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とりあえず領主はおかしい

感想で指摘いただきボブゴブリン→ホブゴブリンへ変更しました。

素で勘違いしていました。恥ずかしい。

頭がフットーしそうだよ!!

「工事の進捗はどうだ?」

「ただいま6割弱と言ったところです。計画通り進んでおります。心配されていました治癒魔法を使える者の不足も例の薬屋のおかげで十分賄えております。」

「そうか。」


 老執事の報告を書類の山がうず高く積まれた執務机の奥で聞いたバルダック領主ハロルドの気難しげな顔が少し緩む。やせ気味の表情のわかりにくいその顔に人前で感情が現れることは珍しい。ただ細身のひょろっとした体型とギョロッとしたくぼんだ目、そして白い髪のせいで幽鬼のようだと陰で言われるハロルドが表情を緩めたとして気づくのは長年の付き合いのあるこの老執事のような者だけだろう。


 工期が遅れるということはハロルド自身の計画が遅れるということに等しい。街の防衛力を高めるということは急務だ。ただ、大規模な工事であるため毎日怪我人は出る。専門の者ばかりを使っている訳ではないので当たり前だ。そしてそれを放置すればどうしても現場の士気は下がる。次、自分が怪我をした時同じように治してもらえないかもしれないと思われてしまうからだ。そのために治癒魔術を使えるものを領主として雇ってはいるし、教会や個人的に治療院を開いている者もいる。


 だが、今バルダックに治癒魔術を使えるものはほとんどいない。バルダックの東隣の領であるケープハル領において原因不明の感染症が蔓延し、治癒魔術の使える者の派遣を依頼されたからだ。バルダックとケープハルは古くからの付き合いであり、ハロルド自身もケープハル領に年に数度は訪れている。さらにバルダックへの拡大を防ぐ意味や以前バルダックで同じような感染症が起こった時に助けてもらった恩もあり、この危機に対して手を差し伸べないということは出来なかった。


 領軍にいたほとんどの治癒魔法が使える者と冒険者ギルドを通じた募集、そして懇意にしている治療院の者などがケープハルへ向かっているため残っている治癒魔法の使える者は旧都市の者たちの対応をするだけで手いっぱいだ。もちろん最低限の人員は領軍には残しているのだが、何があるかわからないこの世の中、いざと言う時に既に治療で魔法を使ってしまったので治癒魔法が使えませんということが起きては困る。ハロルドとしては頭の痛い問題であった。


 そこで目を付けたのが、現在治療院を開いていない住民の中で治癒魔法の使える者をスカウトすると言うことだった。それは全く当てがないわけでなく、外街の崩壊時に救護所で自ら働いていた人員を優先した。特別報酬を払ったため本人の情報がわかっており、さらにそのような奉仕精神のある者であれば現状を伝えればスカウトできる可能性が高いと言う目算もあった。


 その中でも特にスカウトの対象となったのは2人の人物だ。

 1人は薬屋をしていると言うアルラウネの女性、フラウニ。この者は治癒魔法を一日中使えるという魔力量に加え、薬屋と言う関係上、その患者に合った薬を調薬できるという強みがあった。

 そしてもう1人はフードをかぶった少女だ。フラウニと同じように治癒魔法を一日中使えると言うだけでなく、特筆すべきはこの少女が治療した者の治癒後の死亡率がかなり低かったことだ。

 治癒魔法で治療されたにもかかわらず、治癒後になぜか死亡する患者は一定数存在する。その原因は未だ判明しておらず、治癒術師たちの中でも研究課題とされているところだ。それをこの少女は10にも満たない年齢で成し遂げている。天才と言えた。

 ただこの少女については10歳未満と言うことで名前さえわかっていない。また神の祝福を受ける前であるため領軍にスカウトすることも出来なかった。しかし今回の治療の手伝いと言うことであれば問題は無いと判断されたのだ。


 フラウニの居場所はすぐにわかった。なぜなら薬屋の必要性から領主自らが建てた店に住まわせていたからだ。訪問し事情を説明する兵士に対し、すぐに了承の返事をするかと思われたフラウニだったが、予想に反しフラウニは首を縦に振らなかった。自分の本分は薬屋であり、ここでポーションを作ることでそれに応えたいというのが彼女の主張だった。

 その報告を聞いたハロルドはこめかみを押さえ渋い表情をしたが、さらにもう1人の目的の少女、カヤノがその店の従業員と聞き頭を抱えた。有望だと思われていた2人が両方とも当てが外れたとなれば当然だ。

 しかし朗報もあった。フラウニの店からお試しということで兵士が持ってきたポーションを使用してみたところ、通常のポーションよりも傷の治りが早く、さらには味までましだと言うことがわかったのだ。


 ポーションは薬草から作成するため、薬草独特の匂いと苦みが一般の人から嫌われていた。しかしフラウニの作ったポーションはそれがかなり軽減されており、しかもその効果は通常のポーションよりはるかに良い。しかも値段は通常のポーションと変わらないのだ。

