とりあえず増える
「ひどいと思いませんか~。こっちはまだ成人もしていないんですよ。それなのにそろそろ成人するからお小遣いは自分で稼げって。こっちはしっかりとだらだら・・じゃなくって家事手伝い・・でもなくってほらっ、花嫁修業に勤しんでいたのに。」
「はぁ、そうなんですか。」
森の中に2人分の足音が響く。まあ言うまでもないがカヤノとミーゼだ。結局ミーゼは俺たちに着いてくることになった。俺がおおっぴらにサポートできなくなるから薬草採取の効率は落ちちまうんだが、放っておいたらまたなにか勝手にピンチ(迷子とか)になってそうだからだ。まあ薬草採取自体はほとんど終わっていたから後は帰り道に近い薬草を採取しつつ進めば森を出るころには袋一杯になるだろうしな。
自分のことなんかをべらべらと話しながら進むミーゼに対して、カヤノは少し戸惑っているようだ。そういえばカヤノが長時間他の人と話す機会ってのは初めてかもしれねえな。もちろんフラウニとは一緒にいる時間は長いんだが、調薬しながらだったり、教えてもらったりでこんな風に日常会話を楽しむような感じじゃねえしな。それにフラウニはアルラウネだからカヤノも気を許しているところもあるしな。
まあいい経験だと思おう。
勝手に自分の話をしてくれるのでミーゼについて結構なことがわかった。
14歳で現在無職。一応冒険者に今日登録したから無職ってのは違うか。親は商売をしているらしいが母親は既に死んでいる。来年の成人に向けて父親から仕事をするように言われている。あと、これは明言した訳じゃねえがどうも家ではダラダラしていただけで特に何もしていなかったようだ。メイドがいるって言ってたしな。
いや~、マジでメイドっているんだな。やっぱり柱の陰から秘密を除いて「アラ、イヤダ。」とか言うのか?そして殺人事件に遭遇するんだよな。死を呼ぶメイド。恐ろしいぜ。
それはともかく最初は面倒な奴だなと思ったんだが、こうして様子を見てみるとミーゼで良かったとも言える。商売をやっていると言う家のおかげか、そもそもミーゼの性格なのか会話に慣れていないカヤノに話題を振って話を広げたりしているので沈黙が続いて気まずい雰囲気になったりすることが無い。こっちの薬草採取を邪魔するようなことも無いし意外と気の使える奴なのかもしれん。
まあ母親が死んでいるとか初対面のカヤノに話す話題か?とも思うがな。
薬草を見つけたカヤノが地面へとしゃがみこみそれをむしっていく。ミーゼはその様子を興味深そうに眺めながら採取が終わるのを待っていた。よし、これで袋一杯になったから今日のノルマは終了だな。
「それにしてもカヤノちゃんは薬草を見つけるのが本当にうまいよね。」
「えっと、昔からずっとこの森で薬草を採っていたからですよ。うまいって程じゃあないです。」
カヤノが頬を赤くして照れながら答える。褒められることなんてめったに・・・いや最近はフラウニが褒めてくれることが増えてきたからそうでもないが、それでもそれ以外の人に褒められるなんて珍しいからな。
実際のところカヤノが薬草をこんなに効率よく見つけられるのはアルラウネとしての能力によるんだが、まあそれを言えばダブルってことがばれる。まあ経験によるって思ってもらった方が都合はいい。
そんなこっちの思惑なんて気づかずに、ミーゼはう~んと腕を組んで目を閉じながら考え始めた。そしてパンっと手を打った。
「カヤノちゃん、私に薬草採取を教えてくれない?都合のいい時だけでいいから。」
「薬草採取を教えるんですか?僕が?」
突然のミーゼの申し出にカヤノは驚くよりも先に困惑したようだ。確かに今までカヤノが教えてもらうことは多々あったが、カヤノが誰かに教えるなんてことはほとんど無かったしな。俺に薬草とかの知識を教えたぐらいじゃねえか?
