とりあえず俺を知らしめる
ミーゼとカヤノが楽しそうにおしゃべりをしながら街道を歩いていく。ついさっき1人で歩いていた時の沈黙が嘘のようにかしましい。まあ、1人で黙々と歩くよりは断然こっちの方がいいがな。
そんな2人の会話を聞き流しつつ俺は1人でちょっと考えに耽っていた。何についてかと言うと俺の存在をミーゼに伝えるかどうかと言うことについてだ。
これから一緒に旅をすると言うことはほとんどの時間はミーゼと一緒に居ると言うことだ。今までは薬草採取の間だけだったのでカヤノと相談なりなんなりすることが出来ていたが、俺の存在を知られないようにしようとするとそれも難しい。また旅の間に俺が請け負おうとしていたことや俺が能力を使ってしようとしていたことも出来なくなる。そうするとかなりきつい旅になると言うことはわかりきっているしな。
そのデメリットを考えると俺としてはミーゼに知らせてもいいんじゃねえかと考えている。俺たちを騙していたがそれは自分の職務を全うしていただけだし、カヤノと同じダブルで何より友達だしな。
まあ一番の理由としてはたとえミーゼが何かしようとしても俺ならカヤノを連れて逃げられると思うからだ。さすがにいきなり完全に信頼するようなことは出来ねえよ。カヤノが無条件で信頼しそうな手前、保護者としてはそこには気を付けないといけねえし。可能性は低いと思うが。
とりあえずは後でカヤノに相談だな。そう結論づけて俺はあまり変わり映えのしない街道の様子を見つつ2人の会話を聞いていくのだった。
数回の休憩や昼食を挟みつつも歩き続けたおかげでバルダックからまあまあ離れることが出来た。とは言っても徒歩だからその距離は推して知るべしってとこだ。日はまだ暮れていないがちょうど良い森が近くにあったのでミーゼの提案で焚き火用の木の枝なんかを拾い集めることにした。
そういえば意外といっては何だがミーゼはこういった旅の知識が豊富だった。もともと兵士として訓練される最中に教え込まれていたと言うこともあるんだが、出発するまでの間に情報収集していたらしい。お姉さんぶってカヤノに教えるミーゼの鼻は伸び放題だ。まあカヤノが素直に「すごいですね~。」とか感心してくれるからな。それも仕方ねえか。それくらい俺も知ってるわ!と対抗心が芽生えたが俺は大人だからな・・・大人・・・くそっ、覚えてやがれよ!
ミーゼとカヤノの二手に分かれて森を歩いて探していく。別れると危ないんじゃないかとも思ったがそこまで大きい森と言う訳じゃねえし20分くらいで戻ってくるって約束したからたぶん大丈夫だ。声が届かないほど遠くへは行かねえだろ。
カヤノと2人で落ちている枝なんかを拾っていく。まあなんでわざわざ落ちている木を拾っているかと言うと普通に生えている木は燃えにくいからだ。森林火災のイメージがあるから木は燃えるっていうイメージがあるかもしれんが、木の種類にもよるが本来立木は燃えにくいもんだ。乾燥した季節なんかだとこの限りじゃねえが少なくとも緑の草がまだ生い茂っているこの季節では落ちた枝なんかを拾った方が良い。まあ消防士としては常識だな。
しばらく歩いてミーゼの気配がしなくなったところで乾燥している枝を拾い集めているカヤノをちょっと強引に座り込ませる。少し驚いていたカヤノだったが俺の意図を察したのか声を上げなかった。
(ちょっと相談がある。)
「何ですか?」
小さな声で聞き返してきたカヤノとの絆と言うか以心伝心具合を嬉しく思いながら先程まで考えていた俺の正体を明かすことについて聞いてみる。てっきりカヤノはもろ手を上げて賛成するのかと思っていたんだが返ってきたのは予想外の返事だった。
「えっと・・・リク先生はいいんですか?」
(どういう意味だ?)
