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とりあえずドレークの街に着く

「うっ、やっぱり重い。」

「先生はすごいですね。重くないんですか?」

(鍛えているからな。)

「土がどうやって鍛えるってのよ!?」


 おおー、素早い突込みだな。ボケとツッコミ両方できるとは器用な奴だ。まああんまり相手にしていても時間ばっかり経っちまうからスルーするけどな。ふふっ、禁断の手段に俺は手を染めてしまった。それをされると突っ込んだ自分がおかしいのかと自問自答することになるんだよな。カヤノで俺は結構な回数体験済みだ。天然は怖い。


 そんな感じでミーゼを放置しつつゴーレム体形から義手へと変化する。まあ正確に言うならひも人間ゴーレム(義手付き)に変形しているだけだが。あと1時間も歩けば新しい街であるドレークに着くのだ。さすがに街の中までゴーレムで動くつもりはない。あくまであの形態は旅の途中の危険回避のためであって目立ちたいわけじゃないからな。街のような不特定多数の目がある場所ではダブルであることを隠すために目立つのはご法度だ。


 荷物を背負いなおしたカヤノとミーゼが街に向かって再び歩いていく。若干俺をとがめるような視線を感じるような気がしないでもないが気のせいかもしれないと思ったりしなくもない。意外と根に持つ性格みてえだな。

 ドレークの街についての解説をミーゼがしてくれる。とは言えミーゼ自身も初めて来るらしいので聞いた話と言うことだが。俺としてもちょっと耳に挟んだぐらいだし、カヤノなんて全くの初耳だからありがたいことに変わりはないんだが。


 ドレークの街はバルダックからおおよそ東に位置する中規模の街である。バルダックと比べると経済、土地共に半分程度の大きさらしく、特色のある産業があるわけでもなくどちらかと言うとカヤノが向かおうとしているリーベルトという果ての街と交通の要所であるバルダックの中継地点として発展したような街であるらしい。


「ぶっちゃけると見どころは無い街らしいわ。」

「へー。」


 まじでぶっちゃけやがったな。というかそれを街に入ってから言うなよ。よそから来た奴にとっては見どころのない面白みのない街かもしれんが住んでる奴からしたら愛すべき故郷って可能性もあるんだからな。いいじゃねえか、普通の街。普通って素晴らしいと思うぞ。特に地面になんか生まれ変わっちまった俺からすると。


 門は確かにバルダックに比べると小さかった。2名の門番に事務的に対応をされたカヤノとミーゼは50オルを払い、10日間の滞在許可証をもらって街の中へと入る。というか街に入るのにお金がいるとは思ってなかった。バルダックではそんなところは見たことなかったからな。

 疑問に思って後からミーゼに聞いてみたんだが新しい第2防壁じゃなくて内側の第1防壁を通る時に徴収されていたらしい。外街の整備が出来たら第2防壁でもらうんじゃないかと言う話だった。まあ魔物がいる世界で街と言う防壁に囲まれた安全な場所に滞在するために必要経費みたいなもんと考えればいいかと自分を納得させた。


 で、肝心の街並みなんだが・・・


「えっと代り映えしませんね。」

「そりゃあそうでしょ。遠くに来たわけじゃないし住んでいるのも普通の人族が多いのも変わらないしね。」


 なんだ、つまらん。もっと異国情緒感じる物がないのかと思ったが事前情報通りあんまりバルダックと変わり映えし無いようだ。バルダックの外街と比べて、木造の家よりも石造りの家の方が多いというのが違うともいえるが建物の建築様式自体は変わりがないので新鮮味がない。

 とは言え変わっているところがないかと言えばそうではないが。カヤノをコンコンと叩いていくつかの看板を指さす。


「宿屋が多いですね。」

「まあ門の近くに宿屋が集中しすぎな気もするわね。」


 そうなのだ。ざっと見ただけで10軒以上の宿屋が連なっている。というか入ってすぐの大通り両側の店、手前から5軒はすべて宿屋だ。しかもみんな同じような形をしてやがる。一応馬車を入れる場所がある宿屋や、看板に力を入れたっぽいところもあるがどこも50歩100歩ってところだ。なんでこんなに出入り口に宿屋が多いんだろうな。


