とりあえず一件落着する
いやマジでなんなの?俺は特にダブルについて思うところはないが、この世界の常識から言って王の子がダブルであるなんて発表すれば混乱が起こるのは簡単にわかる。国内が不安定ならなおさらだ。というかハジメって奴も王妃がいるのに風の精霊にも手を出しやがったって訳だよな。くそっ、このや○ちん野郎が!いや待てよ。王妃が第二子を妊娠中に生まれたってことは、王妃も当然こいつの妊娠は知っていたってことだよな。
まさか・・・
言い知れない予感に、カコウの剣を横に振って口から外す。
「ちょっと聞きてえんだが、そのハジメって奴は誰と結婚したんだ?」
「えっと第一王妃のマリアンナにボクでしょ、前王の隠し子のジャネットにメイドだったリリー、後は獣人の里の長の娘のキャロにその付き人だったラッテル、えっと後は・・・」
「うん、殺そう。そのハーレム野郎殺してやる。」
「だよね~。もう死んでるから殺せないけどね。」
くぅ、俺が性別まで変わってしまってこんなに苦労してるってのに、そのハジメって野郎はハーレムを満喫しやがって。俺に血が流れていたら血涙が流れていたはずだぞ。
風の精霊は言葉とは裏腹に少し寂しそうに笑う。そんな風に言ってもやっぱりそのハーレム野郎が死んじまったのは悲しいんだろうな。俺もこのやり場のない怒りをぶつける相手がいないのが本当に残念だ。
「で、怒ったボクは実家に帰らせてもらうって言って子供を連れてここに帰ってきたんだ。だからだよ。」
「そういうことか。」
「んっ、どういうことだ?」
「そこまで言われてわからんのか。つまり風の精霊は我が自分と同じように人間に利用され、挙句に捨てられるといったことがないように我を隔離したと言う訳だ。理屈はわからなくはないが大きなお世話ではあるな。まあ過去のことを言っても仕方があるまい。我は貴様を許そう。」
「ありがとう、光の精霊。」
カコウが剣を納め、その手を差し出し、風の精霊がその手を握りながら許してもらえたことを感謝している。大団円ではあるんだが、俺にはさっぱりわからん。捨てられたっていうか、風の精霊自身が三行半を突きつけたんだよな。カコウが閉じ込められた状況とも違うし、なのにカコウはなぜか納得しやがるし、精霊の精神構造が特殊すぎて俺にはよくわからんぞ。
何というかどっと疲れた。ただ話をしていただけなのに。癒しが欲しい。カヤノを連れてくれば良かったかもな。でも連れてくるとカコウがうるせえし。最近のカヤノはハイエルフたちと一緒に調薬を楽しそうにしているから邪魔すんのも悪いしな。んっ?
「ちょっと聞きてえんだが、もしかしてハイエルフってお前の子孫か?」
「うん。アダムとイブが頑張ってくれたからこんなに増えたんだよ。すごくない?」
「近親相姦かよ!お前、リスクが・・・いや、この世界は遺伝子さんが仕事してねえから大丈夫なのか?しかし倫理的な問題が・・・」
「何が問題なのだ?アルラウネも同じようなものだぞ。」
「そっちもかよ!」
いらん知識が増えてしまった。確かに考えてみれば進化の過程では近親相姦で増えることだってあったのかもしれんが身近な種族がそうだとは・・・
「あれっ、お前、自分の子は忌み子だって言ってたよな。でも俺エルフとかハイエルフが迫害されているなんて知らねえぞ。」
「あ~、それはボクも不思議なんだけどいつの間にか神様の守護がついていたんだよね。」
「いや、いつの間にかってお前・・・」
「だってハジメとマリアンナの長男のレオナルド君がやっと国が安定して子供に王位を譲り渡せたからって言ってハジメの遺言に従って謝りに来てくれたんだけどね。その時に一緒に着いてきた司祭がもしかしたらって言って儀式をやったらついていたんだもん。わかるわけないじゃん。」
「ちなみにアルラウネはどうなんだ?」
「我は閉じ込められていたから知らん。」
「あっ、なんか悪い。」
ちょっと空気が重くなってしまったが、まあ今は放置だ。
それよりも今の話から考えるとカヤノやミーゼのようなダブルでも時間が経つと神の守護が得られる可能性があるってことだよな。それがどんぐらいの時間がかかってどんな条件があるのかは全く分からねえがそれを探してみるのも面白いかもしれんな。
そんなことを考えていると、カコウが机の上からいくつかの魔石を口へと放り込みがりがりと食い始めた。いきなりどうしたんだ?
