とりあえず落ち着いてくる
まさか、まさかの失態をしてしまいました。申し訳ありません。
大切な嘘予告を忘れるなんて。
取り急ぎ昨日の後書きを追加しましたので、興味のあるかたは是非。そうでないかたはスルーでお願いいたします。
m(_ _)m
って言うか牢屋を破ったってちょっとヤバいだろ。日本で言えば刑務所を襲撃したって事だろ。フラウニが好き好んでそんなことをするようには見えねえんだが、意外とヤバい奴なのか?しかし本人でさえ疑問形だしな。
「あの、何で・・・」
「ひどいんですよ~。私が薬師として調合すると匂いがひどいから牢屋でやれって言ったのは長で、たまたま調合に失敗して爆発しちゃっただけなのに~。カヤノさんもひどいと思いません?」
「え、ええっと。」
カヤノが眉を下げながら困った顔で返答に詰まっている。そんなカヤノの様子を見つつもフラウニはぷんぷん、と言ったわかりやすい怒り方をしていた。
ふぅ、そんなことか。ほっとしたぜ。フラウニと深く付き合っている訳じゃあないがそれでも自分から悪いことをするようには見えなかったからな。不運が重なって意図せずに牢屋を破壊しちまったのか。しかしそれだけで追放なんてかなりきつい罰だな。故意じゃないんだし少しの間牢屋に入るとかで・・・あっ、その牢屋を壊したんだったわ。
「壊れた結果、重罪犯が3人逃げただけなのにね~。」
はい、アウトー。結果的に脱獄の手伝いしちゃってんじゃん。しかも重罪犯って・・・。
いや~、そりゃあ追放にもなるだろうよ。気の毒だとは思うがそう判断されたのも仕方がねえだろ。いや重罪犯がどんな罪を犯したのか知らんがロクな奴じゃねえだろうし。
「そ、そうなんですか。大変でしたね。」
おぉ、何と言うかカヤノが大人な対応をしてやがる。若干視線がそらされているのは俺も仕方がねえと思う。なんていうか悪い奴じゃないんだが、感性が独特すぎてその空気に飲み込まれるとちょっとまずい気がするんだよな。
「そうなんですよ~。それに重罪犯の内の2人はすぐに捕まったんですよ。逃げられたのは集落の役目を放棄して男と逃げた人だけなのに~。」
「えっ!!」
えっ!!それは・・・。
カヤノの顔が真剣になりグイッと身を乗り出して顔を近づける。
「それ、いつの話ですか!?」
「う~ん、私がこの街に来たのが2年前くらいだからそのくらいね~。たぶん。」
おい、カヤノ!!
カヤノの腕をトントンと叩く。カヤノもうんうんとうなずいていた。時期も罪の内容も一致する。もしかしたら別人かもしれない可能性はあるが、逆に言えば本当にカヤノのお母さんである可能性があるってことだ。
カヤノは集落の場所はわからないって言っていたから探そうなんて考えてもいなかったがフラウニの話が本当なら一度その集落へ向かうのもいいかもしれない。カヤノのお母さんが逃げているならそこにはいないかもしれないが手がかりぐらいはわかるだろ。
また後でじっくりとカヤノと相談するとしてとりあえずは・・・
「そろそろ戻りましょうか~。」
「は、はい。」
そうだな。集落の位置を聞きたいところだったが焦る必要は無い。直ぐに行くことが出来るわけじゃねえし、その必要も無い。とりあえず今は治療の方が優先だ。フラウニとはこれからも付き合っていくことになるだろうしおいおい聞けばいいだろ。
カヤノがフラウニのお椀をもらってそれを返却に行く。もちろんこのお椀とスプーンは再利用されるので返却しないと足りなくなっていってしまうのだ。まあただのお椀とスプーンだからわざわざ盗もうとするやつなんていないと思うが。
午後からも新しい怪我人が運ばれてきたりしてカヤノと2人でずっと治療をしていた。フラウニに言われてから周囲を見ていたが、確かにカヤノのようにずっと治癒魔法を使っているのはフラウニぐらいだ。他の人はたまに茶色の瓶に入った何かを飲んでいたり、テントの外へ出て休憩したりしている。
俺たちも目立たないためにはそうするべきか、とも思ったんだがカヤノの目を見てやめた。カヤノは目の前の怪我人を一生懸命治療しようと必死になっていた。そんなカヤノに余裕はあるけれど目立たないために適度にさぼろうぜなんて言えねえよ。もちろん体力には限界があるから適度に休ませはするけどな。
