とりあえず初キャンプする
すみません。昨日は更新出来ませんでした。
年末年始はなかなか時間がとれそうにありませんので更新出きる日にする感じになります。
毎日更新は4日からになります。それでは良いお年を。
数分後、そこには空になった皿が残されていた。カヤノは満足そうにお腹を撫でているし、ミーゼもちょっと複雑そうな顔をしながらもその食べっぷりを見るに味に不満があるわけじゃねえみたいだ。満足いただけたようでなによりだ。
カヤノが両手を合わせる。
「ごちそうさまでした。」
うむ、いい子だ。作り手としてもこんだけ綺麗に食べてくれれば嬉しいってなもんだ。そんなカヤノの様子をミーゼが不思議そうに見ている。
「そう言えば前から気になっていたんだけど、もしかしてそのお祈りもリクに教わったの?」
「はい。食材や作ってくれた人に感謝する意味で、いただきます、ごちそうさまでした、って教わりました。普通なら自分の神様に感謝するんですが、僕はダブルと言うか忌み子ですから。」
「・・・そうね。じゃあ私も今度からそうしようかな。良い言葉だと思うし。」
「はい!」
ちょっぴりしんみりとした空気になっちまったが最後には2人が笑ったのでよかった、よかった。食事前のお祈りを粗野な冒険者でさえしていたのに、カヤノがしていなかったので気になって聞いてみた時に同じようなことを言われたので俺が「いただきます。」と「ごちそうさまでした。」を教えたのだ。別に神に感謝する必要はねえと思うが、野菜を作ってくれた農家や犠牲になった動物たち、そして料理を作ってくれた人に対して感謝するのは日本人の俺からしたら当たり前だからな。
それじゃあ洗い物でもするか。とは言ってもこればっかりは俺がやろうとすると土が溶けちまうからカヤノに手伝ってもらってんだけどな。具体的には俺が濡れないように手で持ってカヤノが洗うのだ。切実にゴム手袋が欲しいぜ。
じゃあ始めるか、と思ったんだが重大な事実を俺は忘れていた。ミーゼの登場から色々あって井戸を掘るの忘れてた。しまったな。水が溜まるのに意外に時間がかかるんだよな。かと言って近くに川や池なんてねえし。元気ジュースで水分補給していたからすっかり忘れてたわ。仕方がない、とりあえず軽く拭いておいて、夜のうちに井戸を掘って明日の朝に洗うか。普通の井戸の場合、掘りたては水が落ち着くまで放置が必要らしいが、俺の作る井戸は土を動かしているだけなので濁るとか関係ないし。
(すまん、カヤノ。井戸掘るのを忘れた。軽く食器を拭いておくだけにする。明日の朝には水が確保できるはずだ。)
「あっ、そういえばそうでしたね。すみません、僕もミーゼさんに会えたんで嬉しくって忘れてました。」
カヤノの言葉にミーゼの顔がポッと赤くなる。うーん、カヤノは無自覚なんだろうが天然の女殺しになりそうな感じがするな。なんていうんだろう、言ってほしい言葉を本当に言ってほしい時に自然に言ってくれるって感じか。なんていうか心が弱った時にいてほしい存在だな。相手が依存しそうな気がするが。
「こ、こほん。水なら私に任せて。これでも水魔法が使えるからその食器洗いに使えるくらいの水なら簡単よ。最近成長期で魔力も上がってるし。」
「えっ、そうなんですか。やっぱりミーゼさんはすごいです。」
おやおやおや~、ミーゼさん。顔が赤いですがどうかしたんですか~。もしかしてときめいちゃったりしてます?とか茶化そうかと思ったが、もう夜も遅いし今日は散々ミーゼをからかって遊んだからな。まあ見逃してやろう。武士の情けってやつだ。
ミーゼが手を前にかざしてなんだか本当の魔術師と言うか中二病っぽいホーズをとる。気弾を撃つような感じって言えばわかりやすいか。一応軽く集中はしているような感じはするが差し迫ったようには見えないな。
「水の女神アクアリーゼ、その手にて我が前に生命の源を現出させたまえ、ウォーター。」
ミーゼのてのひらからどぼどぼと水が流れ始める。おぉ~、結構な量が出るんだな。なんていうかゴージャスなお風呂のイメージとかでよくあるライオンの口からお湯が出てくる感じ、あんな勢いだ。まあ出てくるのはいいんだがよ・・・
「あの、ミーゼさん・・・」
「ふふん。こんなの簡単よ。私が居れば水の心配はないからね。」
(いや何もないところに水出しても意味がねえだろ。)
「えっ?」
少し得意げな顔になっていたミーゼが俺の文字を見て、そしてその文字へと流れ込んでいく自身の出した水をしばらく眺め、ピシリと固まる。あーあ、地面が水浸しになっちまった。
固まってしまったミーゼにカヤノはどうフォローしたらいいのかとあわあわしているのが微笑ましい。なあミーゼ。お前たぶん実力はあるんだろうな。兵士になるくらいだし、領主の直属みたいな感じだったしな。でもなんていうか・・・
(お前、残念な奴だな。)
「違うのー!!」
静かな森にミーゼの叫びが響き、木に止まっていた鳥たちが迷惑そうに迷惑そうに声を上げながら飛び立ち、木々を揺らす音が響いていた。
「いい感じの場所ですね。周囲の警戒もしやすいですし。」
「でしょ。」
(そうだな。わざわざ夜中に移動する必要があったのかは別としてな。)
「うっ。」
俺の指摘にミーゼが顔を引きつらせる。そんな俺たちのやり取りにカヤノも苦笑いだ。