「手打ちも終わったことだし我は帰る。エルノが待っているのでな。カヤノに手を出すなよ!」
「ちょ、おい!」
そう言うとカコウは席を立ち、空中へと溶けるように消えて行ってしまった。あいつ話し合いが面倒になって帰りやがったな。いや、あいつの気持ちの整理が済んだならそれでいいのか。いても面倒になることの方が多いからな。
「それで土の精霊はボクにどうしてほしい?子孫を助けてもらったんだ。君が望むならボクの体を差し出しちゃうけど?」
「いらねえよ、そんなもん。」
「そんなもんってひどくない?結構いいスタイルだと思うんだけどな。」
自分の胸を鷲掴みにしながら風の精霊が言う。いや、確かに美人だし俺が男だったらぜひともお願いしたかったんだが、いかんせん今の俺は女だ。しかもこいつからはSの気配がしない。からかうことはあるが、人をいたぶったり責めたりして喜ぶような感じがしねえんだよな。だから却下だ。
「というか自分の子孫を大切に思ってたんだな、お前。ニーアに聞いた限りどうでも良いって感じかと思ってたぞ。」
「そりゃあ思い入れもあるしね。でもボクだって守れる範囲も人数も決まってるから。だから選別しただけだよ。男と女が残っていればいずれ増えるからね。」
「そっか。」
やっぱ基準が違うんだよな。まあそういうところで争っても意味がねえってのはカコウで十分経験したからな。こいつなりに子孫のことを考えていたってことがわかっただけで十分だ。
「とりあえず俺からの要望としては今の精霊信仰の変な教義の見直しと俺たちへ変なちょっかいをかけるのを禁止ってことでどうだ?」
「えー、つまんなーい。せっかくからかっても大丈夫なようにちょっとずつ変えていったのに。それに自分たちへのちょっかい禁止とかちょっとどうかと思うな。」
「うるせえ。お前を放っておくとまた面倒ごと起こしそうだから嫌なんだよ。少しは自重しやがれ!」
「じゃあじゃあ、お姉さんの極上テクニックを披露して快楽の極致に招待しちゃうよー。」
「ちなみに経験人数は?」
「ハジメだけに決まってるじゃん。」
「却下だ!」
何が悲しくて経験人数1人の極上テクニック(笑)を受けねえといけないんだよ。こちとらプロのテクニックをさんざん味わってきてんだ。興味がないかと言えば嘘になるが、ハーレム野郎と兄弟になるなんてまっぴらごめんだ。
「じゃあ約束だからな、絶対に守れよ。」
「ぶーぶー。」
「うるせえ。あっ、そういえばニーアの妖精のウィンもお前が連れ帰ったんだよな。あいつも返してくれよ。平気そうな顔してるけどニーアも結構落ち込んでいるようだしな。」
「あー、あの子ね。ウィン出ておいで。」
風の精霊の呼びかけに応えて門から妖精が出てくる。
「おい、ちょっとお前・・・」
「その子も帰りたがってたから連れて行ってね。じゃ、後よろしくねー。」
「バカ、逃げんな・・・」
風の精霊は有無を言わさず門へと入って行ってしまった。がっちりと扉も閉まっちまってるし、てこでも開きそうにはねえな。はぁ仕方がねえ、俺が連れていくしかねえか。
機嫌良さそうに飛び回るウィンを連れて俺はニーアが帰ってくるだろう家へと戻るのだった。
日がそろそろ落ちそうな夕方、俺が夕食の準備をしていると「ただいま。」という声が聞こえた。里の外へ素材の採取に出ていたミーゼとニーアが戻ってきたようだな。
帰ってからどうやって説明するか考えていたんだが良い案は浮かばなかった。料理を豪華にしておくくらいしか出来なかったんだよな。とりあえず迎えに行くか。
パタパタと玄関に向かって歩いているとものすごい速さで俺を追い抜いていく奴がいた。もちろんウィンだ。あいつ、待ってろって言ったのに!