「だって誰にも話すなって昔約束を・・・」
そう言えばそうだったな。文字を教えるようになり、意志疎通が出来るようになって初めてしたカヤノとの約束は俺のことを誰にも言わないことだった。言い出した俺の方がすこーんと忘れていたんだが。
(いいんだ。それにカヤノもミーゼに隠し事したくないだろ。)
「・・・はい。ありがとうございます。」
まあ、あの時は全く動くことが出来なかったから逃げようがなくてそんな約束をしたが、今はもう動けるしな。言いふらすようなことはしたくねえがミーゼくらいなら大丈夫だろ。
カヤノの声は嬉しそうに弾んでいる。やっぱり友達に隠し事って言うのは嫌だったんだな。それでも俺のことを考えて言ってもいいのかと聞いてくれたカヤノは優しい子だ。こういう奴こそ幸せになるべきだ。
「じゃあ早速ミーゼさんに・・・」
そう言って立ち上がろうとしたカヤノをちょっと待てとばかりに止める。不思議そうな顔をして俺を見るカヤノに俺はある企みを伝えていった。カヤノは多少納得がいかないような顔をしていたが何とか了承してくれた。
よし、これで準備は万端だ。カヤノの時は偶発的にばれてしまったがやはり登場にはインパクトがないとな。お前の驚く顔が目に浮かぶようだぜ。待ってろよ、ミーゼ。
約束の時間も過ぎたので元の場所に戻ると既にミーゼは戻ってきていた。その足元にはいっぱいの木の枝が・・・ってお前まだ緑の葉っぱのついているような木まで拾ってんじゃねえか。そんなもん入れたら白い煙が立ち登るぞ。こいつ、知識としては知っていても実践したことがないんじゃねえか?
まあいい。その辺は俺の存在を知らしめてから突っ込もう。
カヤノが持ってきた木の枝を置く。そしてミーゼと食事のことについて話し始めた。
まだか、まだなのか?俺は準備万端だぞ。
つんつんとカヤノをつついてアピールする。ちょっとカヤノが苦笑いしているような気がするがあえて気づかなかったことにする。人を驚かせるって楽しいよな。それがリアクションのよさそうな奴ならなおさらだ。
とりあえず二人とも料理は出来ないと言う事実を再確認して会話が一旦途切れた。今でしょ!
「あの、ミーゼさん。ちょっとお話があります。」
「どうしたの、カヤノちゃん?そんなに改まって。」
バックをごそごそと漁って干し肉を取り出していたミーゼがカヤノの真剣な顔とその声にしっかりとカヤノへと向き合う。そして持っていた干し肉にかじりついた。
突っ込んだら駄目だ。駄目なんだが・・・お前、前にもそのままかじりついて失敗してたじゃねえか。あれ演技じゃなかったのかよ!?
くそぅ、突っ込んじまった。なんか負けた気分だ。そしてもちろんカヤノはそんなミーゼを華麗にスルーしている。
「あの、食事なんですが先生が作ってくれるそうです。」
「えっ、カヤノちゃんの先生って元気ジュースの?」
「はい。」
そう言えばミーゼには俺の話をしてるんだったな。まあ、元気ジュースとお弁当を作ってるくらいなものだが。そうなるとちょっと弱いか?いや、話に聞いていた人が実は!?と言うインパクトはあるはずだ。
「紹介してもいいですか?」
「うん、こちらこそお弁当とかのお礼も言いたいし。お願い。」
よし、言質はとったぞ。じゃあ望み通り登場してやろうじゃないか。
「先生、リク先生。よろしくお願いします。」
(どおれ。)
「えっ、なんで地面に文字が?それに、えっ?」
ミーゼの目は地面にかかれた文字とそして盛り上がっていく地面に釘付けだ。そして驚きのあまり口が開きっぱなしになっている。
ふふっ、その顔だ。その顔が見たかった。
ミーゼが状況を理解する前にどんどんと土を盛り上げそして俺の最大限10メートルの巨大ゴーレムが夕闇の森に現れたのだった。
盗賊に襲われ、一人、また一人と護衛の冒険者たちが倒れていく。絶体絶命の商隊には絶望的な未来しかないと誰もが思ったその時、それは突然現れたのだった。
次回:謎の巨人
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




