とりあえず女神登場
案内された部屋の番号は「4」番。赤い絨毯のひかれた廊下には俺以外誰もおらず、コツコツという足音だけが響いている。その足音に合わせるように心臓の鼓動が大きく脈動していくのを感じる。
事前に顔を写真で確認するかと言われたがそれは断った。お勧めするほどの嬢であればよっぽど外れと言う事は無いだろう。むしろ知らないことによる期待感で心臓の鼓動がどんどんと高まっていくのを感じる。これも醍醐味のひとつだろう。たまにモンスターが出てきたりするがこの店に限ってそれは無いはず!
「ふう。」
早鐘のように鳴り響く心臓を落ち着けようと深呼吸をするが気休めにもならなさそうだ。
金文字で4と書かれたドアの前に立ち一応身だしなみを確認する。いつも通りのラフな格好だが不潔ではないはずだ。不潔な客が一番嫌だって良く聞くからな。まあそれは誰でも一緒か。
落ち着かない気持ちを誤魔化すようにドアノブをがっ、と掴む。
「痛え!」
パチッ、と静電気が走り、立ちくらみのように一瞬ふらっとしたがそのままドアノブをひねり部屋の中へと入っていく。
くそう。ちょっとびっくりしたじゃねえか。でもそのおかげか先ほどまでうるさかった心臓の鼓動が嘘のように落ち着いた。落ち着いたんだが・・・
「何だここ?」
部屋の中は白いレースのカーテンに囲まれており、足元さえスモークが焚かれているのか白い煙で覆われている。職業柄少し煙に忌避感を覚えないではないが、まあ体に害のあるものではないだろう。
このスイートパラダイスでは嬢1人1人に合わせた部屋が用意されており、そのシチュエーションで楽しめるようになっている。ちなみに俺のお気にのゆかりちゃんは普通のアパートの一室だ。部屋に入るとエプロンをつけたゆかりちゃんが「おかえりなさい。」と迎えてくれるのだ。慈母のような微笑みをたたえた家庭的な彼女に、適度に掃除され清潔感のあるその部屋はとても似合っている。
それはさておき、誰もいない部屋を見回しつつ何気なくレースのカーテンを触る。少し光沢のあるそのカーテンは指の間をすり抜けるような滑らかさだ。もしかしてシルクか!?さすが最高級店だな。
それにしてもこの変な部屋に似合う嬢なんているんだろうか?まるでここは・・・
そんな考え事をしている最中に、どこからともなく一人の女性が目の前に現れる。
エンジェルリングの浮かぶたおやかな金髪を腰の長さまでたなびかせ、ちょっときつめの碧眼をこちらに向けている。カーテンと同じ白のローブな様なもので身を包んでいるが、体型のわかり難いその服装からでも抜群のプロポーションであることが一目でわかった。
おそらくバスト90、ウエスト60、ヒップ80、ってところだな。
人形のように整ったその顔はじっと俺を見て離さない。まるで時間が止まったかのように見つめ合う。彼女の姿は正にこの部屋にふさわしかった。そこには女神がいたのだ!
思考停止しかけていた頭がやっと回転し始める。やばい、今まで見たことのないほどの美人だ。白人で金髪碧眼だとすると、英語、ロシア語、ウクライナ語、ポルトガル語、スペイン語あたりか?該当地域が多すぎて絞りきれん!
自慢じゃないが俺はつたない日常会話程度なら10か国語は話せる。その中にタガログ語とかがある時点で理由は察せられると思うが・・・。母国語を話せるとわかるとサービスが良くなったりするんだよ。言わせんな馬鹿野郎。
学生時代は全く頭に入らなかった外国語が苦にならずにすいすい頭に入っていくんだから、全くエロパワーは最高だぜ。いや今はそんなことを考えている暇はないんだった。ここは無難に英語でいいか?公用語じゃなくてもわかる人は多いし。
「フッ、フフフフ・・」
そんな風に俺の頭の中で大論争が起こっている最中、女性から聞こえた笑い声にそんな考えが一掃される。手で口を押さえ笑いながら、まるで虫けらでも見るかのような彼女の冷たい視線に背中に電気が走る。これは・・・
「あなた、とんだ変態ね。」
ズキューーン!
