とりあえず夜の活動をする
最近の俺の夜は忙しい。白い薬草を採取して保存用に月光にさらさないといけないし、精霊の畑に侵入した魔物を倒したりや野菜を盗もうとする不届き者を下半身だけ土に埋めたりしないといけないしな。
畑については兵士が巡回してはいるんだがやっぱり夜は見通しが悪いので見逃すことも多いのだ。その点俺は夜目が効くので見逃すことなんてないし、魔物を倒せばレベルアップにもつながるので一挙両得って訳だ。まああのホブゴブリンキングを倒してから一向にレベルが上がらないんだが上限ってことはないよな。それならかなりショックなんだが。まあわかるわけが無いので気長にやっていくつもりだ。
まあそんな風に夜も働く俺なんだが、まあ一か所巡回する場所が増えたわけだ。そこは何処かと言うと・・・真夜中になっても消えない灯り、そしてある者は隠れるように、またある者は堂々と吸い込まれていくその館の正体は!?
もちろん娼館だ!!
そうなんだよ。この復興や新しい防壁の工事が始まってから働き口を求めてやってくる人も増え、それに従って今まで外街では営業していなかった店も出始めたのだ。その中の1つに娼館があるのだ。
いや~、良い響きだね~。娼館。もんもんとした表情で入って行った男たちがすっきりとした顔で出てくるのを見るとやっぱりいいな~と思っちまうんだ。いや、まあ肉体的な性欲なんて地面の俺にはなくなってしまっているんだが、ほら精神的には満たされたいって言う欲求があるわけよ。
あんまり女性には受けが悪いかもしれないが俺としては娼館ってあっても別にいいと思うんだよな。もちろん無理やり働かされていたりしたらそれは論外だが、本人が納得しているんなら別に構わないんじゃないか?だって性欲を持て余して普通に女性を襲おうとする奴だっているんだぞ。そういう危険を下げるために一役買っている神聖な職業じゃないかと思うんだよな。
特に崩壊の直後なんて最悪だったんだぞ。兵士が巡回しているし俺も見回っていたからほとんど被害は無かったと思うが、それでも襲われそうになった女性を助けたのは2回や3回なんて回数じゃない。同じ男として情けなくなったね。とりあえずそいつらは首まで土の中へ埋めて(強姦魔)って地面に書いて放置しておいたが。兵士さんが掘りだすのが大変そうで申し訳なかったがあれくらいがちょうどいい罰だ。
おっと話がそれたな。で、その娼館なんだがまあ娼館だから娼婦と呼ばれる女性方がいるわけだ。うーん。何となく娼婦って言うのは悪いイメージがあるな。そうだな天使、男たちを癒す天使たちが居るわけだ。この天使の館は男たちが戦いから帰るときに見送るっているシステムらしく俺でも天使の顔を見ることが出来るんだが、その中でお気に入りの天使がいるのだ。
「じゃあまた来なさい。」
「は、はい。」
けだるげな様子で気弱そうな男を見送るこの天使、アメリアちゃんが俺のお気に入りだ。いや外見は赤髪ショートカットで金色の目をしており、そしてその前身は緑の鱗で覆われているいわゆる普通の人ではないトカゲか何かの獣人だと思うんだが、それでも俺はこの子がお気に入りだった。
いや~、異世界に来たばかりのころは二本足で立つ動物みたいな奴無理だろ、とか思っていた頃の俺を殴ってやりたいね。愛は種族を超えるんだな。
俺が気に入っているのはアメリアちゃんのその綺麗な金色の目だ。若干トカゲっぽい縦長の細い瞳が気になりはするもののそれは問題じゃない。客を見るあの目そして雰囲気。あれは根っからのSだ。タイプ的に言えば女王様タイプのSだな。
一般的にSと言われイメージするのは女王様が奴隷を鞭で打つっていうのじゃないかと思う。しかしそれは代表的ではあるが一例だ。Sの中でも色々なタイプがいる。暴行する自分に酔うタイプや相手の嫌がる反応に興奮するタイプ、相手を思いMが興奮することに喜びを見出すタイプ、自分も相手も興奮させ気持ちよくなりたいタイプなど様々だ。
俺、ドSなんだよ~、なんていう奴がいるがそんなのは俺に言わせればナンセンスだ。そういう奴らの話を聞いてみるとそれはただ抵抗できない相手に暴力を振るいたいだけの乱暴者だ。決して性癖なんかじゃない。ただの頭のおかしい奴だ。
性癖としてSと言えるのは相手に合わせられる奴の事だと思う。もちろんMにもいろいろいるし単純に暴力を振るわれることに興奮する特殊な奴もいるからそいつならどんな奴でも性癖はSって言えると思うんだけどな。
ちなみにMにもいろいろいると言ったが、俺は守備範囲の広めなMだな。鍛えていたから多少の暴力では大したことは無かったし、言葉攻めなんかもいける口だ。もちろん男の処女についてはNGだ。そんなところまで突き抜けたくはない。
俺が唯一相手に求めたことは、相手が無理していないかどうかだ。やはり俺が行くのはそういう店になるんだが、はっきり言ってSを舐めている奴が多すぎる。そういう奴は叩けばいいんでしょ、屈辱的な言葉を言えばいいんでしょって言うのが透けて見えるのだ。興奮では無くただの侮蔑の感情しかない相手なんかまっぴらごめんだ。
そう考えるとパラダイス系の店は良かった。ちゃんと嬢の性格を把握してその子に合ったシチュエーションや客をお勧めしてたし。あそこに出会えたのは俺の前世の中で最高の出来事と言っても過言ではないな。
あぁ、ゆかりちゃんに笑顔で踏まれてぇな~。
おっとまた話がずれたな。まあ好きなことはいろいろ脱線するもんだ。
で、件のアメリアちゃんだ。この子は見た感じ逸材だ。偶にいるんだ。こういう根っからのSと言う奴が。その容貌、仕草、言動すべてがマッチしていて矛盾したところが無い。この子こそSの中のS。生粋のSと言ってもいいだろう。いや、まあプレイ自体を見たわけじゃないから間違っているかもしれんが、今の俺なら何でも受け入れるぞ。
おっ、そう考えると今の俺って何でも受け入れられる度量のあるMってことになるよな。だって核さえ気を付ければ何されても大丈夫だし。逆に言えば感覚が無いから何をされても興奮しないってことになるのか。くそっ、どうすりゃいいんだ!!
