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とりあえず変な人を助ける

「ふぁんふぇふふぁ!?」


 いや、食ってからしゃべれよ。と言うか現在進行形でサンドイッチを頬張ろうとするなよ。そんなに食事が大事ですか?そうですか。

 カヤノはサンドイッチを片手に持ちながら悲鳴の聞こえた方へと歩き出している。この森に関してはそう大した危険は無いとは思うが、この警戒心の薄さはちょっと問題だな。とは言っても悲鳴は一度限りだし、それ以外に物音がしている訳じゃないから大したことじゃないと俺も思うが。


 ちなみにこの森で出会ったことのある魔物はただのゴブリンと巨大な赤色のキノコのその名もオオキノコだけだ。オオキノコは動かないし、近寄ると体を痺れさせる胞子を飛ばしてくるが近寄らなければ無害なので安全だ。ウィード?あれはカヤノの食料だ。

 つまりこの森は本当に安全なのだ。唯一危険なゴブリンも注意していればカヤノでも倒せるしな。群れになるとさすがに危険らしいが今のところ遭ったことのあるのは2匹同時が最高だ。


 そんな森だと言うことをカヤノが一番よく知っているので特に急いだ様子も無い。どうせ蜘蛛とか蛇に驚いたってところだろうと俺も予想している。しかし悲鳴を聞いたのに見に行かないって言うのも気持ちが悪いしな。まあこの森なら俺の力でどうにでもなるだろう。楽観的に考えているうちにもカヤノはすいすいと森を進んでいく。そして俺とカヤノはそれを発見した。


「・・・」


 うん、無言にもなるわな。そこにいたのはなぜかオオキノコの傘の部分に顔面を乗せたまま痺れている女性。目は開いているので意識はあるっぽいが全く動けていない。若干口周りの表情筋がピクピクと動いているので何か言おうとしているんだと思うが・・・。まあ普通に考えて「助けて」だよな。


「あの、大丈夫・・・ですか?」


 いや、カヤノ。大丈夫だったらこんなアラーに祈りをささげるイスラム教徒のような格好のままで顔をオオキノコにつけたりなんかしないと思うぞ。そう言っちまう気持ちはわからんでもないが。

 女性は長そで長ズボンの上に薄い皮の胸当てや脛当てなんかをつけて、腰にはショートソードを差している。典型的な冒険者の格好だな。顔はオオキノコにつけているので良く見えないが肩ほどでボブカットにされた茶髪はサラサラでたまに吹く風になびいている。おっと観察するのは後回しにしてとりあえず助けるか。


 俺にはオオキノコの痺れ胞子なんて効かないので俺がゴーレム形態で引き剥がすのが一番簡単なんだが、さすがにそんなことをするわけにはいかない。仕方がないので女性の足をカヤノと一緒に掴んでずりずりと地面を引きずる。途中、地面に顔が落ちてべちゃっという音がしたが気にしない、気にしない。草がクッションになるはずだ。

 1メートルほど引きずってオオキノコのテリトリーから離れる。実際オオキノコが痺れ胞子を飛ばすのは50センチくらいまで接近した時だ。注意して歩けばこんなことには普通ならないんだがな。


 引きずっていた女性をあおむけにひっくり返す。その顔は強張っているのにも関わらず人形のように整っていた。髪と同じ綺麗な茶色の瞳は不安げにこちらを見据え、白磁のような白い肌には出来物ひとつない。ちょっと唇が薄いのが気になるくらいだが化粧もしていないようだし、見た目15歳にも届いていないくらいに幼く見えるから将来はさらに化けるかもしれん。

 俺がそんな風に少女の観察を続ける中、カヤノはリュックをごそごそと漁りだしていた。


「えっと、確かこの辺に・・・あった。」


 カヤノがリュックの中から布に包まれた瓶を取り出す。あの瓶の色は麻痺消しポーションだな。カヤノが今絶賛調薬練習中の一品だ。いざと言う時の為に一応2本は持ってきていたんだがまさか最初にカヤノ自身じゃなくて他人に使うとは思ってもみなかったな。

