とりあえず風の精霊の事情を聞く
「実は、かくかくしかじか。」
「ああ、まるまるうまうまな訳だな。それなら納得だわ。」
「何だと。なぜそれで伝わるのだ!おいっ、我にもわかるように話すがよい。」
お約束なセリフが飛び出したので合わせてみたら、どうにもこのことを知らなかったカコウが驚愕しながらドンっと机を叩いてきた。ここは突っ込む場面だろ。いや、この脳筋精霊にそんな高度なことを求めたのが間違いか。
一方で風の精霊は面白いものを発見したかのようなにやにやした顔で俺を見ていた。
「へえ、土の精霊はこれがわかるんだね。これが通じたのってボクが昔いたパーティだけだったはずだけど。」
「昔っていつの話をしてんだよ。お前は知らねえかもしれんが今は結構通じると思うぞ。」
内心の動揺を隠しつつ適当にごまかす。風の精霊がいつこの場所に来たかは知らんが、ニーアの話から考えて少なくとも数百年はここから動いていないはずだ。外の事情には明るくないはず。
というかかくかくしかじかってこの世界じゃ一般的じゃあなかったのか。確かにそんなことを言ってるやつを見たことなんてなかったが。
「ふうん、そうなんだ。時代は変わったね。」
「まあ我らと違い人の生は短い。移り変わりも早かろう。」
「そうだな。まあそれはいいとして、実際のところどうなんだ?」
なんかうやむやのうちに話題を変更されそうになっているので強制的に元の流れへと戻す。俺としてもこの流れは切っておきたいからな。
「ちぇっ、ごまかされなかったか。」
「やっぱ確信犯かよ。」
小さくぼそりと、しかし俺たちに聞こえるくらいの声量で風の精霊が呟く。聞こえるくらいの声の大きさってあたりこいつの性格が出ていると思う。まあ逆にいえば本気でごまかそうとはしていないってことだが。
風の精霊が机の上の魔石を一つ口に放り込む。
「2人はこの国の成り立ちって知ってる?」
「知らんな。我はこの森から出たことがない。」
「俺は微妙だな。確か3人の英雄が未開の地だったこの国を切り開いたんだったか?本とかで読んだわけじゃねえから正確にはわからんが。」
というか俺が知っているのは小さい男の子とかが英雄ごっことか言って木の棒を振り回して遊んでいるのを見ていたからなのでほぼ知らないと同じだな。カヤノの生活向上と母親と会わせるのを優先してきたからそういった伝承のような知識は割といい加減だ。ミーゼ辺りに聞けばけっこう知っていそうではあるが。
そんな俺たちの反応は予想通りだったようで、特に何の反応も見せずに風の精霊がころころと口の中で魔石を転がしながら話し始める。
「昔むかし、あるところに3人の冒険者がいました。彼らはまだ名前もついていなかったこの森を探索し、ある日精霊と出会います。意気投合した彼らは契約を行い、そして精霊からダンジョンの存在を教えられた3人はそこを攻略し数々の強い武器や防具、そして貴重な宝を手に入れました。」
「ふんふん。」
王道の展開だな。ただのしがない冒険者が人を超越した存在の助けを借りて力をつけていくサクセスストーリーだ。定番だが、定番だからこその安定感がある。ちょっとわくわくするな。
「3人の冒険者と1人の精霊は森を出るとその武力や手に入れたお宝を背景に周辺の集落を制圧していきました。ほとんどの集落は彼らの圧倒的な強さに恭順の姿勢を示しましたが、抵抗する集落は容赦なく武力で黙らせていきました。」
「んっ?」
いや、なんかちょっと雲行きが怪しい気がするが・・・
「そしてついに3人はこのあたりのほとんどの集落を制圧すると、降伏を申し出てきたこの辺りを治めていた小国の王族を一族郎党処刑し、自らが王となったのでした~。めでたしめでたし。」
「全然めでたくねえ!」
「何を言っておる。強き者が上に立った方が良いに決まっておろう。」
「そういうことじゃねえんだよ。武力による国の乗っ取りじゃねえか!いや、前の王様が圧政しいていた可能性も?それならなんとか・・・」
「うーん。それはたぶんなかったね。むしろ3人が治めてからの方が人々は辛そうだったし。」