しかし薬草採取を教えるって言ってもどうやるんだ?アルラウネじゃねえからカヤノと同じ方法は出来ねえし、一応こんな場所には生えやすいって言うのはあるがそれも確定じゃない。どこに生えるかわからない神出鬼没の不思議な草、それが薬草なんだ。それがカヤノもわかっているから返事が出来ねえんだろうな。でも・・・
「お願い、カヤノ先生。」
土下座こそしていないが、ミーゼが頭に足がくっつくんじゃないかと思うくらいに体を曲げて頼み込んでいる。一言で表すなら必死だ。そこまでして小遣いが欲しいのか?いや、確かに14歳と言えば中学二年。このくらいの歳なら欲しいものなんて山ほどあるよな。お金が稼げるなら稼ぎたいって言うのは当たり前か。
こんな態度を取られちゃあカヤノの返事は決まったようなもんだ。カヤノの唇が開きだす。俺にとっては次のカヤノの言葉なんて聞かなくてもわかりきっている。
「都合のあった時ならいいですよ。うまく教えられるかわかりませんけど。」
「ありがと~、カヤノ先生。」
ミーゼがぎゅっとカヤノを抱く。カヤノよりも頭一つ分大きなミーゼがカヤノを抱えるとすっぽりと包みこむような感じだ。ミーゼも嬉しそうな表情をしているし、抱き着かれているカヤノも恥ずかしそうにしながらもその表情は緩んで嬉しそうだ。
カヤノは人の頼みにとことん弱いからな。と言うよりも人を助けたいって言う気持ちが強いんだ。ダブルって言う嫌われる存在であり、ひどい扱いを受けた過去もあるのにこんな風にカヤノが育ったのはひとえにカヤノのお母さんのおかげだろうな。いつか会ってみたいもんだ。そして会えなかった間のカヤノの様子を話してやりたい。もちろんカヤノとの再会を十分に楽しんだ後でのことだがな。
そんなことを妄想しているうちに落ち着いたのかミーゼがカヤノから離れていた。そしてもう一度深々と頭を下げる。そんなミーゼにカヤノが「頭を上げてください。」と言うのにミーゼが断ると言うなんか少し前に見たようなやり取りがしばらく続いた。もしかしてこれこれから何回もあるのか?
そしてやっとミーゼが頭を上げたところで、カヤノが話し始めた。
「教えるのは良いんですが、先生はやめてください。ミーゼさんの方が年上ですし、それに・・・」
ちらっとカヤノが俺の右手の義手を見る。
「僕は先生って言われるほど立派な人じゃないです。だから今まで通り呼んでくれた方がありがたいです。」
「う~ん、私はそうは思わないけどな。でもわかったわ、カヤノちゃん。これからよろしくね。」
カヤノとミーゼが握手をする。これで時々はミーゼと薬草採取をすることになりそうだ。
でもカヤノ。俺だってそんなに立派って訳じゃねえぞ。ただお前より年を食っているから経験があるだけで同じ人間だ。いや、まあ俺は地面なんだが、何ていうか精神的な話としてな。俺はお前の純粋に人を助けたいと思える心は十分に立派だと思うぞ。もっと誇りを持っていいんだ。
握手を終え、街への道を進みながら薬草やこの森についての知識をカヤノが話し、それをふんふんとミーゼがうなずきながらしっかりと聞いている。良い感じだ。良い感じなんだが・・・
「ギャギャギャ!」
「で、これがウィードです。しばらく暴れますが危険はありません。大人しくなったら服でぬぐって根の部分をちぎればこの球根部分が食べられます。」
「・・・」
カヤノが実際にポリポリとウィードを食べていく様子を唖然とした表情でミーゼが見ている。いや、普通そうなるよな。だって顔のついた球根部分をかじるんだぜ。しかもちょっと今回はグロ目の顔だし。ちなみにウィードの顔はそれぞれ違うからな。お澄まししているような顔の奴もいれば、今回のようなグロ目な奴もいる。まあ全く役に立たねえ知識だがな。
ミーゼはしばらく呆然としていたが、カヤノが全部ウィードを食べ終えるくらいになって意識を取り戻した。
「・・・これがあればお腹が減っても大丈夫ってことね。」
「です。」
おい、お前。なんでそこで嬉しそうな顔をするんだよ。そしてそれに同意すんなよ、カヤノ!
帰り道、ウィードを見つけては駆け寄り、引っこ抜いてポリポリと食べる2人の様子に自分の常識がおかしいんじゃないかと若干不安に駆られながら、カヤノが楽しそうだからまぁいいかととりあえず棚上げするのだった。
カヤノの勧めによりウィードを食べ始めたミーゼ。そして彼女もまた新たなそして異次元の能力に目覚めるのだった。
次回:サバイバー
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




