とりあえず俺は・・・
ハイエルフの里が襲われてから3年が経った。3年は経ったが俺たちは相変わらずイーリスの樹海の奥のハイエルフの里に住んでいた。魔物の侵攻によってボロボロになっていたハイエルフの里の外側のエルフの里は皆の協力により元通り、というよりは元よりもかなり豊かな里へと変わっていた。まあ畑の世話なんかをエルフだけじゃなくハイエルフや俺もするんだから当たり前っちゃあ当たり前なんだけどな。
あぁ、そうだ。畑といえば例の白い薬草。あれはマジで精霊草だったらしい。カコウのいた地下の空間で採れた精霊草をアルラウネの里に渡していたエルノに確認してもらったので確実だ。
このことを知っているのは俺とエルノそしてカヤノだけだ。あんま量産できると知られると面倒そうだったからな。というわけで当面は元気ジュースを作るための白い薬草ってことにするってことで落ち着いた。まぁいつか金に困ったらどこかに売りつけてやろうとは思っている。
カヤノとエルノそしてカコウとの関係は良好だ。最初は多少ぎこちない部分はあったが、一緒に過ごすうちにそれも減っていき、今では普通の親子のような関係になっている。
今エルノとカコウは、アルラウネの集落の誤った認識を正すために日々奔走しているため、カヤノと過ごす時間が減ってしまっているのが悩みのようだ。本当ならもう少し子離れすべきかと思うんだが、まぁ離れている期間が長かった分過保護になってるんだよな。どうしたもんだか。
ハイエルフたちと風の精霊に関しては、まあゆっくりとではあるが変わる兆候は見せているのでとりあえず要経過観察中だ。相変わらず風の精霊はいたずらをしているようだし、一部のハイエルフなんかはかたくなに元の教義の教えを守ろうとする頭の固い奴らもいるようだ。まあ長い間信じてきたもんだからな。すぐに切り替えられるとは俺も思っていない。変な争いが起きねえように対策はしているけどな。
で、俺たち4人は例の森の奥のダンジョンってやつに挑戦していた。近接で戦え、罠も関係ない俺がいるし、回復はカヤノが、遠距離攻撃はニーアとミーゼがいるおかげで結構すいすいと進むことができた。棒サイちゃんずやウィンもいるしな。
カヤノたちの魔力は精霊草・・じゃなくって元気ジュースのおかげもありかなり多いため、魔力切れでピンチになるってことがないのも良かった。
今んところ14階層まで探索済みで、それなりに武器や防具などのお宝も見つけている。この調子ならこの国の建国時と同じことが出来そうではある。まぁする気は全くねえけどな。
一応風の精霊たちが到達したのは地下18階層らしいので当面はそこを目標に探索をしていたんだがここ1年ぐらいは事情があってお休み中だ。なので今は各自適当に魔物を狩ったり調薬の研究をしたりと好きに過ごしている。
俺はといえば・・・
「ほら、そこ。魔法使ってんじゃねえよ!魔力が切れたら最後にものをいうのは自力だぞ。相棒を信頼しろよ。お前たち、里の外周10周だ。いけっ!」
「「はい!」」
俺の教えを受けていたエルフとハイエルフのコンビがそろってハイエルフの里の防壁の外を走るために駆け出していく。その他にも2人1組になったエルフとハイエルフたちが俺が課した訓練を黙々と行っている。
俺が教えているのは消防と救急の知識だ。日本で俺が習ったものそのままのものもあるし、魔法が使えるので変えているものもある。俺の教えを受けたいっていう物好きな奴がいたので何を教えるか悩んだ末、これらを教えることにしたのだ。
この世界ではあまり発達していないこれらの知識を伝えることで救える命が増えればということと、エルフとハイエルフを組ませることで相互理解を深めさせようということを目的にしている。成果は上々といったところか。
「リク、無茶してないですよね。」
