とりあえず友達について相談に乗る
「・・・」
「・・・」
気まずい。なんなんだ、こいつらは。友達になったんじゃねえのか?
とりあえず昼食の休憩時間が終わったので薬草採取を再開したんだが、カヤノとミーゼ、2人とも一言も発さない。しかも目が合うと顔を赤くして反らしている。付き合いたてのカップルかよ!!
いや、今まで友達もおらず1人で生活してきたカヤノがそうなっちまうのはわからんでもないが、ミーゼまでこんな初々しい反応をするとは思わんかった。ミーゼも友達が少ないのか?物怖じしないし、何となく性格的に結構いそうな気がしていたんだが。
結局この空気は変わらないまま薬草採取が終わり、ぎこちなく挨拶をして2人は別れた。カヤノはふわふわした顔のままフラウニの店に行き、いつも通り手伝いをしていたんだが、いつもならあり得ないポーションの瓶を落とすなんて言う失態を犯したりしていた。フラウニに注意されてもどこかカヤノは心ここにあらずと言った感じで、結局フラウニに帰っていいと言われてそのまま帰ってしまった。こりゃ重症だわ。
ふらふらと危なっかしく歩くカヤノをなんとか動かして、いつもの屋台にも寄らずおばちゃんの宿へと戻った。いつもの場所へぺたんと座り込んだカヤノはニヤニヤと笑ったり、不安そうになったりとその顔を7変化させている。
カヤノの心境をいまいち掴みかねている俺としてはカヤノが自分自身で気持ちを整理してくれるのを待つしかなかった。初めて友達が出来たのなんて幼稚園に入る前だしな。そん時の記憶なんてねえよ。
おばちゃんが来たことにも気づかないカヤノの代わりに右腕を動かしていつも通り小銀貨1枚を手渡し、食事を受け取る。視線も合わせないカヤノにおばちゃんが怒鳴ろうとしたが、普段と違う様子に気づいたのかなんとか矛を収めてくれた。
すまんな、おばちゃん。落ち着いたらカヤノに謝らせるから今は勘弁してやってくれ。
そうしておばちゃんの持ってきたアツアツのスープが冷めてしまったころ、宙をさまよっていたカヤノの視線が地面へと向かった。
「リク先生、友達が出来ました。」
(おう。良かったな。)
カヤノがぽつりとつぶやく。その顔は嬉しそうでありながらも、目には不安の色が多分に含まれていた。今のカヤノの胸の内がその表情に如実に表れている。しかし俺としてはカヤノに友達が出来たと言うことが単純に嬉しかった。友人ってのは何物にも代えがたい価値があるからな。
「それで、その・・・」
カヤノが言い淀む。何かを言いかけ、そしてやめるを繰り返している。俺は何も言わない。俺が何かを言えばその方向にカヤノは話題を変えちまうだろうからな。今はカヤノの本心が知りたい。
しばらく無言の時が続き、そしてカヤノが一度大きく深呼吸する。そして・・・
「あの、友達ってなんでしょうか!?教えてください!!」
カヤノが早口になりながら両手を地面につけて頭を下げる。
いや、そこからかよ!!って言うか友達って何?ってある意味哲学的な問題だよな。俺だって明確な答えを持ってる訳じゃねえし、それこそ捉え方は人それぞれだよな。感覚的にこいつは友達、こいつは知り合いって分けてるから明確な基準があるわけじゃねえし、言葉にするってのも難しいな。
とは言えカヤノの真っ直ぐな視線に答えないってのは先生じゃねえよな。
(そうだな。一緒に楽しく遊んだり馬鹿騒ぎができて、いざと言う時は助け合える奴が友達なんじゃねえか?)
数分間、ない頭を絞って考えた結果がこれだ。まあ物理的にも頭なんてないんだけどな。
友達の基準として一緒にいて楽しいってのがやっぱり一番だと思うんだよな。ある程度我慢することはあったとしても、それでも一緒に居たいと思えるのが仲のいい友達って奴だ。で、まあ何か悩みがあった時は相談に乗ってくれたり、ただ、酒に付き合ってくれたりするって感じだよな。
「一緒に楽しく遊んだり、馬鹿騒ぎ・・・助け合える・・・。」
(あくまで俺の基準だからな。)
噛みしめるように俺の言葉を繰り返しているカヤノに釘を刺しておく。世の中には一度会った奴は皆友達って言う奴もいるんだ。実際にそうしているのかは知らんが俺の基準だけに囚われる必要なんてない。そのあたりは友達と付き合っていく中で自分で構築していくもんだしな。
カヤノが腕を組んでうんうんとうなりだす。何がそんなに難しいんだ?別に今までより少し気安く話しかけたり一緒に遊んだりするだけだろ。
「あの・・・遊ぶってなんでしょうか?」
(えっ?)