ウィンは一直線にニーアのところに向かうとぶつかるような勢いでニーアへと抱き着いた。その勢いに押されてニーアが後ろへと倒れる。あっ、ドアで頭をぶった。痛そうだな。
「いたたたた。いったい誰が・・・」
ニーアとウィンが見つめあう。そしてウィンは満面の笑みでニーアを見てそして頬ずりしだした。
「ウィン?ウィンだよね。帰ってきたのは嬉しいけど、どうしてそんなに大きくなってるの?」
ニーアの身長を軽く追い越し、170センチ近くまで成長したウィンが身振り手振りで説明をしだす。俺には全く分からねえがニーアがうなずいているところを見るとあいつにはわかるんだろうな。
ふぅ、俺の心配は杞憂に終わったわけだ。ほっとしたような、今まで悩んでいたのは何だったんだとがっくりくるような。
「よう、お帰り。カヤノはまだだぞ。」
「知ってるわ。さっき会ったから。もうすぐ帰るらしいわよ。それにしてもどうしちゃったのよ?」
「知らん。風の精霊に連れてけって言われたときはあの状態だったしな。」
「頼りにならないわね。」
イラっと来たのでミーゼの耳を引っ張ろうとしたが、敵もさるもの。俺の気配が変わったのを感じ取って即座に距離を取った。俺とミーゼの間の緊張感が高まっていく中、話を聞き終わったらしいニーアが涙を流しながらウィンへと抱き着いた。
ミーゼと視線で争いの終結を決める。さすがに今、こんなくだらねえことで水を差すのはダメだろう。俺とミーゼは親子の抱擁のようなニーアとウィンの姿を見守り続けるのだった。
「はっ?俺たちと戦わせるつもりだった?」
「うん、私たちが風の精霊と戦うことになっていたらウィンが呼ばれる予定だったんだって。そのために成長させられたらしいよ。」
「何考えてるのよ、あいつ。」
「でもでもまた会えて良かったですね。」
豪華な夕食も出来ていたので、ニーアとウィンの再契約おめでとう会という名の夕食を食べているとニーアがウィンに起こったことを教えてくれた。
ウィンは風の精霊の命令でニーアと離れてからかなりの魔石エネルギーをもらって強化されてしまい、その分だけ姿も成長してしまったようだ。カコウがいきなり風の精霊をぶった切ったのでその案は没になったみてえだが。たまには役に立つもんだなあいつも。
ミーゼは不満げに文句を言っているが、俺には風の精霊の思惑もちょっとわかっちまうんだよな。
ボスを前に立ちはだかるかつての仲間。強制的に強化されたその力は圧倒的で、しかし俺たちは仲間であったから手を出すことができずボロボロになっていく。そしてボスの命令でニーアにとどめを刺そうとしたその時、逆らえないはずのウィンがその刃を止める。そしてニーアがウィンを抱きしめるとボスの呪縛が解け、再び味方となったウィンとともにボスである風の精霊との最終決戦が始まるのだ。
いいよな、こういうの。俺は好きだ。王道だがこういう展開は熱くなる。そういうところは共感できるんだがな。
「まあとりあえず風の精霊とは話はついた。といってもエルフの里の再建もまだまだだし、風の精霊の監視もしてえからしばらくはこの辺りで留まるしかねえだろうな。アルラウネの里にも行かねえといけねえだろうし。カヤノもエルノと一緒に過ごしたいだろ。」
「はいっ。」
「じゃあ明日はエルノのところへ寄って、明後日にアルラウネの里に行くか。そっちがどうなるかは状況次第だがまあ予定は臨機応変ってことで。ミーゼもニーアもそれでいいか?」
「ええ。」
「問題ないよ。」
今後の予定も話し終わり、会話は完全に普段通りの内容へと戻る。カヤノ、ミーゼ、ニーア3人が楽しそうに、そしておいしそうに食卓を囲んでいる。あぁ、やっとこの騒動も一段落つきそうだ。
地面に転生したときはこんな笑いあえる仲間が出来るなんて思わなかったが俺はずいぶんと幸運だったようだ。キュベレー様に感謝しねえとな。いや、マジで最初はどうなることかと思ったけどな。
「どうしたんですか、リク?」
「また変なことを考えてたんでしょ。」
「リクはそんなこと・・しないとは言い切れないよね。」
「うるせぇ、さっさと食いやがれ。残すんじゃねえぞ!」
3人が「はーい」と返事をして食事に戻る。こんな日々が続けばいいなとキュベレー様にこっそりとお願いしながらカヤノたちの食事風景を俺は見守り続けた。
風の精霊との話し合いも終わり、穏やかな日常を取り戻したリク一行。そして始まる女たちの恋のバトル。果たしてカヤノを手に入れるのは誰なのか!?
次回:ハーレムエンド
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。