 ハロルドは即座に通常の1.5倍の価格でフラウニの店からポーションを買い取ること、そしてそれを防壁工事や復興作業で怪我した者のために使うことを決断した。そしてそのポーションや追加で雇った治癒魔法を使える者のおかげもあり何とか工事の進捗を保つことが出来ていたのだ。


 ハロルドは緩んでいた表情を引き締めると老執事に対して指示を出していく。具体的に言えば報告された文書などの不明点の再報告や、街の整備計画の修正点、ただ単に書類の様式の不備などそれは多岐にわたった。防壁や復興で多大な仕事に忙殺されながらも、細かい点まで重箱の隅をつつくように指摘するハロルドは一部の部下からは蛇蝎のごとく嫌われている。他の仕事があるのに下手をすれば呼び出され、ネチネチとここは空白を開けるはずだが?などのただ書式の違うことでさえも指摘され叱責されるからだ。そんな叱責を受ける時間があるならば他の仕事をしたいと言うのがその者達の正直な思いだった。


 一通り指示を出し終え老執事が退出し、ハロルドは大きな息を吐く。そして周りに静かに佇む嫁たちに目をやり、そして触れ合おうと立ち上がったところで扉がノックされた。


「何だ!」


 お楽しみを邪魔されたハロルドのいつもよりも低くドスが効いた声に扉を叩いた老執事は躊躇したのか一拍合間を置いた後、それでも要件を告げる。


「お客様が来ております。」

「後にしろ。」


 ハロルドは即座に却下する。なぜなら重要な人物であれば名前を告げられることがわかっているからだ。お客様と言った時点でハロルドが待たせても問題ない人物であるのだ。今はそれよりも執務の合間の嫁との触れ合いの時間をハロルドは楽しみたかった。

 しかしそれでも老執事は言葉を続けた。


「リーングと言う方が商品を持ってきたと言っております。」


 その言葉に先ほどまでのいらだっていた様子が嘘のようにハロルドの顔に笑みが浮かぶ。老執事の言う商品と言う言葉が気に障ったが、今はそれを叱責する時間さえ惜しかった。新しい嫁が来たのだ。早く迎えなければと言う使命感がハロルドを促す。


「すぐに呼べ。」

「はい。」


 老執事の去っていく足音が小さくなるのを聞きながら、ハロルドは待望の花嫁の登場を今か今かと待ちきれない様子で待っているのだった。





「失礼します。本日はお日柄もよろしく・・・」

「挨拶はいらん。さっさと見せろ。」

「おやおや、これは失礼を。」


 げっへっへと汚らしく笑うそのカエルのような潰れた顔をした背の低い男がハロルドが待ちわびたリーングだった。ぼこぼこと吹き出物の出たその顔を嫌うメイドなども多かったがハロルドはそんなことは気にしない。むしろハロルドの嫁をしっかりと連れて来てくれるその選定眼を買っていた。


「おい、開けろ。」


 リーングが指示を出すと、そばに控えていた2人の大男が持ってきた1メートル四方ほどの大きな木箱の蓋を開ける。そして木箱から1人の女性が持ち上げられる。その瞳には光が無く、その蔦の手足はだらんと伸びきっている。まるで人形のように意思を感じさせないその姿はそれでも美しいの一言だった。大男にソファーに寝かされたその女性の顔にはくすみ1つなく、その翠の瞳は大自然を現すかのよう。そしてその蔦の生えた手足はまるで朝露に濡れた新芽のごとく青々と茂っている。

 女性は服を一切身につけておらず、その首に巻かれた首輪だけが異彩を放っていた。


「すばらしい。」


 ハロルドがその女性の体へと手を這わせる。女性の表情は全く変わらない。それどころかハロルドに目を向けてもいなかった。その視線は天井を映したまま固定されている。しかしハロルド自身もそんな彼女の様子を全く気にせず、狂喜の表情を浮かべたままその肢体を確かめることに集中していた。

 そんなハロルドの様子を老執事、リーング、そしておつきの大男2人は何も言わず見ているだけだった。


「申し分ない。報酬を受け取れ。」

「はい、確かに。」


 老執事が渡した金貨の入った袋をリーングは受け取る。ここで中身を確かめるようなことはしない。それだけの信頼関係がハロルドとリーングの間にはあった。ハロルドの心は既にリーングにはスプーン一杯ほども向いてはいない。新たに加わった妻にご執心なのだ。「では。」と言いつつ去るリーングやうやうやしく礼をして老執事が退室するのにも構わず、ただ新たな妻の美しさにほれ込んでいた。


「美しい妻を迎い入れることが出来た。今日はここ最近で最良の日だ。皆も歓迎してくれ。」


 ハロルドが笑う。それに応える者はいない。ただ新たに来たアルラウネの女性と同じように首に首輪をつけた8名の女性は壁際に佇みながら意思のない視線をハロルドの方へと向け続けているだけだった。

やあ、私はハロルドだ。乗っ取りに成功したことを記念して次回は私と妻たちとの運命の出会いから夫婦生活について語ろう。楽しみにしているがいい。


次回:変態領主の日常


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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