「ああ、するわけねえだろ。俺は教える立場だしな。よし、そろそろ時間だな。10分休憩して最後は外周を走って終了だ。クールダウンはしっかりやれよ。」
エルフとハイエルフたちに指示を飛ばしてカヤノと家に帰る。3年経ち、幼い印象だったカヤノも背が伸び、170センチを超えている。中性的だった顔つきも少し男らしくなったような、なっていないような。まあ女だと見間違われることはないんじゃないかなっていう程度にはなった。
「そういえばミーゼとニーアはどうした?」
「ミーゼがニーアに料理を教えるって言って家で2人で夕食の準備をしてます。」
「大丈夫なのか、あいつ。」
「ええっと、まあ少なくとも食べられるものが出てくると思いますけど。」
「ちょっと心配だな。少し急ぐか。」
「リク、走っちゃだめですよ。」
「わかってるって。」
俺たちは速足で2人の待つ家へと向かった。
家に近づくと良い匂いが辺りに漂っていた。うむ、これなら失敗して食べられないものが出てくることはねえだろ。少し安堵する。
「ただいま。」
「戻ったぞ。」
声をかけるとててててっとニーアがこちらに向かって走ってきた。ニーアの姿は3年前と全く変わりはない。まあハイエルフだから当たり前といえばそうなんだがな。
俺たちを迎えに来てくれたのかと思ったのだが、ニーアはそのままカヤノの後ろに回り込むとその背に隠れた。
「んっ、どうしたんだ?」
「新妻を先妻がいじめるてくる。」
「先妻って、ちょっとニーア。人聞き悪いこと言わないでよ。しかもいじめてないじゃない。」
続いて奥のほうから顔を出したミーゼがニーアの言葉にぷりぷりと怒っている。ミーゼはエルフと人間とのダブルだから少し成長は遅いが着実に成長している。背は伸びたが、まあ宿命というか一部は全く成長していないらしくたまに恨みがましい視線を感じる時がある。まぁどこにとは言わんが。
「ミーゼ、メッですよ。」
「違うの、私はただ料理を教えていただけなの。」
「そうなんですか?」
「こんなに小さい私に刃物を持たせるなんて狂気の沙汰だよ。」
「いや、お前普通に魔物は解体してんじゃねえか。」
「それはそれ、これはこれ。」
「あはは。」
まあここ最近のいつも通りのやり取りをした後、2人、というかほぼミーゼの用意した夕食を4人で囲む。
「「「「いただきます。」」」」
全員で手を合わせ食事を始める。今日は自家製小麦から作ったパスタだ。トマトソースの酸味とハイオークのそぼろ肉のうまみがマッチしていて非常にうまい。ミーゼも腕を上げたもんだ。
「カヤノ、サラダは私が作ったんだよ。あーんしてあげる。」
「じゃあ、あーん。」
「美味しい?」
「うん、とっても美味しいよ。」
カヤノとニーアのやり取りを歯をぎりぎりとしながら見つめるミーゼ。うん立派な姑だな。少し前までは自分があの立場だったから余計に悔しいんだろうな。
「パスタも美味しいよ。ほら、ミーゼ、あーん。」
「えっ、あっ、うん。あーん。」
さっきまでの不機嫌そうな顔がどこに行ったのかと思うくらいミーゼの顔が幸せに包まれる。さすが天然のジゴロ、カヤノだぜ。
ちなみにカヤノとミーゼが結婚したのが1年半前、そしてニーアと結婚したのが半年前だな。まさかカヤノがハーレムになるなんて想像も・・・いや何となくそんな予感もあったけどな。
思わずそのやり取りを見つめていると、カヤノの目が俺に向いた。
「リクもしっかり食べないと。」
「そうよ、一人の体じゃないんだし。たくさん食べないとダメじゃない。」
「食事は大事だよ。ほらっ、サラダも食べて。」
「いや、毎度言ってるがそんなに大量にはいらねえから。」
大皿に盛られたサラダを丸ごと渡そうとしてくるニーアにそれを返す。
