とりあえず魔法力を吸収される
カヤノの手からどんどんと光が吸収されていく。どんどん、どんどん・・・
っていつまでやってるつもりだよ!こいつ遅くね?なんて言うか気まずいんだけど。兵士二人組は話しかけてこねえし、カヤノも俺と同じ思いなのかさっきまでは不思議そうに手から出て行く光を見ていたんだが、無言の時間が続くにしたがって視線の角度が落ちていき今はもう自分の足元を見ている。
そういえば今まで非常事態過ぎて忘れていたが、まだまだカヤノは人見知りするんだったわ。最近は知り合いのフラウニやミーゼと一緒に過ごす時間が長かったからすっかり忘れていたが。短時間の店とのやり取りみたいなのなら大丈夫なんだが、こうやってずっと一緒に居るのはまだ克服できていないんだよな。いや、まあこの無言の空間が気まずいのは誰でも一緒か。
いつ終わるんだろうな、と仕方がないのでぼーっと眺めていると若い兵士が口を開いたまま驚きの表情で固まっていることに気づいた。中年の兵士がその装置から魔石を取り出し新たな魔石を入れる。これで4個目だ。もうちょっと大きい魔石とかにした方がいいんじゃねえか?こんなんじゃいつになったら終わるのかわかったもんじゃねえし。
「そんな、ありえない・・・」
若い兵士がその様子を見てなぜか顔をそむけた。んっ?どういう意味だ?と言うかなぜ顔をそむける。一応牢の中とは言え多分上司が囚人であるカヤノの手の届く範囲に居るんだからそんなことしたら駄目だろ。俺だったら一秒もかからずで土の拳で殴り飛ばせるぞ。いや、そんなことはしねえけどよ。
そしてまた無言の時が始まる。何というか率直に言えば飽きた。もうお前たちその道具置いて帰っていいよ。俺とカヤノの2人で適当に話したりしながら自分でやるからさ。そう言いたいところだがそんな訳にはいかねえよな。
よくよく見ると中年の兵士の顔も少しひきつっており、額からは脂汗と思われる液体が流れランプの灯りを反射していた。
「君は何だ?」
「えっ?」
久しぶりに中年の兵士からかけられた言葉を理解できず、カヤノは顔を上げ首をかしげながら疑問の声を上げる。俺も同感だ。カヤノはカヤノだろ。ダブルだってことは確かだがそれでも人間だ。何だってのは失礼だろ!
「なぜこれほど魔法力がある。この魔石1つでも普通の人なら10人、魔法を使える者でも普通なら2人分程度の魔法力を吸収できるはずなんだ。それが既に4個目、そしてまだまだ尽きるような様子も無い。君は魔法の訓練でも受けていたのか?」
「いえ、特には。」
「ではこれは生まれつきだと言うのか。そんな、ありえない。これではまるで・・・」
中年の兵士が額に手を当てて何かを考え込み始めてしまった。おぉ、何ていうかカヤノの魔法力は桁違いみたいだな。いまいち俺には基準がわからんが、一般人の5倍の魔法力があれば魔法使いになれて、その魔法使いの6倍以上の魔法力をカヤノが持ってるってことだ。まあ暫定だが。
まあカヤノ自身訓練もせずに普通は詠唱が必要らしい治癒魔法で傷を癒すことが出来たんだし、それに比べれば魔法力が高いってのはそれほど驚くことじゃない気がするな。
その後魔石が足りなくなったのか、若い兵士が取りに行ったり長時間にわたり過ぎて一旦食事休憩が入ったりしながらカヤノは道具へと魔法力を流し続けた。俺も100ぐらいまでは魔石の取り換え数を数えていたんだが途中で飽きてしまってやめた。だって1回満タンにするのに5分くらいかかるんだぜ。つまり8時間以上それを見ていたんだ。誰だって飽きるだろ。
カヤノは既に寝てしまった。腕を食事を出し入れするための扉の隙間から出したちょっと寝るには適さない半分座っているような体勢だが、いろいろなことがあり過ぎてやっぱり疲れていたんだろうな。つらそうな感じも無く健やかに眠っている。
兵士はすでに交代してあの道具で魔法力を採取し続けている。あの中年の兵士だけが近くのベンチに横になり待機している。お勤めご苦労様だ。
あぁ~、それにしても暇だ。昔の動けなかった時はこんな感じで何も出来なかったはずだが動けるようになった今となっては苦痛以外の何物でもない。最近は忙しく動きまわっていたからなおさらそう思う。よく我慢できたな、すごいぞ俺。さすが俺。
結局朝になってもカヤノの魔法力は尽きることなく、夜通しカヤノの魔法力を吸収し続けていた兵士たちは目に隈をはっきりとつけていた。なんというか軟弱だな。一徹ぐらいふつうだろ。いや、まあ3日くらいほとんど眠らずに過ごしたうえ心臓まひで死んだ俺が言うのもなんなんだが。
