とりあえず出現する
夜、ゴブリンが一匹近づいてきたのでサクッと倒しておいた。まあそれ以外は特に何もなかったので平和なもんだった。
天井を消してカヤノたちを起こし、作っておいた朝食を食べるとカヤノたちが降りてきた。既に旅の準備は万端だ。さあ行くか!
「ちょっと待ちなさい。」
(なんだ?)
せっかくの新たな旅立ちだというのにミーゼに肩を掴まれた。振り返るとミーゼが半眼で俺を見ており、カヤノも困ったような顔をしている。
「なんだ?じゃないでしょ。なんでさも当然のような顔をしてゴーレム形態で行こうとしてるのよ!?あんたの存在は秘密にするんじゃなかったの?」
なぜ怒られているのかわからないが、なんとなくちょっとイラッとしたので肩をすくめて手を広げ、ふぅ~と馬鹿にしてみる。あっ、ミーゼの顔が赤くなっていく。効果は抜群だな。
(よく考えろミーゼ。子供の二人旅なんて危険すぎる。それに昨日の盗賊みたいな悪者からしたら格好の獲物にしか見えねえだろ。)
「私はもう成人してるわよ。」
(それでもだ。つまり2人で旅をしていても問題ない、その実力があることをわかりやすく示してやらなければいけないわけだ。)
俺の説明にカヤノもミーゼもうなずいている。昨日だってたまたまあの商人がいい奴だったから良かったものの、下手をしたら食事に毒でも盛られて動けなくなっていた可能性だってあるんだからな。一応毒消しポーションは持っているから大丈夫だと思っていたが。
(そこで登場するのが俺だ。)
「リク先生ですか?」
カヤノが驚きの声を上げる。まあそうだよな、常識に疎いカヤノにはまだわからないかもしれないが、ミーゼにはわかったようだ。俺のことをじっと見つめている。まあ説明を続けるか。
(俺がカヤノたちの旅に同行すればいざという時にすぐに動けると言うこともあるんだが・・・)
「ゴーレムを普段から出しておける実力があると思われるってことね。」
(・・・まあ、そうだ。)
くそっ、俺のセリフを取られた。こっちは地面に書いていく分、話すよりもやっぱり遅くなるんだよな。ミーゼもそこは空気を読んで俺に言わせろよ。俺たちの説明にカヤノはほへーっと感心したような声を出している。何と言うか間抜けな音だが。
「リクの考えはわかったわ。カヤノちゃんはどう思う?」
「僕はリク先生がそれでいいと思ったならいいと思います。」
うむ、全幅の信頼はありがたいがもう少し自分で考えてほしいような気もするな。ミーゼも若干呆れたような目で俺とカヤノを見ているし。と言うか俺を見るな、俺を。別に俺が強制しているわけじゃねえし。俺はカヤノのただの保護者であって命令したことなんてねえんだからな。
しばらく俺とカヤノを見ていたミーゼがふぅーとため息をつく。
「わかったわ。それで行きましょう。それにしてもその剣どこから持ってきたのよ。」
(いいだろ。やらねえぞ。)
「いらないわよ。というか長すぎて私が扱うのは無理そうだし。」
俺の腰についているロングソードにミーゼが反応する。確かにこの剣を扱うにはミーゼは華奢すぎるし背も足りない。俺ぐらいの身長と体格でやっと使えるくらいだろうな。
この剣は昨日の盗賊たちのアジトからかっぱらったもんじゃない。同じような武器が無かったかと言えばそう言う訳ではないのだが、これはバルダックからずっと密かに運んできていたのものだ。何を隠そうカヤノの腕を斬りやがったあのホブゴブリンキングが使っていた高そうなロングソードだ。鞘の意匠も凝っているし、抜いた時の月光のように静かに光るその刀身がお気に入りの一品だ。いやー、これだけは何としても欲しいと思って穴を開けられながらもなんとか地面に隠しておいたんだよな。
一応カヤノが嫌がらねえかちょっと心配で見せたこともあるんだが、別にこの武器自体に恐怖心は無いようなのでそのまま使うことにしたのだ。
(じゃあ改めて、行くか。)
「はい。」
カヤノの荷物を背負って歩き出す。カヤノが手を差し出してきたので繋いで歩いていく。何というか子供が居たらこんな感じだったかもしれねえなとしみじみするな。さあ次の街を目指して・・・
「ちょっと待ちなさい!」
なんだ、なんだ。ちょっといい感じに歩き出した途端にミーゼの怒った声が聞こえた。振り返るとミーゼが腰に手を当てて仁王立ちしている。胸を張っているのだが、悲しいほどに・・・あっ、これ以上はやめておこう。俺はどちらでもいける派だからな。個性があるってのはいいもんだ。まあミーゼはまだ子供過ぎて俺の範疇外だが。
(なんだ?)