元々キャンプを張る予定だった場所から俺たちは移動していた。まあなんでかって言うとミーゼが出した水によって地面がぬかるんでしまったのが原因だ。まさかミーゼの叫びで魔法が暴走するとは思わんかった。全周囲にまき散らされた水からなんとかカヤノを守ることは出来たが、さすがにその他のところまでは無理だった。
俺の力を使えばその程度のぬかるみなんて直すのは簡単なんだが、ミーゼがもっといい場所を見つけたからそっちにしようと必死に言っていたのでそれに乗った形だ。まあミーゼをからかう意味を含んでいないとは俺は言わないぞ。
魔石のランプの頼りない光が照らす中、ミーゼがリュックを下ろしその上に乗っていたひと際目立つ円柱状のものを取り出した。あれは寝袋だな。
「テントは無いしこの木陰でキャンプする・・・」
(ちょっと待て。)
「どうしたんですか、リク先生?」
ミーゼの説明を歌舞伎ばりの格好をしながら止めた俺に2人の視線が集まる。その視線から感じるのは何なんですかその恰好は?というものだ。やっぱこっちには歌舞伎なんてねえからわかんねえよな。
まあそれは置いておいてっと・・・
(夜は俺に任せろ。)
「「えっ?」」
2人の返事は聞かず俺は動き出す。カヤノと旅に出るかもしれんと前々から考えていたのでいろいろと想定はしていたのだ。その中にはもちろん夜に寝るときのことも入っている。夜は睡眠の必要のない俺が見張ればいいが、それにしても寝床は少なくとも他人や魔物なんかに襲われない方法がベストだ。だからこそ・・・
カヤノとミーゼが盛り上がっていく地面に釘付けになっている。そうだろう、そうだろう。カヤノとミーゼの目の前に現れたのは高さ8メートル、幅8メートル四方の直方体だ。そして目の前には階段もついている。
(ほら、階段を登ってみろ。)
「はい、行きましょう。」
「あっ、ちょっと待って、カヤノちゃん。」
カヤノに手を引かれミーゼが階段を登っていく。フッフッフ、ミニチュア版とは言えこれは何度も作ったからな中身も完璧にできているぜ。それに驚くといいわ!!
5メートルの階段を登り、ぽっかりと空いた入り口から2人がその中へと入る。そして中を見たままあんぐりと口をあけたまま止まっていた。よしっ、ナイスリアクション。
俺が作ったのは高床式の土の家だ。5メートルの土の床の上に部屋があり、もちろんちゃんと天井もある。それだけではなくテーブルや椅子、毛布を置く用の台もあるし、トイレをする用の別の小部屋も完備している。流し台付きのキッチン(水は出ないが)もあるので食事を作ることもできるという親切設計。お家賃なんと驚愕の0円!ただしカヤノに限る。
「何これ?」
(何ってどこからどう見ても家だろ。失礼な奴だな。)
ミーゼのつぶやきに俺が返す。とはいっても俺も怒っているわけじゃねえ。どっちかっていうと理解が追い付いていないミーゼたちの反応を楽しんでいるんだけどな。しばらく驚いていた2人だったが、だんだんと状況に理解が追い付いてきたのかカヤノは目を輝かせて視線をあちらこちらに送っている。まあ暗いからあんまり見えないんだけどな。
「すごいです!」
「うん。私もさすがにびっくりした。リクって実はすごいんだね。」
(実は、っていうのが引っかかるところだがまあいい。夜の見張りは俺がするから安心して休め。しばらくは旅が続くからな。)
俺がそう言うとミーゼは寝袋を、カヤノはおばちゃんからもらった宿の部屋に泊まる前にカヤノが使っていた布団を取り出し台に引いて横になった。日が暮れるとともに眠りにつくことが多いカヤノにとっては結構遅い時間だったこともあって、ミーゼと2,3言葉を交わすとカヤノはすぐに寝息を立て始めた。それからしばらくしてミーゼも眠ったようなので俺は家の外に出て警戒を始める。もちろん入り口の扉は土で覆ってしまっているので今は巨大な土の立方体にしか見えねえしこの中に人がいるなんて思わねえだろうな。
ただ待っているのも暇なので離れすぎない程度に周囲を回って落ちた枝や薬草なんかを採取しようとしたんだがこの辺にはあんまり無いようだ。それでも何とか少しは暖のとれるくらいの枝は集まったがな。
それにしても見張りやすいと言えばそうなのだがここは変な場所だ。森の中で急に開けているし、そして何よりこの周囲を回っていて感じたんだが人の手が入っているような感じなのだ。枝を切られた木や、人の足跡なんかがあったからな。もしかしたら旅人の中で休憩所として利用される有名な場所なのかもしれねえな。それにしては奥まっているし、他に人はいねえが。
そんなことを考えていると、音が聞こえてきた。それも自然な音じゃない、落ちた木の葉を踏むザッ、ザッ、ザッ、ザッと言う音だ。しかも単独じゃない。なるべく音を立てないようにしているのかその音は小さなものだがこんな静かな森では聞こえないはずがない。
何だ?こっちにまっすぐ近づいてくるみたいだが。
俺はその音がする方向へと地面に潜って近づいて行った。
闇夜に響く近づく複数の足音。恐る恐るテントの隙間から覗いたリクが見たのは銃を担いで歩いていくうっすらと透けた兵隊の列だった。
次回:初詣行かないと
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




