったんだ?)

「私?私の時はゴブリンの討伐だったわね。試験日に10人程度の人と一緒に街の外に出てゴブリンを狩ったわね。「銅」ランクへの昇格試験ならそんなもんじゃないかしら。」

「ゴブリンですか。ゴブリンなら大丈夫だと思います。」

(違うぞ、カヤノ。楽勝って言うんだ。)


 そう言いつつも試験内容を聞いて内心はほっとした。実際ゴブリンとは森で遭遇したこともあるし、カヤノ自身は戦っていないが俺が倒しているところを見ていたからビビることもないだろうしな。ゴブリンなんて下手をすればカヤノよりも小っちゃい子供でさえ倒すことが出来るくらいに弱い。まあ集団じゃなければと言う言葉が頭につくがな。数の暴力ってのは恐ろしいからな。

 ミーゼとカヤノも試験内容に関してはそこまで心配していないようでリラックスしている。その後もミーゼの時の話を聞きながらその日の夜は更けていった。





 翌朝、いつも通りに朝食を食べギルドへと行き依頼を2つ受ける。試験は午後からだから午前中は暇だしな。朝に依頼を受付してくれる男性職員、ハッサンって言うんだがこいつの目の隈もだいぶ薄くなってきている。

 話に聞いたところギルドの職員は期限が切れそうな依頼をなるべくこなさなければいけないらしい。もちろん魔物の討伐のような危険な依頼は受けられるわけが無いが、「木」ランクの依頼は誰でもできる依頼であるためギルド職員にお鉢が回って来るそうだ。それをこなしていたのがこのハッサンだったわけだ。


 カヤノが受けてくれるようになったのでハッサンはとても喜んで内部事情まで話してくれた。俺としては出来ない物は断ればいいんじゃねえかと思ったんだがそうでもないらしい。

 まず「木」ランクの依頼は基本的にこの街に住む人からの依頼だ。つまりあまりに断ることが続けば冒険者ギルドに対する住民の感情が悪くなる。そして冒険者ギルドはある意味で荒くれ者が多いところだ。冒険者が街で諍いを起こすことも多い。そんなこともあってギルドにとって住民感情は無視できない。なんというか割を食うギルド職員が可哀想だ。


 午前中の依頼をさくっと終わらし、昼食を食べて再びギルドへと向かう。もちろん昇格試験を受けるためだ。とは言ってもカヤノが「銅」ランクに昇格するメリットなんてほとんどねえんだけどな。

 今現在でさえ、カヤノが一日に稼ぐお金は「銅」ランクの依頼を受けているミーゼよりも多いのだ。もちろん1件あたりの値段で言えばミーゼの方が稼ぎがいい。しかしカヤノと俺の場合1日に5,6件は依頼をこなすことが出来るので全体としての稼ぎならカヤノの方が上なのだ。それにお金を稼ぐことだけが目的なら薬草をとってきてポーションを作ったほうが断然儲かるはずだ。店で売るわけじゃねえから利益は全部カヤノに入ってくるしな。まあ金に困っているわけじゃなくて街のギルドの助けを目的に動いているからやらねえけどな。


 余談だが、一応俺はこの街でも地下で薬草を育てている。初日にこっそりと抜け出して薬草を数株抜いてきて地下へと植えたのだ。今は順調に数を増やしている最中だな。しばらくはこのドレークの街にいる予定だし、元気ジュースを作るにしても在庫を減らすだけってのも考えものだし、何より夜に暇になるから暇つぶしが欲しかったってのもある。街の散歩も楽しいがやっぱり畑仕事をしてると何故か落ち着くんだよな。やっぱり地面だからか?


 ギルドに戻ると初日にミーゼを騙そうとした受付嬢、フローラがいた。こいつはなんというか癖が強い。仕事は出来るはずなのに突拍子もないことをしたり、受付嬢なのに窓口にいないことが多いのだ。まあこの行動もギルドをなんとか盛り上げようとして空回っているんだと考えると良い奴なのかもしれんがちょっとうざったい時もある。今回はさすがに試験があるってことで窓口にはいたようだ。


「こんにちは、フローラさん。これ依頼の写しです。完了のサインももらっています。」

「はい、お疲れ様でした。カヤノさんはこれから昇格試験ですよね。ではこちらにサインをお願いします。」


 差し出された紙にカヤノがサインしようと動いたが俺の義手が動かず不思議そうに見つめている。そんなカヤノを見て「チッ」と小さく舌打ちの声が聞こえた。

 やっぱこいつくせ者だわ。

 フローラが差し出した紙は試験とは全く関係のない紙だ。そこに書かれていたのは、(これから100日間休まずにギルドの仕事を受け続けます)というとんでもない契約書だった。無報酬じゃないだけ最初の時よりもましなのかもしれんが休みなしで働き続けるなんていうブラック企業みたいなこと可愛いカヤノにさせられるわけがねえだろ!


