とりあえず自分で倒してみる
フハハハハー、死ね!
まんまと罠にかかったネズミを圧殺するようにどんどんと土を動かしていく。既にネズミに逃げ場はない。もがいていたようだがしばらくして駆除することに成功した。
現在はおそらく午前4時過ぎ。まだ日が昇るには早い時間だ。ネズミたちの活動が深夜の次に活発になる時間でもある。
俺が今何をやっているかと言うとネズミを罠にかけて駆除している最中だ。
少しだけ動けるようになった日から既に10日。いろいろ試行錯誤したうえでやっとここまで来たのだ。最初は失敗ばかりだった。
俺が動かせるのは1か所につき上下左右どの方向かに10センチ。その動かした土をさらに動かそうとしても全く動かない。原理はわからないが出来ないものは出来ないのだ。逆に言えばどの方向にも動かしていないなら何か所も動かすことが出来ると言う事でもある。
そこで俺は地中の土を横に10センチずつずらしていき大体縦横10センチ、高さ1メートルくらいの穴を作った。いわゆる落とし穴だ。この落とし穴にネズミを落として駆除しようと考えたのだ。
失敗した。と言うか10センチ四方の穴の上を都合よくネズミが通るはずが無かった。まあ当たり前だよな。前は俺の所に馬のフンがあったから群がったのであって俺がネズミを引き付けるフェロモンを発している訳じゃ無いしな。
で、次に穴をたくさん作ってみた。俺の動ける1メートルの円の中に合計10個の落とし穴を作ったのだ。これも失敗した。
一応穴の上をネズミが通ったりもしたんだ。しかし穴に落ちる前にネズミは逃げちまった。まさに電光石火だ。そういえば黄色いネズミの技に電光石火ってあったな。
と言う事でこの案も没になった。ちなみに危ないから落とし穴は朝になる前に全て戻すのだが数が多く、非常に面倒だったのでこの方法はやめることにしたというのは内緒だ。
失敗が続いたのでなけなしのネズミの知識を動員したところ、迷路を進んでいくラットの実験映像のことを思い出した。確かネズミは土の中に巣を作るから狭いところを進むのが好きと聞いた気がしたので落とし穴に向かうように地上部分に壁を作って10センチほどの通路を作成した。通路の最終地点が落とし穴だ。
これは成功だった。一匹のネズミがするすると通路を進んでいき、ついに落とし穴へと落ちたのだ。
よしっ!!
俺は思わずガッツポーズをしたね。しかし喜ぶ俺とは裏腹にネズミはするするとうまいこと穴をよじ登り外へと出て行ってしまった。その様子を俺はただ唖然として見ているしかなかった。
そうだよな、土の中に巣を作るなら穴を登るくらい訳ないよな。気づけよ、俺!!誰も突っ込んでくれる人はいないので自分で自分に突っ込んでみたが空しいだけだった。
で、ほとんど完成形となったのが4日前。通路などはそのままで、ネズミが落ちた後すぐに出入り口部分の土を元に戻しネズミが外に出られないようにしたのだ。そしてネズミが穴を掘って逃げる前に土で潰して圧殺する。試行錯誤から6日やっと自分一人の手で目的を達することが出来たのだ。
後、改良した点と言えば、確かに通路を作ってネズミが入りやすくなったのだがそれでも入って来る数は1時間に1匹いるかどうかと言う数だった。これを増やす必要がある。
と言う事で俺は自分の中にいるミミズさんに餌役をやってもらうことにした。落とし穴の上で待機するミミズさんのおかげかネズミの入って来る率は高くなった。ミミズさんの数は多くないのでネズミと一緒に落とし穴に落ちた後、再度地上で餌役をやると言う過酷な労働環境だったが彼は頑張った。何度もその困難なミッションを成功させたのだ。
しかし犠牲はつきものだった。動きの鈍くなったミミズさんを落とし穴に落ちることなく奪っていく賢いネズミもいたのだ。
ミミズさん!カムバーック!!
