とりあえず自己紹介する
フハハハハ、驚いただろ!
いやー、先生と呼ばれるからにはやっぱり用心棒だよな。本当は暖簾かなんかをくぐって登場したいところだったがもちろんそんなもんは無いのでインパクト重視で最大限まで大きくなってやった。一応せめてもと言うことでゴーレムは着流し風の着物を着ている。まあそれも土で出来ているから見分けなんてつかんだろうが。
ミーゼはあんぐりと口を開けたままこちらを凝視しており、持っていた干し肉も地面に落としてしまっている。あー、ちょっともったいねえな。洗えば何とかなるか。
「リク先生、そろそろ。」
(おお、すまん。)
カヤノに促されて俺は体をどんどん小さくしていく。大きいままだと会話もしづらいし、ミーゼが正気に戻らないだろうし、何より俺が疲れるからな。じゃあなんでそんなことをしたかと言えば明確な理由なんてない。のりだ、のり。後はミーゼにだまされていたことの意趣返しだな。
まあ言ってしまえばただ単にミーゼを驚かせたかっただけだ。
カヤノの隣、大体180センチくらいの昔の身長まで戻ったところで縮むのをやめる。なんていうかこの高さがしっくりくるんだよな。自然体って言うの?カヤノの背の高さにもだいぶ慣れてきたけどやっぱり視線が低いなって思う時があるんだよな。
今の俺の姿は当初のようなおにぎりゴーレムじゃない。例えるならマネキンか?そうあの無駄に筋肉質でスタイリッシュな奴だ。一応元の俺のボディに忠実に作ってある。まあ一部が盛られていたり、わいせつ物として通報されそうなものは省略しているがそんなのは些末なことだ。
とりあえずぺたんと尻餅をついたままのミーゼを指差して身をよじって笑ってみる。やーい、驚いてやんの。うわっ、自分でやっててどうかと思うがこれかなりいらっと来そうだな。無音であることが余計に癪に障る感じだ。だからと言ってやめるつもりもないが。
狙い通りと言うか指差されていたミーゼの顔に赤みが差し、その目がつり上がっていく。
「むっかー!何なのよ、あなたは!?」
(いや、カヤノの先生だって紹介されたじゃん。さっき説明されたのに忘れたのか?うそっ、ミーゼの記憶力無さすぎ!!)
「違います。あとその言い方やめてよ。なんかいらっとする。」
有名な驚愕のポーズをとりながらからかってみるとミーゼが立ち上がり、顔を真っ赤にさせて地団駄を踏んでいる。うむ、からかいがいのある奴だ。なんていうかマンガみたいな反応してくれるからこっちも調子に乗っちまうな。
「あのミーゼさん、落ち着いてください。リク先生もそろそろやめてあげてください。」
(了解。)
「なんでカヤノちゃんの言うことは聞くのよ!」
そりゃあカヤノは素直で可愛いからな。
肘の角度、そして掌の向きにまでこだわった渾身の敬礼をカヤノに向けた俺にミーゼが相変わらず突っかかって来るが俺はもうからかうことはしない。これ以上やるとカヤノに怒られそうだしな。ミーゼをからかうのは面白いがそのことと比較すれば重要なのはどちらかなんて言うまでもない。
「ミーゼさん、落ち着いてください。この人が僕の先生のリク先生です。」
「はぁ、はぁ、はぁ。コレがそうなの?」
(失礼だな。ちゃんとリクって名前があるんだ。コレなんて呼ばれたら傷つくだろ。)
「えっ、なんかごめんなさい。」
さすがにコレ呼ばわりは無いと思って抗議をしてみたが案外素直に謝られた。ちょっと拍子抜けだ。まあ地面から突然巨大なゴーレムが出現して、それが小さくなって目の前にいればコレって言われても仕方ねえなと俺も思うんだが、やっぱりミーゼもなんだかんだで良い奴だよな。あんまりからかわないでおいてやろう。
カヤノの仲裁もあってだんだんと落ち着いたのか、ミーゼが俺の事をじろじろと見てくる。何となくそのまま見られ続けるのはどうかと思ったので、フロントダブルバイセップスで鍛え上げられた上腕二頭筋をアピールしてみた。モストマスキュラーと迷ったんだがフロントダブルバイセップスの方が大きく見えるからな。ちなみにフロントダブルバイセップスは両腕を上げて力こぶを作るように曲げた雄々しいポーズで、モストマスキュラーは上半身を軽く曲げながら胸の前で何かを抱えるように腕を曲げる凛々しいポーズだ。
誰かここで、「よっ、冷蔵庫。」とか言ってくんねえかな。さすがにそれはコアすぎるか。
しばらく待っていたんだがミーゼが観察をやめようとしないので、ポージングを変えること2度、そうしてやっとミーゼの観察が終わった。若干呆れたような目をしているように見えるがさては俺の筋肉にびびったな。やはり決め手はサイドチェストだな。
「えっとカヤノちゃん。コレ、何?」
あっ、こいつまた俺の事をコレって言いやがった。俺、悲しい。
