とりあえず風の精霊と対峙する
俺たちが花園へと着いた時、風の精霊は中央の自分の領域への門の上に腰かけどこか遠くを見つめていた。その姿は儚げで声をかけるのがためわられるほどで、どこか触れれば消えてしまう雪のような印象を受けた。
そして風の精霊は俺たちを見つけるとふわりと飛び上がり、先ほどまでの様子が嘘であったかのようににやにやした笑顔を向けてくる。
「やあ、よく来たね。パーティのお誘いかな?」
「そんなわけねえだろ。お前何やって・・・」
「その身にて罪を償うが良い。光断!」
いきなり飛び出したカコウが風の精霊を頭から股まで真っ二つに両断する。風の精霊の体が左右にそれぞれ倒れていき、そして地面へと落ちていく。血などは全く出ていないがその衝撃的な光景に誰かから小さな悲鳴が上がった。
やりやがった。お約束とかいろいろすっ飛ばしてやりやがった。いや、もしかしたらこうなるかもしれねえなとは頭の片隅で思ってはいたんだがこうもためらいなく実行されるとある種の尊敬さえ覚えるな。
「立て。仮初の体を一度斬ったくらいで許されるほど貴様の罪は軽くない。」
「え~、せっかく斬られてあげたのにちょっと我がままじゃない?どう思う、土の・・・」
「無駄な口を叩くな!」
半身同士が空中で合体し元通りに戻ったと思った瞬間にカコウが剣を一閃し風の精霊の首が空高く飛んでいく。
「ほーら、たかいたかーい。なーんちゃって。」
「だから無駄口を叩くなと言っている。」
飛んでいった風の精霊の頭を追いかけていったカコウが十字に斬り、4つに分かれた風の精霊の顔がばらばらと落ちてくる。しかしその表情は笑顔だ。
精霊同士の争いって不毛だなってよくわかる光景だ。俺もカコウも風の精霊も今見えているのは仮初の体だ。たとえこの体が爆裂四散しようとも核に攻撃を受けなければ痛くもかゆくもないのだ。まあそれがわかっているからカコウも思いっきり斬りまくっているんだろう。さすがに核まで壊すなんてことをしようとしたら俺も止めようとは思っていたからある意味で一安心ではある。
カコウと風の精霊が惨殺という名のダンスを踊っているので俺たちは置いてけぼりだ。カヤノたちもなんとも言えない顔で2人の奇行を見上げている。
「そういえばミーゼ。風の精霊をぶん殴るって言ってたがどうするんだ?」
「あぁ、そんなこと言ってたわね。なんかこの光景を見ると馬鹿馬鹿しすぎてそんな気も失せちゃったわよ。」
「そうか。それがいいかもな。それじゃあしばらくかかりそうな気がするから休憩すっか。カヤノがリュックを探してくれたから元気ジュースとドライフルーツぐらいならあるぞ。」
「あっ、いいですね。」
「わーい。」
「敵の前で休憩するのもどうかと思うけど、まああの感じだと長引きそうよね。」
と言う訳で俺たちは花畑を見ながら優雅にお茶会をすることにした。ときおり風に揺れる花畑は綺麗だったと言っておこう。その風が起こった原因については特に触れねえがな。
ここでお茶会を始めてから2時間ほどが経過しただろうか。もう日も暮れて夜といってもいい時間帯だ。一応近くに光源があるので暗闇で見えないってことはないんだが、普通ならそろそろ夕食を食べ終わって寝る時間だろう。
ちなみにカコウと風の精霊は未だに同じことを繰り返している。良く飽きないもんだとちょっと感心しちまうな。
「どうするのよ?」
「うーん、とりあえずカコウが満足するまでは放置するしかねえんじゃねえか?長年閉じ込められていたらしいから積年の恨みっぽいし。」
「埋めた里長さんとかはどうしましょう?」
「放っておけばいいと思う。」
「いや、あんま長時間土に埋めておくと命の危険があるからそろそろ出してやったほうがいいな。じゃああいつらを回収がてら一度門のところまで戻るか。夕食も作らねえといけねえし。エルフたちの様子も気になるし。」
「そうね。今日はたくさん動いたからお腹がすいちゃったわよ。」
カヤノとニーアも異論はなさそうだったので二人を放置して門へと戻ることにした。途中で里長やカヤノたちを襲ったハイエルフたちを土から出してやり、拘束しながら門へと連行した。里長がニーアにどつかれていたがまあ意識も足取りもしっかりしたものだったので気にしないことにした。
門では防衛のために散らばっていたエルフたちが集まっており、倒した魔物の肉を使ったバーベキューが行われていた。どこから持ってきたのかわからねえが酒まで持ち出してどんちゃん騒ぎだ。まあ健全な方向なので一安心したのは内緒だ。
