とりあえず盗賊とお別れする
がたいの良い男の冒険者と魔法使いと思われる女性がアジトから出てくる。その後に続いて3人の女性がゆっくりとした足取りで歩いてきた。着替えは終わっているようだな。よかった。出てきた女性たちに商人が話しかけ、商人の奥さんが彼女たちの世話を焼いている。これであの人たちは大丈夫だろ。まあ心のケアまでは出来ねえが少なくともこんな場所にいるよりはましなはずだ。
カヤノたちがこの商人の一行を連れてきたのは結局昼過ぎだった。その前にも何人かに声をかけてはいたのだが怪しまれて相手にされなかったらしい。まあ確かにカヤノとミーゼのような子供がこんな森に単独でいるなんておかしいと思うし、罠かもしれないと思うのはわからないでもない。
そんな中でこの商人の一行が来てくれたのは幸運だったのかもな。
「本当に半分でいいんだな。」
「はい、十分です。」
「持っていけないしね。」
冒険者の男がアジトから運び出した宝石やお金をざっと半分に分けそれをミーゼに渡す。本来なら盗賊を倒した奴がすべてもらえるみたいなんだが、倒したのは俺だし、カヤノたちは盗賊が埋まっていたのを発見しただけってことになっているからな。そうしないと盗賊を首だけ残して埋めるなんてどうやったんだという話になるし。
とは言え半分に割っても結構な金額になる。お金だけでも50万オルはあるのだ。しばらくはお金の心配をしなくても大丈夫だろう。ちなみにアジトに一番多く残されていた鎧や剣なんかはすべて来てくれた商人に譲った。持ち運びなんて出来ねえし、カヤノが装備できそうなものも無かったしな。
「じゃあ僕はあのお姉さんたちの治療をしてきます。」
「ああ、よろしく頼む。」
男の冒険者にぺこりと挨拶をし、カヤノが監禁されていた女性たちの元へと向かう。日の光の下で見るとその凄惨さが際立つ。しかし先ほど地下で見た時のような悲壮な感じは少し薄れているように感じた。
「癒しの女神フランドール、その腕にてこの者を抱き癒したまえ、ヒール。」
カヤノの手から光があふれ女性たちの青あざが消えていく。一人の女性の頬についていた大きな傷も元通りになり、傷が無くなったことが信じられないように何度も自分の頬をさすっていた女性の瞳からとめどなく涙が流れだした。それを見て他の2人の女性も抱き合って泣いている。体のケアは出来た。これで少しは心まで癒されるといいんだがな。
何度も女性たちからお礼を言われ、カヤノは照れながらも嬉しそうにほほ笑んでいた。もしかしたらカヤノが天使のように見えているのかもしれねえな。まあ俺にとってカヤノは天使だがな。
そしてミーゼのところへ戻ろうとカヤノが振り返った。
「なっ!?」
カヤノが言葉を失う。俺も同様だ。
振り返ったカヤノと俺が見たのは先ほどまで地面から生えていたはずの男たちの首から流れる血の赤色とその首を袋の中に詰め込んでいく男の冒険者の姿だった。そしてミーゼがこちらへと近づいてくる。
「ミーゼさん、なんでこんなことに。」
「だって盗賊は見つけたら殺すのが当たり前でしょ。それはカヤノちゃんも知っているはずよ。」
「それはそうですが、街に連れて行って奴隷にすることもあるって・・・」
「さすがにこの人数を商人さんたち一行だけで連れていくのは1日の距離だとしても無理よ。」
いや、殺すのが普通ってこと自体が俺にとっては驚きなんだが。カヤノもどちらかと言うと身動きできないあいつらを殺したことに戸惑っているだけのようで盗賊を殺すことについては特にびっくりはしていないようだし。
まあ確かに見逃したり取り逃がしたりして他の商人なんかが襲われたら元も子もないし、カヤノたちが受け取った報酬だってあいつらが誰かを襲って奪い取ったものなんだろう。そう考えると当然ともいえるんだが、初めて人が人によって殺されるところを見たのはショックだ。カヤノたちにあの部屋を見せないように考えての行動だったが、それ以上に凄惨な光景を見せることになっちまったな。
それにしても思ったよりも動揺しねえな。それなりにショッキングな場面だと思うんだがそれを冷静に観察できている自分が自覚できている。これも地面に生まれ変わったせいなのか?
