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とりあえず新たな信仰に目覚めさせる

 俺を先頭にして風の精霊がいる花園へ向かって走っていく。ニーアの情報ではそこにはハイエルフが30人ほどと風の精霊がいるらしい。とはいえハイエルフたちは魔物の侵攻から花園を守るためにそこにいるらしいから魔物自体が去っていった今、どう動くかはわからねえ。不確定要素を減らすためにもなるべく早くそこへ到着する必要があった。

 俺たちは魔物に続いて連戦になるわけだが、一番消費が多いはずなのは正面で戦っていた俺なので問題ねえし、カヤノは薬を作っていただけで体力はあまり消耗しておらず、ミーゼとニーアもまだまだ余裕はあるようなので大丈夫なはずだ。

 何より俺達にはカコウがいる。核が近くにないので仮初の体ってのは少し不安要素ではあるんだが、魔石は十分すぎるほど補充できたはずだし、単純に戦闘能力でいえば風の精霊に劣ることはねえだろう。まぁ俺もいるから何とかなるはずだ。


 あともう少しで花園に着くといったところで里長を含めた30人ほどのハイエルフの集団と出会った。ニーアの言っていた里を守ることよりも花園を守ろうと決めた奴らだな。そいつらは、ばっと両手を広げて通せんぼの格好になった。


「お待ちくだされ、土の精霊様。あなた様は騙されておるのです。その憎むべき忌み子に。」

「カヤノのことを悪く言うとは笑止千万。叩き切って・・・」

「待てよ、カコウ。ちょっと聞いてやろうぜ。」


 カコウが剣を抜こうとしたのを止める。カコウが非難するような目で俺を見るが、俺はそれににやりと笑って返してやった。それを見たカコウが渋々ながら剣を納め、しかし仁王立ちしながらハイエルフたちを睥睨している。


「そもそも精霊様は皆に敬われるべき存在なのです。それをあたかも友人のように扱い、その庇護を甘受するなどあってはならないのです。」

「ふんふん。」

「精霊様が心やすらかに過ごすことができるようにすることが本質であり、自らの利益のために精霊様を利用するなど言語道断。」

「ほうほう。」


 良く回る口だな。俺が相槌を打っていることがうれしいのか、里長の顔には笑みが浮かんでおり自分の言っていることがすべて正しいと信じ切っているようだった。

 しばらく里長の独壇場が続く。でもはっきり言って同じようなことを繰り返しているだけだ。


「・・・だからこそ我々は精霊様を・・・」

「あぁ、もういいや。」

「はぁ?」

「いや、だって俺神様じゃねえし。っていうか心やすらかに過ごせるようにとか言ってる割に俺の意見なんてこれっぽっちも聞いてねえじゃん。そこんとこどうなんだよ。」

「い、いえ、その。そういう信仰になっておりまして・・・」


 俺の反論が想定外だったのか里長の顔に汗が浮かんでいく。そうだよな。お前らの信仰は精霊信仰なんかじゃねえ。俺に言わせれば風の精霊の都合の良いように洗脳されているだけだしな。まぁ、あんまり詳しくねえ俺が断言するのも違う気がするがな。


「人間の性格が違うように精霊の性格も違えんだよ。少なくとも俺はお前らの教義なんて真っ平ごめんだね。俺は人間が好きなんだ。その上に立とうなんて思ったことは一度たりともねえよ。」

「我も同意だな。強者が上に立つべきだとは思うが、尊敬や理解はともに生活して得るものだ。信仰などという胡散臭い教義によって得るものではない。」


 精霊二人に否定されたハイエルフたちは明らかに動揺していた。うん、完全にチャンスだよな。じゃあ、ボッシュート!

 ハイエルフたちを全員地面へと体半分埋め拘束していく。この状態でも魔法なんかは打てるはずなんだがそういった反撃はなかった。俺たちの言葉によって自分たちの信仰へとひびが入ってしまったのかもしれねえな。


「そんな、それでは今までの教えは、いやそんなはずは。風の精霊様は、いやしかし光と土の精霊様は・・・」


 ああ、完全に頭がオーバヒー卜してやがる。敬虔な信者がその信仰している対象からその教義はおかしいからやめろと言われれば混乱するのはわからんでもない。カヤノとミーゼが襲われたってことでけっこうこいつらのことも頭にきてたんだが、そう考えるとこいつらも詐欺に騙された被害者みたいなもんなのだよな。もっときつい制裁を加えるつもりだったがとりあえず土に埋まってしばらく反省してもらって、後はカヤノとミーゼの判断に任せるか。多分許すだろうけどな。