「宿屋を決める前にとりあえず当初の目的通りカヤノちゃんの冒険者登録をするわよ。」

「はい、頑張ります。」


 ミーゼが街の中心街の方を指さして歩き出す。カヤノもやる気を見せて拳を振り上げている。冒険者ギルドの場所は先ほどの門番に聞いた限りこの道を真っすぐ行けばわかるとのことだったので迷うことは無いだろう。

 重い荷物を背負っていくのは面倒だと思うが一応ミーゼから理由も聞いているのでそこは仕方がないと俺もカヤノも割り切っている。何を恐れているかと言えばぼったくりや危険な宿屋だ。お金に関しては盗賊を討伐した分け前もあるので十分なのだが、女、子どもの2人連れだと危険な宿屋もあるそうなのだ。宿の従業員がお金を盗むなんてのはいい方で、裏家業の者と通じていて誘拐させるような悪質な宿もあるそうなのだ。にわかには信じられんが珍しくミーゼが真剣な顔をしていたから本当なんだろう。そう考えるとおばちゃんの宿ってめちゃくちゃいい宿だったんだな。ツンデレだけど。


 しばらく歩くと大通りなのに普通の住宅が現れ始め、ほとんどが住宅の場所を通り抜けしばらく歩いて中心街へ着くと再び店が増えてきた。店のラインナップも特筆すべきものは見当たらない。と言うか中心街に向かうにしたがって外から来たような商人たちを見かけることが少なくなり、服装なんかから考えてほとんどがこの街の住人だろう人々になってしまった。本当に見るべき場所がないって思われてるんだな。あぁ、だから門の付近に宿が林立していたのか。商人は本当に休むためと補給のためだけに寄ってる感じなのか。

 まあでもどんな街にも見るべき場所や風習があるとは思うんだけどな、俺は。まあ見つからなかったら見つからなかったでマジで見る物なかったなと盛り上がれるしどっちでもいいが。


 そんなことを考えて歩いているとミーゼが1軒の他と比べて大きな建物を指さす。剣と杖が交差しそして背景に盾の看板が吊り下がっているのが見えた。どうやらあれが冒険者ギルドのようだな。重い荷物を背負って疲れ始めていたカヤノとミーゼの足取りが軽くなる。というか俺も楽しみだ。

 冒険者だぞ、冒険者。やはりここはテンプレ通り冒険者になろうとするカヤノに絡んでくるたちの悪い先輩冒険者を華麗にノックアウトしてそしてギルド長に呼ばれて注意されるんだな。しかしノックアウトしたことで試験は免除、そして初めての依頼でとてつもない成果を残して受付嬢に驚かれるんだ。いやー、目立つのは困るんだが。まあ実力が高すぎるってのも考えものだな。


 一歩、また一歩と近づいていく。ミーゼの手がドアの取っ手にかかる。よしっ。


 たのもーう!!


 ・・・

 ・・

 ・


 なんで誰もいねえんだよ!!冒険者どころか受付までいねえじゃねえか!!

 ミーゼもこれは想定外だったのか驚いた表情で周りをキョロキョロと見回している。一方でカヤノは初めて入った冒険者ギルドが珍しいのか壁にかかった依頼板やただの観葉植物まで興味深そうに眺めている。なんというかカヤノらしい反応だな。

 ミーゼが小走りに受付の方へと走っていったので、周囲に気を取られてそれに気づいていなかったカヤノの腕の付け根をコンコンと叩いて追いかけさせる。チンチンチンチーンというせわしない音がすると思ったらミーゼが受付にあったチャイムを連打していた。いやさすがにそれはまずいだろ、何してんだお前・・・


 ムキになってチャイムを連打するミーゼの手元をのぞき込んだ俺とカヤノの目に飛び込んできたのは、(1分間に99連打すると出てきます。)という謎のメモだった。

それは自らの肉体を限界まで酷使したことの証明。ある意味で名誉であり、しかしそれと同時にその者にとっては絶望の日々が続くことを告げる始まりの鐘であった。


次回:指が腱鞘炎に・・・


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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