とりあえず遊びに行く
「ミ、ミ、ミ、ミーゼさん。この後用事って何かありましゅか?」
「い、いえ。何も予定はな、無いですよ。」
カヤノに友達との付き合い方を相談されて2日後。俺の計画を念入りに確認し、必要ないと思うんだがいつも行く市場にまでカヤノは確認に行った。
そして今日、森の入り口にミーゼがいたため薬草採取を一緒に終えて、街へと帰る道すがら声をかけたんだが・・・これはひどい。カヤノだけじゃなくてミーゼも大概だ。さっきまではなんとか普通に話せていたじゃねえか。
2人とも顔を赤くしている。なんか付き合いたてのカップルみたいだな。なんとなく俺のやる気メーターが下がっていくんだが。いや、ここは可愛いカヤノのためだ。テンションを上げていかねえと。
「えっと・・・街に帰ったら一緒に、一緒に・・・ご飯でもどうでしゅか?」
「ご飯でしゅか?」
おい、ミーゼつられてるぞ。だー、なんだこのやり取りは。こっちが恥ずかしくなるわ!!
小首を傾げて聞き返すミーゼにカヤノがコクコクと首を縦に振っている。いや、カヤノ。俺は事前に言ったよな。自然な感じで誘えって。ただ一緒に買い食いに行くだけだからそんなに緊張するもんでもないだろって。お前もうなずいていたはずだよな。これのどこが自然だ!?そんな真っ赤な顔で恥ずかしそうに誘うなんて、友達を誘うって言うよりも、デートのお誘いにしか見えんわ!
「屋台がい、いっぱい集まっている広場があるんです。今日はいつもよりちょっと早く終わりましたし、どうかなって?」
カヤノの声がだんだんと小さくなっていく。いかん、それは駄目だぞカヤノ。誘う時は自信を持って誘え。カヤノの好きな買い食いだぞ。ミーゼが来てくれるのか不安なのかもしれんが、むしろ楽しいから一緒に行こうよ、くらい自信を持ってくれんと相手にも楽しさが伝わらんだろ。
俺は恐る恐るミーゼの反応を待つ。これで断られたらカヤノの心に傷が出来ちまうかもしれん。それはそれで仕方のないことなのかもしれんし、良い経験になると言えばそうなんだが最初は成功体験を経験させてやりたい。一歩踏み出すことに恐怖を覚えてしまえばカヤノの将来に影響が出そうだ。
ミーゼの赤い恥ずかしそうな顔がカヤノの言葉を聞いて喜色に染まっていく。おっ、なんかよさげな感じ。
「屋台ってあのほったて小屋みたいな小さな料理店ですよね。うわぁ。私一度行ってみたかったんです。ぜひ行きましょう。」
「は、はい。」
ものすごい言いようだが、カヤノの手を取って喜ぶミーゼに、カヤノはさらに顔を赤くしながらも嬉しそうに笑った。よし、なんとか第一段階は成功だ。食べるのが好きそうなミーゼなら断られることはあんまりないだろうと思っていたんだが、あくまで俺の予想だしな。計画とはだいぶ違う不自然な感じで誘うことになったがいっしょに行けるなら結果オーライだ。
「じゃあ早く行きましょう。」
「は、はい。」
ミーゼがカヤノの手を握ったままもう目前になったバルダックの外街へと向かって歩いていく。その背中を追って、手を引かれながらカヤノはちょっと嬉しそうに歩いていく。見た感じ仲の良い姉弟のようだ。ミーゼの足取りは軽い。本当に屋台が珍しいようだな。外街の住人なら結構見かけるし、利用している奴も多いんだがやっぱりミーゼは内街に住んでいるみたいだな。いや、内街の様子なんか知らんしただ単に世間知らずなだけなのかもしれんが。
2人が仮設の防壁の門をくぐる。扉はまだ設置されていないが兵士は立っているので2人は頭をぺこりと下げて通り過ぎる。今のところ検問みたいなことをされたことは無い。立っている意味はあるのか?と疑問に思わないでもないが、まあ魔物対策でもしてるんだろ。
そして外街に入りずんずんと大通りをカヤノを率いて歩いていたミーゼの歩みが唐突にピタッと止まる。んっ?どうしたんだ?