というかここの勤務ってどんな感じなんだろうな。さすがに夜も見張りの兵士とかがいるだろうし二交代制なのか。しかし夜勤の奴はそれぞれ仕事があるだろうし、カヤノがここに居るのは特殊だろうからこいつらは昼勤のやつがそのまま流れてきたんだよな。うーん、実際の所はわからんが。
「んんっ、すまん。ご苦労だったな。・・・まさかまだなのか?」
「はい、隊長。そろそろ魔石の方が尽きそうです。」
おっ、中年の兵士が起きた。っていうか隊長だったのか。どおりで対応が落ち着いていると思ったし若い兵士が敬っている訳だ。しかし若い兵士の方も過度に緊張するわけでも無く自然に話しかけているし、話せる上司ってやつなんだろうな。
カヤノはまだ眠ったままだ。いつもカヤノが起きる時間はあと1時間くらい後のはずだ。そうじゃなくても昨日はいろいろあって疲れただろうし起きるのは遅くなるかもしれないな。
夜通しカヤノから魔法力を吸収していた兵士たちがカヤノが魔法力を補充した魔石の入った箱を隊長に見せている。カヤノが寝てから8時間近く経ってるから100個近いはずだ。起きていた時と合わせれば約200個ぐらいだろう。普通の魔法使い400人分か。俺の予想以上に多かったな。兵士の言う通りからの魔石が入っている箱に残されている魔石は後4つだ。この4つでちょうどカヤノの魔法力が無くなるなんて都合の良いことは・・・無いだろうなぁ。
「まさかここまでとはな。忌み子は両親の種族の性質を受け継ぐと聞くが、人間もアルラウネもここまでの魔法力は無いはずだが。」
「アルラウネは私たちに比べればはるかに多い魔法力を持っていると言う話ですが、あまり外に出てこない種族ですからね。情報が少なすぎます。」
隊長がその言葉にうなずき、兵士の1人に交代の要員を連れてくるように伝えた。ふらふらしながら上がっていく兵士の代わりに隊長がその場に着きカヤノの安らかな寝顔を見つめている。その表情は侮蔑とも驚きとも違い、あえていうのであれば困惑だろう。眉間のしわを深く刻んで何かを深く考えているようだった。
交代の要員が入ってきたころには既にすべての魔石に魔法力の補充が終わっていた。やっぱり都合よく最後に切れると言うことなんて起こらなかった。交代の要員が他の空の魔石を持ってくるのかとも思ったのだが手ぶらだったので本当にもうないんだろう。
うわ~、せっかく簡単にカヤノの無実が証明できるかと思ったんだがな。
「仕方がない。見張りを1人残して戻るぞ。俺は領主様へ報告に向かう。」
隊長の指示に従って新しくやって来た兵士を残して2人が出て行く。兵士は階段付近にあった机付きの椅子に座り何かを読み始めたようだ。そういえばフラウニからもらったレシピ本取り上げられたままだな。アレがあればカヤノと一緒に暇つぶしも出来たんだが。
見張りも離れたしカヤノもまだ起きないので再び考えに集中する。何度も繰り返したから結論が出ないことはわかりきっているが、それでも考えちまう。
消息不明のフラウニ、そして残されたカヤノへの警告の手紙。店に1人で入ってきたミーゼの謝罪。そしてカヤノの拘束。それに無関心なミーゼの態度。
兵士たちの対応は明らかに犯罪者に対するものだった。しかもフラウニを探していた様子からおそらくフラウニが何かをしでかしたんだと思う。兵士たちが何か話すんじゃないかと期待したが無駄口叩かなかったしな。その分気まずかったんだが。
そしてミーゼの態度そして兵士たちへの対応。それを考えるとミーゼは少なくとも領主側の人間だ。しかも上位の。カヤノに対する対応が冷たかったのは、ミーゼの本心なのか?
ああ~、全く情報が足りん。さすがに牢屋でカヤノを1人にするわけにはいかんから情報収集も出来んし。とりあえずもう少し様子見をして、カヤノが1人でも安全な時間の把握が出来たら城の中を探ってみるか。
俺はそんなぐるぐると結論の出ないことを考えつつ、カヤノが起きるのを待っていた。
人知を越えた魔法力を持っていることがわかったカヤノは城の人々に恐れられ、そして妬まれていく。そしてカヤノはある部署へと送られることになった。
次回:総務部、魔石管理グループ
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