「か弱いレディの荷物を持とうって言う気は無いの?」
ミーゼが自分の背中に背負った大荷物を指差しながら俺の方を見る。重そうだな。まあ徒歩での旅で必要最低限の物しか持っていないとはいえ、日数分と予備の食料などを含めれば結構な重さだ。ミーゼは水魔法が使えるからましな方か。まあカヤノも俺が井戸を掘る予定だったので元気ジュースぐらいしか水分としては持って来てねえし軽いんだがな。
まあしかしよくも自分の事をレディだなんて言えたもんだ。カヤノが持ってあげてくださいと上目づかいで訴えてきているので持つのはやぶさかではないんだが、このまま持つのはなんか釈然としねえな。
(どこにか弱いレディが居るんだ?)
遠くを見るように片手を眉の所に当ててひさしを作り辺りを見回しながら近づいていく。ふはは、狙い通りミーゼの顔が真っ赤に変わっておるわ。しかしカヤノの顔も同時にとがめるような顔になっちまってるからここらが潮時だな。
「あん・・・」
何か言いかけたミーゼの背中からひょいっと荷物を取り上げて背負う。うむ、特に問題はねえな。と言うかこのゴーレムボディはどのぐらいまで重いものを持てるんだろうな。義手の訓練のおかげで物を持つ強さについては大体わかってるんだが持てる重さの限界値はそういえば調べたことが無かった。また機会があったら調べてみるか。
荷物を取り上げたミーゼはといえば、俺の背中にある自分の荷物を見つめてちょっとびっくりしている。ふははは、俺のこの鍛え上げられた肉体ならば女子供2人分程度の荷物などあってないようなものだ。惚れただろ、と言う意味を込めてバックラットスプレッドをきめる。腰に両手を当て背中を広く見せるその力強さは荷物では隠しきれない男の魅力にあふれているはずだ。ふっ、決まったな。モテる男は辛いぜ。
「ミーゼさん、行きましょう。」
「そうね。ちょっと見直したのが馬鹿みたいだわ。」
おい、ちょっと待て!
笑いながら走っていくカヤノに手を引かれながらミーゼが呆れたような目で俺を見て去っていく。そんな目をするなよ。ぞくぞくするだろ。いいぞ、俺的にはウェルカムだ。
楽しそうな2人の背中を見失わないように俺はゆっくりと歩き始めた。
旅は順調だ。というよりさすが街道と言うべきか魔物はほとんど出てこないし、出てきたとしてもゴブリンとかの弱い奴ばっかりだった。初日に盗賊に会ったのは運が良かったのか悪かったのか。とはいえあいつらも襲ってきたわけじゃねえしな。不幸な偶然が重なった結果倒しちまったに過ぎねえから実質安全な旅路だと言えるかもしれねえな。
冒険者や商人とすれ違ったり追い越されたりすることもあるんだが、俺を見ると一度はびっくりした顔をするがカヤノとミーゼの荷物を持っていることがわかると次は2人をまじまじと見始める。やはりゴーレムに荷物を持たせるなんてことをするような奴はいないらしい。
その証拠と言っては何だが若い冒険者のグループからは仲間に入ってくれないかと勧誘されていた。もちろんそんなことが出来るわけは無いので丁重に断っていたが。確かに土魔法でゴーレムを出し続けるような魔力のある仲間なら喉から手が出るほど欲しいかもな。
そんな感じでのこのこと歩き続けること7日。
「うわぁ。」
(おお~。)
「あれがドレークの街よ。私も見るのは初めてだけどやっぱりバルダックよりは小さいわね。」
俺たちはバルダックの東隣の街ドレークへとたどり着こうとしていた。
「冷蔵庫!冷蔵庫!」「板チョコー!!」謎の掛け声が響く会場内でリクは1人孤独な戦いをしていた。それは自己の肉体と語り合う行為。そしてリクは最高の笑顔を浮かべる。
次回:ナイスバルク!!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