アメリアちゃんが客を見送った後、少し寒そうにしながら天使の館へと戻っていく。まあ今日はこれで最後だろうな。
この世界の天使の館だが、日本とは違い閉店時間が早い。日本だと大体朝くらいまでやっているんだが、まあネオンきらびやかな界隈じゃなくぽつんと灯りが灯っているだけだし、そもそもこの世界の住人は夜に起きていることが少ないからな。まあその代わりと言ってはなんだが朝が早い。日の出と共に動き出している。電気が普及していないから夜に動くのは効率が悪いって事だろう。
1日1アメリアの時間が終わったので俺はまた見回りに戻る。とは言っても真夜中にもなると人はいなくなるし、野菜泥棒も出なくなるのでそこまで重要視しなくてもいい。時折すれ違う兵士にご苦労様と聞こえない挨拶を交わす程度だ。そして見回りの間の時間を縫って俺は地下で自分を鍛えることをしている。
まあとは言ってももちろん筋肉があるわけじゃないので筋トレするとかではない。ゴーレム形態の習熟訓練だ。
この前の外街の崩壊時には俺の活動範囲の狭さ、そして活動範囲外での活動時間の短さがネックとなっていた。移動については今はカヤノに核を持って動いてもらっているためそこはカバーできるようになったんだが、それに伴って新たな問題が発生したのだ。
つまりカヤノを危険な場所に連れて行かなくてはいけないと言うことだ。
俺としてはカヤノをそんな場所へ連れて行きたくはねえが、カヤノの性格上困っている人が居たら自らの危険を顧みず突っ込んでいきそうなんだよな。ってことでカヤノの安全を守る必要があるわけだ。しかも他人にばれないような方法で。
そう考えて俺が必要だと思ったのは道具だ。具体的に言うなら消防士定番装備の万能斧と鳶口、シャベル、梯子だな。
万能斧って言うのはその名の通りいろんな活用のできる40センチ弱の斧で、斧として建物を破壊できることは当たり前で、その他にのこぎり、鳶口、バール、スパナとしても使える頼もしい相棒だ。ロープをつけるための穴が開いているのも特徴と言えば特徴だな。これは純粋に使い勝手がいい。日本で使っていたような電動の道具は使えないこの世界じゃあ、この汎用性のある装備があれば何かと役に立つだろう。
そして鳶口は2メートル弱の木の棒の先に鳥のくちばしのような金属の突起がついている道具だ。用途としては住宅の瓦屋根を落としたり、火災現場で燃えているかもしれない部分を探ったりするときに使うもんだな。これは危険な場所へ近づく前にそこを探るために使えるだろう。
で、次のシャベルは言うまでも無いな。まあ穴を掘るにしてもなんにしても便利な道具だ。最後の梯子についても同じか。別にこの二つは消防特有の道具って訳でもないし説明は不要だろう。
この他にも使える道具はあるが、当面はこの4つを扱えるようになることを課題にしている。具体的に言うならゴーレムボディの手や足として変形させる訓練だ。
ゴーレムボディとの手や足として認識している間は俺の力が及ぶのか、壊れにくいし、ある程度壊れたとしてもすぐに修復が出来る。しかしいったん俺から離れると硬くしたとは言ってもしょせんは土だ。より強い金属などに当たれば簡単に壊れる。だから道具をゴーレムボディの一部として認識する必要があるのだ。
ちなみに万能斧、鳶口、シャベルについては比較的すんなりと出来た。まだ形が不格好だったりするがこれも訓練を繰り返していけばいいだけの話だ。そのうち十二分に威力を発揮できるようになるだろう。逆に、梯子については未だにうまくいっていない。なんて言ったらいいのかわからないが意識の問題とでも言うのか?
万能斧とかの手に持つ道具は、道具を手のように使うって言う意識があるからすんなりいったんじゃないかと思うんだが、梯子って言うのはあくまで足場だ。場であって足では無い。そんな意識が俺に残っているんだろうな。今は集中して一段の梯子を作るくらいしか出来ない。しょぼいなと自分でも思わないでもないが、ここまで来るためにかなり苦労したんだ。何回作っては壊すを繰り返したことか。こっちは地道に進めるしかねえだろうな。
そんなこんなで訓練をして日が出る前にカヤノの元へと戻る。カヤノの健やかな寝顔を見ながらこいつが幸せになればいいな~とジジイみたいにぼ~っと考えるのだ。そして朝が来る。
「おはよう、リク先生。」
(おう。)
またいつもの朝が始まる。
それは命を守り、そして命を奪うことを目的とした調整者。何億、何兆もの命たちがそのものへと挑みそして散っていく。そして幸運を手にした者だけがそのものを超えていくのだった。
次回:コン○ーム
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