思わず叫んだがどうにもならなかった。ネズミに咥えられていく彼は俺に向けて親指を突き上げているように見えた。ミミズさん、ありがとう。お前は勇敢な戦士だったよ。お前のその雄姿、忘れないぜ。
まあその翌日に運よく俺の上に串焼きの肉を落とした旅人がいたのでこっそりと確保し、今はそれで代用している。やはり匂いがいいのかネズミほいほいと化している。やっぱりミミズとは格が違うね。
そしてついに今日、あの日から数えてネズミを48匹駆除した時に俺の体が温かくなるのを感じた。初めて動けるときと同じ感じだった。
俺はドキドキしながら1メートルの境界まで行き一歩を踏み出した。そこに壁は無かった。喜び勇んだ俺だったがもちろん自由に動けるようになったわけじゃなくそのまた1メートル先の壁にぶつかったんだがな。
簡単に結論だけ言えば半径1メートルの円の範囲が2メートルに広がりましたってことだ。
あっ、ちなみに動かせる土の範囲も10センチから20センチへと変わったぞ。
これで生き物を殺すと経験値が得られてレベルアップすることがほぼ確定した。その表現が正しいかどうかはわからないがな。
最初はチュウタたちのこともありネズミを殺すのもどうかと思っていたのだが、やはり冷静に考えて俺の動ける範囲を広げる方が俺にとって必要なことだし、公衆衛生的な観点から言ってもネズミの駆除は悪いことじゃない。
人知れずネズミを駆除していくネズミハンターとは俺のことだ!!
そんなノリで今もせっせとネズミを落とし穴にはめて駆除を続ける。幸いなことにネズミはまだまだ豊富にいる。例え俺が毎日駆除したとしてもいなくなることは無いだろう。問題はネズミを誘う食料の確保だな。都合よく何か落ちればいいんだけどな。
こうして俺の生活は、昼は言葉や情報の収集そして食料の確保、夜はネズミの駆除とメリハリのある生活を続けることになった。
そしてこの生活は3年ほど続いた。ちなみに動ける範囲が4メートルになって肉屋のオヤジの店の一部分を範囲に収めてからはレベルアップの効率が段違いになった。昼間に勝手にオヤジがウサギとか鳥を地面に叩きつけてくれるからな。俺は犠牲になったウサギや鳥に南無南無としながら、経験値うまー!!とその利益を享受していた。
そして、このバルダックの街の道の真ん中に地面として転生して3年。俺はいつもと変わらぬ日々を過ごしていた。
昼は情報を収集し、そして夜は落とし穴にネズミを落として駆除する生活だ。俺の動ける範囲は20メートルほどに伸びていた。と言うよりここ半年ぐらいそれ以上に伸びていない。まあだんだんとレベルアップするのにかかる期間は伸びていたのでそのせいかもしれないし、これが成長の限界なのかもしれん。俺としてはもっと動き回れる範囲を広げたいのでネズミの駆除は続けているがそのネズミも最近はあまり見かけなくなった。俺の動ける範囲の外からやってくる新参者を駆除するくらいだ。
言語についてはほぼ習得したと言っていいだろう。話している言葉は理解できるようになったし、俺の生まれた通りの裏にある教会で行われている教室にも通って文字の書き方も覚えた。
この教会に通うようになって驚いたのが、文字を習っているのが子供だけじゃなくて大の大人もいたと言う事だ。しかも皆、この辺りにしては服装がしっかりしている者しかいない。
教室は2時間程度で出入口の皿に100オル硬貨を授業を受けた人が置いて帰っているのでどうも有料の様だ。もちろん俺は払っていないが。もしかしたらこの世界の識字率は低いのかもしれん。肉屋のオヤジの店でも文字なんか見たことも無かったしな。
2時間の授業で1000円から2000円か。安いのか高いのかわからんな。まあ文字が読めなくても生活に困らないんだったらそのお金で食べ物を買った方がいい。そんな感じなんだろう。
先ほども言ったがこの街の名前はバルダックと言う。正確に言えばバルダックの街の外にある集落らしいが。本当の街は頑丈な防壁に囲まれているのだが、そこからあぶれた人々がその防壁の外に徐々に家を作っていき、街の外に街があると言う状況になったのがこの場所と言う事だ。防衛的に大丈夫なのか?
ちなみにこの街の外の街(うーむ、わかりにくいな、下町とでも呼ぶか。)下町の外には簡易的な木の柵があるだけだ。本当のバルダックの街はちゃんとした門があり、門番がいて出入りする人をチェックしているそうだ。下町は素通りだが。
俺も結構この街については詳しくなった。もちろん下町限定だが。
さあそろそろ日が昇る。いつも通り、肉屋のオヤジが妙な体操を始めて、宿屋のおばちゃんが怒鳴る一日が始まる。
今日は何か面白いことが起こるといいんだが。
そんなことを考えながら俺は日課の落とし穴の埋め戻し作業をしていくのだった。
オヤジによる筋力トレーニングによりむきむきマッチョボディを手に入れた陸人。焼けつく太陽の下、日光浴をしている陸人を狙う者の正体とは?
次回:やらないか?
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。