「ふっ、流石です。第一関門は突破したようですね。」

「えっ、もう試験は始まっていたんですか?」

「そうです。銅ランクともなれば契約書を交わすこともあるでしょう。そんな時によく読まずにサインをしては大変な目に遭うということを実感してもらうための試験です。」


「へー」とカヤノは素直に納得しているが俺は騙されねえぞ。実感してもらうってことはそのまま騙されたらその契約書の通り働かされたってことじゃねえか。しかも純粋に感心しているカヤノの視線が心に刺さるのか目が泳いでやがるし。


「それでは次の試験にいきましょう。依頼はゴブリンの討伐です。ギルド職員がつきますので夕方5時までにゴブリンを2体倒して討伐証明である角を持ってきてください。」

「はい、わかりました。」

「じゃあ行こうか。」


 そう言ってカヤノに声をかけてきたのは朝に会ったばかりのハッサンだ。おいおい連続勤務じゃねえのか?大丈夫か?

 ギルドを出て行くハッサンを追ってカヤノも外へと出る。


「じゃあカヤノさん。今からゴブリンの討伐に行く予定だけど準備はいいかな?」

「えっと、はい。大丈夫です。」

「じゃあ私は後をついて行くから自由に行動して。」


 ハッサンに言われたとおりカヤノが街の外へと向かって歩いていく。今のカヤノの格好はほぼ普段通りだ。いつものフード付きのローブを着て薬草採取の時のリュックを背負い、変わっているとすれば木の杖を持っているくらいだ。ちなみにこの木の杖は試験のために買った安物だ。本当は必要はねえんだが、とりあえずわかりやすく武装してみた。そういう準備が出来ているかってのも試験の採点に入るのかもしれねえしな。


 俺たちが向かっているのは近くにある森だ。その森の奥には泉があってそのおかげか動物や魔物が住み着いているらしい。ミーゼが討伐依頼なんかでよく来るらしくゴブリンもいるとのことだったのでここに決めた。危険な魔物もいねえみたいだしな。


 1時間ほど歩き森へと着く。なんか懐かしいな。少し前までは毎日森を歩いていたんだけどな。カヤノも同じ思いなのか心なしか嬉しそうだ。いつもの習慣でカヤノが目を閉じて集中しだす。まあ薬草を採取しつつゴブリンを探せばいいかと俺も考えていたので問題はねえ。

 しばらくしてカヤノは迷いなく森を歩き始める。その動きに淀みはない。幼い頃から森で暮らし、森で薬草を採取し続けたカヤノは森というものを熟知している。もちろん始めての森だから知らないことも多いのだろうがそれでもそのアドバンテージが消えるわけじゃねえ。カヤノが歩いても無駄な音がしない。むしろ後ろからついてくるハッサンの足音がうるさいくらいだ。


 しばらく薬草を採取しながら歩きそしてついに奴を見つけた。ゴブリンだ。しかもおあつらえむきに2匹いやがる。これは運がいいな。

 カヤノは木の陰に隠れ、ゴブリンをじっと観察している。ハッサンがそんなカヤノの様子を見ながらなにか紙に書いている。おそらくどう戦うのかとかで採点するんだろうな。まあカヤノが戦うわけじゃねえんだけどな。


「ピットホール」


 カヤノが呟く。次の瞬間2匹のゴブリンが地面へと吸い込まれて消えた。


「なっ、土魔法!?しかも詠唱短縮だって!?」


 おお、驚いてる驚いてる。もちろんカヤノが土魔法なんて使えるわけがない。ただ単に俺が落とし穴を作ってゴブリンを落としただけだ。カヤノの試験なのに俺が倒すのはズルのような気がしないでもないが俺とカヤノは一心同体だしな。問題ねえだろ。

 あとここでギルドの職員であるハッサンにわざわざ土魔法が使えるように見せたのにも意味が有る。カヤノがこれから冒険者を続けるなら危険な目に遭う可能性がある。そんな時はもちろん俺が何をおいても助けるつもりなのでそのための布石だ。つまりカヤノは土魔法を使うことができるとギルドに知っておいてもらいたかったのだ。そうすれば多少地面が動いたとしてもカヤノが土魔法で動かしたんだろうと思われるだろうしな。