 ぶつぶつと独り言を言い続ける里長のそばに立ち、見下ろす。


「これからどうするかは自分で決めろ。自分で考えたうえで俺たちと敵対するならそれでも良い。まあその時は全力で相手してやるけどな。教義だから信仰だからって考えをいっぺん捨てて自分の頭で自分の行動を考えてみろよ。」

「・・・」


 里長が顔を上げこちらを凝視する。先ほどまでの少しうつろな感じは感じられない。もしかして俺の言葉を聞いただけで自分の行いを悔い改めようとしてるとかか?やっぱ里長っていう責任ある立場の奴はそういった判断が早いのかもしれねえな。冷静に現状を判断し、決断をする能力がやはり長という立場では必要なんだろう。こいつも騙されさえしなければ良い長だったのかもしれねえな。

 だんだんとこいつに同情する気持ちがわいてきちまったので、少し微笑んでやる。


 ・・・


 笑ったんだが全く反応がねえな。少しはリアクションがあるかと思ったんだが、里長はこちらを凝視したままだ。んっ?なんか視線の位置が少しずれてねえか?俺の顔ってより、もう少し下を見ているような気が・・・


「ってかお前、どこ見てやがんだ!!」

「ああ!」


 残念そうな声を上げる里長から離れるように一歩引いて服を押さえる。普段俺が普通に鎧なんかを着ているのは精霊だってバレないためのカモフラージュなので、今回俺はそういった装備をしてこなかった。一応剣は持ってきているが、今の服装としてはTシャツに短パンという動きやすく、破れたり汚れたりしても問題ない格好にしたわけだ。お気に入りの一着はイェンに投げられた変な液体付きのナイフのおかげやぼろぼろになっちまったしな。

 土で服を作ることも出来るんだが、やっぱり土なので触りごごちはお察しだ。さっきカヤノを慰めた時にちょっと気になったからわざわざ着替えたんだが・・・。この里長の視線を俺は知りすぎるほどに知っている。


「土の精霊様。」

「なんだ?」

「儂は悟りましたじゃ。下乳こそがこの世のすべてに勝ると。」

「そんな悟りどっかのごみだめに捨てちまいやがれ!」


 そう、里長が凝視していたのはTシャツの隙間から見える俺の下乳だったわけだ。なんでそんなことがわかるかって言えば俺もバルダックで地面だった時にさんざん・・ゲフンゲフン。まあ、そんな些末なことはどうでも良い。問題はブラなんてもんがなく、しかもさらしも巻いていない状態だった俺の下乳はこいつから丸見えだったわけだ。

 くそっ、盗み見られるってこんなに気分が悪いもんなんだな。この覗き野郎、いや、ハイエロフめっ!


「エルフやハイエルフは土の精霊様のように大地の母なる象徴が薄いものが多く気づかなかったが、儂は真理にたどり着いたのじゃ。」


 里長の若干血走った目が俺の胸へと集まっているのを感じる。なんだこのプレッシャーは?土に埋まって全く動けないはずなのに寒気で体が震えてしまう。その服を透視でもしているんじゃねえかと言う視線が怖い。倒せないわけじゃない。倒せないわけじゃないがこいつには絶対に勝てない。そんな確信がある。

 だが、こんなとこで立ち止まるわけにはいかねえんだ。


「いい加減にし・・・」


 里長を殴ろうとした俺の目の前をものすごい速さで黒い影が走った。そしてその影は里長の目の前に立つと里長をぼこぼこに殴っていく。あっ、殴るだけじゃなくて蹴り始めた。その顔は今まで見たことがないほど無表情だ。

 しばらくして見る影もないほどいたるところを腫らした里長と肩で息をしているニーアがそこにはいた。無表情のままぼろ雑巾のようになった里長を見下ろしていたニーアがこちらを振り向き満面の笑みを浮かべる。


「さあ、悪は滅んだよ。風の精霊を倒しに行こう。」

「いや、さすがにちょっとやりすぎじゃねえか?」

「大丈夫だよ。これでもハイエルフの里で最強と言われていたからこの程度で死ぬはずないし。さあ、行こう。今すぐ行こう。」


 ニーアに背を押されて花畑の方へと歩かせられる。治癒魔法をかけた方が良いんじゃねえかと少し思ったが、まあ覗き野郎には良い薬だろ。埋まったハイエルフたちの監視をニーアが連れてきたハイエルフに任せ、俺たちは最終目標である風の精霊のいるであろう花園へと向かうのだった。

下乳の持つ魔性の魅力に取り憑かれてしまい精霊信仰を捨てた里長。しかしそのことは新たな火種を呼び、そして大きく炎上していくのだった。


次回:上乳、横乳、下乳派閥の抗争


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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