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とりあえずまずい事態になる

 新年初日はいろいろ大変だったので、2日目はゆっくりと過ごした。宿をおばちゃんに追い出されるまでダラダラしてから畑の世話をちょっとしてこの後どうするかなと思ったところで昨日思いついたリバーシをカヤノに教えてみることにしたのだ。教えたんだが・・・


「あの、まだですか、先生?」

(ちょっと待て!!)


 最初のころは普通に勝てたんだよ。だって先の事なんて考えずにその場で一番多くひっくり返せるところばっかりカヤノは選んでたしな。しかし何回か繰り返すうちに俺の打ち方を見て学習したのかいい勝負をするようになり、この第28戦はかなり戦局が悪い。ぶっちゃけ言うともう無理だとわかりきっているが何となく悔しくていい手は無いか探しているのだ。くそう、学習能力高すぎだろ!!

 俺の長考を待っているカヤノと言えば胸元のペンダントにたまに触れて嬉しそうに頬を緩ませている。贈った方としてはその反応はとても嬉しいが、余裕だな!!

 良い手は、一発逆転の良い手は無いか!?あそこに置けば、この列が変わるけど次でひっくり返される。降りて来い、神の一手!置くべき位置は・・・ここだぁ!!


「ありがとうございました。」

(おう。)


 いや、無理だわ。都合よくそんな起死回生の一手が見つかるわけないっての。あの後あっさりカヤノに返されて俺は負けた。というか大敗した。勝てる気がしない。よし、現状俺とカヤノの勝負は27勝1敗。圧倒的に俺が勝っている。このことを胸に刻みちょっと気分転換に街を歩こう。


「あれっ、もう一戦しないんですか?」


 しません。

 俺は座っているカヤノをちょっぴり強引に立ち上がらせ、街の方へと歩いて行った。門付近まで来ると兵士たちがわらわらと忙しそうに動き回っている。明日は昼から領主がここに来て第二防壁の完成記念式典で演説するらしいからその会場設営とか警備の関係だろう。関わるとろくなことになりそうにないのでそそくさと通り抜け街をカヤノとぶらぶらして過ごした。

 屋台広場で開いていた店に聞いてみたところほとんどの屋台は3日から営業をするらしい。明日は特にイベントがあるので朝から仕込みに来るやつが多いだろとスープを買ったカヤノに教えてくれた。それじゃあ明日は薬草を採りに行ってから屋台めぐりでもするかな。イベントがある日だから珍しいものがあるかもしれんし。そんな話をカヤノとしながら2日目は過ぎて行った。





 そして新年3日目。昨日までの遅起きを引きずるかと思っていた俺だったが、カヤノは普通に朝早くに起きいつも通り朝食を食べると、普通に畑の世話をして森へと向かった。さすがに今日はミーゼはいなかったので久しぶりにカヤノと俺だけの採取だ。

 どうせなので早く帰ってフラウニの所に顔を出す前に屋台をいろいろ巡ってみるかと結論が出たので俺も全力でサポートしカヤノもいつもより足早に動いた結果、昼前には袋一杯の薬草を採取することが出来た。まあたまたま群生地を見つけたってのも大きいんだけどな。


(どうする?今なら式にも間に合うかもしれんが。)

「うーん、別にいいです。」


 一応聞いてみたがカヤノは興味無さそうに首を横に振った。俺としてはこの世界ではどんなふうにこういうイベントが行われるのか興味が無いわけじゃなかったが、まあカヤノの意思を無視してまで見たいもんでもない。まあいつかまた見る機会があるかもしれんし。

 カヤノはいつもの小川近くの休憩所で昼食を食べ、しばらく大きな岩の上で休憩してから街へと戻り始めた。

 確か式は午後の1時からだから式が終わっているか微妙な所だな。式の途中に街に入ることって出来んのか?特に今日街を出るときは何も言われなかったが。


 今日巡る予定の屋台のことを楽しそうに話しながら歩くカヤノに相づちを打ちながら街への道を戻っていく。というか次から次へ巡る予定の屋台の話が出てくるがどんだけ食べる気だよ。まあ全部食べるって訳じゃねえとは思うが、訳じゃねえよな?カヤノは本当に食べることが好きだ。路上生活でロクなもんを食べていなかった反動かもしれんがその執着心ゆえなのか変な才能さえ発揮するようになってるしな。


 街に近づくにつれてわーわーと騒がしい音が聞こえてくる。おぉ、やっぱり完成記念式ってのは盛り上がるもんなんだな。カヤノの今後の経験のためにも見せておいた方が良かったか?

 うーん、あれっ?

 何か様子が違うな。第二防壁の上には人がいっぱい並んでいるのが見える。まあそれは式典があるんだから間違いではないのかもしれない。しかしその人々が街の外に向かって何かを飛ばしているように見えるんだが。というか街の外にうごうごとうごめいているのはゴブリンだよな?大量にいて気持ち悪いんだが。まさかまた襲われてんのか!?異世界、危険すぎるだろ!!


