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とりあえず夜が明ける

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

「お頭、本当に戻るんですか?あの巨人が襲って来たりとか・・・」

「馬鹿野郎。今までの稼ぎをみすみすおいていくってのか!」

「そうですが・・・」


 1、2、3・・・12か。結構多いな。

 そいつらは足音を立てないように、そして声が響かないように小さな声で話しながらカヤノたちの方へと近づいて行っている。獣人や普通の人間など種族はバラバラだが全員男だ。定番か?もしかして定番なのか?しかしそれにしては装備なんかは所々汚れているが今まで見たことのある冒険者なんかと比べてもしっかりしたものを着ているし、髭がぼうぼうに伸び放題と言ったこともない。お頭と呼ばれた奴も斧じゃなくて普通の剣を装備している。うーん、どっちだ?


 とりあえず様子を見るかとそいつらの後をこっそりとついて行くことにした。それにしても月明かりはあるとは言え、こんな夜の森を灯りもなしに歩けるっているのはすごいな。俺は地面に生まれ変わってから夜目がかなり効くようになったから大丈夫だが、普通の人間には無理なはずだ。いや、先頭を歩いている猫っぽい獣人は大丈夫かもしれんが。


 まあそんなことを考えながら話を聞いていたんだが、どうも巨人が出現したので拠点から今までの稼ぎを回収して逃げようとしているみたいだ。しかも半分以上の男たちは戻ること自体に反対なのかぶつくさと文句を言っているが、お頭の男の方針に逆らえないみたいだな。

 巨人・・・なんと恐ろしい種族がいたもんだ。カヤノとミーゼが会わないように気をつけねえとな。一応土の家はかなり強く作ってあるから普通の人なら100人乗っても大丈夫だとは思うが、さすがに巨人の体重まではわからんからな。注意しねえと。


 進んでいる方向から予想はついたんだが、男たちの拠点はカヤノたちの休憩場所を通るようで、ついにそいつらは開けた広場に立方体の土のオブジェが鎮座する草むらへと到着した。


「なんだこれは?」


 いや、なんだこれはって失礼だな、おい。俺の渾身の高床式簡易屋外宿泊施設、通称俺のコテージだぞ。まあカヤノしか泊まることを想定していなかったから今はダイニングキッチン一部屋とトイレくらいしかねえが、ミーゼが増えたから2LDKくらいに拡張する予定のすごい物件なんだぞ。しかも防犯は俺が見守っているから万全と言う優良物件だ。


「なんでアジトの上にこんなもんが出来てんだ!」


 男たちが俺のコテージの周りをぐるぐると回りながらどうにかして入ることは出来ないか試している。俺の作ったコテージの土を掘ろうとしている奴もいるがかなり固く作っているので思ったように掘れず舌打ちしたりしている。

 えっ、マジで。

 地面に潜ってみると確かに地面の下に空間があった。なんて言うか炭鉱とかの映像でよく見るように壁を木の枠で補強してある結構しっかりした造りの物だ。そのおかげで俺のコテージの重みにも耐えられたようだな。

 冒険がてらそのアジトとやらを歩いていく。ちょうど俺が作ったコテージの真下にそこへと降りる階段があり、部屋は8部屋と結構広い。その中で生活に使っていると思われる部屋は5部屋であとの3部屋は鎧や剣なんかが積まれている部屋、宝石やお金なんかが集められている部屋、そして最後の一部屋は・・・


 ちっ、胸糞悪ぃ!


 その部屋を発見してすぐに俺は地上へととって返した。そしてその場にいたそいつらに狙いを定める。逃げられるのはまずい。こういうときほどひっそりと動かねえとな。

 そいつらは今のところばらばらに動いているので今がチャンスだ。やることはいつもと同じ。こいつらはネズミや魔物と一緒だ。いや、それ以下だ。


 少し離れた場所で地面を掘っていた奴の足元の落とし穴を起動する。そして即座に地面を厚く覆ってそいつの悲鳴が聞こえる前に封鎖することに成功した。あと11人か。


 10人、9人、8人・・・


 俺の落とし穴にはまりどんどんと人が減っていく。このままいけるかとも思ったがさすがにそこまで馬鹿じゃなかったようだ。残り4人となったところで男たちは一か所に集まり辺りを注意深く見まわし始めた。「誰だ!?」とかの誰何の声が聞こえるがそんなもんに答えるわけがねえだろ。


 はい、ボッシュート。


 パパッパパッパー。と言う懐かしい効果音が俺の中で響き、そして四人が一斉に落とし穴に吸い込まれた。よし手間が省けたな。地面の中で土を掘って地崩れを起こして埋まっている奴もいるようだが呼吸は確保できているようだし死なねえだろ。叫んでいる奴は無視だな無視。とりあえずどうするか対策をとるにしても俺一人で出来る範囲を超えてるしな。朝になったらミーゼとカヤノに相談するしかねえだろ。

 静かになった森の中で、たまに地面に埋まった男たちのいる空間の壁を狭くしたりと憂さ晴らししながら俺は夜明けを待った。





「えっとこれは何?」

(生えてきた?)

