とりあえず自分でポーションを作る
ふっふっふ、ついに手に入れた、手に入れたぞー!!
いや、実は困ってたんだよな。何に困ってるかって。それはもちろん白い薬草の処分方法だ。いや、保存方法がわかったからって調子に乗って薬草畑を2つに増やしたのが敗因だな。その在庫の増えること増えること。もったいないから捨てるなんて出来ねえし、かと言ってせっかく作った畑を潰すのももったいない。
そう、MO・TAI・NAI!
俺はもったいない精神が溢れる日本人なんだよ。とは言えこのまま在庫を増やし続けても面倒なので何とか減らしていきたいと思っていたのだ。カヤノが食べるのにも限界があるしな。
そんな俺にとっての救世主、それこそ今回手に入れた調薬道具たち。まとめて調薬キットだな。これを使って保存した白い薬草を減らしていけばいいんだよ。グリーンだよ!!
おっと、何か寒気が・・・。ふぅ、やっぱり深夜のテンションは怖いな。ちょっと落ち着こう。
この半年、俺だってただカヤノの調薬の練習を見ていたわけじゃない。右手だけだが手伝っていたし、繰り返されたフラウニの指導もちゃんと覚えている。というか調薬するときに歌う歌が耳に残っちゃってるしな。しかも最近はカヤノもそうなのか楽しい時に出てくる鼻歌までそのフラウニ作詞作曲の調薬の歌になってるし。
そう、目を閉じなくても簡単に思い出せる覚えやすいフレーズ、ふん、ふ~ん。あっ歌うつもりなんてなかったのに歌っちまった。まずい、かなり重症だわ。
よしっ、気を取り直して細かいことは気にせずに作業を始めよう。別に失敗してもいいんだ。材料は腐るほどあるし。まあ腐らせないために作るんだけどな。
作り方はとりあえずポーションと同じ方法にしてみる。とは言っても普通のポーションじゃない。濃縮ポーションと呼ばれるものだ。
簡単に言えば普通のポーションの濃いバージョンだ。使い方としては濃縮ポーションを一本持って行き、使う時になったら10倍に薄めると少し劣化するが普通のポーション10本分として使えるようになると言うちょっと変わったポーションだ。
この濃縮ポーションは遠出をする冒険者や商人なんかに人気の商品らしい。水は水魔法と言う魔法で生み出せるらしいので持ち運ぶ荷物が減るって言うのが大きな理由だ。ポーション一本につき100ml程度なのでそう大したものじゃないかと思ったんだが、旅の最中に割れるリスクなどを考えるとポーション自体も梱包する必要があるし、商人ならそんな余分なスペースがあるなら利益のある物を乗せたいと言うのが実情のようだ。
どうもあんまり魔法ってものに関わりが無いからそのことが頭から抜けるんだよな。結局水も持って行くならスペース変わらなくね!?と思っちまうんだ。ここらへんも慣れていかないとな。
で、なんでその濃縮ポーションにするかって言うと、普通のポーションだと体積が増えるだけだからだ。当たり前だよな。細かく砕いた薬草に同じく細かく砕いた魔物から採取できる魔石って言う赤黒いガラスみたいなやつを混ぜて、そのうえ水を足しているんだからな。
ちなみに薬草と比べると大体10倍くらいのポーションが出来る計算だ。カヤノがいつも採ってくる薬草が500グラムぐらいなので、ポーションとしては50本、約5キロ分のポーションが出来る。ちなみにポーションの価格は通常1本で100オル。今のフラウニの所は需要が高まっているので1本150オルで売っているが売り切れている。カヤノの分だけで7,500オルの売り上げだ。カヤノに渡している薬草の報酬は相変わらず200オルなので、そうだな。魔石や水そして瓶がどれだけするのかわからないがぼろもうけって言うのは確かかもな。
そして濃縮ポーションなんだがこちらは濃縮と言うだけあって出来る量は薬草の8割程度しか出来ない。つまりカヤノの薬草全てを使っても出来るのは4本だけ。そして値段は現状で1本2,000オル。手間が掛かる分通常よりも高めに設定されているがそれでもたまに注文がある。1本換算で言えば値段は2倍なんだがそれだけの価値があると思われているって事だろう。
まあそんなポーション談義は別にしてここで重要なのは元の薬草よりも2割も体積が減るってことだ。しかも液体だからそのまま摂取できるなら普通に薬草を食べるよりもはるかに楽になるはずだ。濃縮ポーションをそのまま飲んでも人体に悪影響は無いらしいからな。効果はちょっと良くなる程度らしいのでそんなもったいないことをする奴はいないらしいが。
そんなことを考えながら乾燥させた白い薬草を薬研に入れすり潰していく。「可愛く、可愛く、細かくな~れ」は4拍子のリズムなのでそれに合わせて腕を動かす。乾いた薬草が少しずつ小さくなっていき、大体1ミリ程度の細かさになれば完了だ。とりあえずは実験のつもりなので濃縮ポーション一本分の量をすり潰してお椀へと入れておく。
次は魔石だ。一応種類によって効果が上昇したりするらしいが、ポーションにいい素材を使ってもその効果は微増するくらいらしく通常、ポーションに使われるのは安い魔石らしい。いわゆる弱っちいゴブリンとかの魔石だな。強い魔物の魔石は他にも有用な使い道や高級な薬なんかに使われるらしい。
で、俺が使う魔石はもちろん俺が埋めた魔物たちから取れた魔石だ。魔石なんてもんが取れるなんて知らなかったから埋めたまんまだったホブゴブリンたちからも魔石は回収してあるし、畑を襲いに来た主にゴブリンやハイエナっぽい奴の物もある。とりあえずは一番多いホブゴブリンの魔石を使用しよう。
