とりあえず後始末が終わる
おらおら、ここが、ここがええのんか?ふははは、嫌がっていても体は正直やで。勝手に動いとるやろ。無駄な抵抗すな。おいちゃんの色に染まるがいいわ。
はぁ、なんか空しい。
えせ関西弁まで使ってテンションを上げようとしたが、やっぱ無理だ。
フラウニを助けに行った後、カヤノが心配になったので見に行ったが街の外の俺の範囲内でなぜか救護所のようなことをしていた。声をかけようかとも思ったんだが邪険にされている様子も無いし、むしろ感謝されているようだったのでそのままにしておいた。
何でこんなことになったのかなど疑問は尽きないが、埋もれている人の救助を優先させてもらったわけだ。もちろんずっと放置した訳じゃなくて、休憩のために戻った時は様子を見ていたぞ。カヤノも楽しそうに笑っていたりしたし、心配は無さそうだったけどな。
俺が周辺の救助を一通り終えたのは真夜中をだいぶ過ぎたころだ。と言うよりあと2、3時間もすれば日が昇るだろう時間だ。外街全体を救えたかと言えばそう言う訳ではない。今、眠ってしまうわけにはいかないので救助しつつ俺の範囲へ戻れるくらいの所までしか助けられないのだ。悔しいがそれは仕方がない。一応、避難所も防壁の近くに出来ているようだし、街を兵士が巡回し始めたので俺は救助作業に一区切りすることにしたのだ。兵士が埋もれている人を助けてくれることを願うしかない。
まあそんなわけで暇になってしまった俺が今何をしているかと言うと、簡単に言えば地面を均している。というかなぜか建物があった場所の地面が凸凹になってしまっているのだ。
こんなことは普通ならありえない。液状化、地盤沈下、そんな言葉が頭をかすめるが、少なくとも俺の範囲内の地面にそんな傾向は無かったし、きっかけになるような地震などを感じることも無かった。原因は全くもって不明だ。まあ建物が崩れた原因は確実にこれだろうけどな。
まあそんな原因がわかったところで建物が元に戻るわけじゃない。しかしこんな風に地面が凸凹では再建も難しいだろ、と容易に想像がついたので出来る範囲で地面を均しているのだ。この作業は結構力を使うのであまり広い範囲を均せないのが問題だがな。
一応形を残していたおばちゃんの宿については慎重に地面を動かしたおかげか何とか元の状態に戻ったが、まあそのまま再利用は無理だろうな。少なくとも大幅な補強が必要だろう。
俺の範囲内全てと範囲外を少しばかり均したところで空が明るくなり始めたのでカヤノの元へと戻る。カヤノはたき火に集まった人の外周でいつも通り小さく丸まって眠っている。多分この場所を選んだのはカヤノだな。妙に遠慮するところがあるからな。
余程疲れていたのか、いつもならそろそろ起きる時間だと言うのにカヤノはぐっすりと眠ったままだ。周りにいる住人はかなり疲れた表情で体を震わせている者が多い中これだけ眠ることが出来るのは、疲れていると言うことと普段からカヤノが外で寝ているからだろう。良く眠れて良かったとは言いきれない理由だから微妙だがな。
そんなカヤノの寝顔を見ながら俺は考える。
今回の件でわかったことがいくつかある。
まずは俺についてだが、体を回復させるのは生まれた場所が一番早いということだ。
前々からそうでは無いかと思っていたのだが今回何度も疲れて眠りそうになっては範囲に戻ってくると言うことを繰り返したので確信が持てた。範囲内に入れば割とすぐに回復するので今まで気になっても確かめまではしていなかったが、今回は一刻も早く動く必要があった。だから試してみたのだ。試してみた結果・・・
あ~、なんか安心するわ~。
それが正直な感想だ。何と言ったらいいんだ?収まりがいい、いや収まってるわけじゃねえんだがふっかふかの羽毛布団に包まれているかのような安心感があった。実際回復する速さもいつものカヤノの路地から比べれば10倍くらい早かったしそのおかげでかなり助かった。
まあ夜はパトロールしたり、薬草畑を世話したりといろいろ動き回っているから同じようなことが起きない限りは使う必要はないな。いや、たまにはリフレッシュを兼ねてここで休むのもいいなと考えたぐらいだ。
で、もう一つ俺についてわかったことだが一か所だけ土を全く動かせないところがあった。まあ予想はつくかもしれねえが俺の生まれた正にその場所が動かせなかった。
俺としてはその場所の土が特別ならそれを動かせば動ける範囲が変わったりしねえかなと思ってやってみたんだが、俺が生まれた場所の地下1メートルほどのところ握り拳程度の範囲だけはどうやっても動かすことが出来なかった。
うーん、昔はそんなこと無かった気がするんだがな。だって落とし穴作ったりしてたし。
疑問は尽きないが、どうしても動かない物は動かない。まあ動ける範囲が広がって、その範囲が変わらないような軸が出来ちまったのかもしれねえな。
で、もう一つはカヤノについてだ。
前のホブゴブリンの時に出たカヤノの右腕とおばちゃんを癒したあの光だがどうも治癒魔法と言うらしい。前は無我夢中で使ったみたいだが、今回はしっかりと手だけを光らせてカヤノは治療していた。そのおかげか気を失うこともなかったみたいだしな。カヤノとはいつも一緒にいたから練習しているような様子は無かったんだが・・・もしかして本番一発で成功させたのか?天才かよ!?