「あの、どうかしましたか?」
カヤノも同じことを疑問に思ったようでミーゼの目の前に回り込んでその顔を覗き込む。ミーゼはキョロキョロと辺りを見回して、そしてカヤノへと視線を戻した。その目には困惑が浮かんでいた。
「えっと、屋台ってどこ?」
いや、知らなかったのかよ!ずんずんとカヤノを引っ張っていくからてっきり知ってるもんだとばかり思ってたわ。我を忘れるほど楽しみだったのか?
「昔とちょっと場所が変わったんです。大通りと交差するあの道を右に行った所です。」
「わかったわ。行こう、カヤノちゃん。」
指を差しながら屋台の立ち並ぶ広場を案内するカヤノにうなずくと、ミーゼはその手つないだまま走り出す。おいおい。急いで行かなくても屋台なんてこの時間に売り切れるなんてことは無いぞ。そう思いつつも楽しそうに走るミーゼと、ちょっと驚きながらも嬉しそうなカヤノを見て俺は計画が上手く行きそうな予感がするのだった。
「うっわー!!」
屋台の立ち並ぶ広場の前でミーゼが感嘆の声を上げる。
昔はこの広場が大通りの曲がり角の部分に在ったのだが、今は大通りが整備されてしまい通行の邪魔と言うことで少し中に入ったところに移転されていた。とは言ってもあの雑然とした雰囲気は変わらない。屋台の数は30を超え、その多くは持ち帰りのできる食べ物の屋台だ。香辛料が高価なのでそこまで匂いがたちこめるようなことはないらしいが、それでも白い煙が漂っていたり、その焼けた肉から肉汁が滴り落ちる様を見ると食欲のない俺でも食べてみたいと思うほどの強烈さだ。そしてまだ昼の3時前だと言うのに広場には人が溢れ、活気がみなぎっていた。
「どうしたらいいの、カヤノちゃん?」
「えっと、一通り屋台を回って見ますか?その中から好きな物を選べばいいと思います。」
「そうね、じゃあさっそく行きましょう!」
ミーゼは興奮すると手を離さない習性でもあるのかもしれん。街の外からずっとカヤノの手を引いたままだ。そのまま2人は人ごみの中へと突入していく。よし、掴みは上々だな。後はカヤノ次第だ。
屋台を一軒一軒見ながらミーゼが声を弾ませ、そしてこれは何か、美味しいのかと質問し、そしてカヤノがそれに答えていく。この屋台にある物はほぼ制覇しているのでその答えによどみは無い。食べ物に関してだけは異常に才能と言うかわからんが饒舌になるカヤノの解説をミーゼは真剣な表情でふんふんとうなずきながら聞いていた。楽しそうじゃねえか。
屋台を一通り見終え、長考の末、ミーゼは丸パンの間に焼いた鶏肉の塊を挟んだチキンバーガーを選んだ。野菜は一切入っていないし、本当に鶏肉のでかい塊なのでどっちかって言うとパンはメインの鶏肉を食べるための持ち手って感じだな。カヤノはいろいろな野菜や肉、小さくちぎったパンなんかをトマトで煮込んだスープにしたようだ。
広場の隅の屋台が無い一角、屋台で買った物を食べる共有スペースに行き、簡素な椅子に座って2人がそれぞれの料理を食べ始める。
「うっう~。これ美味しい!!」
「美味しいですよね。かぶりついた瞬間、鶏肉の中に詰まっていた肉汁が口の中にあふれて来てじゅわ~とした温かい油が広がりますし。しかも適度な歯ごたえでありながら柔らかい肉がもう一口、もう一口って誘うんです。」
お、おう。あんまり変な解説言ってると引かれるかもしれんからちょっと抑え目にしとけよカヤノ。とは言ってもミーゼはチキンバーガーに集中しているから問題ないかもしれんが。