カヤノがショックを受けていないか心配だったが、そこまででは無いようだ。死体のある方を見ようとはしないし、少し気持ち悪そうにしているがそれだけだ。やっぱり常識が違うと人の死に関する感じ方も違うのかもしれねえな。
バルダックへ向かう商人の一行と別れ、俺たちは街道を進んでいく。昼も過ぎており中途半端な時間ではあるがさすがにあの場所でもう一泊する気にはなれないしな。とはいえあまり進むことも出来ずにしばらく歩いたところの草原の一角に俺のコテージを出現させ休むことにした。日暮れまであと1時間程度あるがまあいいだろ。
魔石コンロを使って料理を作っていく。カヤノとミーゼの様子をうかがっていたが先ほどの体験がトラウマになったというような感じはしない。商人からもらった昼食も普通に食べていたしな。お前らそんな簡単に人からもらったもんを食うなよと思ったがまあ何もなかったからいいか。いざとなれば俺がどうにかするつもりだったんだがな。
夕食も普通に完食し、まったりとした時間が流れる。そういえばと、俺は前から気になっていることを聞いてみることにした。
(そういえば土魔法でゴーレムって作れるのか?)
「ええ、土木工事とか危険な場所に入ったりするときに作るわね。とは言え使い手はあんまり多くないけど。」
「どうしてですか?リク先生みたいに動けるならすごいことが出来そうですけど。」
カヤノはいい子だな~。よし明日のご飯、カヤノは一品増やしてやろう。ミーゼが気づくと面倒臭そうだからこっそりとだが。それにしても使い手が少ないってどういうことだ?カヤノが言うように結構使い勝手がいいと思うんだが。
「リクが特殊なのよ。普通のゴーレムは料理を作ったりなんていう複雑な作業なんか出来ないの。せいぜいそのまま進めとか、これを持ち上げろとかの簡単な命令しか出来ないわ。それにゴーレムを動かしている間、ずっと魔力を消耗するから効率が悪いのよ。」
「へー。」
(へー。)
カヤノと同時にミーゼの説明にうなずく。それなら確かにゴーレムを使う必要がねえな。細かい命令が出来るならまだしもそれも出来ねえんじゃ使い勝手が悪そうだ。特殊な場合にのみ使われる魔法って感じなのか?
まあそれはどうでもいいか。俺にとって重要なのはそこじゃない。
(ゴーレムを作る魔法ってマイナーなのか?)
「う~ん。ヒールやなんかに比べればマイナーかもしれないけど普通に知られているわよ。いざという時のためどの街にも1人は使える人がいるだろうし。どうかしたの?」
よしっ、それなら大丈夫だ。
(明日になってのお楽しみだ。)
「またくだらないことを考えている気がする。」
「そんなことありませんよ。そうですよね、リク先生?」
そうだぞ、失礼だなミーゼは。俺はこれからの旅の安全確保のために重大な決断をしようとしているだけだ。さすがにこんな子供の二人旅はどう考えても危険しかない。今日のことでも再認識したがこの世界の命は俺が思う以上に軽い。そしてそれ以上に危険も多い。
そんな危険に巻き込まれないためにもある程度の示威行為が必要だ。そのためには・・・俺は明日、カヤノたちの驚く姿を想像しながら後片付けをしていくのだった。
ひょんなことから大金を手にいれたリク一行。そんな彼らに目や輪郭が三角の集団が近づいてくる。果たして彼らの思惑とは!?
次回:倍プッシュだ! ざわざわ
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




