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とりあえず考えを整理する

 とりあえずいい物を見ることが出来たので気持ちが落ち着いた。気持ちが落ち着いたついでに今の状況を整理してみよう。状況の整理は消防士として文字通り命綱だからな。


(出来ること)

・視線を動かす。※相手には伝わらないっぽい。

・音を聞く。※ただし言葉はわからない。


(出来ないこと)

・動けない。

・話せない。

・感触が無い。※微妙にあるような気はする。


(状況)

・キュベレー様に地面に転生させられた?


 整理するまでも無かったな。情報が少なすぎるし、情報を得ようにも体が動かねえからこの場所から移動できないし、言葉がわからないから会話を聞いて情報を仕入れるって方法も使えねえ。詰んでないか、俺?

 あれ~、俺の読んだ転生ものと全然違うな。少なくとも生物じゃないってパターンは・・・いやあったけどそれでも全く動けないってことは無かったはずだ。いや、まだ気づいていないだけで俺にもそんな力があるのか?


 うぉおおお!!目覚めよ、俺のコ〇モォォォォ!


 ふぅ、いい汗かいた。

 いや~、そんなはずないよな。そんな簡単に超常的な力に目覚めるなんてどこの主人公だよ。俺はしがない公務員なんだ。脇役でいいんだよ脇役で。

 後は定番と言えばステータスか。こういう転生ものにはスキルとか魔法とかがあってそれが見えるステータスがあったりするんだよな。


 えっと、ステータス!


 何の反応もねえな。他にはどんなのがあったかな?


 ステータス・オープン!わが力を示せ!開示!・・・


 はぁ、はぁ。そうそう都合良くそんなものが開くなんて全く思ってなかったぜ。ふぅ。ちょっと一時間ばかり無駄にしたが、特にやることも無いしな。とりあえずこれはいったん保留だ、保留。


 そんなこんなで高尚な実験的試みを行っていると、だいぶ日が昇っていた。それに伴って人通りも多くなっている。そしてその人の波が否応なく俺に現実を突き付けてきた。

 俺が地面っぽいってことじゃねえぞ。いや、まあ人波に踏まれても全く痛くも無いからそれも再確認できたんだが、それ以上に驚くべき発見があったんだ!!


 人じゃない人がいる!!


 いや、禅問答じゃないぞ。正確に言えば毛むくじゃらの犬人間が二足歩行で歩いていたり白い毛で覆われ、ウサギ耳を生やした少女が店でパンを買っていたりするのだ。犬人間の尻尾がぶんぶんの揺れていたり、ウサギ耳の少女の耳がピクピクと動いていたりしていて、作り物には見えない。あれは絶対に自前だろ!

 それにしてもこう来るのか~。

 異世界であることを確信した興奮とそして失望が同時に俺を襲ってくる。なんで、なんで猫耳少女だったりしないんだ!小説とかで読んだこういう動物とのミックスっぽい種族は普通の人間に耳と尻尾がついたような容姿をしていたはずだ。決して今俺の目の前で展開されているような、全身毛むくじゃらのリアルしまじ〇う達ではないはずだ。


 ちくしょう、なんでだよ。なんでなんだよ。いくら俺のストライクゾーンが広いとはいえさすがに二足歩行するように進化した動物に見える彼女たちとメイクラブなんて難易度が高いぞ。いや、慣れれば行けるかもしれないが、そうしたら人間として何かを失いそうな・・・あっ、そういえば俺、もう人間じゃなかったわ。


 そんな彼ら彼女らであるが当然のごとく人々からは受け入れられている。まぁ、そうだよな。この世界ではそれが普通なんだろう。普通の人間の男と兎の獣人が一緒に腕を組んで仲睦まじく歩いていたりするし、それを白い目で見るような奴もいない。異種族交際は普通の様だ。


 それにしても日が昇ってくるにつれて往来が激しくなってきたな。獣人には猫や犬、ウサギ、狐、狸などと本当にさまざまな種族がいるようだ。まあ、地球人の俺からしたら不自然で違和感しかないんだが、いや、人でさえない俺に比べればどうってことないな。あっちは生き物、こっちは無機物だからな。


 ハッハッハ、はあ・・・


 夢だと思って何もかも投げ出して現実逃避したいところだが、そんなことをしても何にもならないことは火を見るより明らかだ。動くことが全くできないのに思考まで放棄したら本当にただの地面になってしまいかねない。せめてキュベレー様にもう一度会って、文句を言って足蹴にされなければ。


 よしっ、やる気が出てきた!


 まず、ここは異世界で俺は地面として転生してしまったと仮定する。今の俺に出来ることは見ることと聞くことだけだ。現状の打開策を考えるにしても圧倒的に情報が足らない。


 ここはどこなのか?