戻ってきた俺たちは大歓迎され、そのままバーベキューに参加することになった。俺はもちろん食べることは出来なかったが、楽し気に肩を組んで歌うエルフたちを見ると助けられて本当に良かったと実感した。
エルフたちの住まいは壊されちまって寝る場所がないのでどうするのかと思ったのだがなんか地面で雑魚寝するとか言っていたのでそこら中に簡易版の俺のコテージを建てて回った。一気に避難所的な様相になった。まあ一時しのぎとしては十分だろ。
宴会はまだまだ続きそうだったが、さすがに子供には遅い時間なのでカヤノたち3人はニーアの家に眠りに行った。1号が見張っているので特に問題はないだろう。
深夜になり、酔いつぶれたエルフたちを適当に作った仮設コテージに放り込んだ俺は風の精霊とカコウの様子を見に行った。まだ戦ってやがった。うむ、放置だな。
とりあえずこのまま仮設コテージでずっとエルフたちを住まわせるってことはきつい。食料も備蓄はあるんだろうがそれには限りがあるから早めに生産体制を戻す必要があるだろう。それにエルフたちも自分の家に早く帰りてえだろうしな。
ということで俺と棒サイちゃんずは門の外のエルフの里へと向かった。とりあえず破壊されたエルフの里の門を土で完全にふさぎ、これ以上魔物が入らないようにする。まあこちらからも出ることは出来ねえんだが応急処置としては問題ねえだろ。
それが終わったら溜まりまくった魔物の死骸の処理だ。このままだと確実に疫病が蔓延しそうだからな。食料になるハイオークなんかはある程度残しておくとして、どうにも食べられないエリートゴブリンなんかははっきり言って邪魔者でしかないしな。
「2号、3号。ホースモード。俺が魔石を抜いた奴を放り込んでいくからとりあえず外まで運んでくれ。」
魔物が入るくらいの大きさの長いホースを里の外まで土で作り、そこへ2号と3号が溶けるように消えていく。俺は土を操りながらどんどんと死骸を集め、魔石を回収してはそのホースの穴へと死骸を放り込んでいく。ホースに放り込まれた魔物の死骸は2号と3号によってエルフの里の防壁の外へと運ばれていく。3人でやるには気の遠くなるような作業だがこういうのは早めにやらねえと危ないからな。
たまに魔石を補給しつつどんどんと死骸を処理していく。潰れていたりちぎれている魔物も多いため魔石をすぐに発見できることもあったが、逆にどこにあるのか判断が出来ねえときはすぐにあきらめてそのままホースへ放り込んでいった。それでも日が明ける前に片付いたのは門付近の一部分だけだ。これは人を動員して処理するしかねえな。
カコウと風の精霊を見に行ったがまだやってたので、とりあえずカヤノたちのもとへと戻り、昨日に引き続きのバーベキューを朝食として食べているエルフやハイエルフたちと今後の方針を話し合った。
一番まずいのは死骸の処理ということで認識は一致していたため余力のある物全員で今日は死骸の処理をすることに決定した。
人手があるって素晴らしいな。夜とは比較にならない速さで魔物の死骸が処理されていく。エルフたちからしても俺のホースがあるから遠くまで運ばなくて良くて喜ばれた。ハイオークなどのうち食べられそうなものは解体され、肉用の保管庫とやらに結構な数が運ばれていったのでしばらくはこの人数でも肉に困ることはねえだろう。
ハイエルフの里の防壁をぐるりと一周するように移動しながら死骸を処理したおかげでエルフの里に残っていた死骸についてはすべて外へと出すことができた。本当に1日がかりになっちまったが、まあ1日で終わって良かったと言うべきか。防壁の外に放り出した死骸はとりあえず土に埋めておくつもりだ。ただ、土に埋めておくとゾンビなどになる可能性があるらしいが、防壁もあるし疫病よりははるかにましだからな。これは俺が夜のうちにやっておく予定だ。魔石も十分にあるしな。
ちなみに夜に見に行ったがカコウと風の精霊は相変わらずだった。もう知らん。
斬られ、治っては斬られを永遠に繰り返す地獄に少しずつ理性を削られていく風の精霊。いつしか何も考えられなくなった風の精霊はそこで不思議な声を聞く。
次回:我が流法は『光』!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。