まずホブゴブリンの魔石を布に巻く。そしてその上からトンカチをえいやっとばかりに振り下ろす。バリンと割れた音が響くがそれで終わらずに数回同じように振り下ろして大雑把に砕いていく。大きな塊が無くなったところですり鉢に入れてすり棒で大きなものは砕きながらどんどんと細かく粉状にしていく。食用塩くらいの細かさになれば大丈夫だ。
細かくした薬草と魔石をしっかりと秤で量を測った後、鍋に入れてそこに水を入れるんだがフラウニの調薬室にあるような水がめなんかないので薬草畑にいつもかけている井戸水を酌んできてこれもしっかりと量ったうえで鍋へと入れる。
後はこの鍋を魔石で動くコンロみたいなやつにのせて火加減に注意しながら煮るだけだ。とはいってもこの段階が一番気を遣うんだけどな。沸騰させちゃいけないんだが、少し泡が出る程度の火加減という気の抜けない状態で30分ほどかけて煮るのだ。ただのポーションなら5分程度でいいから楽なんだけどな。
いつもカヤノとフラウニがしているこの段階での治癒魔法なんだが俺には使えないからどうしようもない。一応俺にも使えないかとカヤノにコツを聞いてみたんだが、「体の中にある温かい何かにお願いすると出来ますよ。」と説明になっていない説明をされた。それでもやってみようとしたんだぞ。まあ当然のごとく無理だったが。
とりあえず火加減を見ながら格好だけでもしておこう。なんとなく悔しいしな。ほらっ、治癒魔法もどきだぞ。ちゃんと頑張れよ。
そんな馬鹿なことをしながら過ごすこと30分、十分にエキス?が染み出したところで濾して瓶に詰めれば濃縮ポーションの完成だ。完成だ・・・、ってこれは何だ。
出来上がったのは真っ白な液体だ。まあこれは理解できる。ポーションも緑色の液体だしな。理解できないのはなぜかその液体から細かい泡がシュワシュワと立ち上っているのだ。なんかカ○ピスソーダみたいだな。よし、見なかったことにして次だ、次。
おれはそっと瓶の蓋を閉めた。
だー!!なんなんだ、こいつは!!
最初の濃縮ポーションづくりから数回、分量を変えて作ってみたのだが結局泡の量が変わるだけでどうやっても出てしまうことがわかった。そろそろ日も昇るころなのでカヤノのところへ戻らないといかん。このカ○ピスソーダどうすっかな。さすがに毒ってことはねえだろうがカヤノに飲ますわけにもいかんしな。とりあえずカヤノに相談してみるか。
道具を片付けカヤノのところへと戻ると、ちょうど日が昇りカヤノが地面に敷いた布団から起き上がるところだった。間に合ったみたいだな。
「おはよう、リク先生。」
(おう、おはよう。ちょっと相談があるんだがいいか?)
「なんですか?」
カヤノが布団を畳みながら俺の方を見たので作った白い薬草の濃縮ポーションをカヤノに見えるように地面に出現させる。最初に作ったものなので普通の炭酸飲料なら既に炭酸が抜けているはずだがこいつはいまだに細かい泡が立ち上ってやがる。本当になんなんだこいつ?
「うわっ、ミルクですか!?ありがとうございます。」
(ちょっと待て!!)
俺の警告が目に入らなかったのかカヤノは瓶を手に取るとそのまま一気に飲みだした。俺が地面を動かそうとすることの出来ないほどの早業だ。カヤノの喉がこく、こくっと鳴っている。瓶の傾きが急になっていく。おい、大丈夫なのか。
心配する俺を横に、すべて飲み干したカヤノが瓶を置き、そしてその目がかっ!と開いた。
「うーまーいーぞー!!」
その大声に近くにいた小鳥たちが驚いて飛び立っていき、通り沿いの家から何事だと窓を開く音が響いた。おい、馬鹿。やめろ!!
「口に含んだ瞬間に口の中に広がる甘み、そして口の中で踊る泡のはじけるパチパチとした感覚がその甘みを引き立てています。そしてそのパチパチが喉を通る時に刺激を与え、何とも言い難い新しいのど越しが心を惹きつけてやみません。そして飲み干した後に鼻から広がる清涼感。思わずもう一杯と言いたくなります。120点と言えるでしょう。」
おい、お前はどこの評論家だ。そしていつそんな語彙を習得したんだ。食べ物関係の時だけ変な才能を発揮するんじゃねえよ。
「リク先生、何ですかこれは!とってもおいしいです。」
カヤノが地面に両手をつきかぶりつくようにして俺を見ている。カヤノの目が本気だ。なんていうか初めて白い薬草を食べた時以上の気迫を感じる。
(白い薬草で濃縮ポーションを作ったらこうなった。なんか泡が出るから、捨てようかカヤノと相談・・)
「捨てるなんてもったいない。僕が全部飲みます!!」
うわぁ、最後まで書ききる前に言われたわ。まじで必死だな。そんなにうまいのかこれ?今すぐ飲みたいと興奮するカヤノを俺一人ではどうにもできず、宿のおばちゃんに「朝っぱらからうるさいよ!!」とどやされ、カヤノが落ち込んで何とか収拾がついた。
森で薬草の採取をしながら話し合い、しばらく様子を見ながら毎日一杯ずつ飲んで、一週間変化がなければ量産することで決着がついた。説得するのにかなり疲れたがな。
せっかくだから名前を付けたいというカヤノにカ○ピスソーダと言ったらなぜか却下された。解せぬ。
ついに禁断の白濁液を開発してしまったリク。それを開発した者に課せられる宿命を知ったときその重責にリクは耐えられるのか!?
次回:なぜそれは美少女に向かって飛ぶのか?
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




