とりあえず崩壊2日目
感想、ブクマ、評価本当にありがとうございます。
とても励みになっています。
カヤノの挨拶は寝ぼけていたと思われたようで特に不審な目で見られることは無かった。
せーふ。普段とは違い人がいっぱいいるんだ。慎重に行動しねえとな。
とりあえず体を伝い、右手の無い義手ゴーレムとしてカヤノに張りつく。いや、右手の無い義手ゴーレムってもはや意味がわかんねえよな。とりあえず、ひも人間状になってくっついてるのをイメージしてくれ。さすがに昨日一日でカヤノの右腕が無い事はわかってしまっているだろうから急に右腕が生えるって言うのもおかしな話だからな。
おかしい話だよな。この世界、急に右腕が生える種族とかいねえよな?ちょっと居そうで怖いんだが。
カヤノはいつも通り俺が張りつくまでじっと待ってくれている。俺が地面の方が話すことが出来る範囲は広がるのだが、さすがにこんだけ周囲に人がいるとなると不用意に地面に文字を書くことも出来ねえし。
さっきやった奴がいるような気がしないでもないが、誰だ、そのポンコツは?
とりあえずは今日はここから移動するかもしれねえし、この体型でしばらく様子を見ようと思う。はい、とかいいえ、とかの事前に決めてある少しの事しか意思疎通は出来ねえけどな。
「カヤノ、起きたか。」
「おはよう、カヤノちゃん。」
「あっ、おはようございます。ロックさん、シェリーさん。」
近づいてきた二人組にカヤノがペコって頭を下げる。昨日何度も見た怪我人たちを運んで行ってくれていた冒険者たちだな。ロックはゴーレムのような頑丈そうな体つきの男だ。岩さん、そうむしろ岩さんって感じだな。よしロックお前の名前はこれから岩さんだ。シェリーの方は背が高く、強気な性格を表すかのように少し釣り目なのが特徴だ。よしシェリーは姉御な。岩さんと姉御のコンビか。うむ、強烈だな。
岩さんと姉御と挨拶を交わしていると、3人が朝食に呼ばれる。おぉ~、朝食まで準備されるのか。豪勢だな。今までのカヤノなんて食べないか、萎れた薬草をもしゃもしゃしているくらいだったから避難している今の方が人間らしいとは涙が出てきそうだ。
カヤノは朝食を受け取りながら何度も何度もお礼を言っている。受け渡す人が恐縮するくらいだ。さすがにその辺にしておけカヤノ。可哀想な目で見られているから。
どうもカヤノは岩さんと姉御と一緒に食べるようだ。何というかこの2人がこの集団のリーダー的な存在みたいだな。周りから尊敬と言うか感謝されているみたいだし、カヤノが昨日救護所みたいな感じで働けていたのも2人のおかげの様だ。とりあえず感謝だな。
カヤノがはふはふと受け取ったスープを嬉しそうに一生懸命食べている姿を見る2人の視線は優しい。どうだ、可愛いだろ。なんていうか本当に美味しそうに食べるんだよな、カヤノって。ご飯を美味しそうに食べられるって一種の才能だよな。
ふぅ~とカヤノが満足そうに息を吐く。完食だ。うむ、良い食べっぷりだったぞ。とは言っても食べるのは早くないから岩さんも姉御ももう食べ終わっているが。
「カヤノ、ちょっといいか?」
食べ終わったタイミングで岩さんが声をかけてくる。空になった木の器を少し残念そうに眺めていたカヤノが岩さんの方を向きうなずいた。
「今日は防壁付近にあるだろう避難所に移動するつもりだ。ここでは魔物が来る可能性があるし食料にも限りがある。そこでだ、カヤノはどうするんだ?」
その問いかけにカヤノが首をひねる。あぁ、この顔は何が問題なのかわかってねえ顔だ。カヤノの中では普通に皆について行くことが当たり前で、それによって起こるであろう面倒事に気づいてねえんだろうな。カヤノとしてもおばちゃんやフラウニのことは気になっているだろうし、人が集まる所へ行けば怪我人をもっと治せるとでも思ってるんだろう。
それにしてもちゃんとカヤノのことを考えて聞いてくれるなんて岩さんは良い奴だな。
「いい、カヤノちゃん。治癒魔法をそんな小さいころから使えるような人はほとんどいないの。しかも無詠唱でこんな人数を治せるなんて大人でもそうそう居ないわ。あちらでここと同じように治療をし始めれば嫌でも目立つわ。」