いやいやいや、遊ぶって言ったら普通に遊ぶだけだろ。どっかに一緒に出掛けたり、釣りとかサッカーとか好きなことを一緒にやったりとか。単純な話、家でゲームとか一緒に面白いことするのが遊びだろ。さすがにそれは・・・まさか、マジでわからねえのか!?
確かにカヤノの今まで聞いた話を考えると、小さいころは母親と森で2人暮らし。この街に来てからは生きる為に薬草採取をしてなんとか暮らしていたギリギリの生活。生活に余裕が出来たのなんてここ最近の話だ。ってことはカヤノって遊んだ経験が無いのか?マジか!?
「いえ、言葉としては知っているんです。でも何をしていいのかわからなくて・・・」
俺が戸惑っていることに気づいたのかカヤノが申し訳なさそうにしながらも言葉を加える。その言葉にちょっとほっとする。一応概念としてはカヤノも知っていたんだな。
それにしても遊びか。俺だったらどっかに行って最後は酒を呑んで騒ぐってのが定番なんだがカヤノにはちょっと早いしな。って言うか考えてみたらこの世界の遊びって何があるんだ?いまいちよくわかんねえんだが。子供たちが追いかけっことか石けりしているのは見たことがあるがさすがに2人でやるのはちょっと寂しすぎるしな。
働け、俺の脳細胞!!
(・・・カヤノが楽しいと思うことを一緒にやってみればいいんじゃねえか?)
無理でしたー。っていうか俺に脳細胞って無いしな。仕方ない仕方ない。この世界の遊びに詳しくない俺なんかにそもそも名案が浮かぶわけなんてねえんだ。俺が楽しいと思ってもカヤノとミーゼがそう思わなければ意味がねえしな。
ただ俺だって無責任にカヤノに放り投げた訳じゃねえ。友達がより仲良くなっていくためには相手の価値観を良く知るって言うのが必要不可欠だ。そのためには自分が楽しいことを相手も一緒に楽しめるかっていうのは結構重要だ。ここがずれてくるとそのうち疎遠になっちまうしな。
「先生と一緒にいると楽しいです。」
カヤノが俺にニコって笑いかける。
やばい、こいつは俺をどうしたいんだ。そんな純粋無垢な笑顔でそんなことを言われたら心臓を打ち抜かれない奴なんていねえぞ。こいつは強烈だ。耐性のある俺でさえこんなになるんだ。普通の奴だったら恋に落ちたりもしくは庇護欲に駆られて家に連れ帰ろうとするんじゃねえか?
抱きしめたい衝動に駆られるが、体が無いこともあってなんとか理性でストップできた。ふぅ、危ない危ない。って言うか今はそういうことじゃない。
(それ以外は?)
「それ以外ですか?野菜を育てるのも楽しいですし、フラウニさんの所で薬を作るのも楽しいですし、ステラさんの食事も美味しいから楽しみです。」
いや、それって普段の生活ほとんどじゃねえか。それは遊びじゃねえ。いや、まあ趣味は園芸ですって奴なら野菜を育てるのなんかは遊びの一種として捉えられるのかもしれねえけどミーゼが野菜を育てるような趣味があるとは思えねえんだよな。
「後は、屋台で何か食べるのも楽しいです。」
(それだ!!)
「えっ?何がですか?」
(だから買い食いだよ、買い食い。)
一緒に出掛けて食事をとるなんて友達っぽい行動だろ。と言うか改めて俺もカヤノの生活を考えてみたんだが趣味っぽい行動って買い食いしかなかったわ。俺のお弁当をうまそうに食べていたミーゼなら喜んでくれるだろうし、初めてのお誘いとしてはいいんじゃねえか?そうと決まれば計画を考えるだけだ。
題して「カヤノとミーゼ 初めてのお出かけ(友達編)」だな。
好感度を上げるために他の子に目もくれずミーゼだけを選んでいくカヤノ。しかし、それは大きな罠だった。
次回:トゥルーエンドは簡単じゃない
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