 カヤノは少女の頭の下に膝を入れ、頭を高くするとその少女の薄い唇を開いて少しずつ麻痺消しポーションを流し込んでいく。始めは何も聞こえずに大丈夫なのかと思ったが、半分を過ぎたころには少女が嚥下する音が聞こえ始めた。ふぅ、大丈夫っぽいな。偶然だが薬の効果が実験できてしまったのでラッキーとでも思っておくか。

 少女が全て飲み干す。顔の強張りもとれ、少女特有のあどけなさが更に強くなった。そしてカヤノの顔をじっと見つめている。


「あの、大丈夫ですか?」


 カヤノの問いかけに少女がコクコクコクコクと勢いよく首を上下に振る。そしてハッ、と何かに気づいたような顔をすると勢いよくカヤノの膝枕から離れ、そして土下座の体勢で座り込んだ。あっ、馬鹿!!


「助けていただきあり・・・」


 カヤノから離れて土下座した少女が向かった場所は先ほどのオオキノコのそばであり、再び痺れ胞子を受けて言葉の途中で土下座の体勢のまま動けなくなっていた。こいつ馬鹿だろ。うっかりさんなんてもんじゃねえ、ただの馬鹿だ。

 俺とカヤノは再びずりずりと少女を引きずると麻痺消しポーションを飲ませた。はぁ、2本あって良かったぜ。まさかこんな使い方をするとは思わなかったけどな。


 回復し、再び土下座しそうになる少女をカヤノが説得し、いつもの小川近くの休憩所へと案内した。とりあえずあの場所にいるとコントのように同じことを繰り返しかねないとカヤノも思ったんだろう。俺も同意見だ。

 で、その連れてきた少女なんだが今は頭を地面に擦り付けんばかりに土下座している。なんというか反応に困るな。そんな趣味はねえし。カヤノも戸惑っている様子だしさっさとやめてもらうか。


「本当にありがとうございました。」

「あの、別に大丈夫ですから頭を上げてください。」

「いえ、助けてもらった相手には誠心誠意尽くせと言うのが我が家の家訓ですので。」


 うわっ、めんどくせ!いや、確かにすばらしい家訓なのかもしれんが相手に応じて態度を変えんとその相手をさらに困らせることになると思うぞ。現に俺とカヤノは大迷惑だ。その後しばらく、「大丈夫ですから頭を上げてください。」というカヤノと「いえ、大丈夫です。」という少女の不毛なやりとりが続いた。

 傍目から見ると9歳の少年に土下座する15歳くらいの少女ってなんていうか異様な光景だな。それにしてもこれ、いつまで続くんだろうな。そういえば、明日の弁当はどうすっかな。ご飯が無いから主食が限られちまうんだよな~。

 だんだんと飽きてきた俺の思考がこの状況から離れようとしていた時、ぐ~、と言う大きな音が響き2人のやりとりが止まる。チュンチュンと言う小鳥のさえずる音が静かな小川に響いた。


「あの、お昼食べますか?」

「すみません。」


 カヤノが差し出したサンドイッチを受け取り立ち上がった少女は申し訳なさそうにしながらもその目は俺特製のサンドイッチに釘付けになっていた。





「ふぅ、美味しかったです。ごちそうさまでした。」


 はぐはぐとむさぼるように食事を終えた少女が先ほどまでの様子など嘘のように楚々とした仕草でお礼を言う。その食べっぷりに驚いてカヤノも若干引き気味だったんだが、お礼を言われて正気に戻ったようで「いえいえ」と言いながら手を振っている。なんというか癖の強い奴だ。