「言っては何だが、カヤノは何か事情があるんだろ。治癒魔法を使えるような奴がそんなぼろを着て生活するわけが無いからな。」
岩さんと姉御がカヤノのローブを見る。まあ確かに今カヤノが来ているのは出会った時から着ていたあのぼろローブだしな。昨日盗み聞いた話からしても、治癒魔法を使える者は希少で有用だからかなりの需要がありそうだ。それなのにこんな服を着るような生活をしているとなれば何か事情があるってのは一目瞭然だ。
まあ実際はカヤノ自身が治癒魔法が使えるって自覚が無かったからだなんだが、ダブルだから人目につくことはまずいって言うのも確かだ。
どうすっかな。
カヤノが思わずと言った感じで地面を見つめる。困った時の最近のカヤノの癖だ。無意識に俺の判断を仰ごうとしているんだよな。まあ子供だから仕方がねえが、ここはカヤノの選択に任せるべきだろ。俺はカヤノがどんな選択をしたとしても守ってやればいいだけだ。
そこに~私はいません~。眠ってなんかいません~。
俺の歌が聞こえたわけじゃないだろうが、カヤノがギュッと手を握り2人を見た。その目を見て俺はカヤノが次に言うであろうセリフがわかってしまった。だてに長い時間一緒に過ごしてきたわけじゃねえよ。まったく仕方のねえ奴だ。
「僕は人を助けたいです。誰にも言えませんが事情はあります。それでも僕に人を助ける力があるんなら僕は助けたい。」
そうだよな。お前はそういう奴だ。あれだけ差別され、ひどい生活を送っているのにそれでも自分より人のことを考えられるような馬鹿だ。大馬鹿だ。だからこそ俺が守ってやらなくちゃあいけないんだ。
いいぞ、カヤノ。お前の望むままに進め。お前の目が届かねえ場所は俺が下から支えてやるよ。
カヤノの答えに岩さんと姉御は満足そうな、それでいて不安そうな複雑な表情をしていた。しかし最後にはカヤノの意思を尊重してくれたようだ。とりあえず10時ごろに出発予定と言うことで話をまとめいったん解散した。
カヤノは治療が必要な人がいないか見回った後、最初に寝ていた場所へと戻ってきた。見回る最中にはカヤノに感謝の声が多くかけられ、その度にはにかむカヤノは最高に可愛かった。ちょっとしたアイドルの様だ。
元の場所に戻り座ったカヤノの足元に他の人から見えないように文字を書き、指示を出す。カヤノも返事をするのはまずいと気づいているので小さくうなずくだけだ。そして俺が指示を出し終えるとカヤノは行動を開始した。
まず初めに指示したのは服装を変えることだ。今のカヤノはどう見ても浮浪児でこんな状態で治療するのは衛生的じゃないし、それに簡単にだましたりして利用できそうに見える。ここに居る奴は仕方がないとしても、防壁近くにある避難所の奴にまでそんな姿を見せる必要は無い。ちゃんとした服装をすればどこかの裕福な家の子供か、そこまで行かなくてもしっかりとした家の子供と認識されるはずだ。邪険に扱われることも減るだろう。
カヤノが街の死角で着替えているうちに俺も準備をする。昨日から考えていたことだが出来るかどうかの確信は無い。しかし出来るとしたら今このタイミングだろう。街に人がおらず、ぐちゃぐちゃになっているため何をしていてもそこまで不自然ではない。試してみるには良い状況だ。
着替え終えたカヤノを誘導する。その場所は俺が生まれた記念すべき場所。俺が唯一動かせない地面がある場所。そこには何かがある。そんな確信があった。自分じゃ動かせないがそれならばカヤノの手を借りればいい。俺たちは生徒と先生だ。手を取り合うものだろう。
俺は地面を動かせる範囲まで動かす。10センチほどの丸い形の土がそこには残った。
「良いんですか、リク先生。」
(ああ、やってくれ。)
カヤノの手がその土玉へと差し込まれていく。俺は無いはずの心臓が跳ね上がる音を聞いた。
バキッ。土の玉を掘っていたカヤノの手元から不穏な音が流れる。その瞬間、リクの体を今まで感じたことのないほどの痛みが駆け巡った。リクの身に起こったこととは!?
次回:核爆発
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