周りにいた冒険者っぽい奴の話を盗み聞いたんだが、どうも治癒魔法を使える奴は多くは無いらしい。使える奴はほぼ教会や領主がスカウトしてしまうためそう言った場所以外では見ることは珍しいそうだ。現にその冒険者たちもカヤノを誘おうか迷っていたみたいだしな。まあ見た目が子供だから最後には諦めたようだが。
今回わかったのはこんなところだ。しかしカヤノが治癒魔法を自分の意志で使えると確認できたことは良いことではあるんだが少し頭が痛い問題でもある。
俺もそうだがカヤノも今回の件でかなり目立ってしまった。俺はこの辺りに人を助けたゴーレムがいるってこと、カヤノは治癒魔法を使えるってことが衆目にさらされた訳だな。俺の方は捕まえることなんて出来ねえだろうし、探し回っていてもただの地面を装って無視すればいいんだから何とかなるんだが、カヤノの方はそうはいかねえ。
あの冒険者たちの口ぶり、そして勧誘するかどうか考える真剣な様子から見て治癒魔法を使えるとわかっているカヤノに接触してくる奴は絶対に出てくる。それがいい奴なら別にいい。カヤノの生活も向上するだろうし、少なくとも路上生活とはおさらば出来るはずだ。そうなったらお別れになるかもしれねえから俺としても寂しい気持ちもあるがな。だが地面の俺の寂しさよりもカヤノの将来の方が絶対に大事だ。まあ別れると言っても二度と会えないって訳じゃねえし、カヤノならまた会いに来てくれるだろ。それを気長に待つのもいい。
で、問題なのはそいつが悪い奴だった場合だ。もちろん俺が人となりや背後関係をチェックするつもりではある。しかし俺も動ける体力?が決まっている手前、完全に確かめることなんて不可能だ。そして問題なのはカヤノがダブルってことだ。今はまだ助けたやつらにばれていないから大丈夫だろうが、もともと忌み嫌われているダブルだ。最初は善意で近づいてきた奴らでもカヤノがダブルだとわかった途端にどう豹変するかわかったもんじゃない。あの服屋だってカヤノがダブルだってわかるまではカヤノのあのぼろい格好を見ても普通だったんだがな。
差別ってのは根が深いからな。日本でだって未だにあったし、解決するのもほぼ無理だ。時間が解決してくれるかもしれねえが、少なくとも何百年はかかるんじゃねえか?
そう考えると偏見のない身元のしっかりとした奴が勧誘に来てくれるのが一番なんだが、まぁそんな都合のいいことは起こんねえよな。
「んっんん~。」
おっと、カヤノが起きそうだ。とりあえず考え事は後でするとして昨日放置しちまった分、今日はカヤノと一緒に過ごすか。
カヤノが目をくしくしとこすりながら起き上がり、いつもの癖で地面を見つめる。
(おはよう。)
「おはよう、リク先生。」
このお馬鹿が!!地面に挨拶する変な人に周りから思われるだろうが。いや、そう考えると不用意に挨拶した俺が悪いか。すまん、カヤノ。
不用意な行動によりついに存在がばれてしまったリク。そしてリクを捕まえるための作戦は開始された。
次回:第一回バルダック穴堀り大会
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