「戦いですか!?」


 おう、そうだな。とりあえずまだまだ距離が離れているし、こっちには危険はねえと思うが街に入れねえのは問題だな。ゴブリンたちは門の付近に密集しているようだし何とかなるか。


「えっ、どうしたんですか、リク先生?」


 いいから、いいから。

 困惑しているカヤノを誘導して街道から離れて野原を歩いていく。冬なので歩きづらくないのが助かるな。そして1時間ほど歩いてゴブリンも見張りの兵士もいない防壁へとやって来た。たぶん見張りは門の所に応援に行っているんだろうけど、他の所を見る奴が居なくてもいいのか?いや、俺が心配することじゃねえと思うんだけどな。まあ今の俺たちにとっては好都合だ。


「えっとどうするつもりですか?ここからは入れませんよ。」

(ちょっと待ってろ。)


 俺は下半身をカヤノから離し、気合を入れて足を梯子に変形させる。防壁は3メートルほどしかないので今の俺には簡単な作業だ。目の前でウニョーっと梯子が出来ていく様子にカヤノが目を丸くしている。

 ふはははは、俺の練習の成果を見て驚くがいい。

 程なくして防壁を登れる程度の梯子が完成した。


「えっとこれを登って入れってことですよね。」


 腕の付け根をコンコンと二度叩いて肯定する。カヤノが慎重に梯子に足をかけ防壁を登っていく。俺としてもちょっと緊張する。人に登らせるなんて初めてだしな。そんな俺たちの心配をよそに俺の足の梯子はその強さを十分に発揮し、カヤノは問題なく防壁の上へと登り終えた。

 門の付近に行くと面倒事に巻き込まれそうな気しかしなかったのでカヤノにとりあえずフラウニの店へと向かうように伝える。屋台めぐりをしたい気もするが、さすがにこの状況でのんきに屋台を巡る気にもなれない。魔物が攻めてきたならポーションが必要になる可能性も高い。フラウニを手伝うのが筋ってもんだろ。情報も入って来るだろうしな。

 理由を伝えるとカヤノも了承し、さっそくフラウニの店へと向かうことになった。だんだんと大通りに近づくにつれて人々の話が聞こえてくる。どうも魔物たちは式典の途中で襲ってきたらしい。そして演説していた領主の近くから突然煙が吹き上がったそうだ。それは睡眠効果のある煙幕の様でその付近にいた領主のみならず兵士や一般市民も巻き込んで阿鼻叫喚の騒ぎになったそうだ。近くにいた治癒術師のおかげで大きな問題にはならなかったようだが、街は敵国が攻めてきたとか先代が討伐した大盗賊団の報復だとか情報が錯そうしていた。

 そんな大事件にしてはある程度落ち着いているなと思ったのだが、復活した領主自らが魔物の討伐の指揮をとっているらしい。住人も領主が指揮をとっているなら大丈夫だろと考えているようだ。やっぱトップが落ち着いていると下も落ち着くんだよな。無能な上司ほど迷惑な奴はいないってやつだ。


 こんな感じで情報を収集するのは久しぶりだが慣れたもんだ。いつもより多くの人が集まってしきりに話をしている大通りを歩きつつフラウニの店へとやって来た。


「こんにちは~。」


 いつも通りカヤノが声をかけつつ店の中へと入る。お手伝いのカーラが来るのは4日からって話だからフラウニしかいないはずだ。しかしそこにフラウニの姿は無い。また調薬の実験に熱中しすぎて奥で寝てんのか?しょうがねえ奴だ。

 カヤノと奥の調薬室へと向かい俺たちは驚愕する。そこにあったはずの調薬機材は1つも無くがらんとした机に一冊の本とメモらしき紙が置かれているだけだったからだ。


「えっ、何これ?」


 その光景を見つめたまま立ち尽くすカヤノだったが、なんかヤバい気がする。早くメモを見ないと危険だと言う予感がするんだ。少し強引にカヤノを動かしメモが見える位置まで歩かせる。

 そこに書いてあったのは・・・


(カヤノさんへ。

 ちょっと事情があって店をやめることにしました。この本は私の知っている薬のレシピです。カヤノさんなら多分作れると思うわ。有効活用してね。

 あと、ここに居るとちょっと危ないかもしれないからすぐに逃げた方がいいかもよ~。)


 はぁ!?意味が分からんぞ、フラウニ。

 店をやめるってのはまあ事情があったんだろってことで理解できるが、ここに居ると危ないってどういうことだ?ただの薬屋だろ?

 カヤノも手紙を見たまま不安げに周りを見回し、そして俺を見つめた。いや、すまんが俺も理解の範疇外だ。説明なんてできないぞ。

 どうしようかカヤノと相談でもしようかと考えていた時、店へと誰かが入って来る音が聞こえた。いつもの習慣でカヤノが店へと顔を出す。そこにはミーゼが薬草採取の時の格好のまま立っていた。


「ミーゼさん?」

「カヤノちゃん。ごめんね。」

「えっ?」


 頭を下げるミーゼにカヤノが困惑する中、ミーゼの背後から兵士たちがぞろぞろと店の中に入ってきた。そしてカヤノが乱暴に腕をとられ拘束される。おい何しやがる!!

 カヤノが地面に押さえつけられる様子をミーゼは他人事のようにただ見ているだけだった。

突然のフラウニの失踪、そして友人であるミーゼの裏切りに呆然とするカヤノとリク。事態は二人の意思とは関係なく悪化の一途をたどっていく。


次回:あれっ、本当っぽい


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合が・・・

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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