「救われねえ!」
完全に侵略者だ。いや、小国から今のような大きな都市が複数出来るまでに発展させたという意味ではすごいのかもしれんが、当事者からしたらたまらねえだろ。
「あのころは国民から王様や大臣を選ぶなんて夢のようなことを言っていたから仕方なかったかもしれないけどね。」
「えっ?」
「うむ、でその精霊というのが貴様だと言う訳だな。」
「ご名答~。つまりボクはこの国の礎なんだ。敬いたまえ。」
「はんっ。」
「うわっ、鼻で笑ったね。そういう態度はどうかと思うけどな。ねえ、土の精霊もそう思うでしょ。」
「ああ、うん。わりぃ、聞いてなかったわ。」
「うわーん、土の精霊がいじめるー!」
泣きまねをしながらカコウへと抱き着こうとした風の精霊だったがカコウに普通に殴り飛ばされて地面を転がる。この流れ、まるでコントのようだ。
そんな2人を見ながらも俺は動揺を隠しきれないでいた。かくかくしかじかという日本であれば定番のお約束を知っていたこと、そして民主制を目指していたという話。それぞれだけであればそこまで気に留めなかったかもしれない。しかし同一人物が知っているということが示すのは風の精霊と契約したというこの国の初代の王様は俺と同じような転生者かもしれないということだ。まあさすがにもう死んじまってるだろうから確かめるすべはねえんだけどな。
まあいいや。どうしようもないことをぐだぐだ考えるのは性にあわねえ。いつかまた知る機会があったらその時に考えればいいだろ。
そう俺が結論を出した一方で、地面に転がっていた風の精霊が何事もなかったかのようにケロリと起き上がる。
「ちなみに王様になったハジメは日本ってところから転生したって言ってたよ。」
「せっかく人が気持ちに整理をつけたってのになんてことを言いやがるんだ、このアホ精霊が!」
「え~、そんなのボクのせいじゃないじゃん。」
「黙れ貴様ら。叩き切るぞ!それでこの国の成り立ちはわかったが、それがなぜ我を閉じ込めることにつながるのだ?」
カコウの本当に斬られるかのような圧力に俺と風の精霊が押し黙り、その様子に満足げにしながらカコウが風の精霊へと話しかける。くそっ、いつまでも民衆が暴力に屈するとは・・・いや剣を抜こうとすんなよ大人げない。
「ここからの話は楽しくないよ。」
「いや、今までも大概楽しくなかったけどな!」
「貴様は黙れ。話が進まんではないか。」
あれー、おかしくねえか。なんで俺の口にカコウの剣が突き刺さってんだろうな。いや、確かにこれなら話せねえがいくら何でももう少しやりようがあるだろ。というか俺はボケに対して突っ込んでいただけじゃねえか。それのどこが・・・あっ、はい。わかりましたから無言で剣をぐりぐりしないでください。ダメージは全くないんだが精神的にくるんで。
「まあそんな感じで王様になったハジメと協力しながらボクも国を盛り上げていったんだ。で、いろいろやっているうちにボクが妊娠しちゃってね。」
「ふむ。」
やってるってそっちのやってるかよ!と突っ込みたかったが口に剣が刺さったままなので突っ込めない。カコウはそのままスルーするようだし、風の精霊もあまり気にしていないようだ。えっ、マジでこんな感じで進むのか?何というかむずむずするんだが。
「でね、双子が生まれたんだけどハジメは公表しないって言うんだよ。一応内輪では祝ってはくれたんだけどさ。おかしくない!?」
「ふむ、我が子が生まれるのは祝福するのは当然だな。」
「でしょー。多少国内が不安定で反乱の兆しがあって、第一王妃が第二子を妊娠中で、ボクの子が忌み子だっただけなのにね。」
「ほ-へんはろ-は、ほほあほは-!!(当然だろうが、このアホが-!!)」
剣を突っ込まれたままでも俺は突っ込まずにはいられなかった。
独身だと信じて付き合っていた彼女からバツイチの子持ちと明かされ動揺するカコウ。しかし彼女の隠していた事実はそれだけではなかった。
次回:自分より年上の子供
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。