そう、俺のお腹の中には今子供が宿っている。父親は言うまでもない、カヤノだ。俺とカヤノはミーゼと同じ1年半前に結婚していた。
決め手は何だったのか今でもわからない。しかしカヤノとなら結婚してもいいかもという思いは日々強くなっていた。まぁそれでも俺は結論を先延ばしにしていたわけだが、ミーゼに発破をかけられ、カヤノの俺とミーゼ両方へのプロポーズもあり結婚することになったのだ。俺たちの結婚式はアルラウネ、エルフ、ハイエルフたちが盛大に祝ってくれた。
ダブルに対する偏見は未だ残っているようだが、それでも俺たちへ心からの祝福をもらえた時は一生懸命動いてよかったと感動したもんだ。
で、まあ結婚したからにはアレがあるわけだ。えっと、まあ初夜ってやつだな。
臆したのかなぜかミーゼが順番を譲ってくれたので俺が先にカヤノと一緒になることになったんだが、正直言って俺はその瞬間までちゃんと出来るのかどうか不安だった。なにせ男としての経験はあっても女としては本当に初めてなんだからな。不安にもなるさ。
で、いよいよ夜が来てさあ覚悟を決めるかという時になって想定外のことが起きた。なぜかカヤノと一緒にエルノがやってきたのだ。混乱する俺にエルノは子が初めてそういうことをするときは母親が手ほどきするのがアルラウネの習慣だと言った。カヤノも特に不審に思っている様子もなかったので俺もそういうもんかと納得したわけだ。
俺がカヤノの立場だったら断固拒否するんだが、幸い俺は逆の立場だし、エルノもまだまだ若いので俺にとっては眼福というかごちそうさまというかそんな状況だと思っていた。それはある意味正解である意味間違っていた。
エルノがカヤノに教えながらゆっくりと俺の体をいじっていくんだぞ。普通なら何も感じないはずなのにカヤノに直接触られているからか、エルノの蔦の動きも伝わってな。えっとあれはヤバい。触れるか触れないかの絶妙な動きかと思えば、時にピンポイントに俺の急所を的確に突いてくるんだ。さすが同じ女なだけはある。
しかも「ここをこうすると気持ちいいのよ。」「ほらっ声が出てるでしょ。」「この液が気持ちいいっていう意味なのよ。」とかナチュラルに辱めてくるんだ。いやカヤノのためだってことはわかってる。でもこんなの我慢できるかよ。
カヤノもカヤノでなんというか一生懸命に俺を気持ちよくしようとしてくれるし、それがうれしくて反応すると、また言葉攻めにあうし、お前ら親子で俺をどうするつもりだって言いたくなるくらいだった。
で、まあえっと入れられたわけだが、カヤノのを一言で表すなら、膨張率ってすごいよねってことに尽きる。日本人も世界的に見てかなりの膨張率らしいが、カヤノはそれをはるかに超えていた。本当に入るのか不安になったくらいだからな。でも俺を見てこんなになっているのかと思うとちょっとうれしい気持ちもあったけどな。
問題のそれはエルノの指導のおかげもあってぬるっと入ったわけだが、まあその後のことは想像にお任せする。まあその後、俺とミーゼが毎日交互にカヤノと寝ることになったことから判断してくれ。
まあそんな感じで新婚生活を送っていたわけだが、異変に気付いたのは突然だった。地面に潜ろうとしたら出来なかったのだ。そして感じるはずのない触覚や嗅覚などの感覚があることに気付いた。何かの異変かと騒ぐ俺たちのもとにやってきたのはたまたま近くを通りかかった風の精霊だった。
「あー、妊娠したんだね。おめでとー。じゃあボクは行くから。」
風の精霊ことイーリスはそれだけ言い残して去っていった。それからはなんというか大変だった。出産経験のあるエルノを呼んだり、エルフの産婆を紹介してもらったりとバタバタと日々が過ぎていった。
初めての妊娠ということで俺以上にカヤノが心配しすぎていたので、逆に俺は冷静になれた。安定期に入ったのでエルフたちへの訓練も再開したしな。もちろん無茶はしないようにしているが。