日暮れ頃になると治療を待つ人も少なくなり、だいぶ余裕が出来るようになった。治癒魔法なんて言うチートがあるおかげで手術する必要が無いからその治療にかかる時間も少ないし、物資も必要ない。日本でもこの魔法が使えればとも思うが戻る方法もわからねえし、そもそも俺は地面だしな。考えても仕方がねえことなんだが。
余裕が出来たカヤノは休憩を取りつつ、たまにフラウニと話している。余裕が出来たのは良いことなんだが、逆に言えば救助される人が少なくなってきたってことだよな。
災害救助における生存率として72時間の壁があると一時期言われていたが、それは嘘だ。72時間と言うのは水を摂取せずに人間が生きられる時間の目安であり災害救助には当たらない。実際の生存率は時間が経過するごとに落ちていくし、もし壁があるとすれば統計上では24時間程度だったはずだ。つまりこれから運び込まれる怪我人はどんどんと少なくなっていくはずだ。
頑張っているカヤノには悪いが、おそらくこれから来るやつらは死んでいる奴の方が多い。もちろん奇跡が起きないわけじゃない。しかしめったに起こらないから奇跡なのだ。そんな可能性は考えない方がいい。
フラウニとカヤノが夕食を食べに行く。
ここでカヤノが治癒魔法で救った命、もし俺と一緒に外街を回って救助を続けた場合に助かったかもしれない命。どちらが正解だっただろうか。いや、今外街は兵士が救助に回っている。そんな中でカヤノと俺が動き回れば今以上に目立つだろう。それは出来ない。
そんな益体も無い事を考えながら俺は楽しそうに話すカヤノを見ていた。
コンコン、と重厚なドアが鳴らされる。数代前がこだわって作った精緻な彫刻をされた芸術作品と言っても良い扉だ。その男にとってはどうでも良いものだったが。
「入れ。」
その言葉に「失礼します。」と言いつつ1人の執事が入って来る。男が子供のころから変わらぬしゃんとした姿勢で、変わったのは顔のしわと白髪が増えた髪くらいだった。
「報告します。外街については9割5分の家が崩壊。残った家も再利用は難しいかと。」
「そうか。」
その報告に男の感情は全く動かない。それは既にわかっていたことだ。実際男にとって外街などある意味でどうでもよかった。あくまでバルダックの街は防壁の中のことであり、外街はただ単に勝手に出来たにすぎないからだ。むしろ治安の悪化や病気を招く恐れもあり頭の痛い部分だったのだ。
「住民については避難所を開設し対応しております。配給を行うため食料の備蓄が心配されますが。」
「良い。人は必要だ。今後の計画のためにもな。むしろこれで外街の奴らは働き口と住む場所が必要になったわけだ。こちらとしては都合がいい。」
男がニヤリと悪い笑顔で笑う。人の不幸を喜ぶその顔に老執事はピクッとこめかみを動かしたが表情を変えることは無かった。
「原因不明のこの外街の崩壊、もしや・・・」
そこまで行って、老執事は言葉を飲み込んだ。男の笑みが深くなったことに気づいたからだ。これ以上関わることは得策ではない。そう判断するには十分だった。あくまで老執事は表側を世話する役目しか負っていない。そちら側に足を踏み入れるのはためらわれたのだ。そして老執事は話を変える。
「アーレリウス商会より避難者用の住居の建築などの援助の申し出が来ております。いかがいたしましょうか?」
「好きにしろ。私は忙しい。」
「はい、では失礼いたします。」
老執事は恭しく礼をし、そのバルダック領主、ハロルド・ラッセルの私室から出て行く。背中に伝う冷や汗を感じながら老執事は急ぎ足で去って行った。
「外街が崩壊した。これで計画が進む。君たちをより守れる街にしてあげるよ。」
ハロルドが愛しの者たちへと告げる。その目には先ほどまでとは打って変わり、とろけるような思慕の情が浮かんでいた。その熱い視線を生気のない十数個の瞳たちが見返していた。
リクとカヤノの知らぬ間に動き始めるバルダック領主の策謀。それは外街に住む二人を否応なしに巻き込んでいく。
次回:やったね、リクちゃん。物語が動くよ
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