ショックを受けたように胸を押さえ、そしてよよよよっとばかりに崩れ落ちていく。そして顔を伏せながら両手で顔を覆う。むろんただの演技だがミーゼは真顔でそのままスルーした。カヤノでさえ苦笑いしている。むぅ、さすがに調子に乗り過ぎたか。
立ち上がりパンパンと土をはらう仕草をしてミーゼと相対する。
(いや、見ればわかるだろ。地面だよ、地面。)
「動く地面なんてあるわけないでしょ!それに今、土を払ったけどあんた自身が土なんだし意味ないでしょ!」
おおぅ、俺の小ボケに突っ込みが入った。いや~、突っ込みが入るって気持ちいいもんだな。最近は脳内で俺が突っ込んでばっかだったからな。新鮮すぎて快感だ。
ミーゼは怒っているようだが俺にしても俺が何なのかわからないしな。今のところ最有力候補は精霊なんだが、俺自身精霊なんて見たことがねえし。わかるのは地面だって事だけなんだよな。だから間違ってないしからかって回答したつもりも無い。いや、ちょっとだけあるかもしれんが。
「えっと先生は地面だと思います。僕と初めて会った時も地面でしたし。」
良くわからないフォローありがとう。カヤノのその言葉にミーゼは納得がいかないような顔をしながらも一旦引き下がった。俺としてもこれ以上の説明なんて出来ねえし助かったぜ。
「カヤノちゃんが土魔法で操ってるわけじゃないのよね。」
「僕は土魔法なんて使えません。」
(そうそう。)
カヤノは即座に否定し、俺も手を横に振りながら答える。そんな俺たちの様子を見てミーゼは「はぁ~」ととても大きなため息を吐いた。なんか数歳年老いた気がするな。ため息を吐くと幸せが逃げるらしいぞ。
それにしても土魔法でゴーレムが作れるのか。それはいいことを聞いたな。
「わかったわ。それじゃあリク、今までお弁当とかありがとうね。美味しかったわ。」
(うむ、感謝すると良い。)
不服そうな顔をしながら感謝を言われたので対抗して挑発してみた。ちょっといらっとさせることには成功したようだがそれ以上はミーゼは何も言わなかった。まあ俺としてもこのくらいはジャブのようなものだ。いちいち反応されても困る。
(とりあえずちゃちゃっと料理作っちまうわ。ミーゼ、暖をとる火をおこしておいてくれ。)
「お願いします。」
「えっ、あ、うん。」
カヤノのリュックから材料と包丁などの料理道具を取り出し下ごしらえをしていく。まだ出発して1日目なので買っておいた長期間保存が出来ない野菜なんかが中心だ。冬だから比較的寒いとはいえこの辺りは温暖で、俺の住んでいた関東地方とは比べ物にならないくらい温かいようだから腐るかもしれねえしな。街から離れると材料がワンパターンになりそうな分、せめて近いうちは良いもんを食わしてやりてえ。
とは言っても、ミーゼが驚きすぎたせいで夜も更けてきているのでちゃちゃっと出来る物と言うことで簡単な肉野菜炒めにすることにした。と言っても肉はベーコンだが。底の深いフライパンにベーコン、そして材料を投入し魔石のコンロで炒めていく。程よく色づいたところで火から下ろし、ミーゼがフランスパンを持って来ていたので薄くスライスして並べる。まあちょっと寂しい気もするがこんなもんだろ。
(ほれ、食べろ。)
「ありがとうございます。」
「えっ、あ、うん。」
食事を前に涎を垂らさんばかりの顔をしているカヤノとは対照的にミーゼは俺の姿を呆けたように見ている。と言うかさっきから生返事ばっかりだな。どこにそんな驚くところが・・・、そういえばそうだな。考えてみればゴーレムが料理を作るって異常な事態だよな。カヤノ達の弁当を作るときは1人で作ってたし、カヤノも何にも言わねえから俺自身スルーしてたがこれが正常な反応なのかもしれん。
「ミーゼさん。ほら、あったかいうちに食べましょう。」
「え、ええ。そうね。」
カヤノに促されてミーゼが食事前のお祈りをする。その横で俺は義手形態に変化してカヤノへとくっつく。カヤノは俺が教えた胸の前で合掌する「いただきます」のポーズだ。何というか日本人と外国人みたいだな。
簡単な祈りが終わると2人がそれぞれ食べ始める。カヤノはむしゃむしゃと美味しそうに食べ続けているが、ミーゼは一口含んだところで止まってしまっていた。んっ、まずかったか?いやカヤノは美味しそうに食べているし味に問題はねえと思うんだが。
気になるので食事に夢中になっているカヤノを突く。そうしてやっとミーゼが止まっていることにカヤノが気づいた。
「どうしました、ミーゼさん。」
「・・・しい。」
(?)
「美味しい。」
そう答えるとミーゼは止まっていたのが嘘のように食事を頬張りだす。そんなミーゼの姿に微笑みながらカヤノも自分の食事を再び食べ始めた。
リクの料理の腕に感服したミーゼはいきなり土下座をする。戸惑うカヤノとリクにミーゼが告げた衝撃の事実とは!?
次回:料理王に俺はなる!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




