表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/161

とりあえず・・・変態だー!!

 確かに奴隷なんて言うのは地球でもあったことだし、俺が呼んだウェブ小説なんかでも普通に出て来ていた。奴隷の女の子を助けたり、仲間にしたりしてのラブロマンスに胸を熱くすることだってあったしな。そん時は奴隷なんてなじみの無い事もあって普通に読めていたが実際に見ると駄目だ。俺の中でふつふつと怒りが湧いてくる。


 その人の意思を奪ってまで支配下に置くだと。それが人間のすることか!?


 いや、もしかしたら奴隷であってもそこに本人の意思があればここまで思わなかったかもしれない。しかし今目の前に広がっているハロルドに人形のように扱われ全く本人の意思が感じられないこんな光景は俺には我慢できねえ。これを知っていたからフラウニは誘拐したのか?それなら納得だ。決して犯罪を許したわけじゃないし、気持ちがわかると言う程度だが。


 俺の中の警戒心が最大限に引き上げられる。こいつがこういうことをする奴ならカヤノも危ないかもしれない。確かにカヤノは男の子だが、そっちの趣味が無いと言う可能性は0ではないのだ。もしハロルドがカヤノに妙なことをしようとした場合は問答無用で殴り飛ばして逃げる、そう決断するのに十分だった。


 ハロルドが先ほどまで自分が座っていた俺たちの正面の1人がけのソファにそのエルフの女性をゆっくりと座らせる。女性はだらんと体をソファへと投げ出していた。ハロルドが女性の姿勢や服の乱れを直していく。そして程なくして女性が俺たちの方を向き綺麗にソファに座った。相変わらず目はうつろで焦点は合っていないが。


「正妻のチルノーゼだ。チーゼ、ちょっと鞄を借りるぞ。」


 ハロルドはそのチルノーゼを軽く俺たちに紹介すると、チルノーゼが持っていた20センチ四方ほどのワニ皮のように光沢のある赤いバッグを探り始める。そして数枚の書類を取り出すと一枚一枚丁寧に俺たちの前の机へと並べていった。全ての書類はしっかり俺たちから読みやすいように置かれ、そしてその書類同士の隙間は一分の狂いも無く平行になっていた。やっぱこいつ病的なまでに几帳面っぽいな。


 俺とカヤノはその出された8枚の書面を見ていく。その書類の一番上に少し大きな文字で書かれているのは「販売証明書」という文字だ。くそっ、人を商品扱いかよ。

 俺とカヤノが書面を追っていく。その書面の上部はやはり人を正式に売買したと言う証明書だった。誰のことについてかわかるように書面の下半分には精密に描かれた人の顔がついており、それはハロルドが妻と言った女性たちと酷似している。その書類を次々と読んでいくがすべて同じ内容だ。そして最後の一枚、文面は全く同じだがそこに描かれていたのはここにはいないアルラウネの女性だった。優しげな微笑みを浮かべたその姿を俺は見たことがあった。


「フラウニさん?」


 俺と同じ書類を見ているだろうカヤノの声がぽつりと聞こえる。そうだ。そこに描かれていたのはフラウニだった。少し若く見えるところを除けばつい先日までカヤノと一緒に過ごしていたフラウニに瓜二つだ。

 アルラウネという種族を俺は今までフラウニしか見たことが無いんだが皆同じような顔なのか?いや、それならフラウニを初めて見た時にもっとカヤノが反応していたはずだ。少なくともカヤノのお母さんとフラウニの姿は別だと考えられる。そこから導き出される結論はこの書類に描かれたルラウニと言う女性はフラウニに近しい親族、名前が似ていることから考えれば姉妹なんじゃないかと言うことだ。

 と言うことはフラウニは妹を救い出すために領主の館まで侵入して誘拐したって事か。確かに犯罪ではあるんだが泣かせるじゃねえか、妹の為に自ら危険に飛び込み、罪を犯してまで助けるなんて。


 カヤノも俺と同じように理解したんだろう。その視線を鋭くさせハロルドを睨みつけた。全く迫力のない視線ではあるがその意思は伝わるだろう。本当なら何事も無いようにしておくのが賢い方法だと思うが、やれやれ、やっちまえカヤノ。あとの面倒は俺が見てやる。俺の気持ちも代弁してくれ。

 ハロルドも当然カヤノの敵意に気づいているんだろうが全く意に介していない。チルノーゼの絹糸のような髪を撫でることに集中し、先ほどまでの怒りはどこへやら穏やかな表情をしている。むかつくな。強制的に従わせた奴を愛でて悦に入るなんて趣味が悪いぜ。


「読んだようだな。その書類を見てもわかるように妻たちは私が正式に迎い入れた者だ。そして裏面を見ろ。」


 裏?