 まあそんな思惑はいいとしてとりあえずゴブリンを倒しに行くか。落とし穴に落ちただけでまだ死んでねえしな。

 先程までゴブリンがいた位置へと向かうと1.5メートルほどの穴にはまって怒っている緑の小人、ゴブリンが木の棒を振り回していた。とは言っても木の棒も40センチほどしかねえから全く届いてねえんだけどな。

 じゃあ後はカヤノ先生、お願いします。


「えいっ。」


 妙に可愛らしい掛け声をあげながらカヤノがゴブリンに向かって杖を振り下ろしていく。杖といっても1.2メートルほどのただの木の棒だ。一撃では死なず何度も殴りつけてカヤノはゴブリンを倒した。

 直接カヤノがゴブリンを倒したのはこれが初めてだ。心に傷を負ったりしねえかちょっと心配だったんだが、ちょっと息が上がった程度でそこまで深刻そうな感じはしねえな。人型の魔物を倒すなんてきついかと思ったがやっぱりこの世界の住人であるカヤノと俺の常識は違うんだろうな。


 カヤノに適当にブツブツと呟かせて穴を元に戻し、緑の血を流しているゴブリン2匹から討伐証明である角をナイフで切っていく。ついでなので一応魔石も回収した。売ってもいくらにもならないもんだがポーションの素材としては十分に使えるからな。

 解体用のナイフを軽く布で拭いしまっておく。しっかりとした手入れは帰ってからだ。


「お疲れ様でした。ギルドに討伐証明を提出すれば試験は終了です。直ぐに帰りますか?」

「ええっと、そうですね。近場に泉があるらしいのですが見てから帰ってもいいですか?」

「はい、まだまだ時間はありますし大丈夫ですよ。」


 おお、やっぱりハッサンは良い奴だな。本当なら早く帰って休みたいだろうにカヤノの意見を聞いてくれるとは。

 とは言え俺も気になっていたんだよな。ミーゼが泉のある場所には花畑があって綺麗だよって言っていたからな。せっかくここまで来たんだ。少しぐらいの寄り道ならいいだろ。

 一応魔物に注意しながらミーゼに聞いた方角へと向かっていく。もちろん森のマッピングをしながらだ。こういう初めての森では方向を見失いやすいからな。迷子になっても困る。


 しばらく歩くと木々の間から水面が光を反射してキラキラと光っているのが見えてきた。そして森を抜けた。


「うわぁ!」


 カヤノが歓声を上げる。俺も同じ気持ちだ。

 森を抜けた先にあった泉は周囲を色とりどりの花々に囲まれ、そこだけ別次元のようになっていた。鹿が水辺で喉を潤し蝶が飛び回っている。冬だというのにこの周辺だけ春のような景色だ。


「綺麗ですよね。あんまり知られていないですが常春の泉ってドレークの冒険者の間では有名なんです。」


 後ろからついてきたハッサンが教えてくれる。それが耳に入っているかどうかわからないくらいカヤノはその景色に夢中になっている。そしてしばらくその風景を見つめたあと一点を見つめ止まった。というか俺もさっきから気になっているんだがな・・・


「あの、ハッサンさん。あれ何ですか?」

「あれですか?何のことでしょう?」


 カヤノが指をさした先をハッサンも見ているはずなのだが言っている意味がわからないようで首をかしげている。そして花の説明を始めたがそんなことじゃねえよ。

 カヤノの指をさした先。そこにあるのは扉の閉まった門だ。花畑の中に何故かぽつんとその門だけが建っているのだ。おかしいなんてものじゃないはずなのにハッサンには全く見えていないようだった。


「えっとそうじゃなくて、あの・・・」


 コンコンコンとカヤノを3回叩いて止めさせる。少なくとも見えていないハッサンにこれ以上話すべきじゃねえ。下手をすれば頭がおかしいと思われちまうし、俺とカヤノにだけ見えているってことに何か意味があるのかもしれねえからな。カヤノはちょっと不服そうな顔をしていたがまずは信頼できるミーゼに相談してみる方がいいな。


 モヤモヤとしたものを残しながら俺たちはギルドへと戻った。そしてカヤノは無事「銅」ランクへと昇格したのだった。

見事銅ランクに昇格したカヤノ。しかしそれは大いなる試練へと続く道を開いてしまったことを意味していた。ランクの上がったカヤノが課せられた使命とは!?


次回:どーなってるのこの島は!?


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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