俺の胸に言葉の刃が刺さる。軽蔑するようなその視線と言葉に快感が湧き上がってくるのが止められない。その喜びを表すかのように体が小刻みに震えて止まらない。
「変態というのもおこがましいわね。あなたは虫よ、いや虫けら以下よ。そんな虫けら以下の存在が私の姿を見ることが出来るのだから私の慈悲に感謝しなさい。」
「はい、女神さま!」
脊髄反射より早く体が反応する。普段の訓練で鍛え抜かれたすべての筋肉を動員し即座に土下座体勢に入る。その間わずか0.1秒。世界土下座選手権が有れば今の俺ならば優勝確実だろう。頭を床にこすりつけ、顔を上げることはしない。最大限の感謝を示さなければならないのだ。
「フフッ、いい様ね。お似合いだわ。風俗に行ってプレイする前に疲労と興奮と静電気のせいで心臓まひになるなんてとんだ変態だと思ったけれど、神に対するその従順な態度は嫌いじゃないわ。顔をあげなさい。」
「はい。」
顔を上げるとローブからすらりとした白い脚が伸びているのが見えた。そのきめ細やかな素足に踏まれたい、と言う欲望が首をもたげるどころか神輿をかついでわっしょいわっしょいとし始めているがここは我慢だ。でもいい脚だなぁ。
女神がちょっと引いたような表情をしているのが気になるが、ここで俺から話しかけるということはありえない。ここは彼女の聖域。俺は虫以下の存在なのだから。
「私は転生の女神キュベレー。最近は面白いことが無くて退屈していたんだけど久々に笑わせてもらったわ。お礼と言ってはなんだけれど転生するにあたってあなたの望みを一つだけ叶えてあげるわ。あなたは何を望むの、富、名声、それとも人並み外れた強靭な肉体かしら?さあ、あなたの望みを言いなさい。」
高慢な態度を崩さず女神さま、違うか、キュベレー様が俺を見下す。しかしキュベレーっていうとおかっぱ頭のイカした女を思い出すな。そういえばあの方も「様」だったな。そう考えるとどことなく性格が似ているような気も・・・。
おっといかん。キュベレー様がお待ちだった。
知ってるぜ。今はやりの転生物の女神さまって設定なんだな。詳しくは無いが後輩から情報は仕入れているし、代表的な作品は読んだしな。結構ウェブ小説とか漫画の好きな嬢も多いからそこらの知識に抜かりはないぜ。スライムとか蜘蛛とかに転生する奴だな。いわゆる俺TUEEEEってやつだ。弱かった主人公が強くなっていく過程は心を熱くさせるよな。
改めてキュベレー様を見る。確かに物語に出てくる女神のような美しさを持った女性だ。特にあの俺のことを見下す視線がたまらない。望みって言われればそのおみ足で踏んでほしいっていうのが一番なんだがせっかく転生物の設定なんだからそこは乗らないとな。いかにして踏んでもらうか。あっ、やばい。キュベレー様のリミットが迫ってる。なんせ冷たい視線がさらに冷たくなってる。それはそれでゾクゾクするがあまりに機嫌を損ねすぎるのもまずいな。よし!
「キュベレー様、私ごとき虫けら以下の存在にはキュベレー様の慈悲はあまりあります。貴女様の望むままに。むしろ貴女様を支える地面として私はありたいです。」
日本人の由緒正しきお願い姿勢、DO・GE・ZAをして頼み込む。
自分でも何を言っているのかわからねぇが、とりあえずキュベレー様に踏んでほしいと言う思いは伝わったはず。俺とのファーストコンタクトだから汲み取ってくれるかはわからないがはたして・・・。
おそるおそるキュベレー様の表情を見ようと顔を上げるとそこにはキュベレー様のとてつもなく楽しそうな顔と共にそのきれいな足の裏が見えていた。太ももまでめくりあがった服が色っぽいぜ。
「本当に変態ね。じゃあ行くといいわ!」
「ありがとうございますっ。」
キュベレー様の柔らかな足の感触を頭に感じながら俺は意識を失ったのだった。
女神キュベレーに踏んでもらったことで幸せの絶頂へと上り詰めた陸人。頭の中がお花畑の陸人をよそに行われる女神キュベレーの残酷な仕打ちとは!?
次回:縛って放置で延長料金
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。