「私の名前はミルネーゼって言います。気軽にミーゼって呼んでください。そして改めてお礼を。助けていただき食事までいただいてしまって本当にありがとうございました。」


 さっきの土下座とは違い今度は普通に頭を下げてミーゼが感謝を述べた。ふぅ、そうだよ。これでいいんだよ。下手に土下座なんかされるとこっちが困るっての。


「いえいえ、大したことはしていませんから気にしないでください、ミーゼさん。あっ、僕の名前はカヤノと言います。」


 うむ、いい返事だ。カヤノの成長を感じるな。やっぱり人と交わる経験をすると成長するよな。おそらく会ったころのカヤノなら2回は噛んでいただろう。まあそんなカヤノも可愛かったけどな。


「それにしても何でミーゼさんはオオキノコなんかに近づいたんですか?バルダックの冒険者ならみんな知っていると思っていたんですが。」


 カヤノが不思議そうな顔をしてミーゼに聞く。そうそう、俺もそれを疑問に思っていたんだよ。オオキノコはこのバルダック付近に普通に自生する魔物だから森を探索することのある冒険者なら知っていて当たり前だと思ってたんだ。オオキノコ自体はそんなに危険は無いとはいえ痺れている間に他の魔物に襲われたら一巻の終わりだからな。注意喚起されていると思っていたんだが。


「えっと恥ずかしながら冒険者になったのは今日でして・・・、近づいたのはお腹が減ったので大きなきのこならお腹が膨れるかな~と・・・」

「・・・」


 思わずカヤノがジト目で見返す。いや気持ちはわからんでもない。母親から植物について詳しく教えてもらっていたカヤノにとってオオキノコを食べるなんてありえない行動にしか見えないんだろう。いや、別に教えてもらってない俺もそう思うが。っていうかあんな赤色の毒々しい大きなきのこを良く食べようなんて思ったな。そういえば見つけた時、顔をオオキノコの傘にべチャっとつけていたが、まさか生のまま食おうとしていたんじゃねえだろうな。恥ずかしそうにポリポリと頭を掻けば誤魔化せると思うなよ、ミーゼ!確かに可愛いけどよ。

 カヤノの視線が変わらないことに焦ったのか、ミーゼがあわあわと手振り身振りをしながら説明しだす。


「えっと私自身これが初めての街の外でして、ちょっと浮かれていたって言うか準備不足なところがあったと言うか・・・えっと、ごめんなさい。」

「いえ、僕自身の常識とあまりに違っていたので・・・こちらこそすみません。」


 おぉ、すごいなミーゼ。ちょっと一般常識からずれているカヤノにずれているなんて言わせるなんて快挙だな。誇れるもんじゃねえが。あれっ、でもずれているカヤノからずれているって言われるってことは、ミーゼは一般人ってことか?いや、一般人はオオキノコなんか食べねえだろ。ミーゼは反対方向にずれてんだな。

 とりあえず助けたんだしこれ以上の手助けは必要ないだろ。何となくこのまま2人を一緒にしておくと明後日の方向に進んでいきそうな予感しかしねえ。そろそろ別れるか。

 カヤノの腕の付け根とんとんと叩いて合図を送る。いこうぜ。


「じゃあ僕はそろそろ行きます。オオキノコには気を付けてくださいね。」


 カヤノがリュックにお弁当箱と水筒をしまい薬草の入った袋を手に持って歩き出そうとする。しかしその歩みは一歩と踏み出さないうちに止まった。もちろんミーゼがカヤノの服を掴んでいたからだ。カヤノが不思議そうな顔でミーゼを見る。ミーゼは眉根を寄せ困ったことを全身でアピールしながらこっちを見ていた。


「あの、ここってどこですか?」

「・・・」


 だー!!めんどくせえぞ、こいつ!!

ミーゼの餌付けに成功したカヤノとリク。次はダメージを与えてギリギリまで削るんだ。あんまり攻撃しすぎると逃げるから注意だぞ。


次回:そしてモ○スターボール


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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