母親になるなんて思ってもみなかったがだんだんと膨らんでいくお腹を見ていると優しい気持ちになる。そのトクトクという小さな振動とちょっとやんちゃなキックやパンチに安心する。つわりは結構辛い時期もあったけど今は大丈夫だ。だんだんと自分が母親になるのだと実感している。なんと表現したらいいのかわからんが幸せな気分だ。
「ほら、リク。あんまり起きていると赤ちゃんに悪いから、ちゃんと寝るんだよ。」
「おう。」
「わかってるよね。」
「わかってるって。」
ははっ、カヤノに言われるとどうにも俺は弱いな。まあそれは会った時からそうだったかもしれねえけど。
キュベレー様。転生した当時は動けなくて嘆いた時期もあったけど、とりあえず今俺は幸せだぜ。この世界に生まれ変わらせてくれて、カヤノと出会わせてくれてありがとうな。
白い高級そうなローブを着た金髪碧眼の美女が界下を見ながら妖艶に笑っていた。腰を下ろして組んでいる足を組み替えるとそのしなやかな芸術品のような足が太ももの辺りまで露わになる。しかしその美女はそんなことはどうでもいいかのようにただそれを見続けていた。
「ふふっ、あの変態。踏まれたいと言うからから地面に転生させてあげて、しかも性別まで逆にしたのに人の子を妊娠するなんて本当に変態だったみたいね。まあ、旦那の尻に敷かれているみたいだし望み通りなのかしらね。」
その美女、キュベレーは言葉とは裏腹にとても面白そうにリクの様子を見ていた。そして突然顔をしかめると、少し腰を上げそして思いっきり体重をかけるように腰を下ろす。
「うぐぅ。」
「あらぁ、座り心地の悪い椅子が悲鳴を上げたように聞こえたけれど気のせいかしら。」
そういいながらキュベレーがその椅子になっている男の手を思いっきりぐりぐりと踏みつける。70を超えているように見える白いあごひげをした男の額から汗が流れ落ちるが、それでも彼は言葉を漏らさないように必死で耐えていた。
「なに、この椅子。椅子の分際でじっとりとしてきたんだけど。あぁ気持ち悪い。お尻が濡れてきちゃったわ。」
キュベレーはそう言うと、あっさりと立ち上がりその椅子になっている男を見下ろす。男の汗によって張り付いたローブがキュベレーの臀部を艶めかしく強調していた。男の口から「あぁ。」という悲壮な声が漏れ、それを聞いたキュベレーがどこからともなく鞭を取り出す。
「この駄神が、駄神が!あんたがまともに働かないせいで困ってる子たちがいるのよ。それがわかっているのかしら。自分を責めるために女神を創造する暇があったら少しは働いたらどう?この変態の、くず神が!」
「あぁ、儂は駄目な神なんじゃ。だからもっと、もっと儂に罰を!」
「本当に最悪。こんな奴に生み出されたなんて。」
キュベレーの鞭が容赦なく男の体に傷をつけていく。男は痛みを訴えるどころか恍惚とした表情でキュベレーのことを見ている。キュベレーのつけた傷はたちどころに治っていってしまうが、その上に再びキュベレーは飽きるまで鞭をふるい続けるのだった。
世界は回っていく。たとえ神がどんな性癖をしていようが、何事もなかったかのように世界は回り続けているのだ。
そしてリクたちの物語も。
最後までお読みいただきありがとうございました。途中で事故やら病気やらで一時かけない時期があったりしたのですが皆様の励ましのおかげもあり、書ききることが出来ました。
本当にありがとうございました。それでは最後に予告をば。
次作:僕の母親は地面なんだけど誰も信じてくれない
ご期待ください。
あくまで予告です。
実際の内容とは異なる場合があります。
また別の作品でお会いできることを楽しみにしております。それでは!