「そんなわけないじゃない!!」


 あの後、特に魔物なんかが襲ってくることもなく夜が明けた。いつもの時間になったので俺のコテージの天井部分を開放して日の光を浴びた2人が目を覚ます。そして作っておいた階段を降りてきたミーゼの第一声がこれだ。ミーゼの後についてきたカヤノもちょっと驚いたようで口に手を当てている。

 まあ驚くのも無理はない。カヤノとミーゼの目の前には12人の男の生首が地面から生えているからだ。叫んだりして憔悴しきっていたんだが、ミーゼの声を聞いたからか再び男たちの首がせわしなく動き出す。とはいってもほとんど土で固定しているから動けないんだけどな。「出せ、ここから出しやがれ!」とか言われても素直に言うことなんか聞くかよ。


「リク先生、この人たちは?」

(たぶん盗賊だ。)

「えっ、僕たちを襲いに来たんですか!?」

(いや、なんかこの場所の地下にアジトがあったらしい。)


 とりあえず簡単に昨日からのことを説明し、俺のコテージを消してアジトへの出入り口を出現させる。出入り口は木の板に周囲と同じような草を生やして偽装されており、日の光のある今でも一見すると見分けがつかない。かなり巧妙なものだ。


「へぇ、こんなところに入り口があるんですね。」

「一見するとわからないわね。」

(ああ、まあな。)


 興味深げに空いた入り口とそして地下へと続く階段を見ている2人に俺はしばし考える。このまま地下に潜っていってもらって2人に解決してもらうことが一番手っ取り早い。しかしカヤノは10歳、ミーゼでさえまだ15歳なのだ。地下のアレを見せるのはどうなのかと言う迷いが俺の中で生まれる。

 そうだな・・・よし。


(ミーゼとカヤノは誰か人を連れてきてくれ。冒険者なんかがいいな。バルダックからそう離れてもいないし誰かが通るだろ。さすがにこいつらを連れて戻るってのも出来ねえし。)

「わかりました。」

「・・・わかったわ。」


 素直にうなずいたカヤノとは違い、ミーゼは少し俺のことを見て考えるような仕草をしてから了承した。もしかしたらミーゼは気づいたのかもしれねえな。

 朝食にと作っておいた軽い食事を持たせて2人が街道の方へと歩いていく。そこまで離れていないので危険はないだろ。危険な奴らはここで捕まえてるしな。2人が出ていったのを見届けると俺は再びアジトの中の一室へと向かう。昨日と変わっている様子はない。そして何度見ても胸糞悪い光景であることは変わりがねえ。


 その一室はいうなれば男たちのうっぷんを晴らすための部屋だった。そこには鎖で両手、両足をつながれた20代と思われる3名の女性が薄い貫頭衣を被っただけの格好でうずくまっていた。その体の所々にはあざが残っており、1人など頬に大きな傷が出来ている。そこで何が行われていたかなんて一目瞭然だ。

 さすがにこういう目にあった女性の扱いなんかが俺にわかるわけはない。とは言えこのままの格好で外に出るわけにもいかねえからな。カヤノたちが帰ってくる前に準備しねえと。


 昨日のうちに探しておいた鍵と服を持つ。服はたぶん商人かなんかの物を襲ったんだろうが女性ものがあったのでちょうど良かった。で、後は・・・





 カチャリと言う音で女は目を覚ました。くらい穴の中に連れ込まれてもう何日経ったのかわからない。数日、10日、それとも1月以上?最低限の食事を与えられ、そして嬲られる日々は正常な判断能力を女から奪っていた。ただそう長くないうちに死ぬだろう、ということだけがはっきりとわかっていた。

 女が自分の手足を見る。そこにあったはずの鎖は、役目を果たさず地面へと落ちていた。それが信じられずじっと自分の手を見続ける。なぜこんなことになっているのかわからなかった。

 再びしたカチャリと言う音に女がそちらの方を向く。


「ひっ!」


 思わず女の口から悲鳴があがる。そこにいたのは異形の者だった。頼りないランプの灯りに照らされたのは均整の取れた体をした人間と同じ形の土だった。女の声にそのゴーレムが顔を向ける。その眼球のない眼が女をじっと見つめていた。

 女は動けない。未知の事態に頭が働かなかった。自分の行動がそれを刺激するのではないか、そしてその結果どんな目に遭うのかという恐怖が体を硬直させた。

 しかしそのゴーレムはただ見るだけで女に何もしようとはせず他の2人の拘束を外していくだけだった。そしてゴーレムは女へと背中を向けて通路へ消え、しばらくして服と簡単な食事を持って戻ってきた。女はただその様子を見ているしか出来なかった。ゴーレムが服と食事を地面へと置く。女の視線がそちらへ向かうとその手前の地面がいきなり動き出した。


(着替えて食事でもしてろ。すぐに助けが来る。)


 その文字を読んだ女がばっと顔を上げた時には先ほどのゴーレムは既にいなかった。幻かとも思ったが拘束されていた鎖は外れており、そして目の前には服と湯気の立ち上るちゃんとした食事が残っていた。


「ふふっ、ふふふふふふ。」


 女が狂ったように笑いだす。その瞳からは涙が一筋流れていた。

ぽこっ、ぽこぽこ。傘を振り上げる謎の生物3匹の働きによりそれらは芽を出した。そしてそれは大樹となり後に世界樹とまで呼ばれる物になる。


次回:トロロってかぶれるよね


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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