ミーゼが美味しそうにかぶりついていることに安心したのかカヤノも自分のスープに口をつけ幸せそうな顔をする。まだ昼食をとってからそこまで時間も経っていないので味わうようにゆっくりとしたペースだ。それでも一口ごとに喜びが顔に現れるカヤノは作った料理人にとっては最高の客だと俺は思う。
「あっ、そうだ。これも食べて見ますか?その鶏肉に合いますよ。」
カヤノが思い出したようにミーゼに自分のスープを差し出す。ミーゼは鶏肉にかぶりついたままその視線をトマトのスープとカヤノへと交互に動かす。行儀が悪いから早く肉から口を離せよ。なんというか本当に残念な奴だ。
「いいの?」
「はい、ミーゼさんは初めてですしいろんな種類が食べたいかなって。」
「うわぁ、ありがとう。じゃあ私のもあげるね。」
カヤノとミーゼがそれぞれの料理を交換して食べ始める。楽しそうにお互いの料理を交換するなんて仲のいい友達みたいだろ。
よし、作戦第二段階成功だ!!
第二段階は買った料理を交換して親睦を深めようだったのだ。同じ釜の飯を食うって言う言葉もあるし、俺が知っている女性はほとんどが一種類の大皿料理を食べるよりもいろいろな種類の料理を少しずつの方が好きだったからな。
交換してくれるかっていうのがネックだったんだがミーゼはそういうのは気にしないようだ。一応取り分けやすい料理にしろって言ったはずなのにカヤノがトマトスープを選んだ時はちょっと焦ったが。絶対にアドバイスを忘れて自分の食べたいものを選んだよな。ミーゼの料理に合う物を選んでいる辺りは相手のことを考えているって言えるんだがな。
「ふぅ、美味しかった。」
「はい。」
2人が料理を食べ終え満足そうにお腹をさすっている。といっても2人のお腹はポッコリとしているわけでも無くすとんとしている。一体どこに入ってんだ2人とも。
しかしここからが重要だぞ。カヤノ覚えているだろうな。コンコンとカヤノの腕を叩いて確認すると、カヤノがちょっとはっとした様子で俺を見てそしてうなずいた。忘れてたのか、そんなこと無いよな?
カヤノがちょっと顔をキリッとさせミーゼの方を見る。ミーゼはまだ満足そうにお腹をさすっていた。なんかちょっと妊婦を彷彿とさせるな。さすってるのは赤ちゃんじゃなくて食べ物なわけだが。
「ミーゼさん。今日は付き合ってくれてありがとうございました。楽しかったです。」
「うん、私も楽しかったよ。初めて屋台で食べたし。面白かったし美味しかった。」
ミーゼが笑顔でカヤノに笑いかける。よし、反応は上々だ。行け、カヤノ。このまま言っちまうんだ。
カヤノが自分を落ち着かせるように一度深呼吸し、そして・・・
「あの、これからもたまに誘ってもいいですか?」
よし、言った。また行こうねくらいでいいと思うし、なんかデートに誘っているみたいだと思わないでもないが友人関係初心者のカヤノにしては上出来だ。最終段階、次回へとつながる約束をすること。まあ約束と言わないまでも楽しかったと共有できればいいんだが約束しておくことにこしたことは無い。
カヤノが心配そうにミーゼを見ている。俺もだ。そんな俺たちの心配を吹き飛ばすかのようにミーゼは満面の笑顔を浮かべ
「もちろん!」
そう返したのだった。
ついにミーゼとのトゥルーエンドを攻略したカヤノ。しかしCGの完成度は95%のままだった。いぶかしむカヤノはその衝撃の事実を知る。
次回:エクストラルート解放
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