 魔法はあるのか?

 モンスターはいるのか?

 王制なのか民主制なのか?

 身分制度は?

 文化の進行度は?

 技術の進行度は?


 そして、俺のような存在はいるのか?


 知りたいことはそれこそ星の数ほどある。しかし目で見える範囲だけの情報ではいずれ手詰まりになってしまう。そのためには一刻も早く言葉を覚える必要がある。幸いと言っていいかはわからないがここは言葉に溢れている。通りの両脇の建物はどうやら店のようで通りかかる人たちに声をかけたり逆に声をかけられたりしている。聞きなれない言語ではあるが周囲にはこの言葉を話す人しかいないのでそのうち理解できるようになるだろう。

 まあ正式に教えを乞うわけじゃないからちょっとばかし間違う可能性もあるがそんなことは些細な問題だ。


 そうと決まればやることは簡単だ。


 俺は通り過ぎていく人々を観察しながら会話を聞く。ああ、そうだ。言葉を聞きとる最大のコツだが俺は想像力だと思う。教科書のようなものが無く、映像とかで習得するときは特にだ。

 人と人とが一緒に生活するならある程度共通した行動を取るはずだ。パンを買いに来ていきなり殴りかかるようなことは無いだろう。いや、無いよな。でもなあ、日本国内でさえ地方によっては驚く風習も多いしな。合同研修とかで他県の消防士と飲んだりすると驚くことも多かった。でもそんなことは滅多に無いしな。


 例えば、そうだな。今パンを買いに来た幼女と店員なら・・・


「パン下さい。」

「いくつだい?」

「3つ!」

「はいよ。3つで450円だ。」

「はい。」

「おう、ちょうどだな。まいどあり~。」

「ばいばーい。」


 若くてはきはきとした感じの男性店員に手を振りながら去っていく幼女。まあ細部は違っているかもしれないが、だいたいこんな感じだろ。


 おっ、目の前のメタボオヤジの店にも人が来てるな。

 ちなみにオヤジの店は肉屋らしい。かごに入れられたウサギや鳥がいたので最初はペットショップかと思ったんだが、さっき別の客が来た時に普通の顔してウサギを地面に叩きつけた上、首を切って血抜きして解体してたからな。マジかよ。って思わず言っちまったわ。まあ声は出ないけど。


 オヤジの店に来たのは身長190くらいの大男だ。鍛えられた筋肉がノースリーブのタンクトップのようなシャツをはち切れんばかりに押し上げている。ちなみに頭はツルツルだ。俺も筋肉には自信があるが、もし日本だったらちょっと避けたくなるだろうな。

 目つきは鋭いし、どう見てもー般人には見えん。


 じゃあこっちもやり取りを見ながら想像してみるか。

 えっとまずは大男がオヤジに声を掛けているな。「ようっ。」とかだろうな。声でけえな、こいつ。

 オヤジも知り合いなのかにこやかに返している。「ああ、これはこれはハゲヤマさん。」とかか?

 近づいてきたオヤジに大男がその鋭い目をさらに細めながら何か話しかけ、そのままオヤジの腹を殴りつけた。


 えー!!


 ヤバい。白昼堂々強盗か!?オヤジ、地面を転げまわってるじゃん。ちょっと吐いてるし。

 大男がそんなオヤジに声を掛けてるけど聞こえてないと思うぞ。いくらオヤジの腹の肉が厚いからってそれは筋肉じゃねぇんだ。というかなんで他の奴らは騒がないんだ、目の前で人が殴られてるんだぞ!


 あっ、オヤジが立ち上がった。その顔には脂汗が浮かんでいるがしっかりと大男に笑顔を向けている。すげぇぜオヤジ。俺は商売人の魂をお前に見たぜ。

 オヤジが何か大男に話しかけ、そして近づいていく。おいっ、やめろ!死ぬぞ!

 届かない俺の声をよそにオヤジが大男へさらに近づいていく。身長差があるため大男が見下ろす形だ。2人の顔と顔の距離は20センチほど。2人の間の緊迫した空気が伝わってくるようだ。


 思わずごくりと喉を鳴らす。あっ、喉ないんだった。


 しばしの静寂。そして・・・


 オヤジがつま先立ちし、大男へとキスをした。ダチ○ウ倶楽部かよ!!

 キスをしたオヤジと大男は少し照れた後、にこやかに雑談らしきものを交わしている。周囲も特段それに驚くような様子は無いのでこれが普通らしい。


 まずい、俺にはこの世界の事は理解できないかもしれねえ。誰か助けてくれ。

はじめての異世界の常識に恐れおののく陸人。だがそれは更なる恐怖への序曲に過ぎなかったのだ。


次回:恐怖!目玉焼きに砂糖事件


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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