 カヤノが書面をひっくり返していく。そこにはハロルドが言ったようにまだ書面が続いていた。その一番上に書かれていた文字は「同意書」と言う言葉。そして書面の一番下には本人、そして親族2署名欄がありそこにはもれなく名前が書かれていた。

 内容は・・・


「自分の死後、体の扱いについて商品として売買することを認めます・・・」


 カヤノがその書面に書かれた言葉をゆっくりとそのまま読む。


 はぁ!?なんだと!!


 見返してもすべての書類に同じことが書かれている。つまり、えっと、どうゆうことだってばよ。


「このように事前に本人の同意のある正式な者ばかりだ。確かに生前から打診をしたことはあるが私がその死に関与したことは無い。」

「・・・」


 ハロルドが胸を張って俺たちに告げる。その背後にいるミーゼがあちゃーっとでも言うように頭に手を当てているがお前、事情を知っているなら説明しろ。というか俺の理解でいいのか?正直それが正解ならかなり異常な性癖の持ち主ってことになるぞ。


「と言うことはこの人たちは・・・」

「ああ、もう死んでいる。」


 恐る恐る聞いたカヤノの言葉を食い気味にハロルドが答えた。というかなんでそこで晴れやかな顔で胸を張って答えてんだよ、お前。


「首輪をしているし、奴隷じゃ・・・」

「なぜ妻を奴隷にしなければならん。それこそ人の道に外れると言うことだ。首輪は腐敗を防ぎ、アンデットになるのを防ぐための魔道具だ。本来ならば私も妻にこのような物を着けたくは無いのだが。」


 だめだ、理解が追いついていかん。と言うか一番おかしいお前が人の道に外れるなんて言える道理があるかよ!

 つまりハロルドが妻と言っていた女性たちは全員既に死んでいて、それをハロルドが買いつけた。もちろん違法では無くて本人の了承も事前にある。首輪は奴隷を操るようなものではなく、その状態を保存するための物。


 つまり・・・こいつは・・・屍体愛好家(ネクロフィリア)だってことだ。


 マジか!?まさか異世界にまでそんな異常性癖者がいるなんて。俺も各個人の性癖には理解があると自負していたんだかさすがにこれは範囲外だ。

 しかも地球でははっきり言って犯罪なのに、ここでは死後に自分の死体を売ることが商売として成立している。俺が今まで見たことも聞いたことも無かったからメジャーじゃないんだろうが・・・

 うわぁ、改めて常識が違うって実感するな。いや、カヤノなんか熱の入った変態の言葉に放心しちまってるからどうだかわからん。誰か常識人プリーズ。


 まあ、無理やり奴隷にするなんていう奴じゃなくて良かったと思えばいいのか?変態だけど合法らしいし。


 しばらく誰も話さない時間が続く。いや、実はハロルドが愛の言葉を妻に囁いているんだがスルーすることにした。「君は本当に美しい。物静かでそれでいて品がある。やはり君は私の天使だ。」とか言ってるがそりゃ静かだろ。死体なんだし。天使と言うかもう天使に迎えられちゃってるだろ、その奥さん。しまったつい突っ込んじまった。くそっ、俺の回りボケばっかりだから癖づいちまったじゃねえか!!


 なんか負けた気分になっているとやっとカヤノが正気を取り戻した。そして言っちゃあいけない言葉を言っちまったんだ。

 それを俺が止めることができていればこれからの俺たちの運命は変わっていたかもしれない。しかしそんなことわかるはずもないし、その疑問をカヤノが抱いたのは当然だったんだが。


「何で死体なんか(・・・)を奥さんにしているんですか?」

ついに悪の首領ハロルドと対峙したカヤノとリク。しかしそのHPはリクを遥かに上回っていた。強大な敵を前に二人はどう立ち向かうのか?


次回:HPは変態ポイントの略


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